リスフラン関節(足根中足関節)の骨折脱臼型損傷のうち、異側性(divergent型)転位を呈するもの 。AO分類81-B3に相当する。第1列(第1中足骨)が内側へ、第2〜5列が外側へ分離転位する(異側性)骨折脱臼であり、Myerson分類ではC型(divergent型)に相当する 。リスフラン靱帯(Lisfranc ligament:第2中足骨基部〜内側楔状骨間)の断裂と第2中足骨基部の骨折を伴うことが多く、解剖学的整復と安定した内固定が長期機能予後の最重要決定因子 である。診断の遅れが多く、初診時の見逃しが15〜25%に達するとされるため注意を要する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 足部骨折全体の約0.2%、中足骨損傷の約12〜15%
好発: 足根中足関節の骨折脱臼72例(76足)の報告では、58例(81%)が多発外傷患者で、残りは単独損傷であった[2]
足根中足関節の安定性: 第2中足骨基部のかなめ石(keystone)様の骨構造と各足根中足関節間の強靱な靱帯が寄与している[1]
AO分類(81-B 骨折脱臼型)との対応:
AO 81-B1 :靭帯型(骨折を伴わないリスフラン靭帯損傷)
AO 81-B2 :同側性(Homolateral type):第1〜5中足骨が同一方向へ転位
AO 81-B3(本記事) :異側性(Divergent type):第1列が内側、第2〜5列が外側へ分離転位
Myerson分類との対応:
A型(完全同側性):全中足骨(第1〜5列)が同一方向(主に外側)へ転位 → AO 81-B2に相当
B型(部分転位):内側列(B1:第1列のみ)または外側列(B2:第2〜5列のみ)の一部のみが転位し、残存列は正常位を保つ部分損傷
C型(異側性・Divergent type): 第1列が内側、第2〜5列が外側へ分離転位(Divergent pattern)→ AO 81-B3(本記事)に相当
【注意】 Myerson分類のB型は「partial/incomplete型(一部の列のみが転位)」であり、divergent型(異側性)ではない。AO 81-B3(本記事)はMyerson C型 (divergent)に相当する。
治療方針: 転位のあるLisfranc関節損傷にはORIFが標準的治療とされているが、解剖学的整復と安定した内固定を得ても成績は一様に良好とはいえない[3]
注意すべき合併症
外傷後変形性関節症:足根中足関節の骨折脱臼では、晩期の変性関節症と足根部の不安定性が症状の大半の原因で、成績不良の主な決定因子は初期整復の質であった[2]
前足部の循環不全:前足部への循環不全を避けるため、急性の脱臼は4〜6時間以内に整復する[1]
区画症候群(足部コンパートメント症候群):著しい軟部組織損傷では手術を延期するが、コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい[1]
骨壊死(Köhler病様変化):第2中足骨基部の過度な圧迫・血流障害で発生
神経血管束の医原性損傷:背側2皮切では皮下を剥離せずに到達し、両皮切の間にある神経血管束と軟部組織を保護する[1]
創部合併症:高エネルギー外傷による複雑な骨折脱臼では、軟部組織関連の合併症のリスクが高い[1]
変形癒合・整復位損失:中足骨基部が多骨片化している場合、ポジショニングスクリューのみでは安定した固定が得られない[1]
DVT/PE:長期免荷期間中のリスク上昇
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 標準・ストレス下・荷重下のX線像で2 mm超の転位を示す足根中足関節は不安定型として手術適応とし、保存療法の対象としない[1] → 前足部内転位で短下肢ギプスを装着し、8週後から装具に切り替えて許容範囲内の荷重を許可する。全荷重は通常3か月間禁止する[1] → 保存療法でも定期的X線フォローで転位再発を確認(2週・4週・6週) → スポーツ復帰基準は全荷重獲得後さらに4〜8週(疼痛・ROM・筋力回復を評価)
