第1中手骨基部(母指手根中手=TMC関節面)を、関節外横骨折線と関節内縦骨折線がT字またはY字状に走り、骨頭側(骨幹側)から関節面を掌側骨片・背側骨片に分割する完全関節内(complete articular)粉砕骨折。関節面が複数骨片に分かれる点で、掌尺側の単一骨片が残るBennett骨折(partial articular)と区別される。
Bennett骨折が関節の一部のみを含むpartial articular骨折であるのに対し、RolandoはT/Yパターンで関節面全体を巻き込むcomplete articular骨折であり、関節面の粉砕と圧潰(central articular depression)を伴いやすい。関節適合性(congruity)の回復が難しく、Bennettより予後不良で外傷後変形性関節症(post-traumatic OA)に至りやすいのが臨床的特徴である。
重症度・疫学
頻度: 母指中手骨基部骨折は全手部骨折の一部を占める。母指基部骨折のなかではBennett骨折よりまれで、Rolando骨折は母指基部骨折の少数を占めるにとどまると報告される。
好発: 若年〜中年男性に多い。母指を軸方向に圧迫する外力で発生する。
受傷機転: 母指軽度屈曲位での軸圧(axial loading)。パンチ動作、転倒時の母指軸方向衝撃、スポーツ外傷など。関節面が一気に圧潰・分割される高エネルギー成分を含むことが多い。
変形力(deforming forces): 骨幹片は abductor pollicis longus(APL)により近位・背側・橈側へ、adductor pollicis により内転・回外方向へ牽引され、extensor pollicis longus も背側・近位方向の力を加える。掌側骨片は前斜靱帯(anterior oblique / beak ligament)により大菱形骨側に係留され相対的に残存する。この筋・靱帯の不均衡が整復位保持を難しくする。
予後(要注意): 長期経過で疼痛・拘縮・外傷後変形性関節症を生じうるとされ、粉砕が強い型では初期整復の質にかかわらずリスクが高い。
注意すべき合併症
- 外傷後変形性関節症(TMC関節OA):粉砕・関節面段差・多骨片・変形治癒がリスク(重大・長期)
- 母指TMC関節の可動域制限・把持力低下(機能障害)
- 変形治癒(内転拘縮・第1中手骨内転位)による対立・把持障害
- ピン刺入部感染・鋼線遊走(K鋼線/創外固定使用時)
- 橈骨神経浅枝(superficial radial nerve)枝損傷(背橈側アプローチ時)
治療方針
⚠️ 保存療法を選ぶ条件
- →関節面転位が1mm未満で、母指spicaギプス/装具で整復位が保持できる非転位型
- →全身状態・患者背景から観血的治療のリスクが高い場合
- →著明な粉砕で内固定・創外固定いずれの再建も困難と判断される終末期的状況(疼痛管理目的)
転位したRolando骨折の保存療法は成績不良と報告されており、転位例では原則として手術(整復+固定)による関節適合性の回復が推奨される。 治療戦略は粉砕の程度と骨片サイズにより決定される。
🔷 手術適応・術式選択の基準
- ℹ関節面転位 <1mm:閉鎖的整復+経皮的K鋼線固定(percutaneous K-wire)を考慮
- ℹ関節面転位 >1mm かつ固定可能な大骨片:観血的整復固定(ORIF)— ラグスクリューやlocking T-plate
- ℹ粉砕が強く小骨片主体/軟部損傷合併:創外固定(external fixation)±限定的内固定+骨移植(ligamentotaxisで関節面を牽引整復)
- ℹ関節鏡視下(TMC arthroscopy)整復により関節面段差を直視下に評価・整復する手技も報告される
- ℹ救済的手術(関節固定術・TMC関節形成/置換)は難治・広範粉砕例で選択肢となる
いずれの術式でも治療目標はTMC関節の関節適合性(articular congruity)と第1中手骨のアライメント・母指列の生体力学の回復であり、関節面段差の最小化(可及的に1mm未満)が外傷後OA予防の要である。
治療選択アルゴリズム — 粉砕程度・骨片サイズ・軟部損傷に基づく方針決定フロー
診断・評価
受傷後に母指基部(TMC関節部)の疼痛・腫脹・皮下出血、把持時痛、母指運動制限を呈する。母指基部の圧痛・軸圧痛が特徴的で、しばしば第1中手骨の内転・短縮変形を伴う。
X線正面像 — 関節面の分割・段差・中手骨内転の確認
