脛骨近位骨幹端部の楔状骨折(wedge fracture)。AO分類41-A2に相当する。関節外骨折(膝関節面は温存)であり、主骨折線と側方または内側の楔状骨片(wedge fragment)が存在するが骨片は粉砕しない(A3とは異なる)。脛骨近位部骨折は高エネルギー外傷に伴うことが多く[2]、コンパートメント症候群・血管損傷を見落とさないこと。関節外骨折では、大きな転位や不安定性がなくても手術的治療のほうが利点が多い。近位骨片が短いことなどから角度安定性が得られるプレートが望ましい[1]。
重症度・疫学
発生頻度: 脛骨近位端の関節外骨折は全脛骨骨折の約7%を占める[1]
好発: 高エネルギー外傷に伴うことが多い[2]
受傷機転: スポーツ外傷や立った高さからの転倒など比較的低エネルギーの機序でも起こるが、高エネルギー外傷に伴うことが多い[2]
治療方針: 関節外骨折の多くは、大きな転位や不安定性がなくても手術的治療のほうが利点が多い。近位骨片が短いことなどから角度安定性が得られるプレートが望ましい[1]
注意すべき合併症
- 急性コンパートメント症候群(見落としが合併症の主な原因となるため、常に念頭におき積極的に治療する[1])
- 血管損傷(四肢の血管外傷が懸念される場合はドプラー超音波・CT血管造影などを考慮するが、血行再建を大幅に遅らせない[1])
- 総腓骨神経損傷(腓骨頸部を皮下で横切るため、直達外力や転位に伴う伸張で損傷を受けやすい)[2]
- 骨癒合遅延・偽関節
- 膝関節拘縮・下肢アライメント不良(内反・外反変形)
- DVT/PE
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →関節外骨折の多くは、大きな転位や不安定性がなくても手術的治療のほうが利点が多い[1]
- →手術リスクが著しく高い高齢者・重篤な全身疾患患者
- →閉鎖的治療では許容できる整復位を得ることが難しく、維持することはさらに難しい。整復位を保持できないと変形癒合につながる[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ髄内釘:用いる場合は近位に横止めの選択肢が複数ある特別なネイルが推奨され、近位端骨片は髄内釘挿入前に整復しておく[1]
- ℹロッキングプレート(LISS/LCP):近位骨片が短いことなどから角度安定性が得られるプレートが望ましく、骨癒合・感染率・二次的な転位の点で優れた結果が報告されている[1]
- ℹ創外固定:重篤な軟部組織損傷を伴う不安定な骨折では、創傷治癒の問題を避けるため一時的固定に用いる(膝関節を架橋する場合がある)[1]
- ℹ骨幹端では個々の骨片の厳密な解剖整復は通常必要ないが、関節部を下肢の軸に正しくアライメントさせる[2]
- ℹプレート架橋部へのラグスクリュー挿入は、骨折部の動きを妨げ骨癒合を妨害する恐れがあるため一般には推奨されない[1]
治療選択アルゴリズム — 41-A2楔状骨折・IM釘第一選択・プレート代替・軟部組織損傷でexternal fixator
診断・評価
脛骨近位部の疼痛・腫脹・変形。水疱・擦過傷・挫傷など軟部組織の状態とコンパートメント症候群の徴候に注意。X線は前後像・側面像の2方向が不可欠だが、単純X線だけでは骨折型の評価に十分とはいえず、CTを追加すると分類の信頼性が向上する[1]。
X線AP像(近位骨幹端の楔状骨折・主骨折線と楔状骨片)+ CT横断面(骨折形態・骨片方向の評価)
CT矢状断・冠状断(楔状骨片の3次元形態・骨折線の方向)
✅ 許容される整復
- ✓冠状面アライメント:解剖学的アライメントに整復する[2]
- ✓矢状面アライメント:解剖学的アライメントに整復する[2]
- ✓短縮:≦10mm
- ✓回旋:正しい回旋に整復する[2]
❌ 許容されない変形
- ✕冠状面の内反 >5°(閉鎖的治療の報告で、許容できるアライメントとは区別されていた)[2]
- ✕骨折部の回旋変形の残存
- ✕楔状骨片の著明な転位・回旋(骨癒合不全リスク)
