鎖骨外側端(遠位端)の骨折のうち、烏口鎖骨靭帯(菱形靭帯・円錐靭帯)が骨折端に対して温存されている安定型 。AO分類14-B1に相当し、Neer分類I型に近似する(Neer I型は「靭帯付着部外側の骨折で最も安定型」を指し、AO 14-B1と骨折特性は近いが厳密には一対一対応ではなく近似関係にある)。骨折が靭帯付着部より外側またはその間隙に位置するため、骨片の大きな上方転位は生じにくく、保存療法が第一選択となる が、骨折部の安定性と転位量の正確な評価が治療方針を左右する。
靭帯が温存されていることから鎖骨近位骨片の著明な上方転位は原則起こらないが、骨折部が関節に近い場合は肩鎖関節の不安定性を合併することがあり見逃しに注意する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 鎖骨骨折全体の約3〜5%が外側端骨折。そのうちNeer I型(14-B1相当)は約30〜35%
好発: 20〜40歳代の活動的な成人男性、スポーツ・交通外傷に多い。高齢者では軽微な転倒でも発生
受傷機転: 肩部への直達外力(転落・スポーツ接触・交通外傷)が大半。上肢伸展位での転倒も多い
骨折部位: 鎖骨遠位端骨折のAO分類では、14-B1(靭帯温存型)・14-B2(靭帯断裂型)・14-B3(関節内型)に細分される
初期評価での注意: 単純X線のみでは靭帯損傷の有無が判断困難なことがあり、必要に応じてストレスX線またはMRIを追加する
注意すべき合併症
骨癒合遅延・偽関節:外側端骨折は血流が乏しく、全体で約5〜10%(保存療法例でより高率)
骨折部不安定性の過小評価:靭帯温存型と誤分類した靭帯断裂型(14-B2)は保存療法で転位悪化
肩鎖関節炎:外側端骨折後の関節不整合による二次性変形性関節症
鎖骨下血管・腕神経叢損傷:高エネルギー外傷では約1〜2%(まれだが見逃し厳禁)
気胸・肋骨骨折合併:直達外傷では約3〜5%。胸部X線で確認
凍結肩(肩関節周囲炎):長期固定による関節拘縮(約5%)
治療方針
⚠️ 保存療法の適応(14-B1 の原則)
→ 烏口鎖骨靭帯が温存されており骨折が安定型(14-B1)であれば保存療法が第一選択 → 骨片転位が10mm未満かつ肩鎖関節安定性が保たれている場合 → 高齢・低活動患者、または全身麻酔リスクが高い場合 → 保存療法:腕吊り(arm sling)または figure-of-eight バンデージによる3〜6週固定
14-B1(靭帯温存型)は骨折が安定しており、保存療法で骨癒合が得られることが多い 。ただし、転位の増悪・靭帯損傷の合併(実際は14-B2)が判明した場合は手術へ移行する。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 骨片転位10mm以上、または初診後の追加評価で靭帯断裂(14-B2)と判明した場合 ℹ スポーツ選手・労働者など高機能を要する活動的患者 ℹ 保存療法後3ヶ月以上で骨癒合不全・偽関節が確認された場合(遅延手術) ℹ 第一選択(急性期):鈎プレート(hook plate)またはロッキングプレート固定 ℹ 代替:烏口鎖骨靭帯再建(ループ固定・ TightRope など)+ プレート固定 ℹ 偽関節例・遅延例:自家骨移植を伴う内固定
治療選択アルゴリズム — 靭帯温存型(14-B1)の術式選択フロー
診断・評価
肩関節外側の疼痛・腫脹・圧痛を呈し、上肢挙上困難を認める。鎖骨遠位端の直接圧痛が特徴的で、肩鎖関節の不安定性を伴う場合は鎖骨遠位端の段差(ステップ変形)が視診・触診で確認できる。
14-B1の診断ポイント:Neer分類と靭帯評価
X線正面像(AP)および肩鎖関節撮影(Zanca view:下向き10〜15°傾斜)で骨折型と転位量を評価する。烏口鎖骨間距離 (Coracoclavicular distance)を計測し、健側と比較して25〜30%以上の開大は靭帯断裂(14-B2)を疑う。ストレス撮影(外側荷重X線)では靭帯不全による不安定性を評価できる。骨折線が不明瞭な場合はCTで確認し、靭帯評価にはMRIが有用。
X線正面像(Zanca view)— 骨折型・烏口鎖骨間距離の評価
CT像 — 骨折線・骨片位置の確認
【必須】 鎖骨正面X線・肩鎖関節撮影(Zanca view)、健側同様撮影(比較)
【考慮】 ストレスX線(外側荷重):靭帯損傷評価。CT:骨折形態の詳細確認。MRI:靭帯・軟部組織損傷評価
✅ 保存療法で許容される状態
✓ 骨片転位が10mm未満(烏口鎖骨間距離が健側比25%未満の増大) ✓ 肩鎖関節の臨床的安定性が保たれている(ピアノキーサイン陰性) ✓ X線・MRIで烏口鎖骨靭帯の連続性が確認できる ✓ 患者の機能要求が高くない、または保存療法に同意している場合
❌ 許容されない変形・見逃し禁止
✕ 烏口鎖骨間距離の有意な開大(健側比25〜30%超 = 靭帯断裂を疑う) ✕ 骨片の著明な上方転位(10mm超)による骨癒合不全リスク ✕ 皮膚テンティング(骨片による皮膚穿破リスク)の見逃し ✕ 鎖骨下動静脈・腕神経叢損傷の見落とし(感覚・運動評価必須) ✕ 14-B2(靭帯断裂型)との混同による不適切な保存療法継続
手術手技
体位
