前腕近位部(橈尺両骨)の完全関節内骨折のうち単純型。AO分類21-C1(complete articular, simple type)は「前腕近位部・両骨の完全関節内・単純骨折」を指す。臨床的には肘頭関節内骨折と橈骨頭骨折が合併した複合損傷として扱われることが多く、いわゆる「terrible triad(肘関節三重損傷)」に類似した損傷パターン が含まれる。ただしAO分類上の21-C1はTerrible Triadと同義ではなく、骨折の関節内程度と骨片数によって定義される点に注意すること。肘関節の骨性安定性と側副靱帯の両方が損なわれるため、単独の肘頭骨折とは根本的に異なり、多くは手術適応 となる。肘頭骨折の固定だけでは橈骨頭側の安定性回復が不十分なため、橈骨頭の処置(ORIF または橈骨頭置換)を同時に行うことが必須 であり、外側側副靱帯(LCL)修復も合わせて計画する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 肘頭骨折は全骨折の約10%。そのうち橈骨頭骨折合併(21-C)は肘関節複合損傷の一部であり、後方肘関節脱臼の約5〜10%に肘頭・橈骨頭骨折を複合する。21-C1(単純型)は比較的稀
好発: 成人(30〜60歳代)。性差は少ない。高エネルギー外傷でも低エネルギー転倒でも発生する
受傷機転: 肘関節伸展位での転倒(FOOSH:fall on outstretched hand)・直達外力(交通事故・高所転落)。肘頭は直達外力でも骨折するが、橈骨頭骨折が合併する場合は前腕の軸圧 + 外反・内反ストレスが加わる複合機転が多い
治療方針: Regan–Morrey分類・Mason分類が治療方針の基準となる
注意すべき合併症
肘関節不安定性(再脱臼):固定不十分・靱帯修復未施行で発生。後外側回旋不安定性(PLRI)に注意
橈骨頭骨頭壊死:ORIF 後に稀に発生(軟部組織温存が重要)
後骨間神経(PIN)麻痺:約5〜10%。橈骨頸・橈骨頭周囲操作による一過性麻痺が多く(Kocher アプローチで神経走行に注意)、多くは回復
異所性骨化:約10〜20%。高エネルギー外傷・遅延手術で増加傾向
外傷後変形性関節症:軟骨損傷・整復不良が原因。長期的な可動域制限と疼痛をきたす
深部静脈血栓症・肺塞栓症:上肢骨折でも約1〜3%
治療方針
肘頭骨折の転位・骨折型と橈骨頭骨折の重症度(Mason 分類)を別々に評価し、両方の処置を一期的に計画する。外側側副靱帯(LCL)の損傷評価も不可欠。
⚠️ 保存療法を選ぶ条件
→ 非常に稀な例外。高齢・低活動度患者で、肘頭骨折が軽微な転位(<2 mm)かつ橈骨頭骨折が Mason I 型(転位なし)の場合のみ検討 → 手術リスクが極めて高い場合(ASA 分類 IV 以上・終末期) → 21-C1 複合損傷では、肘関節の安定性回復のために原則として手術が必要
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 原則:21-C1(肘頭+橈骨頭骨折単純型)は手術適応(早期一期的手術が推奨) ℹ 肘頭骨折 → 張力帯ワイヤー(TBW)または髄内スクリュー固定(単純横骨折)、斜骨折には lag screw+中和プレート ℹ 橈骨頭骨折 → Mason I 型(転位なし):保存 / Mason II 型(部分関節内転位):ORIF(lag screw) / Mason III 型(粉砕):橈骨頭置換術(arthroplasty) ℹ LCL(外側側副靱帯)断裂 → 骨性固定後に縫合修復(suture anchor または骨孔縫合) ℹ 骨性固定+靱帯修復後も不安定性が残る場合 → ヒンジ付き外固定器(hinged external fixator)を追加
21-c1-treatment-algorithm.png
🔶 粉砕型(旧21-C2・高エネルギー)の要点
