リスフラン関節(足根中足関節)の靭帯性損傷 で、骨折を伴わないか軽微な剥離骨片(フレックサイン)のみを呈する型。リスフラン靭帯(内側楔状骨足底面〜第2中足骨基部足底面の靭帯)の断裂が主体 であり、放置された足根中足関節損傷は成績が悪い[1] 。荷重(立位)X線・ストレスX線での整列評価が診断の基本 で、CTやMRIは足根中足関節複合体の三次元的解剖と合併損傷の評価に有用である[1] 。
靭帯型は骨折型に比べ診断が難しく、このような損傷の20%近くは自然に整復されるため見逃されやすい [1] 。不安定性を見逃した保存療法は変形治癒・関節炎を招くため、2mm超の転位・不安定性がある例には手術が必要となる[1] 。純粋な靭帯損傷は成績がより悪いとされ、このような理由から多くの術者は関節を一期的に固定することを選ぶ[1] 。
重症度・疫学
発生頻度: 全骨折の約0.2%を占める比較的稀な損傷[5]
好発: 男性に多く(48例中32例が男性)、平均年齢39歳(15〜77歳)[5]
受傷機転: 交通事故(自動車・スノーモービル・ダートバイク)、1.2m超の高所からの転落、あぶみに足がかかった状態での落馬、深い穴への踏み込み[3]
見逃し率: この損傷の20%近くは自然に整復されるため見逃されやすく、多くが捻挫として治療される[1]
参照: AO法骨折治療 第3版 第6.10.2章 中足部,前足部[1]
注意すべき合併症
外傷性関節炎:非解剖学的整復例では60%、解剖学的整復例では16%に生じ(p=0.004)、整復精度と有意に関連する[5]
変形の進行:ORIF後に整復位が失われ、軽度の矯正損失から著明な陥凹・変性変化までを生じる(20例中15例)[3]
慢性不安定性:放置された足根中足関節損傷は成績が悪い[1]
足底内側部の内出血(plantar ecchymosis):足根中足関節部の圧痛・中足部背側の腫脹とともに認められる臨床所見[1]
コンパートメント症候群:腫脹が著しい症例では可能性があり注意を要する[1]
感染:48例のORIFでは術後感染は認められなかった[5]
偽関節・遅延癒合:一次関節固定21例中、遅延癒合1例(17週)、偽関節1例(20週、骨移植を伴う再固定)[3]
深部静脈血栓症:48例中1例に発生[5]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 完全整列が保たれており、荷重X線・ストレス透視で転位が2mm未満の安定型損傷 → 全ての整列基準(第1〜5列のアライメント)が正常範囲 → 手術の可否は骨折型のみで決めず、軟部組織の状態と患者要因を評価して判断する[1] → 保存療法は前足部内転位での短下肢ギプスを8週、以後は装具で許容範囲内の荷重、全荷重は3か月まで禁止[1]
純粋な靱帯損傷は成績がより悪いとされ、標準・ストレス下・荷重下のX線で2mm超の転位を呈する足根中足関節は不安定型として手術適応 となる。このため多くの術者は第1〜3足根中足関節の一期的固定(primary arthrodesis)を選ぶ[1] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 荷重X線またはストレス透視で2mm超の転位・不安定性を認める場合は手術適応[1] ℹ 術前腫脹が強い場合:閉鎖性損傷では軟部組織の腫脹が消退するまで(通常2週以内)手術を延期する[5] ℹ 骨折を伴わない純粋な靱帯損傷:第1〜3足根中足関節の一期的固定(関節軟骨を切除し移植骨を充填)[1] ℹ 術式選択:ORIF(経関節スクリュー固定)vs 一次関節固定術(TMT関節融合) ℹ 純粋靭帯型では一次関節固定がORIFより良好な短中期成績(術後2年のAOFAS中足部スコア88点 vs 68.6点、p<0.005)[3] ℹ 外側列(第4・5列)は内側列より可動性があり、この柔軟性が足の機能に重要なため通常は融合対象としない[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
中足部の疼痛・腫脹と荷重困難を呈する。臨床的には足根中足関節部の圧痛、中足部背側の腫脹、足底内側部の内出血(plantar ecchymosis) が認められ、立位が可能な患者でも片側つまさき立ちで疼痛を訴える[1] 。
診断のポイント:立位(荷重)X線でのアライメント評価
荷重正面像で第2中足骨内側縁と中間楔状骨内側縁、斜位像で第4中足骨内側縁と立方骨内側縁の連続性を確認する。フレックサイン(fleck sign:リスフラン靭帯の剥離骨折) のみを伴う例は純粋靭帯型として扱われる[5] 。CT・MRIは足根中足関節複合体の三次元的解剖の描写と中足骨基部骨折など合併損傷の評価に有用である[1] 。
