鎖骨骨幹部に生じる横骨折(transverse fracture)。AO分類14-A2は骨幹部(中1/3)の単純骨折のうち横方向の骨折線 を有する型であり、転位を伴う場合は保存療法では偽関節・変形癒合リスクが高まるため手術適応を積極的に検討すべき骨折 である。
【AO分類バージョンについての注記】 本サイトの14-A2(横骨折)は2018年改訂前のAO分類体系に基づく分類。AO OTA 2018年改訂版では14-A2=斜骨折に相当する場合がある。本サイト内の14-A1〜14-A3のコード体系は改訂前のAO分類体系に統一している。
鎖骨骨折は成人の全骨折の2.6〜5%を占め[3] 、中1/3(骨幹部)が約80%と最多である[1] 。骨幹部骨折では胸鎖乳突筋の牽引で近位骨片が上方・後方に、腕の重さで遠位骨片が下方に転位し、遠位骨片は大胸筋によって回旋する[3] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 約10万件/年(鎖骨骨折全体の推計値。14-A2亜型単独の件数ではなく鎖骨骨折全体の発生件数)
好発: 30歳未満の男性に多く、70歳以上の患者に小さなピークをもつ二峰性分布[3]
受傷機転: 若年者の屋外スポーツ活動や高齢者の転倒により、肩の外側端に直達外力が働いて生じるのが典型である[3] 。
男女比: 男性:女性 = 約2.8:1[2]
骨折部位: 中1/3(骨幹部)が66%以上、遠位1/3が約25%、近位1/3が3%[3]
注意すべき合併症
鎖骨下動脈・静脈損傷:鎖骨内側部は鎖骨下血管束に近接する[3]
腕神経叢損傷:腕神経叢は鎖骨中央部の下を走行する[3]
鎖骨下血管・肺尖部:鎖骨内側部は鎖骨下血管束および肺尖部に近接する[3]
偽関節:転位した骨幹中央部骨折の保存療法で約15%(プレート固定では約2%)[1]
症候性変形癒合:短縮・角状変形・転位した位置で癒合し、筋力低下・易疲労性・挙上時痛・神経症状・肩の非対称を呈する[1]
肩鎖関節・胸鎖関節の異常:完全転位した骨幹中央部骨折のRCTで手術群62例中2例、保存療法群49例中3例にみられた[1]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 初期短縮が少ない骨折(保存的に治療された52例の後ろ向き研究では、初期から2 cm以上の短縮が偽関節や予後不良を予測した)[3] → 機能的要求の低い高齢者の転位型(手術を望まない、または手術が適切でない場合がある)[2] → 手術・麻酔の内科的禁忌(心疾患、腎不全、化学療法中など)がある患者(プレート固定の優越性を示したRCTでは除外されている)[1]
活動性の高い成人の完全転位した鎖骨骨幹中央部骨折では、一次プレート固定が保存療法に比べ患者・術者評価の成績を改善し、機能回復を早め、偽関節と変形癒合を減らした[1] 。ただし転位例のどれを手術適応とするかのコンセンサスはなく、起こりうるリスクと予想される結果の説明が重要である[3] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 完全転位(主骨片間に皮質の接触なし)の骨幹中央部骨折(活動性の高い成人)→ 一次プレート固定が支持される[1] ℹ 開放骨折または高度の皮膚テンティングによる皮膚の障害 → 即時手術の対象[2] ℹ 神経血管損傷の合併 → 相対的手術適応[3] ℹ プレート固定:3.5 mm圧迫プレート、リコンストラクションプレートまたは事前成形LCPを鎖骨の上面か前面に設置[3] ℹ 代替術式:チタン製弾性ネイル(TEN)— 皮切が小さく整容性に優れる。単純骨折・横骨折・斜骨折でのみ適応となる[3]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
受傷後、骨折部位に限局した変形と圧痛、腫脹と斑状出血を認める[3] 。軟部組織のtenting(テント状の突出・緊張)は皮膚の壊死や潰瘍を起こしうるため注意する[3] 。高エネルギー外傷では頭部・胸部外傷の合併を、牽引損傷では神経・血管損傷を早期に慎重に除外する[3] 。
X線正面像(AP像)— 骨折線・転位・短縮の確認
【必須】 鎖骨X線正面像と、管球を頭側に20°傾けた撮影(転位の描出のため立位または坐位で撮影)[3]
【推奨】 胸部X線(合併する胸部損傷の除外、対側鎖骨との比較による短縮の評価)、CT(複雑な肩甲帯損傷や鎖骨近位・胸鎖関節の損傷が疑われる場合)[3]
神経血管系: 腕神経叢は鎖骨中央部の下を、鎖骨下血管束は内側部の近くを走行するため、上肢の神経・血管損傷の有無を評価する[3]
