踵骨の関節外骨折のうち骨折線が3骨片以上に分裂した粉砕型 。AO分類71-A2に相当し、距骨下関節(後距骨下関節)への関与がないことがB・C型と異なる本質的特徴である。受傷機転は転落・高所落下が主体で、Böhler角・Gissane角の保持と腸骨稜・踵骨隆起の高さ回復が機能予後の鍵 となる。軟部組織への圧迫・腓骨筋腱脱臼・コンパートメント症候群に早期から注意を払う。
重症度・疫学
発生頻度: 踵骨骨折は多く発生し、足根骨損傷の約60%を占める[1]
好発: 30〜50代の活動的男性(高エネルギー転落)、高齢者(骨粗鬆症性低エネルギー転落)
受傷機転: 軸圧で距骨が尾側方向へ踵骨に押されて生じる。脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併するため、正確に評価する[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群(内側・外側・深後部コンパートメント。受傷後6〜12時間が最高リスク期、発生率5〜10%)
外果と外方転位した踵骨外側壁のインピンジメント(手術適応の一つ)[5]
腓腹神経損傷(拡大外側進入法では皮切の近位端と遠位端で損傷する危険がある)[1]
踵骨高さの低下・隆起の内反変形(内反転位は足底の接地面を変え、足や足関節での正常な荷重を妨げる)[1]
深部感染(術後。頻度は少ないが起きると悲惨な結果となり、開放骨折・喫煙・コンプライアンス不良・糖尿病が創傷治癒関連合併症の危険因子)[1]
変形性距骨下関節症(関節面の整復不良から発生する場合があり、粉砕が著しいほど末期の距骨下関節症との関連が高い)[1]
DVT/PE(長管骨骨折・非荷重期間延長で発生リスク上昇)
治療方針
⚠️ 保存療法(適応条件)
→ 関節の転位が最小限の場合、踵骨全体の位置が許容範囲内の場合、手術治療が禁忌の場合は保存的に治療し、早期から機能訓練を開始する。軟部組織の腫脹が適度に消退してから足関節・距骨下関節の可動域運動を始め、通常6〜12週後に骨折治癒が確認されるまで荷重を制限する[1] → 腫脹・水疱のある足、末梢血管疾患、神経障害、内科的に体調不良の患者、コンプライアンスが欠如している永久的な頭部外傷または精神科患者、アルコール・薬物乱用は手術の禁忌である[1] → ORIFを予定する患者では軟部組織の腫脹が軽減するまで手術を遅らせ、その間は患肢の挙上が不可欠である。開放骨折は緊急に手術が必要である[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術適応(絶対的):開放骨折、皮膚損傷(舌状型骨折での後方の皮膚)、足の形態と踵の位置の不良、後足部の脱臼骨折[1] ℹ 最小侵襲手技:全身状態や軟部組織の状態によっては適応となり、一次的骨折線のみをもつ舌状型や関節陥没型で特に有用である。侵襲の大きな手術に耐えられない患者では、ピンやスクリューによる限局的な内固定や経皮的固定で整復位を保持する[1] ℹ 多骨片(粉砕)骨折:ロッキングプレートが整復位の保持に有用な可能性があるが、従来のノンロッキングプレート固定より力学的に勝るわけではない[1] ℹ 踵骨隆起骨折(アキレス腱付着部型):縦割アプローチまたはアキレス腱傍アプローチで骨片を整復・スクリュー固定 ℹ 腓骨筋腱脱臼の合併:踵骨固定と同時に腱鞘修復または腱鞘形成術を施行
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診断・評価
軟部組織の著しい腫脹が多くみられ、外傷の外力と持続する骨折転位の組み合わせに関連する。脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併するため、正確に評価する [1] 。
X線: 足の3方向(正面・側面・斜位)と軸射位(Harris view)を撮影する。側面像でBöhler角(踵骨隆起上縁と距骨後関節部を結ぶ線と、距骨後関節部と踵骨前方突起を結ぶ線のなす角。正常25〜40°)の減少を評価し、斜位・正面像で踵立方関節に及ぶ骨折線を確認する[1] 。
CT: 骨折形態を完全に理解するには横断面と冠状面のCTが不可欠である。横断面では踵立方関節に及ぶ骨折線を、冠状面では後距踵関節面への影響と踵骨隆起の短縮・位置を評価し、矢状面再構築で損傷の詳細を把握する[1] 。
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✅ 許容される整復
✓ Böhler角の回復 ✓ 踵骨幅の増大と内反の矯正(軸射位像で内反が残っていないことを確認)[1] ✓ 踵の高さと位置の回復(踵骨全体のアライメントの正確な再建)[1] ✓ 後距骨下関節面への骨折波及なし(A2型の確認)
❌ 許容されない変形
✕ Böhler角の減少(X線側面像でのBöhler角の減少は関節損傷と転位〔陥没〕の重症度を示す。15°以上であれば保存的治療を検討できる)[1] ✕ 踵骨隆起の内反転位(足底の接地面が変わり、足や足関節で正常に荷重できなくなる)[1] ✕ 関節外転位による踵骨の高さの喪失・横径の増大[1] ✕ 開放骨折(緊急に手術が必要)[1]
手術手技
体位
側臥位: 滅菌した枕を患側の足関節の下におき、足をわずかに内反させる。側面像と軸位像を撮影するときは透視装置を手術台の尾側から入れる[1] 。
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経外側アプローチによるORIF — 高度粉砕型の第一選択
皮切(Step 1): 拡大外側進入法で、アキレス腱と平行な縦皮切と踵骨足底面と平行な横皮切をおく。踵骨外側を骨膜下に剥離して腓腹神経・腓骨筋腱・踵腓靱帯を含む全層性の皮弁を作製し、徒手的牽引または距骨・外果・立方骨に挿入したK-ワイヤで視野を確保して、進入や整復の最中は皮弁を保護する[1]
踵骨外側壁(Step 2): 外方化した外側壁骨片が起こしている腓骨とのインピンジメントを解除する[1]
Böhler角・踵骨高さの回復(Step 3): 踵骨結節(隆起)にシャンツピンを刺入し、外反・牽引操作でBöhler角と踵骨高さを回復。K-wireで仮固定
骨欠損への骨移植(Step 4): 手術例の報告では、Gissane角部の著しい粉砕や踵骨体部の大きな海綿骨欠損がある場合に骨移植または人工骨を用いている[5]
