中手骨の骨幹部(diaphysis)に生じる骨折。骨折線の形態により横骨折(transverse)/斜骨折(oblique)/螺旋骨折(spiral)/多骨片骨折(multifragmentary) に大別される。AO/OTA 2018 の手の領域(領域7)では中手骨を骨番号77で表し、長管骨のようなA/B/C型・群番号体系は用いず、base/shaft/neck/head の部位と骨片数(N-part)で記述する。骨幹部(shaft)では骨折形態により単純骨折(simple)・楔状骨折(wedge)・多骨片骨折(multifragmentary)に分かれる。
臨床上の要点は回旋変形(malrotation)の評価 にある。中手骨での回旋はより遠位の指先で拡大され、屈曲時に指の交差(scissoring/overlap)を生じて把持機能を損なう。角状変形・短縮に許容範囲がある一方で、回旋変形は原則として手術適応 となる点が本骨折の管理を特徴づける。
重症度・疫学
位置づけ: 中手骨骨折は手部骨折のなかで頻度が高く、手指骨折全体の約30〜40%を占める(定性的傾向)。第5中手骨(小指)の頸部骨折(いわゆるboxer's fracture)が最多だが、骨幹部骨折も日常診療で高頻度に遭遇する。
好発: 若年〜中年男性に多く、殴打・転倒・スポーツ・機械外傷など直達外力および捻転外力で生じる。
受傷機転: 横骨折は直達外力(拳での殴打など)、螺旋・長斜骨折は捻転外力、多骨片骨折は高エネルギー(挫滅・圧挫)で生じることが多い。
分類(AO/OTA 2018・中手骨骨幹部の骨折形態): 中手骨は骨番号77、部位は shaft、骨片数は N-part 記述で扱う。骨幹部では形態により以下に分かれる。
単純骨折(simple)— 横・斜・螺旋の単一骨折線
楔状骨折(wedge)— 第3骨片を伴うが整復後に主骨片が接触
多骨片骨折(multifragmentary)— 粉砕を伴い皮質の連続性が失われる
注意すべき合併症
回旋変形の遺残(scissoring):把持障害の主因(重大)
伸展ラグ(extensor lag):短縮・背側角状変形に伴う(機能障害)
伸筋腱の癒着・可動域制限:背側プレート後に生じうる(重大)
偽関節・遷延癒合:多骨片・開放骨折・広範な骨膜剥離で増加
感染:開放骨折・咬創(fight bite)で高リスク(重大)
治療方針
⚠️ 保存療法を選ぶ条件
→ 許容範囲内の角状変形にとどまり、回旋変形がない場合 → 短縮が軽度(概ね2〜5mm以内)で伸展ラグを生じない場合 → 単独骨折で、隣接中手骨・横中手靱帯による支持が期待できる場合
多くの中手骨骨幹部骨折は保存療法(閉鎖整復+外固定)が第一選択 となる。隣接中手骨と横中手靱帯が副子として働き、安定性に寄与するためである。
🔷 許容変形の目安(角状変形・背側凸)
ℹ 示指(第2)・中指(第3)中手骨:10度以内 ℹ 環指(第4)中手骨:20度以内 ℹ 小指(第5)中手骨:30度以内 ℹ 短縮:概ね2〜5mm以内(2mmの短縮ごとに約7度の伸展ラグを生じるとの報告あり) ℹ 回旋変形:いかなる程度も許容されない(手術適応)
❌ 手術を検討すべき所見
✕ 回旋変形(scissoring/指の交差)— 最重要の手術適応 ✕ 許容範囲を超える角状変形 ✕ 伸展ラグを生じる短縮 ✕ 多発中手骨骨折(副子効果が失われ不安定) ✕ 開放骨折・軟部組織欠損・咬創(fight bite) ✕ 関節内進展を伴う骨折
中手骨ではわずかな回旋でも指尖で大きな重なりを生じうる(約5度の回旋で握り拳位に最大約1.5cm程度の指の重なりに至るとの報告がある)。屈曲位での指の交差(scissoring)を必ず確認 し、わずかでも認めれば手術を検討する。
治療選択アルゴリズム — 骨折型・変形・本数に基づく方針決定フロー
診断・評価
手背の腫脹・圧痛・変形、握力低下を呈する。横・背側凸変形では中手骨頭の落ち込み(knuckle の消失)を、螺旋・斜骨折では短縮・回旋を認めうる。
回旋の評価が最重要: 各指を個別に、また全指を同時に屈曲させ、指尖が舟状骨結節方向へ収束するか、隣接指と交差(scissoring)しないかを確認する。腫脹・疼痛で完全屈曲が困難な場合は、MP・PIP軽度屈曲位での指列(cascade)を健側と比較する。
