膝蓋骨の外側縁または内側縁に限局した縦(矢状面)骨折で、関節面の一部のみが損傷される部分関節内骨折。AO分類34-B1(外側縦骨折)に相当する。内側縦骨折は34-B1の亜型として扱われることがある(なお、AO分類で34-B2は「部分関節内・水平縁骨折」であり、本記事の対象外)。転位が小さく伸筋機構が温存される場合は保存療法の適応となるが、関節面転位 >2mm・伸筋機構破綻・骨片不安定を認める場合はORIFを選択する。膝蓋骨の外側骨折は、膝蓋骨脱臼・亜脱臼に伴う骨軟骨損傷として生じることが多く、骨片が小さい場合は切除を考慮する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 膝蓋骨骨折全体の約3〜5%が縦(矢状面)骨折。膝蓋骨骨折自体は全骨折の約1%
好発: 青壮年(膝蓋骨脱臼に伴う骨軟骨損傷)および中高年(直達外力)
受傷機転:
- 外側縦骨折(34-B1の主型):膝蓋骨脱臼・亜脱臼に伴う剪断力、または膝への直達外力(外側縁への集中荷重)
- 内側縦骨折(34-B1の亜型):直達外力、または伸展機構の内側への牽引力
注意すべき合併症
- 外傷後変形性膝関節症:関節面不整合による(関節面転位 >2mm で有意に増加)
- 膝蓋骨軟骨損傷の見落とし:骨片が小さく X 線で描出困難なことがある(MRI 有用)
- 伸筋機構損傷:四頭筋腱・膝蓋腱の部分/完全断裂との合併に注意
- 膝関節拘縮:術後早期可動域訓練を怠った場合に生じる
- 骨片の無菌性壊死:骨膜剥離が広範な小骨片で生じることがある
- DVT/PE:下肢手術後・長期免荷時のリスク
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →関節面転位 ≦2mm
- →伸筋機構が機能的に保たれている(active straight leg raise が可能)
- →骨片の転位が安定(荷重試験で増悪しない)
- →治療:長下肢副子またはニーブレース(伸展位固定)4〜6週間、その後段階的可動域訓練
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ関節面転位 >2mm(多くの部分関節内縦骨折はこの基準を満たす)
- ℹ伸筋機構破綻(SLR不可)
- ℹ骨片が大きく(>1cm)整復固定可能 → ORIF(ラグスクリューまたはヘッドレス圧迫スクリュー)
- ℹ骨片が小さく固定困難(外側縦骨折に多い)→ 骨片切除(partial patellectomy)
- ℹ切除範囲:膝蓋骨の外側縁または内側縁のみ。膝蓋骨全体の1/3(約33%)以上の切除は避ける
治療選択アルゴリズム — 関節面転位量・伸筋機構・骨片サイズに基づく保存/ORIF/骨片切除の選択
診断・評価
膝関節前面の疼痛・腫脹。内出血(皮下血腫)が前膝部に出現することがある。伸筋機構の評価(active SLR)が最重要。関節内血腫(hemarthrosis)を認める場合は関節内骨折のサイン。
X線: 膝蓋骨正面像・側面像・軸位像(Merchant view)を撮影。縦骨折は正面像で検出しやすいが、骨片が小さい場合は見落としに注意。
CT: 骨折線の方向・転位量・関節面への侵入範囲を評価。骨片が複数ある場合に有用。
MRI: 軟骨損傷・伸筋機構(四頭筋腱・膝蓋腱)の断裂評価に有用。脱臼後骨軟骨損傷(OCD)の検索にも必要。
X線正面像・側面像・軸位像(Merchant)— 外側縦骨折線・骨片の転位量評価
✅ 許容される整復
- ✓関節面転位 ≦2mm
- ✓ORIFではラグスクリューが関節面から沈下(countersunk)していること
- ✓伸筋機構の連続性が保たれている
❌ 許容されない変形
- ✕関節面転位 >2mm(保存療法継続・ORIF適応)
- ✕スクリューの関節面突出(対側大腿骨滑車軟骨の損傷)
- ✕骨片の再転位(固定不良)
手術手技
体位
仰臥位(膝軽度屈曲 20〜30°位): 大腿部止血帯を使用(tourniquet 250〜300mmHg)。
仰臥位・止血帯・Cアームセットアップ — 膝蓋骨縦骨折手術体位
ORIF(ラグスクリュー固定)— 第一選択(大骨片)
膝蓋骨縦骨折ORIF手技 — 傍正中アプローチ・骨折整復・ラグスクリュー固定(countersunk)
- アプローチ: 前膝正中または傍膝蓋骨縦切開。外側縦骨折では外側傍膝蓋腱切開。関節包を最小限切開して関節内血腫を除去
