膝蓋骨が横方向に完全骨折し、上極または下極(辺縁)に粉砕骨片を伴う関節内骨折。AO分類34-C2に相当する。34-C1(単純横骨折)と比べ辺縁の粉砕により整復・固定が難しく、縫合固定や骨片摘除との組み合わせが必要となることがある。膝蓋骨は大腿四頭筋腱と膝蓋腱の間に位置し、伸展機構の損傷=能動的な膝伸展不能が診断の鍵となる。
重症度・疫学
疫学: 膝蓋骨骨折は比較的多くみられ、全骨折の約1%を占める[1]。
好発: 20〜50歳・男性に多いとされてきたが、60歳以上の高齢者と女性で増加している[3]
受傷機転: ①膝前面への直接的な打撃(直達外力)、②伸展機構の力が骨の強度を超えて膝蓋骨が伸張され破綻する介達外力の2機転がある。直達外力では多骨片・星状の骨折型、介達外力では通常横骨折か下極の裂離骨折となる[1]
注意すべき合併症
- 膝蓋骨無菌性壊死(AVN):テンションバンド法を比べた試験1件で、術後の有害事象の1つとして報告されている[3]
- 外傷後関節症:関節軟骨の重度な一次的損傷、関節不適合による二次的損傷、または膝蓋大腿関節にかかる力の変化で発症する[1]
- 伸展機構を構成する他の構造の損傷(大腿四頭筋・膝蓋腱・膝蓋大腿靱帯):有無に注意する[1]
- 膝蓋大腿関節症(patellofemoral arthritis):膝蓋骨骨折後に生じうる[2]
- 深部静脈血栓症・肺塞栓症
- 深部感染:骨癒合前に生じた場合は手術室で積極的にデブリドマンを行い、安定した固定は維持する[1]
- インプラント刺激(内固定材による症状):テンションバンド法の後に頻度の高い合併症[2]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →伸展機構が温存され(下肢を伸展できる)、関節面の適合が保たれ、骨片間に転位が無い場合[3]
- →34-C2(辺縁粉砕型)は上記を満たすことが少なく、保存療法は稀な選択肢
- →保存療法を選択する場合:ほぼ完全伸展位で長下肢ギプスなどのキャストまたは装具により5〜6週固定する[3]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ2mmの骨片転位(ギャップ)、2mmの関節面の段差、関節内遊離片を伴う骨軟骨骨折、または膝蓋骨の近位端・遠位端で自動伸展機能の喪失を伴う伸展機構の損傷があれば手術適応[1]
- ℹ固定法:テンションバンドの変法が最も広く推奨されている固定方法で、治療法は患者の要因と骨折型に基づいて選択する[1]
- ℹ縫合糸:強靱な糸(非吸収性5号)を用いて骨と軟部組織を整復することもできる[1]
- ℹ代替:スクリュー固定(ラグスクリュー単独は縦骨折〔type B〕に限り、それ以外はテンションバンドと併用)[1]
- ℹ整復・固定が不可能な粉砕:部分的膝蓋骨摘出術(partial patellectomy)+残存骨片への膝蓋腱縫合による伸展機構再建[1]
- ℹ全摘除(total patellectomy):稀に適応となる(部分的膝蓋骨摘出術を実施できないほど粉砕が広範囲、内固定の失敗、感染、腫瘍、膝蓋大腿関節症)。術後は膝完全伸展力が著明に減少する[1]
- ℹ粉砕部位が辺縁部なら、骨棘形成を防ぐために骨片を摘出し、残りの膝蓋骨骨片へ膝蓋靱帯を直接縫合して伸展機構を再建する[1]
治療選択アルゴリズム — 転位量・伸展機構評価に基づく術式選択フロー
診断・評価
膝前面の腫脹・圧痛と伸展機構の機能低下や消失を呈する。損傷が膝蓋支帯に広がると骨折が転位し膝の自動伸展が不能となるが、膝蓋支帯が無傷のことがあるため、自動伸展が可能でも膝蓋骨骨折は除外できない[1]。
X線評価: 膝関節2方向(正面像・側面像)に加え、症例により軸写を追加する。正面像では主骨折線の性質・方向とほかの骨片を、膝屈曲30°の側面像では転位の真の範囲を評価する[1]。
CT: 骨折を正確に評価でき治療方針の決定に役立つため、術前診断での役割が大きくなっている[3]。
X線側面像 — 横骨折+辺縁粉砕と骨片間転位を確認
X線AP像・軸位像 — 辺縁粉砕の範囲・関節面評価
CT矢状断 — 辺縁粉砕の範囲・関節面陥没の評価