整復基準
✅ 許容される整復
✓ 短縮が少ない(保存的に治療された52例の後ろ向き研究では、初期から2 cm以上の短縮が偽関節や予後不良を予測した)[3] ✓ angulation < 20〜30度 ✓ 骨折端の皮質の接触が保たれている(皮質接触の欠如は偽関節の危険因子)[2] ✓ 皮下への骨折端突出がないこと ✓ 神経血管系に異常がないこと
❌ 許容されない変形
✕ 初期から2 cm以上の短縮(保存的に治療された52例の後ろ向き研究で偽関節や予後不良を予測した)[3] ✕ 完全転位(骨片間に皮質の接触が全くない。骨幹部骨折の偽関節の危険因子)[2] ✕ 皮膚テンティング(軟部組織穿通リスク) ✕ 骨折端の著明な角状変形 ✕ 神経血管損傷を伴うもの
手術手技
体位
手術体位・ビーチチェアポジション
ビーチチェア位(半坐位:標準体位): 患側の肩の下に小枕やパッドを置いて鎖骨を挙上させ、徒手整復のため腕もドレーピングする。透視装置は必要に応じて手術台の頭側から入れる[3] 。
プレート固定(前方上方アプローチ)
適応: 完全転位した骨幹中央部骨折(活動性の高い成人)。解剖学的整復が得られ、ほぼ全例で維持された[1] 。
皮切: 鎖骨の長軸に平行な横皮切、またはLanger線に平行なサーベルカット皮切をおく。横皮切は拡張性に優れ、縦皮切は整容的な利点があり鎖骨上皮神経の損傷が減る。鎖骨上神経が同定されたときは温存することも可能である[3] 。
骨膜下剥離: 骨片の過度の骨膜剥離、特に後方および下方の剥離は避け、中間骨片の軟部組織を温存して直接整復できる程度の剥離にとどめる[3] 。
骨折端の整復: 骨折端をリダクションフォーセップスで把持し、shortening・angulation・回旋を矯正して解剖学的整復位を得る。
プレート設置: 3.5 mm圧迫プレート、リコンストラクションプレートあるいは事前成形LCPを、通常は鎖骨の上面か前面に設置する。圧迫・保護プレートとして用いる場合は、両側に3本ずつのバイコーティカルスクリューで固定する[3] 。
スクリュー挿入: バイコーティカルスクリューを挿入する。特に近位1/3ではドリリング中に鎖骨下動静脈を損傷する可能性があるため、鈍なレトラクタを鎖骨下に挿入して保護することもできる[3] 。
創閉鎖: 三角筋僧帽筋筋膜を独立した層として縫合してから皮膚を閉鎖し、ドレーンは留置しない[1] 。
⚠️ プレート固定ピットフォール
✕ ドリリング時の鎖骨下動静脈損傷(特に近位1/3)— 鈍なレトラクタを鎖骨下に挿入して保護することもできる[3] ✕ プレート設置面の選択(通常は上面か前面。上面は下方に粉砕があるとき生体力学的に強固、前面はドリルの挿入軌道がより安全)[3] ✕ アライメント不良・短縮(最小侵襲プレート骨接合術では機能不全の原因となりうる)[3] ✕ 鎖骨上神経損傷 — 3つの主要な枝が鎖骨の表面を交差しており、外科的進入の際に損傷する危険がある[3]
弾性髄内釘(TEN: Titanium Elastic Nail)
適応: 転位型骨幹部横骨折(14-A2)の代替選択肢。単純骨折・横骨折・斜骨折でのみ適応となり、皮切が小さい、整容性に優れる、軟部組織の展開が少ない、インプラントが目立ちにくいといった利点がある[3] 。
挿入点: 胸鎖関節の1〜2cm外側を挿入点とし、2.5mmのドリルで前方の皮質骨を貫通してオウルで挿入点を拡大する[3] 。
ネイル挿入と整復: 透視下でTEN(2.0〜3.5mm)を髄腔に回しながら挿入して骨折部を通過させる。徒手整復できなければ先端鋭の鉗子で経皮的な整復を試み、それでも整復できなければ骨折部直上の皮切から直視下に整復する[3] 。
ネイルの前進: ネイルの先端を外側骨片の遠位皮質まで進める[3] 。
内側端の処理: 髄内釘の内側端はカットし、エンドキャップを被せてネイル端を保護する[3] 。
⚠️ 弾性髄内釘ピットフォール
✕ 軟部組織のimpalement(釘が軟部組織を貫通)— 整復不十分での強引な前進は禁止 ✕ 多骨片骨折への使用(TENは長さと回旋を制御できず二次的短縮を生じやすい。単純骨折・横骨折・斜骨折が適応)[3] ✕ エントリーポイントの皮膚の刺激症状・皮膚損傷(しばしばインプラントの抜去や再打ち込みを要する)[3] ✕ 外側端の肩峰下スペースへの干渉(外転制限の原因)
術後管理
術後X線像(AP / 頭尾方向斜位)— 整復位・プレート設置確認
手術タイミング: 開放骨折・切迫開放骨折などの絶対的適応では遅れをとることなく手術を行う。相対的適応では、2〜3週間以降に遅らせると(特に経皮的な間接的整復と固定で)整復操作が困難となる[3] 。