荷重X線(正面・斜位)— アライメント評価とフレックサイン
CT横断像 — 骨折線・転位の詳細評価
【必須】 足部立位X線3方向(正面・側面・30°内側斜位)[1]
【考慮】 自然整復例ではストレス撮影(ブロック下または鎮静下);CT・MRI:足根中足関節複合体の三次元的解剖の描写と中足骨基部骨折など合併損傷の評価[1]
整復基準
✅ 許容される整列(保存療法継続)
✓ 荷重X線で第1〜5列のアライメントが正常(第2中足骨内側縁と中間楔状骨内側縁が一致) ✓ 転位2mm超を認めず、荷重ストレスでも不安定性なし[1] ✓ 歩道の縁石につまずくなど一見軽微な受傷機転による安定型損傷[1]
❌ 許容されない変形(手術適応)
✕ 標準・ストレス下・荷重下のX線で2mm超の転位(第2・第4中足骨の位置が最も重要な指標)[1] ✕ ストレス透視での不安定性(標準またはストレス撮影で2mm超の転位)[1] ✕ 第1・第2中足骨間の離解:リスフラン靭帯は内側楔状骨足底面から第2中足骨基部足底面に至り、第1・第2中足骨間を唯一連結する[1] ✕ 外側への亜脱臼:斜位像で第4中足骨内側縁と立方骨内側縁のアライメント異常(第2と第4中足骨の位置が不安定性の指標として最も重要)[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・下腿下ブースター挿入
仰臥位: 全身麻酔下の診察で中足部の不安定性を確認し、透視下で整復位を評価できるよう足部を配置する。皮切は第1中足骨と第4中足骨に沿った足根中足関節上におく(背側2皮切進入法)[1] 。
一次足根中足関節固定術(第1〜3列)— 純粋靭帯損傷で多くの術者が選ぶ術式
適応: 純粋靭帯型のリスフラン関節損傷。靭帯・骨接合部の治癒力が乏しく、矯正損失・変形の増大・変性変化をきたしやすいため内固定になじみにくい[3] 。2mm超の転位・不安定性を認める足根中足関節は不安定型として手術的治療の適応となる[1] 。
アプローチ: 背側縦切開2本(第1・第2中足骨間と、第4・第5中足骨間を中心とする切開)[3]
整復: 第2中足骨を中間楔状骨に戻し、全列のアライメントを透視で確認する。仮固定にKワイヤーを使用
軟骨処理: 第1〜3足根中足関節の関節軟骨を適切に切除し、移植骨を充填する(一期的関節固定を行う場合)
固定: 第1列:3.5〜4.0mm皮質骨スクリュー(中足骨基部〜内側楔状骨への圧迫固定);第2列:スクリューまたはロッキングプレート;第3列:スクリュー
外側列: 第4・5列は癒合させず、整復位が良好で安定していれば固定不要、整復不良・不安定ならK-ワイヤで仮固定する[3]
最終透視確認: AP・斜位像でアライメント・スクリュー位置を確認
術中透視像 — 整復位とスクリュー配置確認(正面・斜位)
⚠️ ピットフォール
✕ 外側列(第4・5列)への不必要な固定・癒合 → 外側列の柔軟性は足機能に重要で、拘縮は重篤な問題となる ✕ 一期的関節固定では癒合が遷延しうる → 2.4mmあるいは2.7mmの背側プレートの使用を検討する[1] ✕ 第2列の整復不良(「キーストーン」構造の逸脱)→ 全体のアライメント不良 ✕ 著しい軟部組織損傷があるうちの皮膚切開 → 手術的治療は腫脹が軽減するまで延期する(腫脹が軽微な軽微損傷はすぐに治療できる) ✕ 見逃し・遅延診断 → 関節固定術が救済手術として必要になる
ORIF(経関節スクリュー固定)— 骨折を合併する例での選択肢
適応: 骨折を伴うリスフラン損傷。第1〜3列に経関節スクリューを設置して解剖学的整復を維持する。ORIF例では有痛性・突出インプラントの抜去を要することが多く、Ly らでは20例中16例が平均6.75か月で抜去している[3]
術後管理
術後X線(正面・斜位)— 整復位とスクリュー位置確認
手術タイミング: 著しい軟部組織損傷では手術を延期し、緊急処置として軟部組織保護のため徒手整復と副子固定を行う。腫脹が軽微な軽微損傷はすぐに治療でき、急性の脱臼は前足部の循環不全を避けるため4〜6時間以内に整復する[1]
術後荷重: 術直後は短下肢副子、術後2週で装具に変更、8週後から許容できる範囲内の荷重を開始し、骨癒合傾向を確認したうえで全荷重は術後3か月以降に許可する[1]
VTE予防: 非荷重期間が長くなる症例では深部静脈血栓症の発生に注意する
疼痛管理: 術後は疼痛の程度を評価しながら鎮痛薬を調整する
リハビリテーション: 理学療法は術後6〜10週から開始し、歩行訓練・腫脹コントロール・可動域訓練を行う。残存症状に応じて既製または特注の装具を用いる[3]
フォローアップ
術後2週: 創部確認、スプリント交換またはブーツ移行
