中節骨(middle phalanx / P2)は示指〜小指(D2〜D5)に存在する第2指節骨で、母指(D1)には中節骨がない。掌側正中(近位1/3と中央1/3の移行部)に浅指屈筋腱(FDS)が停止し、背側基部には中央索(central slip)が停止する。中節骨骨折では、骨折線とFDS停止部の位置関係によって屈曲変形の向き(apex方向)が規定される点が最大の特徴であり、整復・固定方針を左右する。
AO/OTA 2018では手(領域7)の指骨(骨レベル78)に分類される。手(領域7)は長管骨のA/B/C・群番号体系を用いず、base / shaft / neck / head の部位区分+英語N-part表記で分類する点に注意する。中節骨は近位でPIP関節、遠位でDIP関節に接する有関節骨であり、「中節骨=関節外=A型」と断定してはならない。実際には base pilon(完全関節内)・掌側基部脱臼骨折(volar base fracture-dislocation)・condylar(unicondylar / bicondylar)などPIP/DIPを侵す関節内病型が主要である。骨折形態は、関節外(extra-articular)か関節内(intra-articular)かをまず区別し、shaft部は transverse / oblique / spiral / multifragmentary、関節部は base・condylar として記述する。
重症度・疫学
頻度: 指骨骨折は手の骨折のなかで最も高頻度で、全骨折の約10%を占めるとされる。指骨のなかでは末節骨が最多で、次いで基節骨、中節骨が最も少ない(頻度順は末節>基節>中節)。中節骨は屈筋腱・側副靱帯に保護されて骨折頻度そのものは低い一方、受傷時には関節内骨折(PIP関節を侵す base・condylar)の比率が相対的に高い点に注意する。
性差: 男性優位(男性:女性 ≒ 2:1)
受傷機転: 直達外力(挟まれ・打撲・スポーツ)と軸圧・過伸展損傷。PIP関節の軸圧+過伸展は中節骨基部のpilon骨折・背側脱臼骨折を生じる。
注意すべき合併症
- PIP関節拘縮・可動域制限:手指骨折で最多の機能障害(重大)
- 回旋変形(malrotation)による指の交差(scissoring):把持機能を損なう(重大)
- 変形治癒(apex volar/dorsal):伸展ラグ・swan neck変形(重大)
- 骨癒合不全・遷延癒合:開放骨折・粉砕例で増加
- PIP関節症・不安定性:関節内骨折(pilon)後の遺残
⚠️ FDS停止部と変形方向の関係(本疾患の核心)
- →近位骨折(FDS停止部より近位):近位骨片は中央索で伸展、遠位骨片はFDSで屈曲 → apex dorsal(背側凸)変形
- →遠位骨折(FDS停止部より遠位):近位骨片がFDSで屈曲 → apex volar(掌側凸)変形
- →中央1/3の骨折:FDSが両骨片にまたがり安定し、変形しない/いずれの方向にも起こりうる
治療方針
多くの中節骨骨折は転位が軽微で保存療法で良好に癒合する。回旋変形・関節内転位・不安定型を的確に拾い上げ、手術適応を見極めることが要点。
🔷 保存療法の適応(許容整復基準内)
- ℹ関節外骨折で angulation 10度未満(前後・側方いずれも)
- ℹ短縮 2mm未満
- ℹ回旋変形なし(爪の向き・scissoringがないこと)
- ℹ非転位の関節内骨折
- ℹ骨接触(apposition)50%以上
🔷 手術適応
- ℹ整復後も angulation 10度超・短縮 2mm超が残存する不安定型
- ℹあらゆる程度の回旋変形(保存療法で許容しない)
- ℹ転位した関節内骨折(unicondylar/bicondylar)
- ℹ整復不能・不安定なspiral / oblique / multifragmentary骨折
- ℹPIP関節背側脱臼骨折で掌側基部骨片が関節面の50%超(30〜50%は選択的に手術)
- ℹ開放骨折・多発指骨折
掌側凸(apex volar)変形が30度を超えると伸展ラグ・swan neck変形の原因となるため確実な矯正を要する。保存療法・手術いずれでも、PIP・DIP関節の早期自動運動による拘縮予防が最終機能を決める。
治療選択アルゴリズム — 骨折形態・関節面・安定性に基づく方針決定フロー
診断・評価
受傷指の腫脹・圧痛・可動域制限を認める。回旋変形の評価が最重要で、以下を必ず確認する。
