骨盤輪の後弓が両側ともに完全に破綻した型(Tile分類C3:両側ともtype C)で、骨盤輪は垂直方向・回旋方向に不安定となる[1]。血行動態が不安定な例では、多くの場合、初期には緊急のダメージコントロールのみを行うことが望ましく、さらなる手術は患者の全身状態を考慮して決定する[1]。
重症度・疫学
発生頻度: 骨盤輪損傷と寛骨臼骨折は全骨折の3〜8%を占める[3]
好発: 高エネルギー外傷(交通事故・高所からの転落)[1]。手術治療を受けた不安定型骨盤輪・寛骨臼骨折645例では男性478例・女性167例[3]
受傷機転: 骨盤に対して複数方向の強大な外力(正面圧迫+垂直剪断)が両側後方輪に同時作用することで生じる。自動車事故(特に側面衝突・正面衝突)、摩托車事故、重量物による骨盤挫滅が代表例
Tile分類との対応: Tile C(完全不安定)の両側完全型。61-C1(単側C型)・61-C2(一側C型+対側A/B型)より重篤な最高位重症度
死亡率: 骨盤輪損傷後の死亡率は 5〜18% で、重度の出血や開放骨折によることが多い[3]
注意すべき合併症
- 骨盤内出血:多くは仙骨部・膀胱周囲の静脈叢と骨折面からのじわじわとした出血で、出血源は仙骨前方にあることが多い[1]
- 膀胱破裂・尿道断裂(前方輪骨折合併):発生率 15〜25%
- 直腸・肛門損傷(開放性骨盤骨折):発生率 5〜10%、腸管漏出による致死的感染
- 腰仙骨神経叢損傷:泌尿生殖器損傷とともに、これに起因する長期的な問題の予後は不良である[1]
- Morel-Lavallée損傷(骨盤周囲デグロービング):閉鎖腔感染・壊死のリスク
- 深部静脈血栓症(DVT)/ 肺塞栓症(PE):骨盤外傷ではそれぞれ35〜61%・2〜10%で合併し、入院中は持続的に予防投与を行う[1]
- 創外固定ピン刺入部感染:早期最終固定への移行が遅れた場合に増加
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →両側C型(Tile C3:両側ともtype C)は垂直・回旋方向に不安定である[1]
- →例外:手術リスクが許容不能な終末期患者のみ緩和的管理(シーツ包帯固定)を考慮
- →重度の出血を伴う不安定型骨盤骨折では、骨盤容積を減らす整復のために一時的なシーツ・バインダー、クランプ、創外固定が推奨されてきたが、多くの骨盤輪骨折は創外固定では暫定固定できない[3]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ【フェーズ1 — 緊急】ペルビックバインダーまたはシーツで骨盤輪を安定化する。緊急治療での創外固定の適用は減っており、C-クランプの適応は制御不能な出血を伴うTile C型骨折などに限られる[1]
- ℹ【フェーズ1 — 止血】血管造影+塞栓術、または開腹+腹膜外骨盤パッキング。効果的なタンポナーデ後も骨盤内の大量出血が続く場合は血管造影と塞栓術を行う[1]
- ℹ【フェーズ2 — 最終固定】血行動態の安定した患者では受傷後14日以内、できれば2〜5日以内に最終内固定を行う。骨盤輪後方の骨折・脱臼は経皮的スクリュー固定で治療できる[1]
- ℹ後方固定補強:腸骨-腸骨間プレート(ilioiliac plate)— 両側仙骨骨折・粉砕の強い例[1]
- ℹ前方固定:恥骨結合プレート。回旋または垂直方向に不安定な複雑な恥骨枝骨折では、必要に応じてInfixを後方固定と組み合わせる[1]
- ℹ開放創・直腸損傷合併:ストーマ造設 + 段階的デブリードメン
- ℹ神経損傷合併・転位高度な仙骨骨折:展開的整復(後方アプローチ)を考慮
治療選択アルゴリズム — 両側C型・ダメージコントロールから最終固定へ
診断・評価
骨盤部痛・下肢の異常肢位・側腹部や会陰の皮下出血・尿道口出血・恥骨上部や仙骨の圧痛が骨盤損傷の徴候となる。両側腸骨翼を圧迫する徒手的な安定性の検査は感度が低く、凝血塊を壊すおそれがあるため救急室では行わず、透視下の麻酔下検査(EUA)で評価する。FASTは偽陰性があり、陰性でも治療方針の決定には役立たない[1]。
X線評価: 骨盤正面(AP)・inlet像・outlet像の3方向で両側後方輪の垂直転位・仙腸関節離開・仙骨骨折を確認する。
CT評価: 骨盤骨折はしばしば複雑な損傷であり、早期のCT評価が必要となる。診断が不確かな場合や骨盤輪後方の損傷が疑われる場合は、CTが診断のゴールドスタンダードである[1]。
