脛骨骨幹部の楔状(wedge)骨折 のうち屈曲楔状骨折にあたり、AO分類42-B2に相当する。AO/OTA分類では、Type Aは単一の骨折線をもつ単純な骨折、Type Bは中間の楔状骨片をもつ骨折、Type Cは多骨片や分節骨折をいう[1] 。転位している閉鎖骨折に対する標準治療は髄内釘(IM nailing) である[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 脛骨骨幹部骨折全体で約26/100,000/年(全骨折中頻度の高い骨折の一つ)。42-B型(楔状)は全脛骨幹部骨折の約20〜30%
好発: リスクが最も高いのは10代の少年で、発生率は39/10万人/年。脛骨骨幹部骨折の24%もが開放性とされる[1]
受傷機転: 髄内釘で治療した脛骨骨幹部骨折1226例では、転倒(29.0%)、自動車事故(20.9%)、歩行者の交通事故(20.2%)、バイク事故(11.7%)などが受傷機転であった[2]
治療方針: 転位している脛骨骨幹部閉鎖骨折には髄内釘が標準で、脛骨の開放骨折もリームドネイルで安全に治療できる[1] 。リームドとアンリームドの髄内釘を比較した無作為化比較試験では、閉鎖骨折でリームドの利点の可能性が示され、開放骨折では差がなかった[2]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:脛骨骨幹部骨折で最も重要な合併症。高エネルギー外傷・閉鎖骨折・楔状型で約5〜10%に発生。骨折後数時間〜24時間以内の発症が多く、見逃すと不可逆的な筋・神経障害
開放骨折(Gustilo分類):脛骨骨折の約25%が開放骨折。Gustilo分類は初期治療に役立ち、感染率・癒合率と相関する[1]
血管・神経損傷:動脈損傷は比較的多く、足背動脈と後脛骨動脈の拍動を必ず確認する。神経損傷は動脈損傷ほど多くないが、総腓骨神経と後脛骨神経の運動・知覚機能を評価する[1]
遷延癒合・偽関節:偽関節は脛骨骨折患者の最大14%に発生し、遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷で多い[1]
術後整列不良(マルアライメント):不十分な整復は回旋変形を伴う固定につながる。外旋変形は内旋変形の2倍の頻度で、単純な骨折型より複雑な骨折型で起こりやすい[1]
深部感染・骨髄炎:感染率は軟部組織損傷の程度と相関し、閉鎖骨折・Grade I/IIの開放骨折で約1%(Grade IIIaも適切な治療で同程度)、Grade IIIbで10〜40%[1]
DVT/PE:髄内釘で治療した脛骨骨幹部骨折1226例で、深部静脈血栓症9例・肺塞栓症7例がみられた[2]
治療方針
転位している脛骨骨幹部閉鎖骨折には髄内釘が標準であり、保存的治療を検討するのは不全骨折・疲労骨折・低エネルギー外傷による転位のない/少ない骨折である[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位している骨折には髄内釘が標準。保存群は横止めネイル群より痛みが多く、変形癒合率・遷延癒合率が高く、機能的転帰も劣った[1] → 不全骨折・疲労骨折・低エネルギー外傷による転位のない/少ない骨折では保存的治療を検討し、初期は十分に成形した石膏ギプス、疼痛軽減後は骨癒合まで機能的装具で荷重を漸増する[1] → 保存療法を選択する場合も週1〜2回のX線フォローで整復位の維持を確認する
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:髄内釘(Intramedullary Nailing / IMN)— 転位している脛骨骨幹部閉鎖骨折の標準治療。静的横止め髄内釘で固定した場合は、松葉杖による荷重の漸増をすぐに許可できる[1] ℹ ほとんどの脛骨骨折ではリーミングが最良の選択で、大きくて強いネイルが使用できる。横止めは近位2本・遠位2本が推奨[1] ℹ 整復が困難な非常に不安定な骨折では、経皮的な整復鉗子で補助し、ネイル挿入まで整復位を保持する(静的ロッキングが必要)[1] ℹ 代替術式:ORIF(プレート固定)— 近位1/3・遠位1/3の転位した不安定な骨折や、ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い、変形の既往歴、インプラント周囲骨折など)。屈曲楔状骨折では解剖学的整復後に骨片間ラグスクリュー固定と保護プレートで絶対的安定性を得る[1] ℹ 開放骨折:ダメージコントロールと創傷のデブリドマンが最良の治療戦略となりうる。整復後に創外固定器を装着するのが合理的な初期治療で、髄内釘への交換は受傷後2週間以内に行う[1] ℹ ダメージコントロール:多発外傷患者では創外固定器をダメージコントロール目的で用いる。それ以外では、開放骨折で重篤な汚染や大きな骨欠損がある症例を除き、創外固定器の適用を差し控える[1]
治療選択アルゴリズム — 髄内釘(第一選択)→ ORIF → 創外固定(開放骨折)
診断・評価
下肢全体の創傷・汚染・挫傷・腫脹・水疱の有無を観察して軟部組織損傷の重症度を評価し、神経血管検査は必ず行う[1] 。
42-B2の診断ポイント
