骨盤輪の一側が完全不安定型(C型:後方支持構造の完全断裂)、対側がA型(安定型)またはB型(部分不安定型)の非対称パターンを呈するAO分類61-C2に相当する。一側の後方輪が完全に破綻しているため骨盤輪全体として不安定だが、対側の後方構造が部分的に温存されている点が両側完全断裂(61-C3)と異なる。大量出血・骨盤内臓器損傷・神経損傷を高率に合併する。初期ダメージコントロールと早期外固定が生命予後に直結する。
重症度・疫学
年間発生件数: 骨盤外傷全体では全骨折の約3%、人口10万人あたり年間19〜37例[1]
好発: 高エネルギー外傷(交通事故・高所転落・圧挫傷)。男性に多い(男女比 2:1)
受傷機転: 前後圧縮(APC)・垂直剪断(VS)・複合機転(LC-VS)が主体。両側C型は垂直剪断力が両側後方輪に作用することで生じる
Tile分類との対応: Tile Type C(垂直・回旋方向で不安定)のgrade 2。C1は片側、C2は両側損傷で片側type B・対側type C1、C3は両側ともtype C[1]
初期致死率: 大量骨盤内出血による出血性ショックが最大の死因(院内死亡率 10〜20%)
注意すべき合併症
- 骨盤内大量出血(内腸骨動脈・仙骨前静脈叢損傷):発生率 40〜60%、輸血必要例多数
- 膀胱・尿道損傷(特に前方輪骨折合併時):発生率 10〜20%
- 直腸・肛門損傷(開放性骨盤骨折):発生率 2〜5%、致死的合併症
- 腰仙骨神経叢損傷:長期的な問題の予後は不良[1]
- 深部静脈血栓症(DVT)/ 肺塞栓症(PE):それぞれ35〜61%・2〜10%で合併し、入院中は持続的に予防投与する[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →AP3・VSなどの不安定型では前輪と後輪の整復・固定が必要[1]
- →例外:手術リスクが極めて高い終末期患者のみ緩和的管理を考慮
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ第一選択(急性期):骨盤外固定器(創外固定)+仙腸関節スクリュー固定
- ℹ血行動態不安定例:大動脈バルーン閉塞(REBOA)または骨盤内充填(パッキング)
- ℹ後方固定:経皮的仙腸関節スクリュー。血行動態の安定している患者では受傷後14日以内、できれば2〜5日以内に最終内固定[1]
- ℹ前方固定:恥骨結合離開はプレート固定。複雑な恥骨枝骨折で回旋または垂直方向に不安定な場合はInfixを後方固定と組み合わせる[1]
- ℹ神経損傷合併例:仙骨骨折では、仙骨神経叢の除圧ができ骨折線を直視できる後方進入法も選択肢となる[1]
治療選択アルゴリズム — 両側C型・ダメージコントロール→最終固定
診断・評価
骨盤輪の強い疼痛・下肢不等長・骨盤不安定(圧迫・離開試験陽性)・下肢神経症状。ショックバイタル(SBP <90 mmHg)を高率に呈する。X線AP像・inlet像・outlet像で後方骨盤輪の垂直転位・仙腸関節離開・仙骨骨折を確認。CT(薄切冠状断・矢状断)で両側後方破綻パターン・血管損傷・臓器損傷を評価する。
X線正面像(AP)— 両側仙腸関節離開・前方輪骨折
CT冠状断 — 両側後方輪断裂・仙骨骨折パターン
✅ 許容される整復
- ✓解剖学的整復(解剖学的整復と安定した内固定が得られれば、部分荷重や全荷重歩行を行える安定性が得られる)[1]
- ✓仙腸関節ギャップ ≦4mm
- ✓骨盤輪の対称性回復(outlet像で評価)
❌ 許容されない変形
- ✕垂直転位 >10mm(神経障害・歩行障害のリスク)
- ✕仙腸関節ギャップ >10mm(偽関節・疼痛)
- ✕前方輪の重大な転位残存(膀胱・尿道圧迫)
手術手技
体位
仰臥位: 放射線透過性の手術台に仰臥位とし、皮膚消毒の前に骨盤の正面像・インレット像・アウトレット像・斜位像をパイロット透視で確認する[1]。
手術体位・Cアームセットアップ — 仰臥位での骨盤骨折手術
経皮的仙腸関節スクリュー固定 — 第一選択(後方固定)
仙腸関節スクリュー固定模式図 — 両側経皮的固定・仙骨S1ゾーン
- 整復(Cアーム・牽引): 下肢牽引と骨盤クランプで垂直転位を整復。AP像・inlet像・outlet像の3方向で整復位を確認
- 刺入点決定: 殿筋稜前方15 mmの線上・中1/3を刺入点とし、インレット像・アウトレット像の透視下にS1椎体へ向ける[1]
- ガイドピン刺入: 透視下に仙腸関節を貫通させ、仙骨翼からS1椎体へ到達する経路で7.3または8.0 mmキャニュレイテッドスクリューのガイドピンを経皮的に刺入。コンピュータ支援手術でより安全に行える[1]
- スクリュー挿入: ワッシャー付きスクリューをS1椎体に挿入。S2椎体へのスクリューは椎弓根の直径が適当な大きさと確認できた場合にのみ追加[1]
- 前方固定(必要時): 恥骨結合離開には4穴プレート(多くは3.5シリーズ)によるORIFが標準で、APC損傷では適切な後方固定があればテンションバンドとして作用する。剪断力で離開したLC3損傷では4穴プレートは不適切で、6穴プレートやデュアルプレートによる追加固定が必要[1]
