膝蓋骨の関節面を含まない関節外骨折のうち、横走骨折線を伴う型(transverse / wedge pattern)。AO分類34-A2は「関節外・横骨折および楔状(くさび型)骨折」を含む骨折型であり、AO/OTA分類において34-A1(骨極剥離型)よりも広い骨折線が走るが関節軟骨面は損傷されない。伸展機構(大腿四頭筋・膝蓋腱)の断裂を必ず評価し、転位量・膝関節能動伸展の可否が治療選択の鍵となる。転位型には手術(tension band wiring または cannulated screw + tension band)が原則。
重症度・疫学
頻度: 膝蓋骨骨折は全骨折の約1%を占める[1]
好発: 全骨折の約1%を占め、直達外力・介達外力のいずれでも生じ、転倒が最も多い原因である[1]
受傷機転: ①直達外力(膝前部への直接打撃)では多骨片・星状の骨折型となりやすい、②介達外力(伸展機構の力が骨の強度を超え、膝蓋骨が伸張されて破綻)では通常、横骨折か下極の裂離骨折となる[1]
注意すべき合併症
- 伸展機構の損傷:損傷が膝蓋支帯を通って横方向に広がると骨折が転位し、膝の自動伸展が不能となる[1]
- 膝蓋大腿関節症(膝蓋骨骨折後に生じうる)[2]
- 骨片壊死(特に血行不良の小骨片)
- implant突出・皮膚刺激(tension bandのワイヤー・Kワイヤー端が皮下に触れる)
- 術後早期の整復位喪失(2mm以上の転位。固定手技の誤りや患者のコンプライアンス不良が要因)[4]
- DVT/PE
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →転位のない骨折で、伸展機構の連続性が保たれていること[2]
- →膝の自動伸展機能が保たれていること(自動伸展機能の喪失を伴う伸展機構の損傷は手術適応)[1]
- →ヒンジ付き膝装具を伸展位でロックし早期から荷重・疼痛軽減後に等尺性四頭筋運動とSLR・1〜2週で自動/自動介助の可動域訓練・6週で抵抗運動を追加[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ伸展機構を破綻させる骨折、または段差(step-off)>2〜3mmかつ転位>1〜4mmの骨折[2]
- ℹ第一選択:tension band wiring(TBW)— K-wire(2本)+ 8の字状ステンレスワイヤー
- ℹ代替:cannulated screw(4mm)+ tension band(K-wireを用いた構造より生体力学的に強度が高い)[1]
- ℹ上極・下極の小骨片で整復・固定が不可能な場合 → partial patellectomy[1]
- ℹ粉砕強度の場合 → 34-C型(膝蓋骨完全関節内粉砕骨折)に移行(本型での考慮外)
治療選択アルゴリズム — 膝蓋骨横骨折・SLR可否・転位量による保存/手術判断
診断・評価
典型的な症状は腫脹・圧痛・伸展機構の機能低下や消失。転位が著しい場合は骨片間の欠損部(gap)を触知できる。膝蓋支帯が無傷のことがあり、膝の自動伸展が可能でも膝蓋骨骨折は除外できない。X線は膝関節2方向が基本で、膝屈曲30°の側面像で転位の真の範囲を評価する。CTは骨軟骨骨折や下極の裂離骨折の描出に役立つ[1]。
術前X線AP像(膝蓋骨横骨折線・骨片間gap評価)
術前X線側面像(転位量測定・関節面評価)および CT矢状断(34-A2の関節外確認)
✅ 許容される整復
- ✓骨片間のギャップ・段差ともに2mm未満(転位なし)[1]
- ✓手術後:解剖学的整復(テンションバンド法による解剖学的整復・固定で成績が最もよい)[2]
❌ 許容されない変形
- ✕2mmの骨片転位(ギャップ)・2mmの関節面の段差、または自動伸展機能の喪失を伴う伸展機構の損傷(いずれかで手術適応)[1]
- ✕膝蓋骨の縦軸整合が失われた回転変形
- ✕implantの膝蓋大腿関節内突出
手術手技
体位
仰臥位: X線透過性手術台で仰臥位とし、患側殿部の下に枕を置く。膝下(軽度屈曲)または足関節下(伸展)に移動できる枕を用意し、大腿部に止血帯を巻く。透視装置は対側に配置する[1]。
手術体位 — 仰臥位・止血帯・Cアームセットアップ(膝蓋骨横骨折TBW)
Tension Band Wiring(TBW)— 第一選択
TBW手技図 — 前方縦切開・K-wire 2本平行刺入・8の字ワイヤー・骨折整復後の透視像
- 皮膚切開: 膝蓋骨前面の正中縦切開(骨折部の展開が容易で、近位・遠位へ延長できる)。皮膚と皮下筋膜の間ではなく、皮下筋膜と伸展機構の間の層で展開する[1]
- 関節内の確認: 膝関節内を直視する必要があれば内側傍膝蓋進入法で関節包を切開する。骨折部位から関節を観察し、段差・ギャップ・嵌入している軟骨の大きさに注意して遊離片を摘出し、関節を洗浄して対応する大腿骨顆部の関節面を観察する[1]
- 仮整復: 骨折を徒手整復しリダクションクランプで仮固定
- K-wire刺入: 1.6〜2.0mm K-wire 2本を平行に刺入する。理想的な位置は膝蓋骨の中央で、膝蓋骨前面より約5mm後方(関節面寄りに入りやすい)[1]