X線側面像 — 掌側・背側骨片の転位評価
正面像で第1中手骨基部の関節面がT字またはY字型に掌側・背側骨片へ分割される所見がRolando型を示唆する。関節面の粉砕・圧潰の評価にはRobert view(母指真正面像)やStress viewが有用。
CT(薄層+3D再構成)— 関節面粉砕・骨片数・段差の把握
【必須】 母指正面(Robert view)・側面X線、患側手部X線
【推奨】 術前CT(薄層・3D再構成)による関節面粉砕・骨片数・段差・圧潰の詳細評価。Bennett(partial articular)との鑑別、術式(ORIF可能な大骨片か、創外固定を要する小骨片主体か)の決定に直結する。
整復基準
✅ 許容される整復(目標)
- ✓関節面段差(articular step-off)を可及的に1mm未満に整復
- ✓掌側・背側骨片と骨幹のアライメントが回復し、TMC関節面の congruity が保たれること
- ✓第1中手骨の内転変形が矯正され、第1web(母指外転・対立)が確保されること
- ✓母指列の回旋・角状変形がないこと(爪甲面・対立位で確認)
❌ 許容されない変形
- ✕関節面段差 ≧2mm(外傷後OAリスク)
- ✕関節面のgap(骨片間離開)残存
- ✕第1中手骨の内転拘縮位での固定(対立・把持障害の原因)
- ✕母指列の回旋変形(把持時の交差・爪甲面の不整)
手術手技
体位
手術体位・手術台セットアップ(仰臥位・上肢テーブル)
仰臥位・上肢外転テーブル(標準): 患肢を手台に置き、ターニケット下に行う。透視(mini C-arm)で関節面整復とインプラント位置を確認する。創外固定では前腕〜母指列を牽引できるようセットアップする。
アプローチ解剖図 — Wagner(掌橈側)アプローチと橈骨神経浅枝の保護
TMC関節への展開は、古典的なWagner(掌側/掌橈側)アプローチが基本であり、術者の慣れや骨片の位置に応じてdorsoradial(背橈側)アプローチが代替として選択される。いずれの場合も橈骨神経浅枝の枝と橈骨動脈を同定・保護し、thenar筋起始を必要範囲で挙上して関節包を切開し関節面を直視する。
ORIF(open reduction and internal fixation)— プレート/スクリュー
適応: 関節面転位 >1mm で、スクリューやlocking T-plateで固定可能な大骨片を有するRolando骨折の第一選択。
術中透視像 — 関節面整復・スクリュー/プレート設置の確認
- 展開・整復: 選択したアプローチ(掌橈側または背橈側)で関節面を直視。掌側・背側骨片を解剖学的に整復し、まずK鋼線で仮固定して段差<1mmを透視で確認する。
- 関節面の再建: 圧潰(central depression)がある場合は関節面を挙上し、必要に応じ骨欠損部へ骨移植(自家海綿骨等)で支持を補う。
- 骨片間固定: 大骨片間はラグスクリューで圧迫固定し関節面を一塊化する。
- 中和固定: locking T-plate(またはミニプレート)で基部−骨幹を橋渡しし、関節面ブロックを骨幹に対して安定化する。
- 確認: 透視AP/側面/Robert viewで関節面congruity・段差・中手骨アライメント・スクリューの関節内穿破がないことを確認する。
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕関節面段差の残存(直視・透視での段差確認を最優先)
- ✕スクリューの関節内穿破(軟骨下骨の位置確認を怠らない)
- ✕掌側骨片(前斜靱帯付着)の整復不良によるTMC不安定・亜脱臼遺残
- ✕橈骨神経浅枝枝の牽引・切離による知覚障害
- ✕小骨片への過剰なプレート固定操作による医原性粉砕
創外固定(external fixation)±限定的内固定・骨移植
適応: 粉砕が強く小骨片主体で内固定に適さない、または軟部損傷を合併する高度粉砕Rolando。ligamentotaxis(靱帯・関節包の牽引)で関節面を間接整復する。
- ピン設置: 大菱形骨(または母指基部)と第1中手骨骨幹にハーフピンを刺入する。橈骨神経浅枝・橈骨動脈を避ける。
- 牽引・整復: 創外固定器で軸方向に牽引し、関節包・靱帯の張力で関節面骨片を整復(ligamentotaxis)。透視で段差・アライメントを確認。
- 限定的内固定/骨移植: 必要に応じ経皮K鋼線で主要骨片を固定、圧潰部には骨移植で支持を追加する。