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術適応:正常な関節構造と比べ、標準・ストレス下・荷重下のX線像で2 mm超の転位を示す不安定型[1] ℹ ORIF(開放整復内固定):第1〜3足根中足関節をラグスクリューで整復固定し、外側列は間接的に整復してK-ワイヤで経皮的に固定する[1] ℹ 一次関節固定術(Primary Arthrodesis):足根中足関節の骨折・骨折脱臼では、抜釘を定例で行う条件でORIFより追加手術の率が低く、SF-36・SMFAの成績に有意差はない[4] ℹ 創外固定:重度の軟部組織損傷を伴う複雑な足部外傷(挫滅足)では、K-ワイヤ・スクリューと創外固定器を組み合わせて用い、露出した骨は早期に軟部組織で被覆する[1] ℹ 内側列は第2・第1・第3足根中足関節の順にラグスクリューで整復固定し、外側列は間接的に整復されるためK-ワイヤで経皮的に固定する[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
臨床的には足根中足関節部の圧痛、中足部背側の腫脹、足底内側部の内出血を認め、立位が可能な患者でも片側つま先立ちで疼痛を訴える。腫脹が著しい症例ではコンパートメント症候群の可能性がある[1] 。
X線正面像・斜位像・側面像: 各中足骨基部と相対する足根骨とのアライメント異常をみる。標準あるいはストレス撮影で2 mm超の転位は不安定性を示唆し、正面像は中間楔状骨に対する第2中足骨の外方転位、側面像は背側転位、斜位像は外側楔状骨と第3中足骨・立方骨と第4中足骨のアライメントの評価に適する[1] 。
CT: 足根中足関節複合体の三次元的解剖を描写し、中足骨基部骨折など合併損傷の評価に有用である[1] 。
MRI: CTと同様に足根中足関節複合体の三次元的解剖を描写し、合併損傷の評価に有用である[1] 。
術前X線正面像・斜位像(第2中足骨基部内外側の不一致・転位量の評価)
CT軸位断・冠状断(第2中足骨基部骨折・骨片サイズ・楔状骨損傷・転位量の詳細評価)
✅ 許容される整復
✓ X線正面像で第2中足骨の内側縁が中間楔状骨の内側縁と一直線に並ぶ[3] ✓ 閉鎖的整復後のX線で転位2 mm以下かつtalometatarsal angle 15°以下(これを超える場合は観血的整復を要する)[2] ✓ 側面像で足根骨に対する中足骨の背側転位がないこと[3] ✓ 各関節はスクリュー固定前に1.6 mmのK-ワイヤで仮固定し、透視下で位置を確認する[1]
❌ 許容されない変形
✕ 中間楔状骨に対する第2中足骨の外方転位の残存(標準あるいはストレス撮影で2 mm超の転位は不安定性を示唆する)[1] ✕ 解剖学的整復からのずれの残存(最良の長期成績のためには完璧な解剖学的整復が不可欠)[1] ✕ 足部コンパートメント症候群の見落とし(腫脹が著しい症例ではコンパートメント症候群の可能性がある)[1] ✕ 急性脱臼の整復遅延(前足部への循環不全を避けるため、急性の脱臼は4〜6時間以内に整復する)[1]
手術手技
体位
体位: 術中透視で足部の正面・斜位・側面を確認できる配置とする。
体位・透視設定 — 仰臥位・ターニケット配置・術中透視(正面・斜位・側面)の設定
ORIF + スクリュー固定術(標準術式)
ORIF術中操作(皮切・骨折整復・スクリュー固定)の2パネル術中イラスト
皮切(Step 1): 背側2皮切進入法とし、皮切は第1中足骨と第4中足骨に沿って足根中足関節上におく。皮下を剥離せずに到達し、両皮切の間にある神経血管束と軟部組織を保護する[1]
内側列の整復(Step 2:異側性の内側): 第1足根中足関節と第2足根中足関節内側は内側皮切から展開し、関節面から骨片や介在している関節包などの整復阻害因子を取り除いて整復する[1]
第2中足骨基部骨折の整復(Step 3): 第2中足骨基部をかなめ石(keystone)の位置に整復し、スクリュー固定の前に1.6mmのK-wireで仮固定して透視下で位置を確認する[1]
スクリュー固定(Step 4): 内側楔状骨から第2中足骨基部に向けてラグスクリューを挿入する。次いで第1中足骨基部背側から内側楔状骨にラグスクリューを挿入して第1足根中足関節を整復し、もう1本必要なら内側楔状骨背側から第1中足骨足底面に向けて挿入する。さらに第3中足骨から中間あるいは外側楔状骨にラグスクリューを挿入して第3足根中足関節を整復する[1]
