踵骨の関節外骨折のうち、踵骨隆起・踵骨体部・前方突起に多骨片が生じる複雑型。AO分類71-A3に相当する。距骨下関節面(後距骨下関節面)には骨折線が及ばないが、踵骨の高さ・幅・長軸アライメントの複合的な破綻が機能障害の主因となる。アキレス腱付着部を含む骨片の転位や、踵骨隆起の上方転位(Böhler角消失)が治療方針を左右する最重要因子であり、軟部組織損傷と骨片数の評価がアプローチ選択の前提となる。
重症度・疫学
発生頻度: 踵骨骨折は多く発生し、足根骨損傷の約60%を占める[1]
好発: 転位した関節内踵骨骨折の症例では受傷時年齢が平均40歳(15〜68歳)で、6割を超えるのが30〜49歳[3]
受傷機転: 高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷が主因で、軸圧により距骨は尾側方向へ踵骨に押される。脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併するので正確に評価する[1]
注意すべき合併症
- 創部壊死・感染(拡大外側進入法の皮切の角は皮膚壊死が起こりやすい。丁寧な術中操作・注意深い創閉鎖・適切な手術時期で創傷合併症は2〜10%に減らせる)[1]
- 腓腹神経損傷(拡大外側進入法では皮切の近位端・遠位端で損傷の危険があり、文献では最大10%まで報告)[4]
- 踵骨骨髄炎・深部感染(頻度は少ないがいったん起きると悲惨な結果が生じる。開放骨折・喫煙・コンプライアンス不良・糖尿病が創傷治癒に関連する合併症の危険因子)[1]
- 変形癒合(不十分な整復あるいは整復位の保持不全に由来する踵骨形態の破綻)[1]
- 腓骨筋腱炎・腱脱臼(外側壁が腓骨遠位端に対して腓骨筋腱を亜脱臼または脱臼させることで生じ、保存療法後に多い)[2]
- 踵部痛(heel padの特有の隔壁構造の損傷による慢性の踵部疼痛)[2]
- 静脈血栓症(DVT/PE)
- コンパートメント症候群(足部、とくに踵骨コンパートメント。圧を測定し、拡張期圧との差が10〜30mmHg以内になれば筋区画切開を行う)[2]
治療方針
⚠️ 保存療法(限定的適応)
- →関節の転位が最小限で踵骨全体の位置が許容範囲内の場合、または手術治療が禁忌の場合に保存的に治療する(側面像のBöhler角が15°以上なら保存的治療を検討できる)[1]
- →早期から機能訓練を開始し、腫脹が適度に消退してから足関節・距骨下関節の全可動域運動を始める。荷重は通常6〜12週後に骨折治癒が確認されるまで制限する[1]
- →非手術療法の適応には、非転位骨折のほか、重度の末梢血管障害・インスリン依存性糖尿病・手術が禁忌となるその他の内科的問題がある[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ手術適応(絶対的)は開放骨折・舌状型骨折による後方皮膚の損傷・足の形態と踵の位置が不良・後足部の脱臼骨折。相対的適応に重度の関節粉砕、2mmを超える関節面の転位、両側踵骨骨折がある[1]
- ℹ踵骨体部・前方突起の骨折:拡大外側進入法(extensile lateral approach)で踵骨外側全体・前方突起・中関節面を展開し、外側プレートを隆起骨片から前方突起までかけて固定する[1]
- ℹ最小侵襲手技:全身状態や軟部組織の状態によっては適応となり、透視下に小皮切をおいて関節面を整復し、慎重に挿入したピンやスクリューで限局的な内固定・経皮的固定を行う[1]
- ℹ手術時期:開放骨折の患者および経皮的な手術治療を受ける患者は緊急に手術が必要で、ORIFの患者は軟部組織の腫脹が軽減するまで手術を遅らせる[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
踵部の著明な腫脹・皮下出血と、踵部の緊満した筋膜内への出血量に応じた強い疼痛。受傷から6時間以上たつと外側の皮膚は腫脹して皮膚のしわが消える。転位のある踵骨骨折では軟部組織の状態が手術時期を決定する最重要要素であり、水疱の有無と後足部外側のしわ(wrinkle sign)を評価し、腓骨外果の触診で腓骨筋腱の脱臼を確認する[1][2]
X線正面像・側面像・Harris view(踵骨軸位像): 側面像でBöhler角(通常20〜40°)の減少とGissane角(距骨外側突起の直下にみられる鈍角)を評価し、軸射位像で関節の転位・隆起の角変形・踵幅の増大をみる。正面・斜位像では踵立方関節に及ぶ骨折線を描出する[2]
CT: 横断面では踵骨前方突起をとおって踵立方関節に及ぶ骨折線、冠状面では踵骨後関節面への影響と踵骨隆起の短縮・位置が描出され、矢状面再構築でさらに損傷の詳細を理解する。骨折形態を完全に理解するには横断面と冠状面のCTが不可欠[1]
術前X線側面像・Harris view(踵骨軸位像) — Böhler角・Gissane角の計測。踵骨の高さ・幅・後距骨下関節面の評価