手術体位 — デッキチェア位(beach chair position)
デッキチェア位(beach chair position): 頭部をわずかに患側へ傾け、患肢を自由に動かせるよう保持する。透視装置を患側上方から当てられることを術前に確認する。肩峰・鎖骨遠位端が手術野に明確に出るよう十分なドレープを行う。
鈎プレート(Hook Plate)固定 — 第一選択(急性期・転位あり)
適応: 転位を伴う14-B1または14-B2の急性期。肩峰下フックにより烏口鎖骨靭帯への負荷を軽減しつつ骨折部を整復・固定できる。
鈎プレート設置概念図 — 肩峰下フック+鎖骨プレート固定
皮膚切開: 鎖骨遠位端に沿ったランガー線切開(約4〜6cm)。皮下組織と三角筋を鎖骨前縁で剥離
骨折部の確認と整復: 骨折部を直視下に確認。血腫を除去し、骨折部を整復して仮固定(骨把持鉗子)
フック深さの決定: 肩峰下面に試適プレートのフック部を挿入し、フック深さ(6mm / 8mm / 10mm)を選択
プレート設置: フックを肩峰後下面に挿入し、プレートを鎖骨前面に沿って配置。遠位端はロッキングスクリューで固定
スクリュー固定(近位側): 近位骨片に3本以上のスクリューを設置(コーテックス or ロッキング)
整復・固定の確認: 透視AP像・腋窩像で骨折部整復・肩鎖関節高さ・フック位置を確認
洗浄・閉創: 三角筋前縁を縫合復元、皮下・皮膚を閉創
⚠️ 鈎プレート ピットフォール
✕ フックが深すぎる・位置不良 → 肩峰下インピンジメント・腱板損傷(術後疼痛の最多原因) ✕ フック高さ不足(浅すぎ)→ プレート浮き上がり・固定不全 ✕ 遠位骨片が小さい場合のスクリュー把持不足 → 術後転位再発 ✕ 鈎プレートの抜釘忘れ:骨癒合後(術後3〜6ヶ月)に抜釘が必要であることを術前から患者に説明すること ✕ 術中に肩関節を内旋・外旋させ、フックが腱板を損傷していないか確認を怠らない
ロッキングプレート固定 — 代替選択肢
適応: 遠位骨片が十分な大きさを持ち、肩鎖関節が安定している症例。フックプレートに比べ抜釘の時期が限定されないが、鈎プレートより遠位固定力が劣る場合がある。烏口鎖骨靭帯再建(TightRope 等)との併用が有効。
術後管理
術後X線像(正面像)— 整復位・プレート位置確認
手術タイミング: 急性期は受傷後7〜14日以内が望ましい(腫脹軽減後)。遅延例(偽関節)は骨移植を伴う待機的手術
術後荷重: 術後6週は患肢挙上30°以下・外転制限あり。6週以降に疼痛に応じた可動域訓練を開始。完全可動域は術後3〜4ヶ月を目標とする。スポーツ復帰は骨癒合確認後(術後3〜4ヶ月)
VTE予防: 上肢骨折のため下肢DVT・PE発生は低いが、長期固定例では弾性ストッキング着用を考慮。高リスク患者には低分子ヘパリン皮下注を短期間使用
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDsは短期使用(2週以内)であれば骨癒合への臨床的影響は明確に証明されておらず注意しながら使用可とする。長期大量使用は避けることが推奨される。局所冷却・神経ブロック(鎖骨上神経ブロック)が有効
リハビリテーション: 術後翌日から手指・肘関節の自動運動を開始。3週後から肩関節振り子運動。6週後からThera-bandによる筋力強化。3ヶ月後に全可動域・筋力訓練へ移行
フォローアップ
術後2週: 創部確認、X線撮影(整復位・プレート位置)、縫合糸抜去
術後6週: X線撮影(骨癒合開始の確認)、可動域訓練の進捗評価
術後3ヶ月: X線撮影(骨癒合評価)、スポーツ・労働復帰可否判断
術後6ヶ月(鈎プレート使用例): 抜釘時期の検討(骨癒合確認後に抜釘)
骨癒合不全・肩鎖関節不安定性残存・プレート関連疼痛があれば追加治療を検討
予後
14-B1(靭帯温存型)は骨折が安定型であるため予後は比較的良好だが、偽関節・インプラント関連合併症に注意する。
骨癒合率:保存療法で約85〜90%(靭帯温存型)/ 手術例で約90〜95%
偽関節発生率:外側端骨折全体で約10〜15%(14-B1は低め)
肩関節機能回復:Constant Score平均85〜90点(術後1年)
スポーツ・仕事復帰:骨癒合確認後3〜4ヶ月が目標
鈎プレート抜釘後の肩峰下インピンジメント:抜釘で概ね消退
長期的な肩鎖関節炎:一部症例で発症(追跡観察が必要)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(14-B1 = 鎖骨外側端骨折・靭帯温存型) 2 Neer分類との対応を確認(14-B1 ≒ Neer I型) 3 烏口鎖骨間距離を計測し健側と比較(25〜30%超の開大で靭帯断裂 = 14-B2を疑う) 4 転位量を確認(10mm未満→保存療法 / 10mm以上→手術適応を検討) 5 ピアノキーサイン(肩鎖関節不安定性)の有無を確認 6 鎖骨下血管・腕神経叢損傷の有無を確認(特に高エネルギー外傷) 7 気胸・肋骨骨折合併の有無を確認(胸部X線またはCT) 8 鈎プレート使用時は抜釘の必要性と時期(術後3〜6ヶ月)を患者に術前説明すること
文献
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