リスフラン関節(足根中足関節)の損傷のうち、中足骨基部が同一方向(内側または外側)へ転位する片側転位型の骨折脱臼 [1] 。AO分類81-B2に相当する。約20%は自然に整復されるため見逃されやすく、放置例の成績は悪い[1] 。標準・ストレス下・荷重下のX線で2 mm超の転位を示す例は不安定型として手術的治療の適応となり[1] 、成績不良の主な決定因子は初期整復の質である [4] 。
重症度・疫学
発生頻度: まれな損傷で、しばしば見逃し・誤診される[2]
好発: 骨折脱臼例の多くは多発外傷患者に生じる(72例中58例・81%)[4]
受傷機転:
直達外力(Direct mechanism): 直接の圧挫(crush)による損傷。骨折脱臼例では成績が不良で、優・良は8例中1例のみ[4]
受傷機転(靭帯損傷主体の例): 交通事故、1.2 m超の高所からの転落、足が鐙に挟まったままの落馬、深い穴への踏み込みがある[2]
AO分類(81-B 骨折脱臼型):
81-B1(靭帯型・Ligamentous type): 大きな骨折を伴わない靭帯損傷主体のリスフラン関節損傷。比較試験ではFleck sign(Lisfranc靭帯の裂離骨折)を伴う例も靭帯損傷主体に含めた[2] (本記事群の81-B1記事が相当)
81-B2(同側性・Homolateral type): 中足骨が同一方向(内側または外側)へ転位する片側転位型[1] 。本記事が相当
81-B3(異側性・Divergent type): 中足骨が分散して転位する分散型(部分または完全)[1]
治療方針: 標準・ストレス下・荷重下のX線で2 mm超の転位を呈する足根中足関節は不安定型とし、手術的治療の適応とする[1]
注意すべき合併症
慢性疼痛・足部変形: 骨折脱臼例では足根部の不安定性と晩期の変形性関節症が症状の大部分の原因で、成績不良の主な決定因子は初期整復の質である[4]
変形性リスフラン関節症(外傷後変形性関節症): 整復内固定例257例の系統的レビューで、外傷後の放射線学的関節症は49.6%に報告され、そのうち関節固定術を要するほど重度だったのは7.8%であった[6]
コンパートメント症候群(急性期): 腫脹が著しい症例では生じる可能性がある[1]
前足部の循環不全: 急性の脱臼は前足部への循環不全を避けるため4〜6時間以内に整復する[1]
損傷の見落とし: 約20%は自然に整復されるため見逃されやすく、適切に治療されなければ長期にわたり重篤な後遺症を残す[1]
リスフラン靭帯断裂による不安定性残存: 靭帯損傷主体の例では、靭帯・関節包の治癒では当初の整復位を保つ強度が不十分な可能性があると著者らは推測している[2]
DVT/PE: 長期非荷重による下肢静脈血栓症リスク
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 安定型の損傷のみが保存療法の適応で、前足部内転位で短下肢ギプスを装着し、8週後から装具に切り替えて許容範囲内の荷重とする[1] → 標準・ストレス下・荷重下のX線で2 mm超の転位を呈する足根中足関節は不安定型とし、手術的治療の適応とする[1] → 保存療法では全荷重を通常3か月間禁止し、受傷後3か月時に疼痛がなければ全荷重を許可する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ ORIF:第1〜3中足骨列のスクリュー固定は信頼できる方法で、必要に応じて第4・5列にK-wireを追加する[6] ℹ プライマリー関節固定術(Primary Arthrodesis):足根中足関節損傷では、抜釘をルーチンに行う条件でORIFより追加手術の率が有意に低く、SF-36・SMFAスコアに有意差はない[3] ℹ 術式の使い分け:第1〜3足根中足関節はスクリュー固定、外側列はK-wireで固定し、K-wireは6〜8週で抜去する[1] ℹ 中足骨基部が多骨片化している場合:解剖学的アライメントを回復したうえで、2.4 mmまたは2.7 mmの背側LCPで楔状骨と中足骨骨幹部を架橋する[1] ℹ 著しい軟部組織損傷がある場合:手術的治療は延期する(コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい)[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