脛骨のX線は標準的な正面像・側面像で、膝と足関節を含めるか別々に撮影する。重傷患者の外傷精査では四肢のCT血管造影が必要になることが多く、末梢循環と骨の状態の評価に役立つ[1] 。
X線像(AP/側面) — 脛骨骨幹部楔状骨折パターン(42-B2)
骨折パターン比較 — 42-B1(螺旋楔型)vs 42-B2(屈曲楔型)vs 42-B3(粉砕楔型)
【必須】 患側脛骨の正面・側面X線(膝と足関節を含めるか別々に撮影)、開放骨折では創の評価とGustilo分類[1]
✅ 許容される整復
✓ 長さ・アライメント・回旋を回復し、下肢の力学的な軸を復元する(機能的整復)[1] ✓ 回旋:術野に対側下肢を含めて比較し、回旋を評価する[1] ✓ 長さ:骨折した骨の適切な長さを修復することで角状変形が矯正される[1] ✓ 骨折部ギャップ:横方向のギャップは再手術を要する遷延癒合につながるため、髄内釘挿入後もギャップがあれば「back-tapping」で閉じる[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 内反 >5°(変形治癒・膝関節・足関節への長期的影響) ✕ 回旋変形:不十分な整復や成形不十分なプレートでの固定で生じ、脛骨では外旋変形が内旋変形の2倍の頻度でみられる[1] ✕ 創傷・腫脹・水疱など軟部組織の問題 → 手術のタイミングを決める要因となる[1] ✕ 足背動脈・後脛骨動脈の拍動異常 → 外科的な緊急事態。変形を矯正しても異常なら血管損傷を疑い、ただちに血管外科へコンサルト[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲位(半月型ボルスター使用・脛骨遠位端まで透視可能)
仰臥位(標準): 放射線透過性の手術台で三角枕を用いるか、パッド付き膝台で膝を可能な限り屈曲させる。膝の屈曲は脛骨後方皮質の穿孔を避けるためで、近位部骨折では半伸展位での上膝蓋アプローチも選択肢となる。透視装置は手術台の対側、骨折の内側に脛骨の長軸と垂直に配置する[1] 。
順行性髄内釘(Tibial IM Nailing)— 第一選択
エントリーポイント — 脛骨近位エントリー(膝蓋腱直下・内外側に中立)
整復: 徒手的な牽引や大腿骨ディストラクタで長さ・アライメント・回旋を回復する。骨幹部ではネイル挿入により骨折部が整復される。長さの回復後は経皮的に鉗子を装着して微調整し、ネイル挿入まで整復位を保持する[1]
エントリーポイント作成: 経膝蓋腱または傍膝蓋骨進入法(選択は執刀医の経験と好みによる)。エントリーポイントは正中線上で、軟骨のすぐ前方、脛骨粗面の十分上方。髄腔を開削する前に透視の正面像・側面像で確認する[1]
リーミング(拡髄): cortical chatterの感触が確認できるまでリーミングし、目的のネイル径より1〜1.5mm大きくリーミングしてネイルを挿入する。熱の発生を抑えるため鋭利なリーマを用いる[1]
リーミング — 段階的拡髄(8.5mmから開始)+楔状骨片の整復確認
ネイル挿入: 経皮的整復鉗子などで整復位を保持したままネイルを挿入する[1]
遠位ロッキング: 横止めは近位2本・遠位2本が推奨される。髄内釘挿入後もギャップがある場合は、先に遠位スクリューを挿入し、挿入デバイスをタッピングしてギャップを閉じてから近位を横止めする(back-tapping)[1]
楔状骨片の整復保持: 楔状骨片の転位が残る場合は、経皮的に装着した整復鉗子で最終的な整復を行い、ネイルを挿入するまで整復位を保持する[1]
近位ロッキング・最終確認: 近位ロッキングスクリュー2本を挿入する(近位2本・遠位2本の横止めが推奨)[1] 。回旋は、消毒・ドレーピングした対側肢と比較して評価する
遠位ロッキング(perfect circle法)+楔状骨片補助固定後の全体像
⚠️ 脛骨 IM ネイリングのピットフォール
✕ エントリーポイントのずれ → 正しいエントリーポイントは正中線上・軟骨のすぐ前方・脛骨粗面の十分上方で、髄腔開削前に透視の正面像・側面像で確認する[1] ✕ 膝屈曲不十分 → 脛骨後方皮質の穿孔(近位が弯曲したHerzog曲線の髄内釘は膝を屈曲して挿入する)[1] ✕ 楔状骨片の見落とし → 遠位ロッキング後に転位が判明し再手術が必要 ✕ 近位部骨折での近位骨片の伸展・外反変形 → Pollerスクリューを後方(冠状面で内側から外側へ)および外側(矢状面で前方から後方へ)に挿入して中和する[1] ✕ コンパートメント圧の監視忘れ → 術後24〜48時間以内に症状を見逃す
プレート固定(ORIF)— 代替術式
プレート固定は、脛骨骨幹部近位1/3や遠位1/3の転位した不安定な骨折、正確な解剖学的整復が必要な症例、ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い、変形の既往歴、インプラント周囲骨折など)で適応となる[1] 。前内側または前外側アプローチを用い、ナローLC-DCP 4.5またはLCP 5.0/4.5で固定する[1] 。type Bの屈曲楔状骨折では、直接的に解剖学的整復を得て骨片間をラグスクリューで固定し、次いで保護あるいは圧迫プレート固定をして絶対的安定性を得る[1] 。