✅ 許容される整復
- ✓関節面の解剖学的整復(段差を残さない)[1]
- ✓骨片間離開(diastasis)を残さない
- ✓膝蓋骨の高さを対側の膝のX線像や透視像と比べ、高位/低位が無い[1]
- ✓小さな辺縁粉砕骨片は摘出されている[1]
❌ 許容されない変形
- ✕関節面の段差の残存(関節不適合による二次的損傷は外傷後関節症の原因となる)[1]
- ✕伸展機構障害または容認できない骨折転位となる整復位の喪失(再手術が必要)[1]
- ✕関節内遊離片の遺残(遊離片は膝から摘出する)[1]
- ✕膝蓋骨高位/低位(膝蓋腱保護の鋼線締結で膝蓋腱の正確な長さを誤ると生じうる。重度の膝屈曲制限をもたらす)[1]
手術手技
体位
仰臥位: X線透過性手術台に仰臥位とし、患側殿部の下に枕を置く。膝をやや屈曲させるときは膝下に、伸展させるときは足関節下に移動できる枕を用意する。止血帯は大腿部に巻き、透視装置は対側に配置する[1]。
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲30度・Cアームセットアップ
修正テンションバンドワイヤー法 — 第一選択
適応: 膝蓋骨正中横骨折に対する最良の固定方法である。多骨片骨折(C3放射状骨折)でも整復固定が可能で、小骨片が多い場合はK-ワイヤを追加挿入し、膝蓋骨の周囲締結を追加する。テンションバンドは、膝を屈曲していくと張力を対側の皮質に対する圧迫力に変換する[1]。
修正テンションバンドワイヤー法の手技図 — Kワイヤー+8の字ワイヤー固定
- アプローチ: 正中縦切開で骨折部を展開する。近位・遠位へ延長でき、将来の再手術の妨げにならない。骨折部から関節を観察し、遊離片を摘出する[1]
- 辺縁粉砕骨片の処理: 粉砕部位が辺縁部なら、骨棘形成を防ぐために骨片を摘出し、残りの膝蓋骨骨片へ膝蓋靱帯を直接縫合して伸展機構を再建する[1]
- 関節面の整復: 大型の先端鋭の整復鉗子で直接整復する(type Cは膝伸展位で容易)。視診と、骨折部の両側の支帯断裂部からの触診で関節面の解剖学的整復を確認する[1]
- 仮固定: 大型の先端鋭の整復鉗子で整復し、1.6mmか2.0mmのK-ワイヤ2本を平行に挿入する。理想的な位置は膝蓋骨の中央で、前面より約5mm後方[1]
- テンションバンドワイヤー設置: 約30cmの1.25mm締結用ワイヤを、骨と突き出たK-ワイヤ先端の間のできるだけ骨に近いところで大腿四頭筋腱と膝蓋腱にとおし、膝蓋骨前面で8の字に締結する[1]
- ワイヤー締結: 膝伸展位で締結用ワイヤを締め、膝蓋骨裏面を触診して整復状態を確認する[1]
- Kワイヤー処理: 締結後、Kワイヤーの近位先端は曲げて短くし大腿四頭筋腱の方へ向け、皮膚刺激やゆるみを防ぐため膝蓋骨へ埋め込む。遠位先端は抜去しやすいよう曲げずに短く切るのみとする[1]
- 伸展機構の修復: 関節切開部を閉じ、支帯(retinaculum)の断裂部を吸収糸で縫合する[1]
- 整復位の確認: 関節面の解剖学的整復は、視診と骨折部両側の支帯断裂部からの触診で確認する。透視装置も有用である[1]
⚠️ テンションバンドワイヤー法 ピットフォール
- ✕Kワイヤーの位置不良(理想は膝蓋骨の中央で前面より約5mm後方。関節面寄りに挿入されやすい)[1]
- ✕Kワイヤー近位端を曲げて短くし膝蓋骨へ埋め込まない → 皮膚刺激・ゆるみ(遠位端は抜去しやすいよう曲げずに短くするのみ)[1]
- ✕締結ワイヤーが膝蓋骨の前面に位置していない → テンションバンドとして機能しない[1]
- ✕関節内遊離片の見落とし(骨折部から関節を観察し、遊離片は膝から摘出する)[1]
- ✕支帯(retinaculum)断裂部の縫合の省略[1]
ラグスクリュー固定(+テンションバンドワイヤー)— 代替選択肢
適応: ラグスクリュー(3.5mm皮質骨スクリュー)は安定性を増すが、type Bの縦骨折以外ではテンションバンドと併用する[1]
ラグスクリュー固定 — 膝蓋骨前面方向に2本の圧迫スクリュー
- アプローチ・関節面整復はテンションバンドワイヤー法と同様