→ 肘頭が多骨片・粉砕 → TBW・単純lag screwは不適、橋渡し(bridge)プレート+骨移植で乙状切痕を再建 → 橈骨頭が4骨片以上・整復不能 → 橈骨頭置換術(3骨片以内で整復可能ならORIF) → 鉤状突起骨折合併(Regan-Morrey II型以上)→ 前方アプローチまたはlasso sutureで固定 → 開放骨折・重度軟部組織損傷 → 一期的創外固定→二期的ORIFの段階的治療 → "ring of stability":骨性拘束(肘頭→橈骨頭→鉤状突起)を優先固定し、次いでLCL(必要時MCL)を修復
診断・評価
肘関節の疼痛・腫脹・可動域制限(伸展制限が顕著)を呈する。複合損傷のため、外観上は後方脱臼肢位(肘屈曲・前腕回内位)を呈することもある。神経(AIN・PIN・尺骨神経)の機能評価を必ず行う。
21-C1の診断ポイント:骨折型と関節不安定性の評価
X線正面・側面像で肘頭骨折の部位・転位量・骨折線の方向(横・斜・粉砕)および橈骨頭骨折の有無・程度(Mason 分類)を評価する。CTは骨折型の正確な評価・関節面の状態確認に必須。ストレス透視(麻酔下)で外反・後外側回旋不安定性(PLRI)を評価する。
21-c1-xray-ap.png
21-c1-xray-lateral.png
21-c1-ct.png
【必須】 肘関節正面・側面 X 線(2方向)、CT(骨折型・関節内骨片・関節面評価)
【考慮】 MRI:靱帯損傷(LCL・MCL)の評価、ストレス透視(麻酔下):関節不安定性の確認
✅ 許容される整復・固定
✓ 肘頭骨折:関節面の転位 ≦2 mm かつ尺骨の長さ・回旋が保たれている ✓ 橈骨頭骨折(Mason II):関節内骨片の転位 ≦2 mm、lag screw 固定後に軟骨段差なし ✓ 橈骨頭置換(Mason III):プロテーシスが橈骨頸断面と同レベル(over-stuffing なし) ✓ LCL 修復後:varus ストレスで安定、後外側回旋不安定性が消失している
❌ 許容されない変形・状態
✕ 肘頭骨折転位 >2 mm のまま保存療法(肘関節不安定・関節症) ✕ 橈骨頭骨折(Mason II)の見落とし・未処置(外反不安定性の残存) ✕ 橈骨頭切除単独(LCL・MCL 損傷がある複合損傷では禁忌:外反不安定性悪化) ✕ LCL 修復の省略(後外側回旋不安定性・再脱臼) ✕ 肘頭 TBW でのワイヤーループの遠位化不足(固定力不足)
手術手技
体位
側臥位または半側臥位(lateral decubitus): 肘関節を 90° 屈曲位に保持し、肘頭・外側両方のアプローチに対応できるようにする。上腕をアームボードまたはベッド端に固定し、前腕を重力で下垂させる。放射線透過性アームボードを使用し術中透視(正面・側面像)が得られることを確認する。
21-c1-positioning.png
Step 1:肘頭 ORIF ― 張力帯ワイヤー(TBW)/ プレート固定(第一処置)
適応: 肘頭単純横骨折(21-B1.1 に相当する骨折型)では TBW、斜骨折または粉砕型では lag screw+中和プレートを選択する。21-C1(単純型)では単純横または斜骨折が多く、まず肘頭を安定固定して骨性支柱を回復させる。
21-c1-olecranon-approach.png
後方縦切開: 肘頭を中心とした後方縦切開(約10〜12 cm)。皮下組織を剥離し、骨折部を露出する。上腕三頭筋付着部を温存しながら骨折端を清潔に整復する
骨折整復: ポインテッドリダクションフォーセップスで骨折を仮整復し、1 本の K ワイヤーで仮固定する。透視(側面像)で関節面の整合を確認する
TBW(張力帯ワイヤー)固定(横骨折): 2 本の 1.6 mm K ワイヤーを尺骨長軸に平行に髄腔内へ打ち込む(前方皮質を貫通させる)。18 ゲージ(1.2 mm)ワイヤーを骨折部から約 40 mm 遠位に骨孔を作成し通過させ、近位端は K ワイヤー周囲に figure-of-eight 状に張力をかけてツイスト固定する
