肘関節後方脱臼に橈骨頭骨折 と鉤状突起骨折 が三つ組で合併する複合損傷で、「Terrible Triad(恐ろしい三徴)」として知られる高度不安定型肘関節骨折脱臼。AO/OTA 2018では単一コードを持たない複合損傷 で、構成要素を個別に分類する:橈骨頭骨折(2R1B/C)+鉤状突起骨折(2U1B2)+肘関節後方脱臼(関連脱臼) (相原CEO確認)。旧1996年版では21-C3(完全関節内)の代表的損傷形態とされた。本記事ではTerrible Triadの損傷パターンを対象に解説する。外側側副靭帯(LCL)・内側側副靭帯(MCL)の広範断裂を伴う ため、非手術治療では肘不安定性が高率に残存する。鉤状突起骨折の固定・橈骨頭の再建・靭帯修復を三位一体で行う系統的ORIF が標準治療であり、段階を誤ると慢性不安定性・外傷後関節症へ直結する。
重症度・疫学
発生頻度: 比較的まれな損傷パターンで、治療についての報告も少ない[1]
好発: 報告例の平均年齢は41.4歳(13〜76歳)で、男性22例・女性14例[2]
受傷機転: 橈骨・尺骨が後方へ脱臼・亜脱臼する際に鉤状突起が上腕骨遠位部に打ち付けられ、剪断力で横骨折が生じると考えられている[2]
治療方針: 鉤状突起骨折はRegan-Morrey分類で分類し、II・III型は固定、I型は前方関節包修復で鉤状突起の安定性を回復する[2]
注意すべき合併症
慢性肘関節不安定性:標準的な手術プロトコルで治療しても再発性不安定性が36例中2例(6%)に生じうる[2]
外傷後肘関節拘縮:適切な再建がなければ動かすと不安定性が再発し、長期のギプス固定では許容できない拘縮を生じる[2]
異所性骨化(HO):軽度の異所性骨化が3例、再手術を要した前腕の骨性癒合が2例にみられた(36例中)[2]
外傷後変形性関節症:同心円的整復が得られても、多くの例で腕尺関節の関節症が比較的早期に進行する[1]
尺骨神経障害:晩期合併症として生じうる[4]
コンパートメント症候群:高エネルギー外傷例で注意(発生率低いが見逃し厳禁)
靭帯の石灰化:内側・外側靭帯の石灰化が多く、36例中26例に程度の差はあれみられた[2]
治療方針
Terrible Triadは原則として手術適応 。固定のみで治療できることはまれで、副子固定下でも11例中7例が再脱臼した[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件(例外的・限定的)
→ この損傷の組み合わせが固定のみで治療できることはまれで、11肘中7肘が副子固定にもかかわらず再脱臼した[1] → 鉤状突起骨折は、どれほど小さくても肘の安定性が大きく低下していることの指標となりうる[1] → 高齢・合併症による全身麻酔リスクが極めて高い場合(ASA IV以上) → 保存療法選択時も長期固定は避ける。急性の肘不安定性のあとの長期固定は成績不良と関連する[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 肘関節後方脱臼 + 橈骨頭骨折 + 鉤状突起骨折の三徴 → 標準プロトコルによる早期の手術的修復を推奨[2] ℹ 鉤状突起骨折:Regan-Morrey II・III型の大きな骨片 → 観血的に整復し、尺骨後面から1〜2本のラグスクリューで固定[2] ℹ 橈骨頭骨折:骨片が1〜2個 → 内固定を第一の目標とする[2] ℹ 粉砕(3骨片以上)・陥没・軟骨損傷・橈骨頚部骨折の合併で安定した解剖学的整復ができない → 橈骨頭を切除し人工橈骨頭で置換[2] ℹ 外側靭帯複合体を再縫着する。不安定性が持続する場合は骨折の整復位を確認し、前方関節包やMCLを修復(直接縫合またはスーチャーアンカー)[4] ℹ 修復後も不安定性が残存する場合 → ヒンジ付き創外固定(Hinged Elbow External Fixator)を考慮する[4]
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診断・評価
通常疼痛 を訴え、肘を回旋できない。尺骨神経は尺骨近位部に近いため、知覚と運動機能を全例で評価する。脱臼を合併していればできるだけ早く整復・外固定する[4] 。
Terrible triad の診断ポイント:三徴の確認
X線正面像・側面像で後方脱臼・橈骨頭骨折・鉤状突起骨折を確認する。鉤状突起骨折の同定が重要で、判断に迷う場合はCTを用いる[1] 。橈骨頭骨折はMason分類、鉤状突起骨折はRegan-Morrey分類(I型: 尖端の骨折、II型: 鉤状突起の50%以下、III型: 50%超)で評価する[2] 。
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【必須】 肘関節正面X線・側面X線。鉤状突起骨折の同定に迷う場合はCTを撮る[1]
【考慮】 MRI:複雑な症例や靭帯の不安定性が疑われる症例で役立つ[4]
✅ 許容される整復・固定状態