✅ 回旋変形(malrotation)の臨床評価
- ✓爪甲(nail plate)の向きを健指と比較(伸展位)
- ✓各指を屈曲させ指尖が舟状骨結節を指すか確認(正常は全指が同方向へ収束)
- ✓屈曲時の指の交差(scissoring / overlap)の有無
- ✓手関節の受動的伸展でtenodesis効果を利用し全指の整列を観察
X線正面像 — 骨折線・angulation・短縮・関節面の評価
X線側面像(真の側面・単指分離撮影)— apex方向とPIP整合性の確認
側面像は隣接指と重なりやすいため罹患指を分離した真の側面像を撮影する。PIP関節脱臼骨折では側面像で背側亜脱臼(V sign / dorsal subluxation)と掌側基部骨片の関節面占有率を評価する。
【必須】 罹患指の正面・斜位・真の側面X線(3方向)
【推奨】 関節内骨折(base pilon / condylar)ではCTで骨片数・関節面占有率・陥没を評価
MRI/超音波:靱帯・腱付着部損傷が疑われる場合に補助的に施行
整復基準
✅ 許容される整復(保存療法の目安)
- ✓angulation 10度未満(前後・側方)
- ✓短縮 2mm未満
- ✓回旋変形なし
- ✓関節面 step-off 1mm未満
- ✓骨接触 50%以上
❌ 許容されない変形
- ✕あらゆる程度の回旋変形(scissoring)
- ✕apex volar変形 30度超(伸展ラグ・swan neck)
- ✕関節面 step-off 1mm以上/関節内転位
- ✕整復後の再転位を繰り返す不安定型
手術手技
体位・麻酔
手術体位・手台セットアップ — 患肢をハンドテーブルに外転、透視配置
仰臥位で患肢をハンドテーブルに外転。腕神経叢ブロックまたは局所麻酔(wide-awakeを含む)、駆血帯を使用。ミニCアーム透視を術野側方に配置する。
アプローチ解剖図 — 中節骨背側/側正中切開と伸展機構の温存
CRPP(経皮的鋼線固定 / closed reduction percutaneous pinning)
適応: 閉鎖的に整復可能なshaft骨折(transverse / short oblique)や関節外不安定型の第一選択。軟部侵襲が少なく伸展機構を温存できる。
- 整復: 牽引と、apex方向に応じた背側/掌側からの用手整復。透視で angulation・回旋・短縮を確認。
- 鋼線刺入: 0.8〜1.1mm K-wireをcrossed(交差)またはlongitudinalに刺入。関節面を避け、必要に応じてintramedullary/extension block法を選択。
- 回旋確認: 屈曲位で全指の整列(爪の向き・scissoring)を再確認。
- 確認・後療法: 透視で整復位保持を確認し、隣接指とのbuddy tapingで補強。
⚠️ CRPP ピットフォール
- ✕回旋の見落とし(伸展位のみの確認では検出できない — 屈曲位で必ず確認)
- ✕ピン刺入時の熱壊死(低速・洗浄下で刺入)
- ✕PIP/DIP関節をまたぐ長期固定による拘縮
- ✕ピン刺入部感染(外固定期間中のピンケア)
ORIF(観血的整復固定 — lag screw / minifragment plate)
適応: long oblique / spiral骨折はlag screw単独が良い適応。多骨片・関節内・整復不能例ではminifragment plate(1.3〜2.0mm系)やscrew併用。
- 展開: 背側正中(伸筋腱を縦割 or 側方に牽引)または側正中切開。伸展機構の温存を最優先。
- 整復: 骨片を解剖学的に整復し鉗子で仮固定。関節内骨片は関節面の平坦化を透視・直視で確認。
- 固定: long oblique/spiralで骨折線長が骨径(骨の直径)の約2倍以上ある場合はlag screw 2本以上を用いるのが古典的基準。粉砕・横骨折はプレートで中和・支持固定。
- 可動域確認: 固定後にPIP・DIPの他動可動域と腱滑走を術中に確認(早期運動可能な強度を担保)。
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕伸筋腱・側索の医原性癒着(低侵襲展開と早期運動が必須)
- ✕過大なインプラントによる腱刺激・可動域制限
- ✕関節内骨片の血流温存を損なう過度の剥離
- ✕安定性不十分な固定での早期運動 → 再転位
PIP関節脱臼骨折・pilon骨折の再建