足根中足関節部の圧痛、中足部背側の腫脹、足底内側部の内出血を認める。立位が可能な患者でも片側つまさき立ちで疼痛を訴える。腫脹が著しい症例ではコンパートメント症候群の可能性がある [1] 。
X線(荷重・非荷重):
正面像(AP view): 中間楔状骨に対する第2中足骨の外方転位の描出に最も適する。標準あるいはストレス撮影で2 mm超の転位は不安定性を示唆する[1]
斜位像(Oblique view): 第3中足骨と外側楔状骨、第4中足骨と立方骨のアライメント評価に最も適する[1]
側面像(Lateral view): 中足骨の背側転位の検出に役立つ[1]
Fleck sign: Lisfranc靭帯の裂離骨折。靭帯損傷主体の損傷を対象とした比較試験では、これを伴う例も靭帯損傷主体として扱った[2]
荷重下X線(Weight-bearing views): 可能なら立位X線(正面・側面・30°内側斜位像)を撮影する。自然整復されている症例では、ブロック下または鎮静下のストレス撮影で転位の程度を評価できる[1]
CT: 足根中足関節複合体の三次元的解剖を描出し、中足骨基部骨折など合併損傷の評価に有用[1]
術前X線(正面・斜位・側面像) — 第2中足骨基部−内側楔状骨間の開大・Fleck sign・外側転位を評価
CT冠状断・三次元再構成 — リスフラン関節骨折脱臼パターン・関節面粉砕・転位方向の評価と術前計画
✅ 許容される整復
✓ 正面像で第2中足骨内側縁と中間楔状骨内側縁が一直線に並ぶ[2] ✓ 閉鎖整復後のX線で転位 ≦2mm かつ距骨中足骨角 ≦15°(いずれかを超えれば観血的整復)[4] ✓ 足根中足関節の完璧な解剖学的整復(最良の長期成績に不可欠)[1] ✓ 側面像で足根骨に対する中足骨の背側転位がない[2] ✓ 外側列(第4・5TMT)の可動性温存(外側2列は関節固定しない)[2]
❌ 許容されない変形
✕ 中足骨基部と足根骨の間の転位 > 2mm — 不安定性を示唆する[1] ✕ 側面像での足根骨に対する中足骨の背側転位の残存(dorsal translation)— 術後アライメントの評価項目[2] ✕ 足根中足関節の整復不良 — 最良の長期成績には完璧な解剖学的整復が不可欠[1] ✕ 整復損失と中足部の圧潰(collapse)・変性変化(靭帯損傷主体のORIF例で20例中15例)[2] ✕ 外側列の過剰固定(第4・5TMT関節の可動性は不整地歩行に重要で、拘縮は重篤な問題となる)[1]
手術手技
体位
体位・透視: 足背から各足根中足関節を展開でき、術中透視で整復位と仮固定の位置を確認できる配置とする。
体位・透視設定 — 仰臥位・止血帯設置・足部突出配置。正面・斜位・側面のCアーム透視を確保した設定
ORIF — スクリュー固定(第1〜3TMT)+ K-wire固定(第4・5TMT) — 第一選択
皮切(Step 1): 背側2皮切進入法を用い、第1中足骨と第4中足骨に沿って足根中足関節上に皮切をおき、皮下を剥離せずに到達して両皮切の間の神経血管束と軟部組織を保護する。第1足根中足関節と第2足根中足関節内側は内側皮切から、第2足根中足関節外側と第3足根中足関節は外側皮切からアプローチする[1]
脱臼の整復(Step 2): 関節面から骨片や介在している関節包などの整復阻害因子を取り除く。不安定性がChopart関節まで及ぶことがあり、最も近位の損傷や不安定性を先に処理してから遠位の足根中足関節を整復する。各関節はスクリュー固定の前に1.6 mmのK-wireで仮固定し、透視下で位置を確認する[1]
第2中足骨基部の固定(Step 3): 第2中足骨基部をかなめ石(keystone)の位置に整復し、内側楔状骨から第2中足骨基部に向けてラグスクリューを挿入する。スクリューは中実でヘッドの小さい3.5 mm皮質骨スクリューを用い、キャニュレイテッドスクリューは用いない[1]
第1TMT関節の固定(Step 4): 次いで第1中足骨基部背側から内側楔状骨にラグスクリューを挿入して第1足根中足関節を整復し、もう1本必要なら内側楔状骨背側から第1中足骨足底面に向けて挿入する[1]