- 締結ワイヤーの通過: 骨と突き出たK-wire先端との間のできるだけ骨に近いところに、大腿四頭筋腱と膝蓋腱を通して1.25mmの締結用ワイヤー(約30cm)を通す[1]
- 8の字締結: 締結ワイヤーを8の字にかけ、全周にわたり骨にできるだけ近いところを通す。膝伸展位で締める際は膝蓋骨裏面を触診して整復状態を確認する[1]
- K-wire先端処理: 近位端は曲げて短くし、大腿四頭筋腱の方へ向けて膝蓋骨に埋め込む(皮膚刺激・ゆるみの防止)。遠位端は抜去しやすいよう曲げずに短くするのみ[1]
- 透視確認: 整復位・K-wire位置・骨折gap・関節面を透視で確認
- 支帯・伸展機構の修復: 関節切開部を閉じ、支帯の断裂部を吸収糸で縫合する。大腿四頭筋腱・膝蓋腱の損傷があれば修復する[1]
⚠️ TBW ピットフォール
- ✕K-wire平行性不良(K-wire 2本は平行に挿入する)[1]
- ✕締結ワイヤーの配置不良(円形にかけたワイヤーは屈曲時に膝蓋骨前面より後方へ滑り張力帯として働かない。K-wire遠位端の後方を通さないと軟部組織だけを捉える)[4]
- ✕K-wireの関節面寄りの挿入(理想は膝蓋骨中央・前面より約5mm後方)[1]
- ✕締結ワイヤの配置不良・張力不足(骨折転位を許しうる。double-knot法の方が適切な張力をより確実に得られる可能性がある)[4]
- ✕止血帯時間超過(30分を超える場合は一時的に解除)
Cannulated Screw + Tension Band — 代替術式
4mm cannulated screwを整復した骨折を横切るように挿入し、スクリューにテンションバンドワイヤーを通す。K-wireを用いた構造より生体力学的に強度が高い[1]。臨床的な優位性は証明されていない[4]。
Cannulated Screw + Tension Band 術中透視像(AP/側面)— スクリュー位置・圧迫確認
術後管理
術後X線像(正面/側面)— K-wire 2本平行・8の字ワイヤー・骨折解剖整復位
手術タイミング: 開放骨折は閉鎖骨折より合併症が多く、適時の洗浄・デブリードマンと内固定で軽減できる[2]
術後荷重: 後療法では早期からの膝関節運動と全荷重が推奨され、屈曲変形は避ける[1]
VTE予防: エドキサバン(術後12〜24時間後から開始)
疼痛管理: NSAIDs + アセトアミノフェン。冷却・挙上
リハビリテーション: 膝関節の拘縮を防ぐため、術後早期から膝関節運動を開始する[1]
フォローアップ
- 術後早期:X線で整復位の維持を確認(軽度の整復位喪失〔2〜6 mm〕は術後1〜8週に認められた[4])
- 術後6週:X線(仮骨形成・骨癒合初期)。屈曲ROM 90°到達目標
- 骨癒合までX線で経過を追う(TBWで治療した51例は骨癒合まで最短4か月経過観察された)[4]
- implant除去:固定後少なくとも12か月間は抜去しない[1]
予後
- 骨癒合率:解剖整復・適切な固定で約90〜95%
- 機能的転帰:手術プロトコルの進歩と良好なX線像にもかかわらず、治療後は機能障害が多くみられる[1]
- implant除去:TBW後、症状のある内固定材のため51例中9例が術後平均7か月(3〜12か月)で抜去を要した[4]
- 外傷後関節症:関節軟骨の重度な一次的損傷、関節不適合による二次的損傷、または膝蓋大腿関節にかかる力の変化により発症する[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(34-A2 = 膝蓋骨・関節外・横骨折および楔状骨折)
- 2SLR(能動的下肢挙上)の可否を記録(不可なら伸展機構断裂=手術適応)
- 3X線側面像で骨片間のギャップと関節面の段差(step-off)を計測(いずれか2mmで手術適応)[1]
- 434-B/C型との鑑別(関節内骨折の有無 — CT活用)
- 5術式選択の根拠(TBW vs cannulated screw + TBW)を記録
- 6K-ワイヤが膝蓋骨の中央・膝蓋骨前面より約5 mm後方にあることを確認(関節面に近すぎる挿入に注意)[1]
- 7伸展機構(大腿四頭筋腱・膝蓋腱)の損傷合併の有無を術中確認
- 8術後ニーブレース管理と荷重・ROM訓練スケジュールを指示
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Melvin JS, Mehta S(2011)Patellar fractures in adults. J Am Acad Orthop Surg, 19(4):198–207. PMID: 21464213
- Böstman O et al.(1997)Complication rate after tension band wiring of patella fractures. J Trauma, 43(4):672–5.
- Smith ST et al.(1997)Early complications in the operative treatment of patella fractures. J Orthop Trauma, 11(3):183–7. PMID: 9181501