手の末節骨(distal phalanx)に生じる骨折の総称。粗面部(tuft)・骨幹部(shaft)・基部(base)に大別され、基部背側で終止伸筋腱付着部が裂離したものが骨性槌指(bony mallet finger) である。爪床損傷・爪下血腫を高頻度に伴い、手指のなかでも最も高頻度に骨折する部位のひとつである。
AO/OTA 2018 分類では手(領域7)の指骨は bone number 78 に属し、末節骨は各指の最遠位節(母指以外は第3節、母指は第2節)にあたる。粗面部・骨幹部の多くは軟部組織に支持される安定骨折で保存治療が原則だが、基部背側裂離(骨性槌指)や基部掌側裂離(骨性ジャージーフィンガー)は関節内骨折であり、転位・掌側亜脱臼の有無で治療方針が分かれる。
重症度・疫学
位置づけ: 槌指(mallet finger)は手の閉鎖性伸筋腱損傷として頻度が高い代表的外傷。末節骨骨折は手指骨折のなかでも高頻度である。
好発・分布: 若年〜中年男性(スポーツ・作業外傷)と高齢女性の二峰性。利き手の中指・環指・小指に多い。
受傷機転: 伸展位の指尖への軸圧・強制屈曲(ボール直撃など)で終止伸筋腱付着部が裂離=骨性槌指。粗面部骨折は挟圧・打撲(ドアに挟む等)で爪床損傷を伴う開放骨折となりやすい。
保存治療の満足度: 骨性・腱性いずれも適切な伸展装具で良好な機能・整容が得られることが多い。
ガイドライン: 槌指損傷全般に対する介入のエビデンスは Cochrane Review(Handoll & Vaghela 2004)にまとめられ、装具の型による優劣を示す強い根拠は乏しく、装具の確実な装着遵守が予後を左右するとされる。
注意すべき合併症
伸展不全(extensor lag)残存:保存治療後も軽度残存することが多い(残存の程度は症例により幅がある)
爪変形(nail ridging/deformity):爪床損傷・基部matrix損傷に伴う(重大)
皮膚障害:装具による背側皮膚の浸軟・潰瘍(保存治療の頻発合併症)
スワンネック変形:DIP伸展不全+PIP過伸展(慢性例で重大)
感染・骨髄炎:開放粗面部骨折・爪下血腫のドレナージ後(重大)
骨癒合不全:粗面部の症候性偽関節(まれ)
治療方針
末節骨骨折の大半は保存治療が第一選択 である。骨性槌指では、DIP関節の掌側亜脱臼がなく骨片が小さければ保存治療で良好な結果が得られる。
🔷 保存治療(第一選択)の適応
ℹ 粗面部(tuft)骨折:爪床が保たれていれば副子固定と保護のみ ℹ 骨幹部(shaft)安定骨折:転位・回旋がなければ副子固定 ℹ 骨性槌指で DIP関節の掌側亜脱臼がなく、関節面骨片が小さい(概ね1/3未満)症例 ℹ 腱性槌指(骨片を伴わない Doyle I):DIP伸展位装具
✅ 骨性・腱性槌指の保存治療プロトコル
✓ DIP関節を完全伸展位で持続的に固定(過伸展は避ける/stack副子等) ✓ 装着期間:6〜8週間の持続装着(24時間・入浴時も外さない) ✓ その後2〜4週は夜間・スポーツ時のみ装具を継続 ✓ PIP関節は固定せず自動運動を許可(拘縮予防) ✓ 皮膚の浸軟・潰瘍を避けるため装具の当て方を反復指導(過伸展固定は背側皮膚の阻血・壊死の原因となるため避ける)
⚠️ 手術を考慮する条件(骨性槌指)
→ DIP関節の掌側亜脱臼(volar subluxation)を伴う場合(手術を強く考慮する相対的適応。掌側亜脱臼例でも保存治療で許容成績が得られる報告があり、絶対的適応ではない) → 関節面の1/3〜1/2以上を占める大骨片、または関節面段差・骨片間ギャップ2mm超 → 開放骨折・整復不能例 → 保存治療で亜脱臼が是正できない場合
末節骨骨折の手術は、DIP関節の求心性整復と関節面の再建を目的とする。伸展ブロックピンニング(Ishiguro法) が骨性槌指の代表的低侵襲術式である。
治療選択アルゴリズム — 骨折型・掌側亜脱臼・骨片サイズに基づく方針決定フロー
診断・評価
指尖の疼痛・腫脹・皮下出血を呈する。骨性槌指ではDIP関節が屈曲位に落ち込み自動伸展ができない(mallet変形) のが特徴で、他動伸展は可能。粗面部骨折では爪下血腫・爪床裂傷を伴うことが多い。
槌指変形の外観 — DIP屈曲位・自動伸展不能