✓ 腕尺関節・腕橈関節の同心円的整復(わずかな亜脱臼でも重大な不安定性を示しうる)[4] ✓ 鉤状突起骨折:尺骨の骨孔に通した縫合糸で骨片または前方関節包付着部を捉える修復では、解剖学的整復が得られないこともあるが肘の安定性は高まる[1] ✓ 橈骨頭のORIF後、前腕の回内外を制限しないようにスクリューヘッドが埋没している[4] ✓ 前腕中間位で屈曲伸展20〜130°の範囲で後方・後外側への亜脱臼がなく、同心円的安定性が保たれる[2]
❌ 許容されない変形・操作
✕ 三徴確認後に閉鎖整復と副子固定のみで治療を終える → 副子内で再脱臼しうるため、速やかな根治的治療を手配する[1] ✕ 橈骨頭の切除術(Excision)→ 切除した4例全例で術後に高度の不安定性が生じ、追加手術を要した[1] ✕ 鉤状突起骨折(Regan-Morrey III型)を再建せず放置 → 不安定性と機能不良につながる[2] ✕ 橈骨頭のスクリューをセーフゾーン(橈骨切痕と関節をなさない部分)以外から刺入し、カウンターシンクしない[4] ✕ 術後1週を超えても自動運動を始めない(手術の目的は1週以内に自動運動が可能な安定した肘の再建)[4]
手術手技
体位
体位: 単独の橈骨頭骨折では仰臥位で腕を手台にのせるが、複雑な脱臼骨折では側臥位で肘を手台にのせ屈曲位とする体位が好まれる。滅菌した止血帯を上腕に巻き、出血量が多いときのみ使用する[4] 。
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ORIF — 系統的段階的修復(第一選択)
適応: Terrible Triad(肘後方脱臼 + 橈骨頭骨折 + 鉤状突起骨折)。MCL修復やヒンジ付き創外固定は、標準治療のあとも不安定性が残存する例に限って行う[2] 。
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外側展開(Kocher法): 肘関節から5 cm近位の外側上顆稜から皮切を始め、前腕近位部の外側・橈骨頭の後方を通る。肘筋と尺側手根伸筋の間から進入する。橈骨頭・橈骨頚の近くを走る橈骨神経に注意する[4]
鉤状突起骨折の固定: Regan-Morrey II型・III型の大きな骨片は観血的に整復し、尺骨後面から1〜2本のラグスクリューを刺入して骨片を捕捉する[2] 。粉砕でスクリュー固定できない骨片は、骨片と前方関節包に投げ縄状の縫合糸をかけ、ドリル孔を通して鉤状突起基部に縫着する[2] 。内側面(medial facet)に及ぶ骨折は、直接の内側進入から小プレートとスクリューで固定するのがよい場合がある[1]
橈骨頭骨折の処理: 骨片が1〜2個で安定した解剖学的整復が可能なら内固定する[2] 。部分関節内骨折は2 mmのラグスクリューまたはヘッドレスコンプレッションスクリューで固定し、橈骨切痕と関節をなさない「セーフゾーン」から刺入する[4] 。粉砕(3骨片以上)・嵌入・軟骨損傷・頚部骨折合併で安定した整復が見込めない場合は金属製人工橈骨頭に置換し、モジュラー型で過剰延長(overstuffing)を避ける[2]
腕橈関節の接触: 橈骨頭を可能なら温存し、できなければ人工物に置換して腕橈関節の接触を回復させる[1]
LCL修復: 上腕骨から剥離した外側側副靱帯複合体を、非吸収糸で上腕骨遠位のドリル孔を通すか、スーチャーアンカーを用いて修復する[2]
安定性テスト: 前腕中間位で屈曲伸展20°〜130°の範囲に後方・後外側亜脱臼が起きない求心性の安定性を確認する。不安定性は伸展・回外位で最も現れやすい[2]
MCL修復(必要時): 外側の修復後も不安定性が残る場合は、内側側副靱帯を直接縫合またはスーチャーアンカーで修復する[4] 。外反不安定性のみは内側側副靱帯修復の適応としない[2]
最終確認: 外側靱帯複合体の修復後も不安定性が続く場合は、整復位と橈骨長を慎重にチェックする[4]
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⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 鉤状突起を再建しない → 不安定性と機能不良に関連する[2] ✕ 橈骨頭の単純切除術 → 高度の術後不安定性(切除した4例すべてが追加手術を要した)[1] ✕ スクリュー・プレートを橈骨頭の「safe zone」外に設置 → 近位橈尺関節にインピンジし前腕の回旋を妨げる[4] ✕ 人工橈骨頭の過剰延長(overstuffing) → 人工橈骨頭の失敗の最も多い原因[4] ✕ 外側修復後に前腕を回内位で固定しない → 外側修復の保護が失われる(術後副子は肘90°屈曲・前腕完全回内位)[2] ✕ 内側展開(尺側手根屈筋分割進入)で尺骨神経の運動枝を損傷する → 前方にある最初の運動枝は温存しなければならない[4]
創外固定(Hinged Elbow External Fixator)
適応: 通常の修復で早期運動を許す十分な安定性が得られない例にヒンジ付き創外固定を追加する[2] 。Pughらの3例はいずれも軟部組織の損傷が高度で修復が脆弱であり、平均6.2週間装着した[2] 。
術後管理
