脛骨近位部の関節外粉砕骨折 。AO分類41-A3に相当する。関節面は温存されるが骨幹端部で3片以上に粉砕し、皮質の連続性が失われる。高エネルギー外傷で生じ、軟部組織損傷・コンパートメント症候群を合併しやすい ことが最大の特徴。治療は髄内釘(近位脛骨髄内釘)またはLCPプレート(外側ロッキングプレート) が選択肢となるが、粉砕が高度な場合は創外固定(外固定)での段階的治療も考慮する。軟部組織の状態が治療戦略の根幹 を決定する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 脛骨近位部骨折全体の約15〜25%が41-A3(関節外粉砕型)
好発: 青壮年男性。交通事故・高所転落など高エネルギー外傷が主体。高齢者の骨粗鬆症性骨折でも発生
受傷機転: 高エネルギー軸圧+屈曲力(交通事故)、重量物の落下、高所転落。低エネルギーでは骨粗鬆症高齢者の転倒
開放骨折合併率: 約10〜20%(Gustilo I〜III)
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:約10〜20%(高エネルギー外傷例では特に前方コンパートメントに注意)
開放骨折・軟部組織壊死:初期評価でGustilo分類を行う
血管損傷(膝窩動脈):骨折転位が大きい例では血管造影・超音波を考慮
腓骨神経麻痺:腓骨頭周囲の損傷に注意
骨癒合遷延・偽関節:粉砕型で多い(約5〜10%)
角度変形(valgus/varus):整復不良・固定不全に起因
DVT/PE:早期手術・抗凝固療法で予防
感染(特に開放骨折・皮膚壊死後)
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 非転位かつ軟部組織が良好な例(まれ)のみ長下肢ギプス固定を検討 → 高齢者・手術不能例:骨牽引+ギプス(ただし整復位保持困難で変形治癒リスク高い) → 軟部組織損傷・開放骨折では保存療法は禁忌
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:近位脛骨髄内釘(Proximal Tibial IM Nail)— 粉砕型の軸位安定性確保に有利 ℹ 代替:外側ロッキングコンプレッションプレート(LCP)— 軟部組織が良好で粉砕の広範でない例 ℹ 創外固定(External Fixation):開放骨折Gustilo IIIB以上・高度軟部組織損傷・Damage Control時の第一段階 ℹ Damage Control:創外固定で仮固定 → 軟部組織が落ち着いてから(7〜14日後)確定的内固定 ℹ 開放骨折:デブリドマン+創外固定 → 状態安定後に内固定(delayed definitive fixation) ℹ 周術期のVTE予防・コンパートメント症候群の監視が必須
治療選択アルゴリズム — 軟部組織状態・開放/閉鎖骨折・Damage Control判断を含む選択フロー
診断・評価
膝下部・下腿近位部の疼痛・腫脹・変形・荷重不能。高エネルギー外傷ではABCDEを優先し、多発外傷の評価を同時進行する 。軟部組織の状態(水疱・張力性浮腫・開放創)の評価が治療方針を決定する。コンパートメント圧の測定(特に前方コンパートメント)を積極的に行う。
膝窩の拍動・毛細血管再充満時間(CRT)・足背動脈・後脛骨動脈の評価により血管損傷を除外する。
X線正面像(AP)— 脛骨近位部の粉砕骨折、骨片3片以上・関節外
X線側面像 — 脛骨近位端の粉砕パターンと骨幹端部の変形
CT冠状断+3D再構成 — 粉砕の範囲・骨幹端-骨幹移行部の評価・関節外の確認
【必須】 脛骨全長AP・側面X線、膝関節AP・側面X線(関節内骨折の除外)
【考慮】 CT(粉砕パターン評価・術前計画)、血管超音波(膝窩動脈損傷疑い)
✅ 許容される整復
