手指の基節骨(proximal phalanx, P1)に生じる骨折。基部・骨幹部・頸部・頭部のいずれにも発生し、手指骨折のなかでも高頻度に遭遇する。骨幹部骨折では骨間筋が近位骨片を屈曲させ、中央索・側索が遠位骨片を伸展させるため、典型的にapex volar(掌側凸)の角状変形を呈する。回旋変形(malrotation)を残すと屈曲時に指が重なる scissoring を生じ、機能障害に直結するため、整復・固定では長さ・軸・回旋の3要素すべてを評価する。
AO/OTA 2018 では手(region 7)の指骨は骨番号 78 に分類される(中手骨は 77)。手の骨折は長管骨のような A/B/C 型・群番号体系を用いず、部位(base / shaft / neck / head)と骨片数(N-part:2-part / 3-part / multifragmentary)で記述する。基節骨=関節外(A)と単純に断定することはできない:骨折は骨幹部(関節外)・頸部/顆部(部分関節内となりうる)・基部や両顆(完全関節内となりうる)のいずれにも生じ、関節外/部分関節内/完全関節内のどれに当たるかは個々の骨折の関節面への波及によって決まる。多くは保存療法(buddy taping)で良好に治癒するが、不安定型・回旋変形・関節内転位例では手術(K-wire、lag screw、mini-fragment plate、髄内スクリュー)が選択される。
重症度・疫学
位置づけ: 中手骨骨折とともに手部で最も頻度の高い骨折群の一つ。基節骨は指骨のなかでも受傷頻度が高い。
好発指: 辺縁指(示指・小指)に多い傾向がある。年齢・活動性により男女比や好発指の分布は変動する。
受傷機転: 直達外力(挟圧・打撲)、スポーツ外傷、転倒時の手指過伸展・捻転。
基節骨骨折で重視すべき臨床課題: 発生率そのものよりも、回旋変形の遺残とPIP関節拘縮(伸展機構癒着)が機能予後を左右する。骨性癒合は得られても可動域が回復しないケースが最大の問題となる。
注意すべき合併症
- PIP/MCP関節拘縮・可動域制限:最多(伸筋腱・側索の癒着による、重大)
- 回旋変形・角状変形の malunion(機能障害の主因)
- 伸筋腱癒着(特にプレート固定後、抜釘・腱剥離を要することがある)
- ピン刺入部感染(K-wire使用時)
- 偽関節:まれ
治療方針
⚠️ 保存療法(buddy taping / splint)の適応条件
- →extra-articular(関節外)骨折であること
- →角状変形が軽度(おおむね10°未満)
- →短縮が2mm以内
- →回旋変形(malrotation)が全くないこと
- →整復位が安定して保持できること(不安定でない)
安定した関節外骨折の多くは保存療法で良好に治癒する。intrinsic-plus 肢位(MCP屈曲・IP伸展)を基本とし、隣接指との buddy taping で早期からの自動運動を許可する。3週間の相対的固定の後、積極的な可動域訓練へ移行するのが原則で、長期固定は拘縮を招くため避ける。
🔷 手術適応基準
- ℹ整復後も角状変形が大きい(おおむね10°超)または保持できない不安定型
- ℹ回旋変形(malrotation)が残存する
- ℹ短縮が2mmを超える
- ℹspiral / long oblique / multifragmentary など本質的に不安定なパターン
- ℹ転位した関節内骨折(partial articular / complete articular)
- ℹ開放骨折・多発指骨折・軟部損傷合併例
🔷 固定法の選択
- ℹCRPP(closed reduction and percutaneous pinning, crossed K-wire):横骨折・整復可能な不安定骨幹部の第一選択。伸筋機構への侵襲が少ない
- ℹlag screw(compression screw):long oblique / spiral 骨折で骨折長が骨径の約2倍以上ある場合に適する
- ℹmini-fragment plate:横骨折・粉砕・整復後に screw 単独で不安定な場合。ただし伸筋腱癒着・拘縮リスクが高く抜釘率が高い
- ℹ髄内スクリュー(intramedullary headless compression screw):近年の低侵襲選択肢。早期運動に有利
いずれの術式でも、回旋中立の獲得と早期自動運動を可能にする固定強度が二大目標である。プレートは強固だが軟部侵襲が大きく、K-wire は低侵襲だが術後一定期間の外固定を要する、というトレードオフを理解して選択する。