- 骨折部の確認: 縦骨折線と骨片の状態(サイズ・転位量・軟骨損傷)を直視で評価
- 骨折整復: ポインテッドリダクションクランプで骨折を解剖整復(関節面の段差 ≦1mm を目標)
- K-wire仮固定: 2本の K-wire を骨折線に垂直(水平方向:内外側方向)に刺入して仮固定
- ラグスクリュー固定: 3.5〜4.0mm ヘッドレス圧迫スクリュー(またはコルテックスラグスクリュー)を骨折線に垂直方向(横方向)で2本刺入。スクリューは関節面から沈下(countersunk)させること
- 整復・固定の確認: 直視および透視で関節面の整合・スクリュー位置を確認
- 可動域確認: 膝関節を屈曲して固定安定性と関節面の整合を確認
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕スクリュー方向の誤り(縦方向に入れると骨折面と平行になり固定力なし。横方向=内外側方向に刺入すること)
- ✕スクリューの関節面突出(大腿骨滑車の対向軟骨を損傷する)
- ✕過剰な骨膜剥離(小骨片の血行障害)
- ✕骨片が小さい場合に無理に固定(→切除を選択すべき)
骨片切除(Partial Patellectomy)— 小骨片の代替術式
小さい辺縁骨片(特に外側縁の骨軟骨骨折に多い)で固定が困難な場合に選択する。
- 骨片を切除(膝蓋骨全体の1/3未満を目安とする)
- 切除縁を平滑化
- 伸筋支帯(外側支持帯または内側支持帯)の修復
術後管理
術後X線像(正面/側面/軸位)— ラグスクリュー2本による縦骨折固定後。関節面整復位確認
手術タイミング: 緊急性は低い。受傷後7〜10日以内を目標(腫脹が許容範囲になれば待機手術可)
術後荷重: ORIF 後は術翌日から toe-touch 荷重(部分荷重)。X線で骨癒合初期確認後(術後4〜6週)に部分荷重→全荷重へ段階的に移行
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン、術後12〜24時間より開始
疼痛管理: NSAIDs・アセトアミノフェン(オピオイドは最小限)。関節内血腫の定期的な確認
リハビリテーション: 術翌日から股関節・足関節の可動域訓練開始。膝関節屈曲は術後1〜2週より段階的に開始(ORIF固定の安定性を確認してから)。骨癒合後(術後8〜12週)に本格的な筋力訓練(大腿四頭筋)を開始
フォローアップ
- 術後2週:創部確認・X線(スクリュー位置・骨片転位の有無)
- 術後6週:X線・骨癒合初期評価、可動域確認
- 術後12週:X線・骨癒合判定、本格的筋力訓練開始
- 術後6〜12ヶ月:機能評価(大腿四頭筋筋力・膝伸展力)、変形性関節症の評価
予後
- 骨癒合率:ORIF 後約90〜95%
- 関節面整復 ≦2mm を達成できれば外傷後変形性膝関節症リスクは低い(<10%)
- 骨片切除後:残存膝蓋骨の関節機能は概ね良好。ただし膝蓋骨切除範囲が増えるほど伸展ラグのリスクが増す
- スポーツ復帰:術後3〜6ヶ月(骨癒合・筋力回復次第)
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(34-B1 = 膝蓋骨・部分関節内・縦骨折。外側縦骨折が代表的だが内側縦骨折を含む亜型もある)
- 2伸筋機構の機能評価(active SLR の可否)を記録
- 3関節面転位量を測定(≦2mm 保存 / >2mm 手術)
- 4骨片のサイズを評価(大骨片 → ORIF / 小骨片 → 切除)
- 5CT・MRI で軟骨損傷・伸筋機構断裂・隠れた骨折を除外
- 6膝蓋骨脱臼歴・MPFL損傷の有無を確認(再建の要否)
- 7スクリュー固定は横方向(内外側方向)を確認(縦方向では骨折面と平行になる)
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Carpenter JE et al.(1993)Fractures of the patella. J Bone Joint Surg Am, 75:1550–61.
- Melvin JS, Mehta S(2011)Patellar fractures in adults. J Am Acad Orthop Surg, 19:198–207. PMID: 21464213