手術手技
体位
仰臥位: 患者は仰臥位とし、透視装置は患肢の対側におき、モニターは手術チームと放射線技師から全景が見えるように配置する[1]。
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲45°・Cアーム外側配置
脛骨髄内釘(近位に横止めの選択肢が複数あるネイル)
髄内釘手技 — 膝蓋腱正中アプローチ・エントリーポイント・ガイドワイヤー挿入・近位ロッキング
- アプローチ: 膝を伸展させた状態での上膝蓋アプローチによる髄内釘挿入は、外反および前方凸変形などのアライメント不良の回避に役立つ[1]
- エントリーポイント確認: 近位端骨片は髄内釘挿入前に整復しておく。不適切な挿入口からの挿入は軸アライメント不良につながる[1]
- ガイドワイヤー挿入: ネイル挿入中に整復位を保持するため、鉗子を追加で用いることがある[1]
- 骨折整復維持: ネイル挿入中の整復位保持に、Pollerスクリュー(ブロッキングスクリュー)や2.4 mm・2.7 mmのLCPが必要になることがある[1]
- 拡髄(reaming): 近位骨幹端は薄い皮質の殻に海綿骨が詰まった構造で骨密度が低く、固定性が損なわれやすい[2]
- 釘の挿入: 適切な径・長さの髄内釘を挿入。近位部骨折では近位ロッキングオプション(多方向)を活用
- 近位ロッキング: 近位骨折用に斜め方向の横止めを備えるネイルがあり、斜め横止めでは後方の神経血管を損傷しないよう後方への突出に注意する[2]
- 遠位ロッキング: 遠位の横止めを行う
- 透視確認: AP・側面像でアライメント(内反・外反・前後方向)・骨折部の隙間・スクリュー位置を最終確認
⚠️ 髄内釘ピットフォール
- ✕近位骨折の髄内釘ではアライメント不良が多く、32例中18例(56%)に5°以上の外反、9例(28%)に10°を超える前方凸変形がみられた[2]
- ✕エントリーポイントのずれ(正中でないと骨折整復が悪化する)
- ✕斜め方向の近位横止めスクリューの後方への突出(後方の神経血管損傷のおそれ)[2]
- ✕近位端骨片を整復しないまま髄内釘を挿入する(骨幹部と異なり挿入前の整復が必要で、固定性が不十分だと近位骨片が術後に傾斜する)[1]
- ✕拡髄時の熱損傷(脂肪塞栓・感染リスク)
角度安定性が得られるロッキングプレート(MIPO法)
近位骨片が短いことや生体力学的な問題点から、関節外骨折(41A)では角度安定性が得られるプレートが望ましい[1]。
MIPO法 — 内側ロッキングプレート・最小侵襲アプローチ・透視ガイド挿入
- アプローチ: 最小侵襲(MIPO)法。脛骨内側面に沿って近位と遠位に小切開を置き、プレートを皮下トンネルで通す
- 整復: プレート架橋部へのラグスクリュー挿入は、骨折部の動きを妨げ骨癒合を妨害する恐れがあるため一般には推奨されない[1]
- プレート挿入: LCP(locking compression plate)またはLISS(less invasive stabilization system)を透視ガイドで挿入
- スクリュー固定: 近位部に多方向ロッキングスクリュー(最低3本)、遠位部に皮質骨スクリューまたはロッキングスクリュー
- 透視最終確認: AP・側面像でアライメント・プレート位置・スクリュー長を確認
⚠️ プレートピットフォール
- ✕プレートの皮下トンネル作成時に伏在神経・静脈を損傷しないよう注意
- ✕近位ロッキングスクリューが関節内に入らないよう透視確認必須
- ✕過度な骨膜剥離は避け、血流を温存する
術後管理
術後X線像(AP/側面)— 脛骨近位部髄内釘固定後。楔状骨片整復・アライメント良好
手術タイミング: 骨折型と軟部組織損傷を評価し、軟部組織腫脹が軽快してから(通常10〜14日)手術を行う。開放骨折・急性血管損傷・重篤な軟部組織損傷では、緊急の非観血的整復と一時的な関節架橋創外固定を先行する段階的治療とする[1]