治療選択アルゴリズム — 骨折部位・安定性・変形に基づく方針決定フロー
診断・評価
受傷後に手指の疼痛・腫脹・変形・可動域制限を呈する。骨幹部骨折では掌側凸変形、基部骨折では圧痛が主体となる。回旋変形の評価が最重要で、単純X線だけでは見逃されやすいため必ず理学所見で確認する。
🔷 回旋変形(malrotation)の評価
- ℹ各指を個別に屈曲させ、指尖(爪甲面の向き)が舟状骨結節を向くか確認する(finger cascade)
- ℹ全指を同時に屈曲させ、指が重なる scissoring(overlapping)の有無をみる
- ℹ爪甲平面の左右差を伸展位で比較する
- ℹ基部での小さな回旋でも指尖では大きな偏位となるため、わずかな回旋も許容しない
身体所見として骨折部の圧痛・軸圧痛・異常可動性を認める。開放創・爪郭損傷の有無、神経血管所見(指の色調・毛細血管再充満・知覚)を確認する。
X線正面像(PA)— 角状変形・短縮・骨折線の評価
X線側面像(lateral)— apex volar 角状変形の評価
【必須】 患指の単純X線 正面(PA)・側面(true lateral)・斜位。側面は隣接指と重なるため患指を分離して撮影する。
【推奨】 関節内骨折(顆部骨折・基部関節面)や粉砕が疑われる場合はCTで関節面転位・骨片数を評価。
CT — 関節内骨折・顆部骨折の関節面転位評価
整復基準
✅ 許容される整復
- ✓回旋変形なし(scissoring なし・爪甲平面が左右対称)
- ✓角状変形が軽度(おおむね側面 10°未満)
- ✓短縮 2mm以内
- ✓関節内骨折では関節面 step-off が最小(おおむね1mm以下)で congruity が保たれる
- ✓整復位が固定期間中に保持できる安定性がある
❌ 許容されない変形
- ✕あらゆる回旋変形(malrotation)— 程度を問わず許容しない
- ✕apex volar 角状変形が10°を超える
- ✕短縮が2mmを超える
- ✕関節内転位(step-off ≥1〜2mm)・関節面 congruity 破綻
- ✕整復しても保持できない不安定パターン
手術手技
体位
手術体位・ハンドテーブルのセットアップ
仰臥位・上肢外転位でハンドテーブル上に前腕回内位で設置。上腕ターニケットで無血野を確保する。透視(mini C-arm)を術野に配置し、PA・側面・斜位が得られるようにする。指ブロックまたは腕神経叢ブロック/全身麻酔。
アプローチ — 背側正中切開と伸筋腱の展開
CRPP(closed reduction and percutaneous pinning / crossed K-wire)
適応: 横骨折・整復可能な不安定骨幹部骨折の第一選択。伸筋機構を温存でき低侵襲。
- 整復: 牽引・MCP屈曲位で掌側凸変形を矯正。透視で軸・長さ・回旋を確認(爪甲平面・finger cascade)。
- 刺入: 0.8〜1.1mm K-wire を骨片外側または顆部近傍から交差性に刺入。伸筋機構・関節軟骨への刺入を避ける。
- 固定確認: 2本の crossed K-wire で回旋・角状の安定性を透視で確認。
- 後療法: intrinsic-plus 位でシーネ固定し、状態に応じ早期に保護下自動運動を開始。3〜4週でピン抜去を計画。
⚠️ CRPP ピットフォール
- ✕回旋確認を怠ると malrotation を固定してしまう(術中に必ず finger cascade を確認)
- ✕ピンの伸筋腱・側索貫通による腱癒着・可動域制限
- ✕関節軟骨を貫くピン設置
- ✕ピン刺入部感染(露出ピンの管理・早期抜去)
lag screw(compression screw)固定
適応: long oblique / spiral 骨折で、骨折長が骨径の約2倍以上あり2本以上の screw を骨折線に直交して設置できる場合。プレート不要で低侵襲かつ早期運動に有利。
- 展開: 背側正中切開、伸筋腱を分けて(または側方から)骨折部を展開。骨膜剥離は最小限に。
- 整復・仮固定: 回旋を合わせて整復し、reduction forceps または K-wire で仮固定。
- lag screw 挿入: 骨折線に直交するよう 1.3〜1.5mm 前後の screw を2本以上、lag technique(近位皮質 gliding hole)で設置し圧迫をかける。
- 確認: 透視で screw 位置・関節面非貫通・回旋中立を確認。安定していれば早期自動運動へ。