プレート固定(斜骨折): 3.5 mm DCP または LCP を尺骨後面に沿わせて整形し、lag screw(骨折面に垂直)で骨折を圧迫固定した後、プレートを中和プレートとして設置する(近位・遠位それぞれ 3 本以上のスクリュー)
最終確認: 透視で関節面の整合・インプラント位置・肘関節の安定性(屈伸 0〜130°)を確認する
21-c1-olecranon-tbw.png
⚠️ 肘頭固定 ピットフォール
✕ TBW のワイヤーループが骨折部より遠位まで届いていない → 張力帯効果が得られない・固定力不足 ✕ K ワイヤーが前方皮質を貫通していない → プルアウトリスク ✕ 斜骨折に TBW のみを適用 → 骨折面のせん断力に対応不足・固定失敗 ✕ 骨折整復前にプレートを締め込む → 整復位の喪失 ✕ 透視で関節面整合を確認しない → 段差の見落とし
Step 2:橈骨頭骨折の処置(同時施行)
Kocher アプローチ(後外側): 肘頭固定後、切開を外側に延長、または外側に別切開を設け、肘筋と尺側手根伸筋(ECU)の間から橈骨頭を展開する(PIN 保護のため前腕を回内位に保つ)。
21-c1-kocher-approach.png
Mason II 型(部分関節内骨折、転位 ≦2mm まで整復可能):
橈骨頭骨折整復: 軟骨面を保護しながら骨片を解剖学的位置に整復し、仮固定(K ワイヤー)
Lag screw 固定: 2.0〜2.7 mm ヘッドレス圧迫スクリューを骨折面に垂直に刺入(スクリューは "safe zone":前腕中間回旋位での前外側 90° 扇形内 — 橈骨尺骨間の関節を避ける)
最終確認: 透視で整復・スクリュー位置・前腕回旋時の引っかかりなしを確認
Mason III 型(粉砕・ORIF 不可能):
橈骨頭摘出: すべての骨片を丁寧に除去し、橈骨頸の断端を整形する(annular ligament を可能な限り温存)
橈骨頭プロテーシスサイジング: 摘出した橈骨頭を合計して原寸確認し、対側の正常橈骨頭をサイズ参考にする
プロテーシス挿入: 髄腔内にステムを刺入し、関節面が橈骨頸断面レベル(または橈骨頸断面からわずかに近位)に位置するよう調整する(over-stuffing 禁止)
Annular ligament 修復: 非吸収性縫合糸で修復(または再建)
安定性確認: 正面・側面透視で橈尺関節・腕橈関節の適合性を確認
21-c1-radial-head-arthroplasty.png
⚠️ 橈骨頭処置 ピットフォール
✕ Mason III 型に ORIF を試みる → 再手術・implant failure のリスク ✕ LCL 断裂合併例に橈骨頭切除単独 → 外反不安定性・再脱臼(禁忌) ✕ スクリューを safe zone 外に刺入 → 回旋時の impingement ✕ 橈骨頭置換の over-stuffing → 肘関節の屈伸制限・疼痛 ✕ PIN(後骨間神経)の損傷 → 前腕回内によるたるみで保護する
Step 3:外側側副靱帯(LCL)修復
両骨折の固定後、外側上顆から始まる LCL の損傷を確認する。断裂がある場合は suture anchor(外側上顆骨孔)を使用して LCL を解剖学的起始部に縫合修復する。修復後に肘関節の後外側回旋不安定性がないことを透視下で確認する。
21-c1-lcl-repair.png
術後管理
21-c1-postop-xray.png
手術タイミング: 受傷後24〜48時間以内の早期手術が推奨される。腫脹が強い場合は2〜5日待機して軟部組織状態を改善してから施行する
術後固定: 肘関節 90° 屈曲・前腕中間回旋位で後方スプリント固定(2〜3日間)。その後ヒンジ付きブレースで可動域を許可(0〜90°から段階的に拡大)