X線正面像(AP)— 両側後方輪断裂・両側垂直転位・恥骨結合離開
CT冠状断 + 3D再構成 — 両側仙腸関節断裂・両側仙骨骨折パターン
Inlet/Outlet像 — 両側垂直転位・回旋転位の定量的評価
✅ 許容される整復
- ✓垂直転位 ≦5mm(術後・両側)
- ✓仙腸関節ギャップ ≦4mm(両側)
- ✓骨盤輪の対称性回復(outlet像で評価)
- ✓恥骨結合離開 ≦10mm(前方固定後)
❌ 許容されない変形
- ✕垂直転位 >10mm(両側)— 神経障害・歩行障害・慢性疼痛の原因
- ✕仙腸関節ギャップ >10mm(偽関節・後方慢性疼痛)
- ✕仙腸関節スクリューによる神経血管損傷とそれに伴う重大な後遺症 — コンピュータ支援手術でより安全に行える[1]
- ✕前方輪の重大な転位残存(膀胱・尿道圧迫)
手術手技
体位
仰臥位(放射線透過性手術台): 患者は放射線透過性の手術台に仰臥位とし、皮膚消毒の前に骨盤の正面像・インレット像・アウトレット像・斜位像のパイロット透視で画像を確認しておく[1]。
手術体位・Cアームセットアップ — 仰臥位・両側同時操作可能な設定
両側経皮的仙腸関節スクリュー固定 — 第一選択(後方固定)
適応: 仙腸関節離開または仙骨骨折による後方不安定性。閉鎖的操作または観血的整復で正確な整復が得られた場合に経皮的固定の対象となる[4]。
両側仙腸関節スクリュー固定模式図 — 両側S1・S2ゾーン経皮的固定
- 整復: 前方・後方の不安定な骨盤輪損傷は、非観血的整復または観血的整復の後に経皮的固定が可能である。安定で安全な固定は、正確な整復を得てはじめて達成される[4]
- 刺入点決定(第一側): 腸骨仙骨貫通スクリューの挿入点は、殿筋稜前方15 mmの線上の中1/3とする[1]
- ガイドピン刺入(第一側): 7.3mmカニュレーテッドスクリューシステムのガイドピンを刺入。S1椎体safe zone通過をAP・inlet・outlet 3方向で確認。ナビゲーション補助を積極的に活用する
- スクリュー挿入(第一側): 仙腸関節破断には7.3 mmキャニュレイテッドスクリューをS1椎体内に挿入する。S2椎体への追加スクリューは椎弓根の直径が十分と確認できた場合に限る[1]
- 対側操作(第二側): 同手順を反復。両側の整復位・スクリュー位置をAP・inlet・outlet像で確認
- 前方固定: 恥骨結合はPfannenstiel横切開からプレートとスクリューで固定する。APC損傷では、必要に応じた適切な後方固定があれば4穴プレートがテンションバンドとして作用し十分な固定性が得られる。剪断力で恥骨結合が離開したLC3損傷では、6穴プレートやデュアルプレートによる追加の前方固定が必要である[1]
- 最終透視確認: AP・inlet・outlet 3方向で両側スクリュー位置・整復位・前方固定位置を確認
⚠️ 仙腸関節スクリュー(両側)ピットフォール
- ✕仙骨神経叢の医原性損傷 — Mattaが推奨した術中X線透視法で損傷のリスクを最小にする[1]
- ✕S2椎体へのスクリュー挿入 — 椎弓根の直径が適当な大きさであると確認できた場合にのみ行う[1]
- ✕不正確な整復のままの固定 — 正確な整復を得てから固定する[4]
- ✕対側整復後の第一側整復位の再確認忘れ — 両側固定後に全体確認
- ✕仙骨前方血管(L5・S1レベルの血管束)損傷 — inlet像での前縁逸脱防止
三角骨盤固定(Triangular Osteosynthesis)— 高度不安定例への補強
適応: 両側の仙骨骨折や粉砕の強い場合、腸骨-腸骨間プレート(ilioiliac plate)を用いる。ブロードLCP 5.0で両側の安定した固定が得られる[1]
骨盤創外固定(ダメージコントロール)
- 前方ピンの刺入: 臼蓋上部にピンを刺入する低位ルート、または腸骨稜にSchanzスクリューを挿入する高位ルートで、創外固定器を骨盤前方に設置する[1]
- フレーム組み立て: ペルビックバインダーの有効性が提唱されてから緊急治療における創外固定の適用は減っており、特定の複雑な状況では適応があるかもしれないが、症例数は限られる[1]
- 最終固定への移行: 血行動態の安定した患者では、受傷後14日以内(できれば2〜5日以内)に最終内固定へ移行する[1]