- 中手間ピンニング: 第1web(母指外転位)を保持するため第1–第2中手骨間ピンニングを併用することがある。
⚠️ 創外固定 ピットフォール
- ✕過牽引による関節面離開(distraction gap)・遷延癒合
- ✕ピン刺入部感染・鋼線遊走(刺入部管理と適切な牽引量が重要)
- ✕第1中手骨内転位での固定(第1web狭小化・対立障害)
- ✕ligamentotaxisのみでは関節内圧潰は整復されない(必要なら直視下挙上を追加)
術後管理
術後X線像(AP / Lateral / Robert view)— 整復位・インプラント・関節面congruity確認
外固定: 母指spicaギプス/装具で母指TMC関節を保護。固定期間・可動開始時期は固定法の安定性(ORIFの剛性、創外固定・K鋼線の有無)に応じて個別化する(一般的臨床実践)。
K鋼線・創外固定: 骨癒合と関節面安定が得られた時点で抜去し、以降段階的に可動域訓練へ移行する。抜去時期は症例により異なる。
リハビリテーション: 手指浮腫・拘縮予防のため早期からIP・MP・非固定指の自動運動を開始。TMC関節は安定性が得られ次第、他動・自動可動域訓練、続いて母指対立・把持・ピンチ力の強化へ段階的に進める。
回旋・アライメントのチェック(術後・整復時)
- 爪甲面(nail plate)の整列: 母指と各指の爪甲面が把持時に整列し、回旋変形がないこと
- 母指対立(opposition): 母指指腹が示指〜小指指腹に無理なく対立できること
- 第1web(母指外転): 内転拘縮による web狭小化がないこと
- 把持時の交差(scissoring): 屈曲把持で母指列が隣接指と交差しないこと
フォローアップ
- 術後2週: 創部・ピン刺入部確認、X線(整復位・インプラント確認)
- 術後6週: 骨癒合評価、K鋼線/創外固定の抜去可否判断、可動域訓練の進行確認
- 術後3ヶ月: X線・関節面評価、母指可動域・ピンチ/把持力・ADL評価
- 術後6ヶ月〜1年: 最終評価、外傷後TMC関節OA(疼痛・可動域・X線変化)のモニタリング
予後
関節面段差の残存・粉砕の程度・変形治癒が外傷後変形性関節症の主要リスクである。長期経過で疼痛・拘縮・変形性関節症を生じうるとされ、解剖学的な関節面再建が予後を左右する。母指の把持・対立・ピンチ機能の温存が治療目標となる。
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1骨レベル=77(中手骨)。第1中手骨基部(base)の完全関節内(complete articular)=Rolando型で、掌尺側単一骨片の部分関節内(partial articular)=Bennett型と区別する
- 2関節面転位量・粉砕・骨片サイズを評価(<1mm→K鋼線、>1mm大骨片→ORIF、小骨片/軟部損傷→創外固定)
- 3術前CT(3D)で関節面段差・圧潰・骨片数を把握したか
- 4治療目標=関節面段差1mm未満・TMC congruity・第1中手骨アライメント回復を確認
- 5注意すべき合併症を把握(外傷後OA・母指機能障害・変形治癒・ピン感染・橈骨神経浅枝損傷)
- 6術後の回旋/アライメント(爪甲面・対立・第1web)チェック項目を確認
文献
- Carlsen BT, Moran SL(2009)Thumb Trauma: Bennett Fractures, Rolando Fractures, and Ulnar Collateral Ligament Injuries. J Hand Surg Am, 34(5):945–952. PMID: 19411003
- Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, et al.(2018)Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma, 32(Suppl 1):S1–S170.
- StatPearls: Rolando Fracture(NCBI Bookshelf, NBK542207).
- Base of Thumb Fractures: A Review of Anatomy, Classification, and Management. Cureus/PMC11785513(2025).
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767