回旋変形の臨床評価 — 屈曲時のscissoring/指列の確認
X線正面像 — 骨折線・角状変形・短縮の評価
X線斜位・側面像 — 背側角状変形・骨折型の評価
【必須】 手部正面・斜位・側面X線(3方向)。側面像は重なりが多いため斜位が角状変形の評価に有用。
【推奨】 多骨片・関節内進展疑い、術前計画時のCT。
X線で回旋変形は評価しにくく、回旋は画像でなく身体所見(scissoring)で判断する 点に留意する。開放創・咬創では創部評価と洗浄を優先する。
整復基準
✅ 許容される整復
✓ 回旋変形なし(全指屈曲でscissoring・overlapを認めない) ✓ 角状変形が中手骨別の許容範囲内(示指/中指10度・環指20度・小指30度) ✓ 短縮が概ね2〜5mm以内で伸展ラグがない ✓ 多骨片型では長さ・アライメント・回旋(length/alignment/rotation)が回復
❌ 許容されない変形
✕ 回旋変形(わずかなscissoringも不可) ✕ 許容角度を超える背側角状変形 ✕ 伸展ラグを生じる短縮 ✕ 関節面の段差(関節内進展例)
手術手技
体位・麻酔
仰臥位、患肢をハンドテーブル上に置く。腕神経叢ブロックまたは全身麻酔、駆血帯を使用する。透視(ミニCアーム)を術野に配置する。
手術体位・ハンドテーブルセットアップ
アプローチ(観血的固定時)
背側アプローチ解剖図 — 皮切線と伸筋腱・juncturaeの温存
背側縦切開: 罹患中手骨背側に縦切開を置く。伸筋腱(EDC)を確認し、腱間結合(juncturae tendinum)を温存しながら腱を橈側/尺側に牽引、あるいは腱を縦割して骨幹部に到達する。骨膜切開は最小限とし、骨片の血流温存に努める。感覚枝(橈骨神経浅枝・尺骨神経背側枝)を保護する。
髄内固定(intramedullary pinning/nailing)
適応: 横骨折・短斜骨折、特に単独の第4・第5中手骨骨折。軟部侵襲が少なく伸筋腱への影響が小さい。
整復: 閉鎖的に牽引・掌側方向への圧迫で背側角状変形を整復(Jahssマヌーバに準じMP屈曲位で中手骨頭を押し上げる)。
挿入点: 中手骨基部背側(順行性)に開口部を作成、またはプレバウンドした弾性ワイヤ(bouquet法)を複数本挿入。
ワイヤ前進: 透視下に髄腔内へワイヤを進め、骨折部を越えて骨頭側へ到達させる。回旋・アライメントを確認。
確認・処理: 全指屈曲で回旋を確認。ワイヤ端は皮下または皮外に処理し、感染・腱刺激を避ける。
⚠️ 髄内固定 ピットフォール
✕ 回旋制御が弱く、術中に必ずscissoringを確認する ✕ 挿入点・ワイヤ端による伸筋腱・関節の刺激 ✕ 長斜・螺旋・多骨片骨折では回旋・長さ制御が不十分となりやすい
プレート固定(dorsal plating)
適応: 横骨折・楔状/多骨片骨折、多発骨折、開放骨折で強固な固定が必要な場合。
整復: 直視下に解剖学的整復。楔状骨片は温存し血流を保つ。
プレート設置: 背側に2.0mmまたは2.4mm系プレート(ロッキング可)を設置。横骨折には圧迫(compression)、多骨片・骨欠損にはブリッジング(bridging/内副子)として用いる。
スクリュー: 骨折部の近位・遠位にそれぞれ複数の二皮質スクリューを確保する。
確認: 透視でアライメント、全指屈曲で回旋を確認。伸筋腱の滑走を妨げないか確認。
⚠️ プレート固定 ピットフォール
✕ 伸筋腱癒着・可動域制限(背側プレートの主要合併症) ✕ 過度の骨膜剥離による血流障害・遷延癒合 ✕ プレートの突出による腱刺激(低背プレート選択と丁寧な閉創)
ラグスクリュー固定(lag screw)
適応: 長斜骨折・螺旋骨折で、骨折線の長さが骨径の約2倍以上ある場合。
整復・仮固定: 復位鉗子で整復し仮固定。
スクリュー: 骨折線に直交するようラグスクリュー(1.5〜2.0mm系)を2本以上 挿入し、骨片間圧迫を得る。
確認: 骨片間圧迫と回旋を確認。単独ラグスクリューでは早期運動に耐える剛性が不足しうるため必要に応じ中和プレートを追加。