身体所見として、終止伸筋腱の連続性(自動伸展の可否)、DIP関節の掌側亜脱臼の有無、爪床・爪母の損傷、開放創の有無を評価する。
X線側面像 — 背側裂離骨片・掌側亜脱臼・関節面占有率の評価(最重要)
X線正面像 — 骨折線・粗面部粉砕・爪床下骨折の確認
画像評価の要点: 側面像が最重要で、背側骨片の大きさ(関節面占有率)と DIP関節の掌側亜脱臼を評価する。正面像で粗面部の粉砕・骨折線を確認する。
【必須】 患指の正面・厳密な側面 X線(斜位重複を避ける)
【推奨】 開放創・爪下血腫を伴う場合の爪床評価。小児では骨端線損傷(Seymour骨折)の見落としに注意
分類
📋 Doyle分類(槌指)
1 Type I:閉鎖性、腱断裂±小背側裂離骨片 2 Type II:開放性(裂創) 3 Type III:開放性・軟部組織欠損を伴う 4 Type IV:mallet骨折(IV-A 小児骨端損傷/IV-B 関節面20〜50%/IV-C 関節面50%超±掌側亜脱臼)
骨片サイズと掌側亜脱臼の評価には Wehbé-Schneider 分類も用いられる。分類の目的は、保存治療で良好な結果が期待できる型と、関節整復のため手術を要する型(掌側亜脱臼・大骨片)を鑑別することにある。
❌ 見逃してはならない病態
✕ DIP関節の掌側亜脱臼(整復維持が困難となりやすく、手術を強く考慮する因子) ✕ Seymour骨折(小児の爪床嵌入を伴う開放性骨端部骨折・整復阻害) ✕ 爪床裂傷を伴う開放粗面部骨折(洗浄・爪床修復が必要) ✕ 骨性ジャージーフィンガー(基部掌側=FDP付着部裂離、伸展でなく屈曲不能)
手術手技
体位・麻酔
手台上に上肢を外転位で置き、指ブロック(digital block)または手関節部伝達麻酔下に、上腕駆血帯もしくは指根部駆血下で行う。透視(mini C-arm)で側面・正面を確認できるよう配置する。
手術体位・透視セットアップ
伸展ブロックピンニング(Ishiguro法)
適応: 骨性槌指(Doyle IV-B/IV-C)で背側骨片が大きく、掌側亜脱臼を伴う症例。低侵襲で関節面を直接展開しない間接整復法。
伸展ブロック法の透視像 — ブロックピン刺入と DIP整復
DIP最大屈曲位でのブロックピン刺入: DIP関節を最大屈曲させ、背側骨片のすぐ近位・中節骨頭背側に約45度でKワイヤー(0.9〜1.2mm)を刺入し、骨片が背側近位へ逃げないよう“ブロック”を作る。
DIP伸展による間接整復: DIP関節を伸展させると、ブロックピンに押さえられた背側骨片が末節骨基部の関節面に整復される(extension block の原理)。
DIP関節の軸固定: 整復位で末節骨から中節骨へ軸方向にKワイヤーを刺入し DIP関節を伸展位で仮固定する(過伸展位での固定は避ける)。透視で関節面段差・掌側亜脱臼の消失を確認。
ピンの処理: ピン先を皮下または皮外で処理し、感染予防のピンサイトケアを指導。約4〜6週で抜去。
⚠️ 伸展ブロック法 ピットフォール
✕ ブロックピンの刺入位置が遠位すぎると骨片を十分に押さえられない ✕ 関節軸ピンによる関節軟骨・爪母(germinal matrix)損傷 ✕ 過度の過伸展固定による背側皮膚の阻血・壊死 ✕ ピンサイト感染・ピン折損(定期的なX線確認)
ORIF(フックプレート/マイクロスクリュー)
適応: 大骨片・整復不良例、または DIP関節の早期運動を要する症例の代替。1.3mm級プレートを加工したフックプレートや微小スクリューで背側骨片を直接固定する。
アプローチ: DIP背側にH字またはY字皮切、終止腱・骨片を展開(爪母を温存)。
整復・固定: 背側骨片を解剖学的に整復し、フックプレートまたはマイクロスクリューで固定。関節面の段差を直視下に是正。
利点と留意点: DIP関節の早期可動が可能で二次手術(抜釘)を回避しうる一方、背側の被覆が薄く皮膚壊死・爪変形・伸展腱癒着 のリスクがある。適応は慎重に判断する。
粗面部骨折・爪床損傷の処置
🔷 開放粗面部骨折/爪下血腫の管理
ℹ 有痛性の爪下血腫は爪・爪郭縁が保たれていれば血腫サイズによらず穿孔(trephination)で除圧してよい(疼痛軽減が目的) ℹ 血腫が広範(概ね50%超)で爪郭縁裂傷や爪脱転を伴う場合は開放骨折に準じ爪床評価・修復を検討 ℹ 爪床裂傷を伴う開放骨折は洗浄・デブリドマン後に爪床を細吸収糸で修復 ℹ 整復した爪板(または代替物)を爪郭下に戻し爪母のスペーサーとする ℹ 抗菌薬投与と破傷風予防を検討 ℹ 小児のSeymour骨折は嵌入した爪床・爪母を関節から引き出し整復・固定