⚠️ lag screw ピットフォール
- ✕骨折長が短い(骨径×2未満)症例への適用(把持力不足・骨片割れ)
- ✕screw が関節面や対側皮質を貫通
- ✕過度の骨膜剥離による血流障害・遷延癒合
- ✕圧迫時の骨片回旋・整復ずれ
mini-fragment plate 固定
適応: 横骨折・multifragmentary・screw 単独で不安定な骨幹部。強固だが軟部侵襲が大きい。
- 展開: 背側正中切開、伸筋腱を縦割または挙上し骨幹を露出。
- 整復・プレート設置: 回旋・長さ・軸を整復後、1.5mm系 mini-fragment plate(straight / T型)を背側または側方に設置。
- 固定: 骨折線を挟んで各主骨片に最低2〜3スクリューを設置。関節近傍は関節面を避ける。
- 確認・閉創: 透視で整復とスクリュー位置を確認。伸筋腱を修復し閉創、intrinsic-plus 位で保護。
⚠️ mini-fragment plate ピットフォール
- ✕伸筋腱直下のプレートによる腱癒着・PIP拘縮(最大の弱点、抜釘率が高い)
- ✕過度の骨膜・軟部剥離
- ✕回旋変形を残したままの固定
- ✕早期運動を開始できない固定強度不足(プレート選択の目的を損なう)
術後管理
術後X線像(PA / lateral)— 整復位・インプラント位置確認
固定肢位: intrinsic-plus 位(MCP屈曲・IP伸展・手関節軽度背屈)を基本とする。長期の伸展固定は拘縮を招くため避ける。
早期運動: 基節骨骨折の治療目標は可動域の温存にある。安定した内固定が得られた症例では、腫脹が落ち着き次第(術後早期)に保護下の自動運動を開始する。buddy taping による隣接指誘導が有用。
リハビリテーション: ハンドセラピストと連携し、PIP/DIP/MCPの自動・他動運動、腱滑走訓練を段階的に導入。浮腫管理(挙上・圧迫)を並行する。
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本にNSAIDsを併用。
ピン管理(CRPP例): 刺入部の清潔保持と定期観察。感染徴候に注意し、3〜4週で抜去を計画。
フォローアップ
- 術後1〜2週: 創・ピン刺入部確認、X線で整復位・インプラント位置確認、可動域訓練の進捗評価
- 術後3〜4週: 骨癒合の進行確認、K-wire抜去(CRPP例)、運動範囲拡大
- 術後6週: 骨癒合評価、buddy taping 終了判断、把持力訓練開始
- 術後3ヶ月: 最終可動域・回旋変形の有無・握力評価、遺残拘縮への対応(腱剥離・関節授動の要否判断)
予後
適切に整復・固定され早期運動が行われた基節骨骨折の骨癒合は概して良好。ただし機能予後はPIP関節可動域の回復に強く依存し、伸筋機構の癒着による拘縮が最大の課題となる。回旋変形を残すと屈曲時の scissoring として機能障害が顕在化する。
- 骨癒合:良好(安定固定例)
- 主な予後規定因子:可動域(伸筋腱癒着・拘縮)と回旋アライメント
- プレート固定例では腱癒着・抜釘・二次的腱剥離を要することがある
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類を確認(手指骨=region 7・phalanx=骨番号78/部位:base・shaft・neck・head、形態:extra-articular/partial articular/complete articular)
- 2回旋変形(malrotation)を必ず評価(finger cascade・scissoring・爪甲平面)— 程度を問わず許容しない
- 3保存 vs 手術の判断(角状<10°・短縮<2mm・回旋なし・安定なら保存が基本)
- 4固定法の選択根拠(横骨折→CRPP、long oblique/spiral→lag screw、粉砕/不安定→plate、低侵襲→髄内スクリュー)
- 5治療目標は「可動域温存」— 早期運動が可能な固定計画になっているか
- 6注意すべき合併症を把握(PIP拘縮・伸筋腱癒着・malrotation・ピン感染)
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, et al.(2018)Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma, 32(Suppl 1):S1–S170.
- Orthobullets. Phalanx Fractures(Hand).