⚠️ ラグスクリュー固定 ピットフォール
✕ 骨折線が短い(骨径の2倍未満)場合は適応外(横骨折には不適) ✕ スクリュー1本のみでの回旋不安定 ✕ 過度の締結による薄い皮質の破損
K-wire(経皮ピンニング)
適応: 閉鎖整復後の低侵襲固定。単独・交差ピン、または隣接中手骨への横止め(transverse pinning)。開放骨折の一時固定にも用いる。ピン刺入部感染・ピン緩みに注意し、術後の外固定併用が一般的。
術中透視像 — 整復・インプラント設置の確認
術後管理
術後X線像(AP / Oblique)— 整復位・インプラント設置確認
外固定: 保存療法・K-wire例では、intrinsic-plus肢位(MP70〜90度屈曲・IP伸展位)での尺側/橈側ガター副子または前腕手部シーネで固定。堅固な内固定(プレート)例では早期からの可動域訓練を優先し外固定は最小限とする。
荷重・使用: 手指は荷重関節ではないが、把持・使用の再開時期は固定強度に依存する。堅固な内固定では早期自動運動を開始する。
リハビリテーション:
早期:浮腫管理(挙上・圧迫)、可能な範囲での自動運動(特にMP・PIP)で腱癒着・拘縮を予防
中期:ハンドセラピストによる可動域・把持訓練を段階的に進める
伸筋腱の滑走訓練を重視し、背側プレート後の癒着を予防
回旋変形チェック(術後・経過中): 外来ごとに全指屈曲でのscissoring・指列(cascade)を再評価し、回旋の遺残・矯正損失がないか確認する。
フォローアップ
術後2週: 創・ピン刺入部確認、外固定調整、可動域確認
術後4〜6週: X線で骨癒合評価、可動域・回旋の再評価、K-wire抜去時期の検討
術後3ヶ月: 骨癒合・可動域・握力の最終評価、腱癒着の有無確認
予後
適切に整復・固定された中手骨骨幹部骨折の予後は良好で、骨癒合率は高い。機能予後は回旋変形の残存の有無 と伸筋腱可動域 に強く依存する。合併症として最も臨床的問題となるのは回旋変形の遺残(scissoring)と伸筋腱癒着による可動域制限であり、早期運動と丁寧な軟部処理が鍵となる。
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(中手骨=骨番号77、部位は base/shaft/neck/head と N-part で記述、骨幹部の形態は単純/楔状/多骨片) 2 回旋変形の有無を確認(全指屈曲でscissoring/指列を評価 — 最重要) 3 角状変形が中手骨別許容範囲内か(示指/中指10度・環指20度・小指30度) 4 短縮の程度と伸展ラグの有無を確認(2mm短縮ごとに約7度の伸展ラグ) 5 多発骨折・開放骨折・咬創など手術適応因子の有無を確認 6 骨折型に応じた術式を把握(横→髄内/プレート、長斜螺旋→ラグスクリュー、多骨片→ブリッジプレート) 7 伸筋腱温存・早期運動の術後計画を確認
文献
Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, et al.(2018)Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma, 32(Suppl 1):S1–S170.
Diaz-Garcia R, Waljee JF.(2013)Metacarpal fractures: treatment and complications. Hand Clin/関連レビュー(PMC3928373).
Dyrna FGE, Avery DM 3rd, Yoshida R, et al.(2021)Metacarpal shaft fixation: a biomechanical comparison of dorsal plating, lag screws, and headless compression screws. BMC Musculoskelet Disord, 22(1):335. PMID: 33827523
骨折線が骨径2倍以上の長斜/螺旋骨折に対するラグスクリュー固定の適応:AO原則および関連バイオメカ研究(JOSR 2022; s13018-022-02963-3).