術後荷重・免荷: 上肢は骨癒合まで(6〜8週)抵抗運動を行わない。日常的な使用(食事・書字)は早期から許可する
VTE予防: 上肢骨折では下肢骨折に比べリスクは低いが、長期臥床・高齢例ではエドキサバンまたは弾性ストッキングを考慮する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、神経ブロック(腋窩アプローチ)を術後急性期疼痛管理に活用する
リハビリテーション: 術翌日から重力を利用した自動介助運動(屈曲・伸展・回内外)を開始する。荷重制限中でも関節可動域の回復を優先し、筋萎縮予防のためのアイソメトリック運動を並行して行う
フォローアップ
術後2週: 創傷確認・X線(整復位維持・インプラント位置確認)。スプリント除去・ヒンジブレースへ移行。積極的 ROM 訓練開始
術後6週: X線(骨癒合進行確認・肘頭骨折)。荷重・筋力訓練の段階的開放
術後12週: X線・CT(骨癒合評価)。橈骨頭置換例ではプロテーシス位置確認。全可動域・筋力回復目標
術後6〜12ヶ月: 最終 X 線。異所性骨化・変形性関節症の評価。インプラント症状があれば抜釘を検討(12〜18ヶ月以降)
予後
肘頭骨折骨癒合率:約90〜95%(適切な内固定で)
橈骨頭 ORIF(Mason II):約85〜90% で良好な機能回復
橈骨頭置換術:疼痛・安定性は良好。長期(10〜15年)でインプラント弛みのリスクあり(約5〜10%)
最終可動域:屈曲0〜130°、回内外各 70〜80° が目標。複合損傷のため単独骨折より制限が残りやすい
肘関節不安定性残存:LCL 修復不十分例で約10〜20%
異所性骨化:約10〜20%(機能制限を要する重症例は稀)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(21-C1 = 前腕近位部・完全関節内・単純型。臨床的には肘頭関節内骨折+橈骨頭骨折の複合損傷パターンが多い。AO分類上Terrible Triadとは同義ではない) 2 橈骨頭骨折の Mason 分類を評価(I 型=転位なし / II 型=部分関節内 / III 型=粉砕) 3 LCL(外側側副靱帯)損傷の有無を確認(修復計画を立てる) 4 神経評価を施行(AIN・PIN・尺骨神経の機能を記録) 5 手術適応を確認(21-C1 は原則手術。Mason I 型のみが例外的に保存検討) 6 術式を計画(肘頭:TBW または lag screw+プレート / 橈骨頭:ORIF または置換) 7 橈骨頭切除単独の禁忌を確認(靱帯損傷合併例への単独切除は禁忌) 8 術後固定・リハビリ計画を確認(2〜3日スプリント後にヒンジブレース・早期 ROM 開始)
文献
Regan W, Morrey BF(1989)Fractures of the coronoid process of the ulna. J Bone Joint Surg Am, 71(9):1348–54. PMID: 2793888
Mason ML(1954)Some observations on fractures of the head of the radius with a review of one hundred cases. Br J Surg, 42(172):123–32. PMID: 13209035
Ring D, Jupiter JB, Zilberfarb J(2002)Posterior dislocation of the elbow with fractures of the radial head and coronoid. J Bone Joint Surg Am, 84-A(4):547–51. PMID: 11940613
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767