適応: 中節骨基部の関節面50%超を占める掌側基部骨片・背側脱臼骨折、粉砕したpilon骨折。
- dynamic external fixation(動的創外固定): 靱帯整復(ligamentotaxis)で関節面を整復し早期運動を許容。粉砕例に有用。
- ORIF(volar approach): 大きな単一骨片は screw / plate で整復固定。
- volar plate arthroplasty: 中等度の関節面欠損に対する掌側板を用いた再建。
- hemi-hamate arthroplasty: 関節面50%超の欠損に対し有鉤骨(hamate)背側遠位の骨軟骨自家移植で中節骨基部関節面を再建。
⚠️ PIP再建 ピットフォール
- ✕関節面占有率の過小評価(側面CTで正確に評価)
- ✕整復後の背側再亜脱臼(congruityとV signの消失を透視で確認)
- ✕長期固定による不可逆的PIP拘縮 — 安定が得られ次第の早期運動が原則
術後管理
術後X線像(AP / Lateral)— 整復位・インプラント設置・関節整合性の確認
外固定: 安定型・保存例はintrinsic plus肢位でのsplint、または隣接指へのbuddy taping。目安3週前後で自動運動へ移行(要症例個別化)。
早期運動: 安定した固定が得られた手術例では術後早期からのPIP・DIP自動運動を開始し拘縮を予防する。手指骨折の予後は骨癒合よりも可動域で決まる。
浮腫管理: 挙上・圧迫・早期運動により浮腫を制御。浮腫遷延は拘縮の直接原因となる。
回旋変形チェック: フォローアップ毎に爪の向き・屈曲時のscissoringを再確認し、変形治癒の早期発見に努める。
ハンドセラピィ: 認定ハンドセラピストと連携し、可動域・腱滑走・浮腫管理を段階的に進める。
フォローアップ
- 術後1〜2週: 創・ピン部確認、X線で整復位保持、可動域訓練の進捗確認
- 術後3〜4週: 外固定除去の可否判断、自動運動の強化
- 術後6週: 骨癒合評価、荷重的把持動作の許可、可動域計測
- 術後3ヶ月: 最終可動域・握力評価、変形治癒/関節症の有無確認
予後
適切に整復・早期運動された安定型骨折の機能予後は良好だが、関節内骨折・粉砕・軟部損傷合併例ではPIP拘縮と可動域低下が残存しやすい。回旋変形の遺残は把持機能に直結するため許容してはならない。
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO/OTA領域と骨を確認(領域7 手・78 指骨/中節骨P2、母指には中節骨なし)
- 2骨折線とFDS停止部の位置関係と変形方向(apex dorsal / apex volar)を確認
- 3回旋変形の有無を屈曲位(爪の向き・scissoring・tenodesis)で確認
- 4関節内骨折の有無と関節面占有率(PIP脱臼骨折は50%が手術の目安)を評価
- 5許容整復基準(angulation<10度・短縮<2mm・回旋なし・step-off<1mm)と照合
- 6術式方針を把握(CRPP / lag screw / plate / PIP再建:dynamic ex-fix・hemi-hamate)
- 7早期可動域訓練とハンドセラピィ導入の計画を確認
文献
- Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, Karam MD, Kellam JF. Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma. 2018;32(Suppl 1):S1–S170.
- Korambayil PM, Francis A. Hemi-hamate arthroplasty for pilon fractures of the finger. Indian J Plast Surg. 2011;44(3):458–466. (PMID: 22279280)
- Faulkner H, Graham DJ, Hile M, Lawson RD, Sivakumar BS. Hemi-hamate Arthroplasty for Base of Middle Phalanx Fracture: A Systematic Review. Hand (N Y).
- 一般的疫学(指骨骨折=全骨折の約10%、頻度順は末節>基節>中節、男性優位)は Orthobullets / StatPearls 等の総説記載(要一次文献確認)。