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 整復位・インプラント設置・掌側亜脱臼是正の確認
固定期間: 骨性槌指の伸展ブロック法・保存治療いずれも DIP は約6週間伸展位を維持(過伸展位での固定は避ける)。ピンは概ね4〜6週で抜去。
リハビリテーション: PIP・MP関節は当初から自動運動を許可し拘縮を予防。DIP関節はピン抜去・骨癒合確認後に自動屈曲を段階的に開始する。ORIFで安定固定が得られた場合は早期DIP可動を許可することがある。
皮膚・爪ケア: 装具例では背側皮膚の浸軟・潰瘍を防ぐため装具の当て方を反復指導(過伸展固定を避ける)。爪床修復例は爪の再生(数か月)と変形の有無を経過観察。
変形・アライメントの確認
爪甲アライメント(回旋・整容): 末節骨は基節・中節骨に比べ回旋変形の機能的影響は小さいが、爪板の回旋・稜線(ridging)・段差で残存変形を評価する
伸展不全(extensor lag): DIP自動伸展を計測し、残存伸展不全の程度と整容を評価する
掌側亜脱臼の再確認: 側面X線で DIP関節の求心性を継続確認
フォローアップ
術後/固定後2週: 創・ピンサイト確認、装具装着状況の確認
術後/固定後6週: X線で骨癒合評価、ピン抜去可否・DIP自動運動開始の判断
術後3ヶ月: DIP可動域・伸展不全・爪変形の評価
術後6ヶ月: 最終機能・整容評価(爪再生・スワンネック変形の有無)
予後
適切に治療された槌指は概ね良好で、軽度の伸展不全・DIP屈曲制限が残っても日常生活への支障は限定的。掌側亜脱臼を伴う骨性槌指を整復せず放置すると、関節面不適合・変形治癒・二次性関節症のリスクが高まる。慢性例(陳旧性槌指)は保存治療の成績が劣り、伸展ブロック+掻爬や腱再建を要することがある。
📋 上級医報告前チェックリスト
1 骨折部位を確認(粗面部tuft/骨幹部shaft/基部base) 2 骨性か腱性かを確認(側面X線で背側裂離骨片の有無) 3 DIP関節の掌側亜脱臼の有無を確認(手術を強く考慮する相対的因子) 4 関節面占有率・骨片間ギャップを評価(1/3〜1/2以上・2mm超は手術検討) 5 Doyle分類を適用(I/II/III/IV-A・B・C) 6 爪床損傷・爪下血腫・開放創の有無を確認(小児はSeymour骨折を除外) 7 治療方針を把握(第一選択は完全伸展位装具、大骨片・亜脱臼は伸展ブロック法/ORIF) 8 注意すべき合併症を把握(伸展不全・爪変形・皮膚障害・スワンネック)
文献
Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, et al.(2018)Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma, 32 Suppl 1:S1–S170.
Doyle JR. Extensor Tendons: Acute Injuries. In: Green's Operative Hand Surgery.
Wehbé MA, Schneider LH(1984)Mallet fractures. J Bone Joint Surg Am, 66(5):658–669. PMID: 6725314
Ishiguro T, Itoh Y, Yabe Y, et al.(1997)Extension block with Kirschner wire for fracture dislocation of the distal interphalangeal joint. Tech Hand Up Extrem Surg, 1(2):95–102. PMID: 16609513
Handoll HHG, Vaghela MV(2004)Interventions for treating mallet finger injuries. Cochrane Database Syst Rev, (3):CD004574. PMID: 15266538