術後荷重: 骨癒合と軟部組織の回復に応じて、術後6〜8週間はつま先接地荷重とする。著しい高エネルギー外傷による骨折では、つま先接地荷重を10〜12週間程度続ける[1]
VTE予防: 術翌日よりエドキサバン(または低分子ヘパリン)開始、術後4〜6週継続
疼痛管理: マルチモーダル鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・神経ブロック)。オピオイドは短期使用にとどめる
リハビリテーション: 術後は可及的早期から大腿四頭筋の等尺性運動を始める。創傷治癒の促進と膝の屈曲拘縮予防のため、2週間の伸展位外固定またはCPMを用いることが多い[1]
フォローアップ
- 術後2週まで:創傷治癒の促進と膝の屈曲拘縮予防のため、伸展位の外固定またはCPMを用いる[1]
- 術後6〜8週まで:骨癒合と軟部組織の回復に応じてつま先接地荷重を続ける(著しい高エネルギー外傷では10〜12週程度)[1]
- 術後12週:膝屈曲90°を獲得できていなければ、関節鏡視下癒着剥離術と麻酔下の愛護的な徒手授動術の適応となる[1]
- 術後6ヶ月・1年:X線(骨癒合・アライメント・インプラント状態)
- 骨癒合遅延が疑われる場合はCTで評価(骨折部の皮質架橋形成を確認)
予後
- 骨癒合:LISSプレートやLCPを用いた報告では、骨癒合・感染率・二次的な転位の点で優れた結果が示されている[1]
- 合併症:見落とされたコンパートメント症候群が合併症の主な原因にあげられ、常に念頭におき積極的に治療する[1]
- 軸アライメント不良は外傷後関節症の主な原因の一つで、内反位整復ではフォロー7年以上で変形性関節症の増加が報告されている[1]
- 感染:コンパートメント症候群で筋膜切開を開放したままの状況では、軟部組織合併症と深部感染の発生率が高い[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(41-A2 = 脛骨近位部・関節外・楔状型。関節面は非侵襲)
- 2コンパートメント症候群の除外(下肢の腫脹・緊張、他動ストレッチで増悪する痛み。前方・外側の単一区画に非典型的に生じることがあり、知覚障害・麻痺は晩期症状)[1]
- 3血管損傷の除外(足背動脈を必ず触知。触知できなければ変形を矯正して再触診し、戻らなければ血管損傷として血管外科へ緊急コンサルト。ドプラー超音波・CT血管造影を考慮)[1]
- 4総腓骨神経損傷の有無を確認する(腓骨頸部を皮下で横切るため、直達外力や転位に伴う伸張で損傷を受けやすい)[2]
- 5骨折の圧迫側と伸張側を特定して固定法の計画に反映する(圧迫側には支持プレートが必要)[1]
- 6骨折が膝関節面(脛骨高原)に及んでいないことをCTで確認(41-A vs 41-B/C の鑑別)
- 7髄内釘の場合、ネイル挿入中の整復位保持に用いる補助手段(鉗子・Pollerスクリュー・2.4 mm/2.7 mm LCP)の使用計画[1]
- 8術後アライメント(冠状面・矢状面・回旋)の透視確認記録
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Krieg JC(2003)Proximal tibial fractures: current treatment, results, and problems. Injury, 34(Suppl 1):A2–A10. PMID: 14563005
- Lindvall E et al.(2009)Intramedullary nailing versus plating for fractures of the proximal tibia. J Orthop Trauma, 23:7–13.
- Cole PA et al.(2004)Minimally invasive plate osteosynthesis of proximal tibia fractures. J Orthop Trauma, 18:545–551.