外側列固定(Step 5): 外側列は間接的に整復し、K-wireで経皮的に固定する[1]
一次関節固定術(代替手技): 第1〜3足根中足関節を一期的に固定する場合(たとえば純粋な靱帯損傷の症例)は、関節軟骨を切除して移植骨を充填し、癒合が遷延することもあるため2.4mmあるいは2.7mmの背側プレートの使用を検討する[1]
術中最終確認(Step 6): 正面像で中間楔状骨に対する第2中足骨の位置、斜位像で外側楔状骨と第3中足骨・立方骨と第4中足骨のアライメント、側面像で背側転位の有無を確認する[1]
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 神経血管束の損傷 — 皮切は第1中足骨と第4中足骨に沿っておき、皮下を剥離せずに到達して両皮切の間にある神経血管束と軟部組織を保護する[1] ✕ 異側性の見落とし — 第1足根中足関節と第2足根中足関節内側は内側皮切から、第2足根中足関節外側と第3足根中足関節は外側皮切から展開し、それぞれ整復する[1] ✕ リスフランスクリューの位置不良 — 各関節はスクリュー固定の前に1.6mmのK-wireで仮固定し、透視下で位置を確認する[1] ✕ 足部コンパートメント症候群の見落とし — 著しい軟部組織損傷では手術を延期するが、コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい[1] ✕ K-wireの早期抜去 — 外側列に挿入したK-wireは6〜8週で抜去する[1] ✕ 整復阻害因子の残存 — 皮切展開後、関節面から骨片や介在している関節包などの整復阻害因子を取り除く[1]
術後管理
術後X線正面像・斜位像 — リスフラン関節ORIF後の整復位・スクリュー位置・K-wire位置確認
手術タイミング: 手術の時期は軟部組織によって左右される。わずかな腫脹を伴う軽微な損傷はすぐに治療でき、著しい軟部組織損傷では手術を延期する。前足部の循環不全を避けるため急性の脱臼は4〜6時間以内に整復し、コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい[1]
術後荷重: 術直後は短下肢副子で固定し、術後2週で装具に変更する。8週後から許容できる範囲内の荷重を開始し、骨癒合傾向を確認したうえで全荷重は術後3か月以降に許可する。外側列のK-wireは6〜8週で抜去する。第1〜3足根中足関節のスクリューは症状がなければ抜去の必要はないが、最低6か月は留置する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間、高リスク例では術後35日まで延長)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置(健側)を併用
足底板: 主に靱帯性のリスフラン損傷を対象とした前向き試験では、残存症状に応じて既製またはオーダーメイドの足底板を処方した[3]
リハビリテーション: 主に靱帯性のリスフラン損傷を対象とした前向き試験では、術後6〜10週から歩行訓練・腫脹管理・可動域訓練を含む理学療法を開始した[3]
フォローアップ
術後2週: 短下肢副子を装具に変更する[1]
術後6〜8週: 外側列のK-wireを抜去し、8週後から許容できる範囲内の荷重を開始する[1]
術後3か月: 骨癒合傾向を確認したうえで全荷重を許可する[1]
術後6か月以降: 第1〜3足根中足関節のスクリューは症状がなければ抜去の必要はなく、抜去する場合も最低6か月は留置する[1]
術後1年以降: 主に靱帯性のリスフラン損傷を対象とした前向き試験では、術後6か月以降は年1回、診察・X線・VAS疼痛スケールなどで成績を評価した[3]
予後
骨癒合:主に靱帯性のリスフラン損傷に対する一次関節固定術21例では、癒合までの期間は平均10.6週であった[3]
外傷後足根中足関節症:主に靱帯性のリスフラン損傷に対するORIF群では、20例中15例に整復位の損失と、程度の差はあるが変形・変性関節症性変化を認めた[3]