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手術タイミング: 脱臼は早急に整復し、速やかに根治的治療を手配する[1] 。閉鎖骨折では軟部組織の腫脹があっても早期手術がしばしば可能である[4] 。脱臼・亜脱臼の遷延は関節面の損傷や側副靱帯の弛緩を招くため避ける[1]
術後荷重(上肢): 術直後は患肢免荷(non-weight-bearing)。リハビリ中の可動域訓練は許可するが、6週間は軸圧荷重(体重支持)禁止
固定・肢位管理: 術後は後方副子で肘90°屈曲・前腕完全回内位とし、外側修復を保護して整復位を保つ。内外側とも修復した例は前腕中間位で固定する。監視下の可動域訓練は術後7〜10日以内に開始する[2]
VTE予防: 上肢骨折では深部静脈血栓症(DVT)のリスクは低いが、長期臥床・全身麻酔例では低分子ヘパリンまたは弾性ストッキングを使用
疼痛管理: 明確なリハビリテーションと疼痛管理プログラムが不可欠である[4] 。異所性骨化予防のインドメタシン(25 mg 1日3回・術後3週間)は術者によって使用が分かれ、使用群と非使用群で橈尺骨癒合症・異所性骨化の発生率に有意差はなかった[2]
リハビリテーション: 術後早期(理想的には創が乾燥する48時間後、遅くとも1週間以内)に理学療法による自動運動を始められる安定した肘関節を再建する[4] 。屈曲伸展は前腕回内位で、前腕回旋の自動運動は肘90°で行い、伸展最終30°は術後4週まで避ける[2]
フォローアップ
術後7〜10日: 抜糸・副子除去とともに監視下の可動域訓練を開始する[2]
骨癒合・可動域の安定まで: 骨癒合が得られ、監視下の理学療法で肘の可動域が頭打ちになるまで臨床・X線で経過観察する[2]
術後3ヶ月: X線(骨癒合評価・異所性骨化確認)・可動域・筋力評価
術後6ヶ月〜1年: X線・可動域・ADL評価・関節症変化の確認
機能的可動域は通常、屈曲30°〜120°、回内外合わせて120°以上と定義され、長引く肘関節拘縮には稀に関節授動術を要する[4]
予後
骨癒合:内固定した鉤状突起骨折・橈骨頭骨折はすべて最終観察時に骨癒合し、橈骨頭の遷延癒合が2例(20週・24週)あった[2]
肘関節可動域:術後平均34か月で屈曲伸展弧 平均112°、前腕回旋弧 平均136°、屈曲拘縮 平均19°。機能的可動域(屈曲伸展30°〜130°・前腕回旋100°)は36例中29例で獲得[2]
不安定性の再発:36例中2例(6%)[2]
外傷後関節症:平均約3年の観察でX線上の変性変化を約39%に認めた[2]
機能成績(MEPS):平均88点、優15例・良13例・可7例・不可1例(36例中28例が優・良)[2]
再手術率:36例中8例(22%)(橈尺骨癒合症2例、不安定性再発1例、抜釘と授動術4例、創感染1例)[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 三徴(後方脱臼・橈骨頭骨折・鉤状突起骨折)をX線で確認し、鉤状突起骨折の有無が不確かならCTを撮ったか[1] 2 橈骨頭骨折のMason分類(I/II/III)と修復可能性を評価したか 3 鉤状突起骨折のRegan-Morrey分類(I/II/III)と固定必要性を評価したか 4 LCL断裂の有無と範囲を確認(外側不安定性・PLRI評価)したか 5 橈骨頭はできる限り温存(内固定)し、不能なら人工骨頭で置換して腕橈関節の接触を保つ計画か(切除は勧められない)[1] 6 鉤状突起のRegan-Morrey分類を確認(I型=先端のみ / II型=≤50% / III型=>50%)し、II型・III型は固定、I型は前方関節包修復を計画したか[2] 7 手術順序を計画したか(鉤状突起固定 → 橈骨頭修復/置換 → LCL修復 → 必要時MCL修復の順) 8 橈骨頭スクリューの「セーフゾーン」(橈骨切痕と関節をなさない部分)を確認・計画したか[4] 9 合併症(拘縮・HO・慢性不安定性・尺骨神経障害)についてインフォームドコンセントが完了しているか
文献
Ring D, Jupiter JB, Zilberfarb J(2002)Posterior dislocation of the elbow with fractures of the radial head and coronoid. J Bone Joint Surg Am, 84(4):547–51. PMID: 11940613
Pugh DM, et al.(2004)Standard surgical protocol to treat elbow dislocations with radial head and coronoid fractures. J Bone Joint Surg Am, 86(6):1122–30. PMID: 15173283
Garrigues GE, Wray WH 3rd, Lindenhovius AL, et al.(2011)Fixation of the anterior medial facet of the coronoid process. J Bone Joint Surg Am, 93(18):1700–6.
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767