- 解剖整復後、クランプで仮固定
- 整復された骨折を横切るように、キャニュレイテッドスクリュー(4mm)を挿入する[1]
- スクリューは対側皮質を越えて固定。関節面は穿破しない
- スクリューにテンションバンドワイヤーをとおして締結する(type Bの縦骨折以外ではテンションバンドを併用する)[1]
術後管理
術後X線像(AP / Lateral)— Kワイヤー+テンションバンドワイヤー固定後・関節面整復位の確認
手術タイミング: 開放骨折は閉鎖骨折より合併症が多く、時機を逸さないデブリドマン・洗浄・内固定で合併症を減らせる[2]
術後荷重: 後療法では早期からの膝関節運動と全荷重が推奨され、屈曲変形は避ける[1]
VTE予防: 患者のリスクに応じてVTE予防を検討する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDsは骨癒合阻害のリスクに配慮して短期使用にとどめる。冷却療法が有効
リハビリテーション: 安定した固定で早期の可動域訓練を可能にすることが手術の目的の一つであり、術後早期から膝関節可動域訓練を開始する[3]
フォローアップ
- 術後2週: 創部の確認とX線での整復位の確認
- 術後6週: X線で骨癒合の経過を確認し、可動域を評価する
- 術後12週: X線で骨癒合を確認する
- 術後6ヶ月〜1年: 膝関節機能・膝蓋大腿関節症の評価
- Kワイヤー・テンションバンドワイヤーは、皮質骨の治癒とリモデリングに時間がかかるため、固定後少なくとも12か月間は抜去しない[1]
予後
- 骨癒合率:約85〜95%(固定の安定性・骨片サイズに依存)
- 外傷後膝蓋大腿関節症:関節軟骨の重度な一次的損傷、関節不適合による二次的損傷、膝蓋大腿関節にかかる力の変化で発症する[1]
- 抜釘(Kワイヤー・テンションバンドワイヤー):テンションバンド法では内固定材による症状が多い合併症である[2]
- 膝関節可動域:可動域制限は膝蓋骨骨折後の最も頻発する合併症と考えられ、術後拘縮の発生率とその程度を減少させるために早期からの関節運動が提唱されている[1]
- 膝蓋骨部分切除後:可能なら全摘出より部分切除が好ましいが、膝蓋骨の40%以上を切除すると予後不良と報告されている[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(34-C2 = 完全関節内・横骨折+辺縁粉砕)
- 2能動的膝伸展の可否を確認(伸展不能 → 手術適応の強い根拠)
- 3骨片転位(ギャップ)と関節面の段差を計測(X線側面像・CT)— いずれも2mmで手術適応[1]
- 4辺縁粉砕骨片の数・サイズ・範囲をCTで評価(固定可能か摘除か)
- 5伸展機構損傷(大腿四頭筋腱・膝蓋腱断裂の合併)の有無を確認
- 6術式を確認(最も広く推奨:テンションバンドの変法。最近ではスクリュー単独または前方テンションバンドとの併用も提唱されている)[1]
- 7関節面の解剖学的整復を確認(視診と、骨折部両側の支帯断裂部からの触診)[1]
- 8Kワイヤー近位端を曲げて膝蓋骨へ埋め込み、支帯(retinaculum)の断裂部を縫合したか[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Melvin JS, Mehta S(2011)Patellar fractures in adults. J Am Acad Orthop Surg, 19(4):198–207. PMID: 21464213
- Sayum Filho J et al.(2015)Interventions for treating fractures of the patella in adults. Cochrane Database Syst Rev, 2:CD009651. PMID: 25723760
- Carpenter JE, Kasman R, Matthews LS(1994)Fractures of the patella. Instr Course Lect, 43:97–108. PMID: 9097140