外側プレート設置(Step 5): 外側プレートは隆起骨片から前方突起までかけ、プレート穴から内側の載距突起も個別にスクリュー固定できるのが理想である。小さく薄い(low-profile)インプラントは大きく厚めのプレートと同様の生体力学的性質をもつ[1]
腓骨筋腱・腱鞘の確認(Step 6): 腱脱臼・断裂の有無を確認し、必要に応じて腱鞘修復を同時施行
最終透視確認: K-ワイヤで整復位を保持し、直視と術中透視(側面・軸射・斜位像)で隆起の整復状態と踵骨の高さ・長さを評価する[1]
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 拡大外側進入法の皮切の角は皮膚壊死が起こりやすい — 術後の創傷治癒の問題は珍しくない[1] ✕ 腫脹が強い時期の早期ORIF — 創傷治癒の問題を最小限にするため、外側の予定皮切部にしわがよる(wrinkle sign)まで待つ(通常受傷後7〜14日)[1] ✕ スクリューの距骨下関節穿通 — 転位のある関節内骨折のORIFでは、術後CTでスクリューが距骨下関節または踵立方関節の近傍・関節内にあったのが11足(5%)で、後距踵関節面を貫いた2例は抜去の再手術を要した[3] ✕ 骨欠損の見落とし — 手術例では、Gissane角部の著明な粉砕や踵骨体部の大きな海綿骨欠損があるときに骨移植または人工骨を用いている[5] ✕ 腓骨筋腱の偏位・嵌頓の見落とし — CTで腱の位置を確認する
術後管理
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手術タイミング: 受傷後は患肢を挙上し、ORIFは軟部組織の腫脹が軽減するまで待つ。足部外側の手術創予定部位にしわ(wrinkle sign)が出れば適切な時期の目安で、通常受傷後7〜14日[1] 。開放骨折と経皮的手術の患者は緊急に手術する[1]
術後荷重: 粉砕の程度や固定の安定性に応じて、荷重は術後8〜12週まで行わない。以降は症状に応じて活動を徐々に広げ、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置を併用
疼痛管理: 多モード鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・局所浸潤麻酔)。術後48〜72時間はオピオイドを必要に応じて使用し、以降は早期離脱を目指す
リハビリテーション: 数日間は下肢を心臓よりやや高く挙上し、創部の状態が許せば、通常術後2〜5日で足関節・距骨下関節の可動域運動を開始する[1]
フォローアップ
術後2〜4週: 外来で経過を確認する[3]
術後6週: X線側面像・軸射像[1]
術後12週: X線側面像・軸射像[1]
術後6か月: X線側面像・軸射像。受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
術後1年: X線側面像・軸射像[1]
予後
骨癒合率:関節外骨折(A型)は90〜95%(B・C型に比べ良好)
機能予後:AOFAS Ankle-Hindfoot Score 術後12ヶ月で平均75〜85点(正常100点)
距骨下関節症:受傷自体に由来するほか、関節面の整復不良から発生する場合もあり、粉砕が著しいほど末期の距骨下関節症との関連が高い[1]
主要合併症:手術例の創傷合併症は、丁寧な術中操作・注意深い創閉鎖・適切な手術時期により2〜10%に減らせる[1] 。一方、190骨折の手術例では25%に何らかの創傷合併症が生じ、21%は手術治療を要した[5] 。深部感染は頻度は少ないが、起きると重篤な結果になる[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(71-A2 = 関節外・粉砕型。後距骨下関節面への関与なし) 2 Böhler角の計測完了(X線側面像。正常25〜40°)[1] 3 軸射位像(Harris view)で踵骨隆起の内反・短縮と踵幅の増大の評価完了[1] 4 CT評価完了(横断面・冠状面。踵立方関節に及ぶ骨折線、後関節面への影響、踵骨隆起の短縮や位置)[1] 5 脊椎・四肢の合併骨折の評価完了[1] 6 コンパートメント症候群の有無(内側・外側コンパートメント硬度・神経症状) 7 軟部組織の状態の確認(腫脹・水疱の有無、後足部外側のwrinkle sign → 手術タイミング判断)[1] 8 術後荷重スケジュール確認(粉砕の程度・固定の安定性に応じ術後8〜12週まで非荷重 → 以降は症状に応じて活動を拡大)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Essex-Lopresti P(1952)The mechanism, reduction technique, and results in fractures of the os calcis. Br J Surg, 39(157):395–419. PMID: 14925322
Buckley R, Tough S, McCormack R, et al.(2002)Operative compared with nonoperative treatment of displaced intra-articular calcaneal fractures. J Bone Joint Surg Am, 84(10):1733–44. PMID: 12377902
Janzen DL, Connell DG, Munk PL, et al.(1992)Intraarticular fractures of the calcaneus: value of CT findings in determining prognosis. AJR Am J Roentgenol, 158(6):1271–4. PMID: 1590122
Folk JW, Starr AJ, Early JS(1999)Early wound complications of operative treatment of calcaneus fractures. J Orthop Trauma, 13(6):369–72. PMID: 10406705