第3TMT関節の固定(Step 5): 第3中足骨から中間あるいは外側楔状骨にラグスクリューを挿入して第3足根中足関節を整復する[1]
第4・5TMT関節の固定(Step 6): 内側列の処置後に透視で外側2列を評価し、整復不良または不安定な場合に整復して一時的なK-wireで固定し、固定術は行わない[2] 。K-wireは術後6〜8週で抜去する[1]
最終透視確認(Step 7): 透視で各中足骨基部の整復位とスクリュー・K-wireの位置を確認する。
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 第2中足骨基部−内側楔状骨間(リスフランスクリュー部位)の固定不十分 — 第2中足骨基部のかなめ石様の骨構造とLisfranc靱帯が足根中足関節の安定性に寄与するため、第2中足骨基部はかなめ石の位置に整復して内側楔状骨からラグスクリューで固定する[1] ✕ 外側列(第4・5TMT)の固定 — 外側列は内側列より可動性があり、外傷後の不安定性は比較的許容されやすいが拘縮は重篤な問題となるため、K-wireで経皮的に固定し後に抜去する[1] ✕ 神経血管束の損傷 — 皮下を剥離せずに到達し、両皮切の間に存在する神経血管束と軟部組織を保護する[1] ✕ 整復不全の見落とし — 解剖学的整復とX線・臨床成績には直接的な関連があり[1] 、初期整復の質が不良な成績の主要な決定因子である[4] ✕ プライマリー関節固定術の適応判断の遅れ — 関節固定術はORIF失敗後の救済、診断の遅れた例、足根中足関節の高度粉砕関節内骨折に用いられてきた。主に靱帯性の損傷では、内側2〜3列の一次固定術がORIFより短中期成績が良好であった[2]
術後管理
術後X線(正面・斜位・側面像) — スクリュー・K-wire固定後の中足骨基部整復・リスフラン関節の一致性を確認
手術タイミング: 手術の時期は軟部組織の状態で決まり、わずかな腫脹を伴う軽微な損傷はすぐに治療でき、著しい軟部組織損傷では手術を延期する。前足部の循環不全を避けるため急性の脱臼は4〜6時間以内に整復する。コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい[1]
術後荷重: 術直後は短下肢副子で固定し、術後2週で装具に変更する。術後8週から許容範囲内の荷重を開始し、骨癒合傾向を確認したうえで術後3か月以降に全荷重を許可する。外側列のK-wireは術後6〜8週で抜去する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間、高リスク例では28日間)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置を入院中は継続
疼痛管理: 多モード鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・局所浸潤麻酔)。術後48〜72時間のオピオイドは最小限。術後腫脹管理(患肢挙上・アイシング)を徹底する
リハビリテーション: 術後6〜10週から歩行訓練・腫脹管理・可動域訓練を含む理学療法を開始し、残存症状に応じて既製またはカスタムの足底板を処方する[2] 。足を保護するためクッションをつけた内側のアーチサポートを装着する[1]
フォローアップ
術後2週: 外来で診察し、副子を装具に変更する[1] [2]
術後6〜8週: 外側列のK-wireを抜去する[1] 。荷重位X線(正面・側面・斜位)で整復位を評価する[2]
術後8週: 許容範囲内の荷重を開始する[1]
術後3ヶ月: 荷重位X線でアライメントを評価し[2] 、骨癒合傾向を確認したうえで全荷重を許可する[1]
術後6ヶ月: 荷重位X線でアライメントを評価する[2] 。第1〜3足根中足関節のスクリューは症状がなければ抜去不要だが、最低6か月は留置する[1]
術後12ヶ月以降: 年1回、荷重位X線でアライメントを評価する。主に靱帯性の損傷のORIF後に持続痛を伴い足根中足関節固定術へ移行した例は、受傷後平均35か月(14〜60か月)であった[2]
予後
骨癒合率:約85〜95%(ORIF施行例)
外傷後変形性関節症:Lisfranc骨折脱臼に整復内固定を行った257例の系統的レビューで、X線上の外傷後関節症は49.6%に報告され、そのうち関節固定術を要するほど重度であったのは7.8%であった[6]