- 最終透視確認: AP / inlet / outlet 3方向でスクリュー位置・整復位・インプラントの良好な位置を確認
⚠️ 仙腸関節スクリューピットフォール
- ✕仙骨神経叢の医原性損傷 — Mattaの術中X線透視法(インレット像・アウトレット像)でリスクを最小にする[1]
- ✕S1骨道の狭窄(dysplastic sacrum)— 術前CT必読
- ✕不正確な整復位での固定 — 安定かつ安全な固定は正確な整復の後にのみ得られる[4]
骨盤創外固定(ダメージコントロール)
- ピン刺入: 腸骨稜にSchanzスクリューを挿入する高位ルート、または臼蓋上部(下前腸骨棘)にピンを刺入する低位ルートを選ぶ[1]
- フレーム組み立て: 水平バーで前方輪を安定化。骨盤容積の縮小効果で出血を減少
- 最終固定への移行: バインダー装着と出血コントロールにより、通常ICUで12〜36時間のうちに蘇生と全身状態の正常化を図り、最終内固定へ移行する[1]
術後管理
術後X線像 — 両側仙腸関節スクリュー+前方プレート固定後
手術タイミング: 血行動態不安定例は搬入後30分以内に骨盤の力学的不安定性・血行動態・腹腔内出血の有無を判断する[1]。不安定型の骨盤輪・寛骨臼骨折の手術例を後ろ向きに調べた研究では、受傷後24時間以内の最終固定は合併症の減少とICU在室日数の短縮に関連した[3]
術後荷重: 荷重制限の期間は8週間以内に留め、運動開始後にX線で遅発性の転位が無いかを確認する[1]
VTE予防: 骨盤外傷は血栓塞栓症を高頻度に合併するため、入院中は持続的に予防投与を行う。外来患者での戦略はさまざまだが、4週間の低分子量ヘパリン投与で合併症なく深部静脈血栓症の発生率が大幅に減少する[1]
疼痛管理: 多模式鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・オピオイド)。神経損傷合併例ではプレガバリン追加
リハビリテーション: 骨盤輪安定化のゴールは患者の早期可動であり、解剖学的整復と安定した内固定が得られれば部分荷重や全荷重歩行を行える安定性が得られる[1]
フォローアップ
- 術後早期:X線で二次的な転位が無いかを確認する。早期(14日以内)であれば外科的矯正が容易である[1]
- 運動開始後:観血的治療・保存的治療にかかわらずX線を撮影し、遅発性の転位が無いかを確認する[1]
- 術後12週:X線確認。骨癒合不良例は追加CT
- インプラント抜去:Infix適用例以外ではほとんど必要ないが、若年患者の経仙骨スクリューなど仙腸スクリューを抜去する外科医が増えており、抜去は合併症も少なく腰痛症状を軽減する[1]
予後
- 解剖学的再建:標準的な適応と手技を用いると、不安定な損傷でも80%以上の症例で得られる[1]
- 神経機能回復:L5〜S1根損傷の約50〜60%で部分回復(1〜2年かけて)
- 臨床成績:excellentまたはgoodは現在でも60%以下で、後方骨盤輪の非特異的疼痛や腰痛がよく報告されている[1]
- 機能障害:不安定な骨盤骨折から生存した患者には、疼痛・歩行障害・脚長差などの機能障害が残存することがある[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(61-C2 = 骨盤輪骨折・完全不安定型・一側C型+対側A/B型)
- 2患側の後方輪完全断裂(仙腸関節/仙骨骨折)と対側の部分温存をCTで確認済みか
- 3出血性ショック対応(輸血・腹膜外パッキング・血管造影と塞栓術)の記録
- 4膀胱・尿道損傷スクリーニング(CT膀胱造影 or 尿道造影)
- 5腰仙骨神経叢損傷の神経学的評価
- 6仙腸関節スクリューのインレット像・アウトレット像での位置評価(S1椎体内に挿入されているか)
- 7VTE予防プロトコル開始日と使用薬剤の記録
- 8荷重開始時期の計画(荷重制限の期間は8週間以内に留める)[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Tile M, Helfet DL, Kellam JF(2015)Fractures of the Pelvis and Acetabulum. 4th ed. Thieme.
- Vallier HA, Cureton BA, Ekstein C, et al.(2010)Early definitive stabilization of unstable pelvis and acetabulum fractures reduces morbidity. J Trauma. 69(3):677-684. PMID: 20838139
- Routt ML Jr, Nork SE, Mills WJ(2000)Percutaneous fixation of pelvic ring disruptions. Clin Orthop Relat Res, 375:15–29. PMID: 10853150