一次関節固定術 vs. ORIF:主に靱帯性のリスフラン損傷を対象とした前向きランダム化試験では、一次関節固定術がORIFより術後2年のAOFAS Midfootスコアで有意に優れた[3] 。急性の足根中足関節骨折・骨折脱臼を対象とした前向きランダム化試験では、抜釘を定型的に行う場合に一次関節固定術で再手術率が有意に低く、SF-36・SMFAの成績に有意差はなかった[4]
活動への復帰:主に靱帯性のリスフラン損傷を対象とした前向き試験では、術後の活動レベル(受傷前に対する自己評価)は一次関節固定術群で92%、ORIF群で65%であった[3]
主要合併症:症状の多くは足根部の不安定性と晩期の変性関節症によるもので、52例中23例(44%)が機能と快適性の改善のために中足部の追加手術を受けたか、その適応とされた[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類・Myerson分類の確認(AO 81-B3 = 異側性・Divergent type:第1列内側・第2〜5列外側。Myerson分類C型 (divergent型)に相当。Myerson B型は「部分転位型」であり別概念)— 本症例の転位パターン(第1列内側・第2〜5列外側への分離転位)を確認 2 X線正面像での「第2中足骨内側縁と中間楔状骨内側縁の整列」評価(正常では一直線)[3] 3 CTでの中足骨基部骨折など合併損傷の確認[1] 4 前足部の循環の評価(循環不全を避けるため急性の脱臼は4〜6時間以内に整復)[1] 5 足部コンパートメント症候群の評価(腫脹が著しい症例ではその可能性がある)[1] 6 ストレス撮影による不安定性の評価(自然整復されている症例で転位の程度を評価。疼痛を伴うためブロック下または鎮静下で行い、2mm超の転位は不安定性を示唆)[1] 7 手術タイミングの決定(急性の脱臼は4〜6時間以内に整復。著しい軟部組織損傷では手術を延期し、コンパートメント症候群では減圧と同時に最終的治療を行ってもよい)[1] 8 術式選択(ORIF vs. 一次関節固定術)の記録(純粋な靱帯損傷は成績がより悪いとされ、多くの術者は関節の一期的固定を選ぶ)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Myerson MS, Fisher RT, Burgess AR, et al.(1986)Fracture dislocations of the tarsometatarsal joints: end results correlated with pathology and treatment. Foot Ankle, 6(5):225–42. PMID: 3710321
Ly TV, Coetzee JC(2006)Treatment of primarily ligamentous Lisfranc joint injuries: primary arthrodesis compared with open reduction and internal fixation. A prospective, randomized study. J Bone Joint Surg Am, 88(3):514–20. PMID: 16510816
Henning JA, Jones CB, Sietsema DL, et al.(2009)Open reduction internal fixation versus primary arthrodesis for Lisfranc injuries: a prospective randomized study. Foot Ankle Int, 30(10):913–22. PMID: 19796583
Rankine JJ, Nicholas CM, Wells G, et al.(2012)The diagnostic accuracy of foot x-rays for the diagnosis of Lisfranc injuries. J Emerg Med, 43(2):e165–e169.
Watson TS, Shurnas PS, Denney J(2010)Treatment of Lisfranc joint injury: current concepts. J Am Acad Orthop Surg, 18(12):718–28. PMID: 21119138