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 脛骨髄内釘+静的ロッキング(楔状骨片の整復確認)
手術タイミング: 患者要因(多発外傷・併存疾患・創傷・腫脹・水疱など)で決まり、合併症の発生を注意深く観察しながら行う早期の手術治療が最も理想的とされる[1] 。開放骨折・多発外傷ではダメージコントロールと創傷のデブリドマンが最良の治療戦略となりうる。軟部組織は早期デブリドマンに続く繰り返しのデブリドマンと5〜7日以内の被覆が最良とされるが、一部の外傷治療システムは軟部組織の根治的な治療を72時間以内に行うことを推奨している[1]
術後荷重: 静的横止め髄内釘で固定した場合は、松葉杖による荷重の漸増をすぐに許可する[1] 。プレート固定では部分荷重(10〜15kg)での立ち上がりを許可し、4〜6週間で荷重を増やし、元の骨折型と臨床経過に応じて術後12週間で全荷重を許可する[1]
VTE予防: 深部静脈血栓症・肺塞栓症に注意する(脛骨骨幹部骨折を髄内釘で固定した1226例で深部静脈血栓症9例・肺塞栓症7例)[2]
疼痛管理: 術直後の数日間は浮腫軽減のため患肢を挙上し、定期的に鎮痛薬を投与する[1] 。区域麻酔(坐骨神経ブロック)は術後コンパートメント症候群の評価を妨げる可能性があるため慎重に適用
リハビリテーション: 手術直後の数日間は浮腫を軽減するために患肢を挙上し、足関節の尖足変形や膝の屈曲変形を防ぐために積極的な関節運動を行う[1] 。荷重の漸増に合わせて歩行訓練を進める
コンパートメント監視: 術後48時間は前方・外側・深後方・浅後方の4コンパートメントを経時的に評価。疼痛・張り感・足趾他動伸展痛・感覚障害があれば緊急コンパートメント測定
フォローアップ
術後2週: 創部確認(開放骨折では感染徴候の評価)・X線撮影(アライメント・楔状骨片位置・スクリュー位置)
術後6週: プレート固定例では、部分荷重(10〜15kg)から4〜6週間で荷重を増やす[1]
術後12週: プレート固定例では、元の骨折型と臨床経過に応じて術後12週間で全荷重を許可できる[1] 。偽関節に対する再手術を少なくとも術後6か月まで待つと、再手術の必要が大きく減る可能性がある[2]
術後24週(6ヶ月): 骨癒合を確認する(単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘で固定した場合、6か月で十分に治癒する)[1]
骨癒合後: 脛骨インプラントの抜去を求める患者は全例の約30%である[1]
予後
骨癒合:髄内釘で固定した1226例のうち、偽関節のためインプラント交換または骨移植を要したのは57例(4.6%)[2]
骨癒合期間:単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘で固定した場合、6か月で十分に治癒する[1]
コンパートメント症候群:脛骨骨折の9%もの症例で発生する[1]
偽関節:脛骨骨折患者の最大14%に発生し、遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷で多い[1]
回旋変形:外旋変形は内旋変形の2倍の頻度でみられ、単純な骨折型より複雑な骨折型で起こりやすい[1]
感染(深部):閉鎖骨折・Gustilo I/II開放骨折で約1%(IIIaも適切な治療で同程度)、IIIbで10〜40%[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(42-B2 = 脛骨骨幹部楔状・屈曲型骨折) 2 部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3) 3 開放骨折の有無を確認(Gustilo分類I〜IIIを記録) 4 コンパートメント症候群の徴候を除外(疼痛・張り感・他動伸展痛・感覚障害) 5 血管・神経損傷を評価(足背動脈・後脛骨動脈の拍動、総腓骨神経・後脛骨神経の運動・知覚)[1] 6 X線正面像・側面像(膝と足関節を含める)で楔状骨片の位置・大きさを確認[1] 7 手術アプローチを確認(経膝蓋腱進入 or 傍膝蓋骨進入)[1] 8 術中に近位1/3骨折でのブロッキングスクリュー使用を計画したか 9 術後荷重プランを患者・リハビリチームに共有したか 10 DVT/PE予防の計画を確認したか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Bhandari M, et al.(2008)Randomized trial of reamed and unreamed intramedullary nailing of tibial shaft fractures. J Bone Joint Surg Am, 90:2567–78. PMID: 19047701
Court-Brown CM, McBirnie J(1995)The epidemiology of tibial fractures. J Bone Joint Surg Br, 77-B(3):417–21. DOI: 10.1302/0301-620X.77B3.7744927
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