機能予後(AOFAS Midfoot Score):術後の平均スコア68〜80点(100点満点)。プライマリー関節固定術と比較してORIFは同等〜やや劣る長期成績(Ly & Coetzee, 2006, J Bone Joint Surg Am;Henning et al., 2009, Foot Ankle Int の比較試験に基づく)
主要合併症:Lisfranc骨折脱臼の整復内固定例では、スクリュー関連合併症が16.1%に報告された[6]
活動レベルの回復:靭帯損傷主体の損傷では、受傷前に対する活動レベルの自己評価は術後2年でORIF群65%、関節固定術群92%であった[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(81-B2 = リスフラン関節骨折脱臼型・同側性:第1〜5中足骨が同一方向へ転位) 2 X線評価完了(立位の正面・側面・30°内側斜位像。標準またはストレス撮影で2 mm超の転位の有無。健側との比較[1] 。Fleck sign(Lisfranc靱帯の裂離骨折)の確認[2] ) 3 CT評価完了(足根中足関節複合体の三次元的解剖と、中足骨基部骨折など合併損傷の評価[1] ) 4 前足部の循環評価を確認(急性の脱臼は前足部の循環不全を避けるため4〜6時間以内に整復する[1] ) 5 コンパートメント症候群の除外(腫脹が著しい症例では可能性があり、徴候に注意する[1] ) 6 術式選択の根拠(ORIF vs プライマリー関節固定術。関節固定術は従来、ORIF失敗後・診断遅延例・高度粉砕関節内骨折に対する救済手術とされてきた[2] ) 7 外側列(第4・5TMT)固定法の確認(外側列は間接的に整復し、K-wireで経皮的に固定。K-wireは術後6〜8週で抜去予定[1] ) 8 術後荷重スケジュール確認(術後2週で副子から装具へ → 8週から許容範囲内の荷重 → 骨癒合傾向を確認して3か月以降に全荷重[1] )
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Ly TV, Coetzee JC(2006)Treatment of primarily ligamentous Lisfranc joint injuries: primary arthrodesis compared with open reduction and internal fixation. J Bone Joint Surg Am, 88(3):514–20. PMID: 16510816
Henning JA, Jones CB, Sietsema DL, et al.(2009)Open reduction internal fixation versus primary arthrodesis for Lisfranc injuries. Foot Ankle Int, 30(10):913–22. PMID: 19796583
Myerson MS, Fisher RT, Burgess AR, et al.(1986)Fracture dislocations of the tarsometatarsal joints: end results correlated with pathology and treatment. Foot Ankle, 6(5):225–42. PMID: 3710321
Buzzard BM, Briggs PJ(1998)Surgical management of acute tarsometatarsal fracture dislocation in the adult. Clin Orthop Relat Res, (353):125–33. PMID: 9728166
Stavlas P, Roberts CS, Xypnitos FN, et al.(2010)The role of reduction and internal fixation of Lisfranc fracture-dislocations. Int Orthop, 34:1083-91. PMID: 20683593