術後荷重(上肢): 骨癒合(X線上の癒合に加え、用手ストレスで骨折部に痛みも動きもない状態。典型的には術後6週)が得られてから筋力強化を許可し、スポーツを含む全活動への復帰は術後3か月とする[1] 。
VTE予防: 上肢骨折のため深部静脈血栓症リスクは低く、標準的な薬物的予防は不要。早期上肢運動と離床を促進する。
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDs(セレコキシブ等)を必要に応じて短期追加。過度のオピオイド使用は回避する。術後48時間は局所冷却も有効。
リハビリテーション: 術後7〜10日は快適のため三角巾を用い、その後は理学療法士の指導のもと自宅で自動可動域訓練を行う[1] 。
フォローアップ
術後2週: 外来で創傷チェックとX線撮影を行い、三角巾を外して肩の可動域訓練を無制限に許可するが、上肢に荷重しない(ものを持ち上げない)よう指導する[3]
術後6週: X線撮影(骨癒合評価)と臨床評価。骨癒合が得られていれば筋力強化を許可する[1]
術後3ヶ月: X線撮影(骨癒合確認)、筋力評価、スポーツ・重労働復帰の判断
骨癒合後: プレートの刺激症状があれば抜釘を検討する(抜釘は手術群の再介入の理由として最も多い)[1]
予後
転位型骨幹部骨折(14-A2)の手術療法について、急性骨幹中央部骨折に対する一次プレート固定の近年の研究では骨癒合率は94〜100% と報告されている[1] 。
骨癒合率(プレート固定):94〜100%[1]
偽関節率(保存療法・転位型骨幹中央部骨折):15.1%(プレート固定では2.2%)[1]
スポーツを含む全活動への復帰:術後3か月[1]
重労働復帰:術後3〜6ヶ月
DASH スコア:手術群は保存療法群より全時点で有意に良好で、1年時の差は約10点[1]
プレート関連愁訴(刺激症状・突出):手術群62例中11例に認め、手術群の合併症は主にインプラント関連であった[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(14-A2 = 鎖骨骨幹部・横骨折、転位の有無を明記) 2 shortening(X線計測値:mm)と angulation(度)を記録したか 3 神経損傷を除外し記録したか(牽引損傷では特に早期に慎重に確認)[3] 4 血管損傷を除外したか(牽引損傷では特に早期に慎重に確認)[3] 5 皮膚テンティングの有無を確認したか(皮膚の壊死や潰瘍を引き起こす可能性がある)[3] 6 手術適応の根拠(相対的適応:>2.5 cmの大きな転位〔短縮および/または上方転位〕、神経血管損傷の合併、浮遊肩、多発外傷など)を確認したか[3] 7 術式選択の理由(プレート vs 弾性髄内釘)を把握しているか 8 術後の活動制限(筋力強化は骨癒合後、典型的には術後6週から。スポーツを含む全活動への復帰は術後3か月)を患者説明したか[1]
文献
Canadian Orthopaedic Trauma Society(2007)Nonoperative treatment compared with plate fixation of displaced midshaft clavicular fractures. J Bone Joint Surg Am, 89(1):1–10.
Robinson CM et al.(2004)Estimating the risk of nonunion following nonoperative treatment of a clavicular fracture. J Bone Joint Surg Am, 86(7):1359–65. PMID: 15252081
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Zlowodzki M et al.(2005)Plate and screw fixation for acute displaced midshaft clavicle fractures: A systematic review of literature. J Orthop Trauma, 19(6):447–450.
Smekal V et al.(2011)Elastic stable intramedullary nailing is best for mid-shaft clavicular fractures without comminution: results in 60 patients. Injury, 42:324-9. PMID: 20394920