CT矢状断・冠状断 — 骨片数・転位量・アキレス腱付着部骨片・後距骨下関節面の温存確認
✅ 許容される整復
- ✓Böhler角を正常(通常20〜40°)の5°以内に回復させる[2]
- ✓Gissane角(距骨外側突起の直下にみられる鈍角)を正常の5°以内に回復させる[2]
- ✓踵骨体部の整復により高さ・幅・長さを再建する(外側進入法では粉砕の程度によらず一貫して再現できる)[2]
- ✓後距骨下関節面への骨折波及なし(骨折形態の把握には横断面と冠状面のCTが不可欠で、冠状面像で踵骨後関節面への影響を確認する)[1]
- ✓踵骨隆起骨片を載距突起骨片に整復し、長さの回復・内反変形の修復・隆起の内側への移動を得る[1]
❌ 許容されない変形
- ✕Böhler角の減少が残存する(踵骨隆起の近位転位と高さの喪失を示し、受傷時のBöhler角が0°以下では距骨下関節固定に至る症例が多い)[1]
- ✕外側壁の外方化・踵幅の増大が残る(腓骨筋腱を腓骨先端に亜脱臼させ、あるいは脱臼させて腓骨インピンジメントの原因となる)[2]
- ✕踵骨隆起骨片の転位が残存する
- ✕後距踵関節面の転位が残存する(距骨下関節の整復不良は関節症の発生に関係するので避ける)[1]
- ✕高度内反変形(隆起の内反転位は足底の接地面を変化させ、足や足関節における正常な荷重ができなくなる)[1]
手術手技
体位
側臥位(患側上): 患者を側臥位にすると進入や整復がしやすい。滅菌した枕を患側の足関節の下におき足をわずかに内反させる。側面像・軸位像は透視装置を手術台の尾側から入れて撮影し、採骨に備えて腸骨稜も消毒する[1]
体位・透視設定 — 側臥位(患側上)・踵部突出・術中透視設定(正面・側面・軸位の3方向確認)
ORIF(拡大外側アプローチ+踵骨プレート)
- 皮膚切開(Step 1): 拡大外側進入法。縦皮切はアキレス腱のすぐ前方で腓骨遠位端のやや近位から始め、横皮切は皮下出血の遠位端に沿って第5中足骨基部遠位に達し、踵で比較的鋭角に2つをつなぐ。骨膜下に剥離して腓腹神経・腓骨筋腱・踵腓靱帯を含む全層皮弁を作製する[1]
- 整復の評価と仮固定(Step 2): 踵骨全体を整復してK-ワイヤで整復位を保持し、直視と透視で術中評価する。側面・軸射・斜位像(Broden view)で隆起と後距踵関節面の整復状態、踵骨の高さ・長さを評価する[1]
- 踵骨隆起骨片の整復(Step 3): Schanzスクリューを挿入して長さを回復し、内反変形を修復して隆起を内側へ移動する。骨膜剥離子で嵌入を解除し、載距突起骨片を指標に整復する[1]
- プレート固定(Step 4): 外側プレートを隆起骨片から前方突起までかけ、プレート穴をとおして内側載距突起にもスクリューを入れる。整復した後距踵関節面へのラグスクリューはプレート設置前にプレート穴をとおすか単独で挿入する[1]
- 最終透視確認(Step 5): 解剖学的整復を確かめるため、術中透視でBroden像・側面像・軸射像を撮影する[2]
- 閉創(Step 6): 皮切は層々縫合し、深層は辺縁から中心に引き寄せて骨膜を含む複数の結節縫合を行う。皮膚はAllgöwer-Donati縫合変法で緊張なく結節縫合し、ドレーンは術後2日までに抜去する[1]
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕皮膚テンション下での手術 — 軟部組織の状態が手術時期を決定する最重要要素。足部外側の予定皮切部にしわがよれば適切な時期で、通常受傷後7〜14日[1]
- ✕腓腹神経・腓骨筋腱の損傷 — 皮弁剥離は骨膜下に止め、軟部組織を一括で起こす
- ✕スクリューの距骨下関節貫通 — ラグスクリューは載距突起に向けて挿入し、K-ワイヤで整復位を保持したうえで透視の側面・軸射・斜位像で位置を確認する[1]
- ✕踵骨外側壁の整復不全 — 外方化した外側壁骨片は腓骨のインピンジメントを起こすため、整復の最後に外壁を元に戻す[1]
- ✕早期荷重による固定破綻 — 粉砕の程度や固定の安定性によるが、荷重は術後8〜12週まで行わない[1]
経皮的スクリュー固定(Percutaneous Technique) — 軟部組織損傷高度例・最小侵襲アプローチ
- 適応: 患者の全身状態や軟部組織の状態によっては最小侵襲手技が適応となる。軟部組織の状態によって十分な外科進入が困難な場合は限局した経皮的手技を用いる[1]
- 踵骨隆起骨片の整復: 隆起骨片にはSchanzスクリューを挿入し、長さの回復・内反変形の修復・隆起の内方移動を行う。整復位は慎重に挿入したピンやスクリューで経皮的に保持する[1]
- Sinus tarsi(足根洞)アプローチ: 転位した関節内踵骨骨折に対する限局外側進入で、拡大外側進入で合併症リスクが高い症例や選択例に有用とされる[4]
- 手術時期の調整: 患肢を挙上し、観血的整復内固定は軟部組織の腫脹が軽減するまで遅らせる。開放骨折は緊急に手術が必要[1]
術後管理