術後6週: X線撮影(整復位確認)、外側列に挿入したK-ワイヤの抜去(6〜8週)
術後12週: X線撮影(骨癒合・固定位確認)、全荷重移行判断
術後6ヶ月: 荷重位X線でアライメント評価;第1〜3足根中足関節のスクリューは症状がなければ抜去せず最低6か月は留置する[1]
ORIF例のインプラント抜去: 症状がなければ抜去は必須ではないが、Ly らのORIF群では20例中16例が突出・有痛性インプラントのため平均6.75か月(3〜16か月)で抜去した[3]
慢性疼痛・変形が残存する場合は救済的関節固定術(salvage arthrodesis)を検討
予後
靭帯型では解剖学的整復と安定固定を行っても関節症変化が生じる傾向があり、骨折を伴う型に比べ解剖学的整復が良好な成績を予測しにくい[5] 。非解剖学的整復例・見逃し例の成績は悪い。
術後外傷性関節症:非解剖学的整復例で60%、解剖学的整復例で16%(p=0.004)、48例全体では25%[5]
長期成績:Myerson らの追跡(平均4.2年)では52例中23例(44%)がさらに中足部手術を受けたか要する状態で、成績不良の最大の規定因子は初期整復の質であった[2]
一次固定術 vs ORIF:純粋靭帯型では術後2年のAOFAS中足部スコアが一次固定術群88点・ORIF群68.6点で、一次固定術群が良好であった(p<0.005)[3]
活動レベルの復帰:一次固定術群は受傷前の92%、ORIF群は65%と推定された(p<0.005)[3]
見逃し・遅延診断例:放置された足根中足関節損傷は成績が悪く、中足部の著明な疼痛や腫脹を伴う外傷機序ではLisfranc損傷の可能性を念頭におく[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(81-B1 = リスフラン関節損傷・靭帯型。骨折を伴わないか軽微な剥離骨折のみで、骨折脱臼型の81-B2(同側性)・81-B3(異側性)とは区別される) 2 荷重X線で全列のアライメントを確認(第2中足骨内側縁〜中間楔状骨内側縁、第4中足骨内側縁〜立方骨内側縁) 3 転位量を計測(2mm超 → 手術適応)[1] 4 フレックサイン(Lisfranc靭帯の裂離骨折)と足底内側部の内出血(plantar ecchymosis)を確認 5 CT/MRIで足根中足関節複合体の三次元的解剖と中足骨基部骨折など合併損傷の有無を評価(純粋靭帯型かの確認) 6 術式を確認(純粋靭帯型 → 多くの術者は一期的関節固定を選ぶ;骨折合併型 → ORIF考慮)[1] 7 軟部腫脹の状態を確認(著しい軟部組織損傷 → 徒手整復と副子固定で保護し、手術的治療を延期) 8 合併症リスクを把握(外傷性関節症—48例中12例25%、うち6例が関節固定を要した・非解剖学的整復・見逃しによる遅延診断)[5]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Myerson MS, Fisher RT, Burgess AR, Kenzora JE(1986)Fracture dislocations of the tarsometatarsal joints: end results correlated with pathology and treatment. Foot Ankle, 6(5):225–42. PMID: 3710321
Ly TV, Coetzee JC(2006)Treatment of primarily ligamentous Lisfranc joint injuries: primary arthrodesis compared with open reduction and internal fixation. J Bone Joint Surg Am, 88(3):514–20. PMID: 16510816
Reinhardt KR, Oh LS, Schottel P, Roberts MM, Levine D(2012)Treatment of Lisfranc fracture-dislocations with primary partial arthrodesis. Foot Ankle Int, 33(1):50–6. PMID: 22381236
Kuo RS, Tejwani NC, Digiovanni CW et al.(2000)Outcome after open reduction and internal fixation of Lisfranc joint injuries. J Bone Joint Surg Am, 82-A(11):1609–18. PMID: 11097452