術後管理
術後X線像 — 両側仙腸関節スクリュー+前方プレート固定後(AP / Outlet像)
手術タイミング: 手術時期は全身状態によって異なる。ペルビックバインダーの装着と出血のコントロールにより、通常はICUで12〜36時間で蘇生と全身状態の正常化が得られる。緊急手術を要するのは、会陰創傷を伴う開放性骨盤骨折と、骨盤パッキングなしに出血をコントロールできない骨折に限られる[1]
術後荷重: 荷重制限の期間は8週間以内に留める。観血的治療・保存的治療にかかわらず、運動開始後にX線を撮影して遅発性の転位の有無を確認する[1]
VTE予防: 骨盤外傷は血栓塞栓症を高頻度に合併する(深部静脈血栓症 35〜61%、肺塞栓症 2〜10%)ため、入院中は持続的に予防投与を行う。外来では4週間の低分子量ヘパリン投与で深部静脈血栓症の発生率が大幅に減少する[1]
疼痛管理: 整復・固定による安定化は、一部の骨盤骨折での出血コントロールに加え、疼痛の緩和と離床をもたらす[3]
リハビリテーション: 骨盤輪安定化の目標は早期離床である。解剖学的整復と安定した内固定が得られれば、部分荷重・全荷重歩行を行える安定性が得られる[1]
フォローアップ
- 術後早期(14日以内):X線で二次的な転位の有無を確認。この時期なら外科的矯正が容易[1]
- 運動開始後:観血的・保存的治療にかかわらずX線を撮影し、遅発性の転位を確認する。荷重制限の期間は8週間以内に留める[1]
- 術後12週:X線またはCT確認。骨癒合不良例は追加CT・ADL評価
- 仙腸スクリュー(特に若年患者の経仙骨スクリュー)を抜去する外科医が増えている。抜去は合併症も少なく、腰痛症状を軽減する。一方、Infix適用例以外でインプラントの抜去はほとんど必要ない[1]
- 泌尿器・直腸・神経合併症の長期フォローを専門科と連携
予後
- 解剖学的再建:標準的な適応と手技を用いると、不安定な損傷でも80%以上の症例で得られる[1]
- 神経機能:腰仙神経叢損傷および泌尿生殖器損傷に起因する長期的な問題の予後は不良[1]
- 慢性疼痛:後方骨盤輪の非特異的疼痛や腰痛がよく報告されている。臨床的にexcellent/goodの成績は60%以下[1]
- 機能障害:不安定型骨盤骨折の生存例では、疼痛・歩行障害・脚長差などの機能障害が残存することがある[1]
- 性機能障害:骨盤骨折後の男性の61%にみられ、19%は持続的な性的不能を呈する。女性では性交疼痛症が残ることがある[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(61-C3 = 骨盤輪骨折・完全不安定型・両側C型)
- 2両側後方輪断裂(仙腸関節/仙骨骨折)をCTで確認済みか(Denis分類・骨道評価)
- 3出血性ショック対応の記録(輸血量・血管造影/塞栓術・骨盤パッキングの有無・タイミング)
- 4膀胱・尿道損傷スクリーニング(造影CT または尿道造影)
- 5直腸・肛門損傷の評価(開放性骨盤骨折の除外)
- 6腰仙骨神経叢損傷の神経学的評価
- 7両側仙腸関節スクリューのoutlet/inlet/AP 3方向での神経孔・safe zone確認(迷入なし)
- 8術後荷重スケジュールの確認(荷重制限は8週間以内に留め、運動開始後にX線で遅発性転位を確認)[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Tile M, Helfet DL, Kellam JF(2015)Fractures of the Pelvis and Acetabulum. 4th ed. Thieme.
- Vallier HA, Cureton BA, Ekstein C, et al.(2010)Early definitive stabilization of unstable pelvis and acetabulum fractures reduces morbidity. J Trauma. 69(3):677-684. PMID: 20838139
- Routt ML Jr, Nork SE, Mills WJ(2000)Percutaneous fixation of pelvic ring disruptions. Clin Orthop Relat Res, 375:15–29. PMID: 10853150