術後X線側面像・軸位像 — 踵骨プレート・スクリュー設置。Böhler角回復・踵骨幅正常化・後距骨下関節温存を確認
手術タイミング: 軟部組織の状態が手術時期を決める最重要要素。手術創の予定部位に皮膚のしわ(wrinkle sign)がよれば適切な時期の目安で、通常は受傷後7〜14日。開放骨折は緊急手術の適応[1]
術後荷重: 粉砕の程度や固定の安定性によるが、荷重は術後8〜12週まで行わない。活動は症状によって徐々に拡大し、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
創治癒への配慮: 創治癒に対する考慮から、術後数日間は下肢を心臓よりやや高く挙上する[1]
リハビリテーション: 創部の状態が許せばすぐに、通常術後2〜5日で足関節および距骨下関節の可動域運動を開始する。活動は症状によって徐々に拡大する[1]
フォローアップ
- 術後3週: 抜糸・創部確認(装具に変更し、装具を外しての可動域訓練を開始)[2]
- 術後6週: X線(側面・軸射像で整復位と癒合の評価)[1]
- 術後12週: X線(側面・軸射像)。荷重は粉砕の程度と固定の安定性により術後8〜12週まで行わない[1]
- 術後6か月: X線(側面・軸射像)。受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
- 術後1年: X線(側面・軸射像)で骨癒合と踵骨のアライメントを評価[1]
予後
- 関節外・関節内の両方の解剖を正確に再建することが最良の成績につながる
- 距骨下関節症は後距踵関節面を正確に整復しても発生しうる
- 創部合併症:丁寧な術中操作・注意深い創閉鎖・適切な手術時期に注意すれば発生率を2〜10%に減らせる。開放骨折・喫煙・コンプライアンス不良・糖尿病は危険因子[1]
- 主要合併症:拡大外側進入では浅い感染・軽微な創合併症が6.6〜19.7%、深部感染が0.5〜5.6%[4]。腓腹神経は皮切の近位端と遠位端で損傷しうる[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(71-A3 = 関節外・複雑型。後距骨下関節面非侵犯を確認)
- 2Böhler角・Gissane角の計測完了(いずれもX線側面像で計測。Böhler角の正常値は25〜40°)[1]
- 3軟部組織評価完了(水疱・腫脹・Wrinkle sign・踵部皮膚テンション)
- 4踵骨隆起骨片の転位・角状変形(短縮や内反)と踵骨幅の増大を軸射位像で確認[1]
- 5後距骨下関節面の温存確認(横断面と冠状面のCTが骨折形態の把握に不可欠。矢状面のCT再構築でさらに損傷の詳細を理解する)[1]
- 6神経・血管評価(拡大外側進入法では皮切の近位端・遠位端で腓腹神経を損傷する危険があり、厚い内側壁には後脛骨神経血管が近接する)[1]
- 7対側踵骨・脊椎を含む合併骨折の検索(踵骨骨折は脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併する)[1]
- 8手術タイミング判断(Wrinkle sign陽性・腫脹軽減・受傷後7〜14日を目安)[1]
- 9荷重開始時期の計画を確認(粉砕の程度や固定の安定性によるが荷重は術後8〜12週まで行わず、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける)[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Sanders R(2000)Displaced intra-articular fractures of the calcaneus. J Bone Joint Surg Am, 82:225–50. PMID: 10682732
- Buckley R, Tough S, McCormack R, et al.(2002)Operative compared with nonoperative treatment of displaced intra-articular calcaneal fractures. J Bone Joint Surg Am, 84:1733–44. PMID: 12377902
- Schepers T(2011)The sinus tarsi approach in displaced intra-articular calcaneal fractures. Int Orthop, 35:697-703. PMID: 21336854
- Gaskill T, Schweitzer K, Nunley JA(2010)Comparison of surgical outcomes of intra-articular calcaneal fractures by age. J Bone Joint Surg Am, 92:2884–9. PMID: 21159988