✓ 冠状面アライメント(valgus/varus) ≦5° ✓ 矢状面アライメント(procurvatum/recurvatum) ≦10° ✓ 回旋変形 ≦10° ✓ 長さの短縮 ≦10mm ✓ 関節面の評価:41-A3では関節外のため関節面転位の評価は不要
❌ 許容されない変形
✕ 内反(varus) >5° — 外側コンパートメントへの過剰応力 ✕ 外反(valgus) >5° ✕ 矢状面変形 >10° ✕ 回旋変形 >10° ✕ 長さの短縮 >15mm
手術手技
体位
手術体位(仰臥位・膝下枕) — 近位脛骨髄内釘のポジショニング
仰臥位(膝屈曲45〜90°): 患肢の膝下に枕またはビームを置き、膝を屈曲させてエントリーポイントにアクセスする。大腿骨のロールを用いた半側臥位も可。Cアームは患肢の外側に設置し、AP・側面の両方の透視が可能であることを確認する。
近位脛骨髄内釘(Proximal Tibial IM Nail)— 第一選択
適応: 41-A3(関節外粉砕型)の第一選択。骨幹端部の粉砕が広範でも軸位安定性を確保できる。開放骨折では軟部組織の状態に応じて創外固定後の二期的置換も可。
近位脛骨髄内釘の手技 — エントリーポイント・近位部複数ロッキング・整復手技
エントリーポイント作成: 膝蓋腱内側縦切開(medial parapatellar)または経膝蓋腱(transpatellar)アプローチ。エントリーポイントは脛骨近位端、前後像で脛骨棘前方、側面像で関節面直下
ガイドワイヤー挿入: AP・側面透視を交互に確認しながらガイドワイヤーを髄腔中央へ誘導
開孔・リーミング: 必要に応じてリーミング(粉砕型では過度のリーミングで骨片離解に注意)
整復補助: 骨幹端部の粉砕では通常の整復困難。プッシュ・プル整復、仮K-wire固定、ブロッキングスクリュー(blocking screw / Poller screw)を活用
ネイル挿入: 近位脛骨ネイルは髄腔が広く正確な整復が困難なため、ブロッキングスクリューを近位骨片の内側または外側に置き軸位を維持 する
近位ロッキング: 近位脛骨ネイルでは多方向ロッキング(前後・内外・斜め)が可能なインプラントを選択し、2〜3本のロッキングスクリューで近位骨片を固定
遠位ロッキング: 静的ロッキング(粉砕型では短縮・回旋防止)
最終透視確認: AP・側面・回旋評価(足関節・膝関節の軸)
⚠️ 近位脛骨髄内釘 ピットフォール
✕ エントリーポイントの外側偏位 → 近位骨片の外反・前屈変形(最も多い失敗) ✕ ブロッキングスクリュー未使用での近位骨幹端骨折 → 整復位保持不能 ✕ 近位ロッキングスクリューの関節内迷入(近位脛骨の骨幹端が短い) ✕ 膝蓋腱損傷(transpatellarアプローチで縦切開不足時) ✕ 同側の腓骨骨折の見落とし ✕ コンパートメント症候群の見逃し(術後監視を怠らない)
外側ロッキングプレート(LCP)— 代替術式
適応: 骨幹端部の粉砕が比較的限局、軟部組織が良好、髄内釘が困難な例(膝関節屈曲制限、先行する人工関節など)。最小侵襲アプローチ(MIPO:Minimally Invasive Plate Osteosynthesis)が推奨される。
外側小切開(2〜3 cm)からプレートを皮下トンネルで近位部に挿入(MIPOテクニック)
透視ガイド下に近位骨片を整復・仮固定(K-wire)
外側ロッキングプレートを近位に配置し、ロッキングスクリューで固定(近位:ロッキング3〜4本)
遠位部の粉砕にはブリッジング固定(骨折部には直接スクリューを入れない)
最終透視確認(アライメント・スクリュー位置・プレート長)
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 近位脛骨髄内釘固定後・アライメントと粉砕領域のブリッジング
手術タイミング: 軟部組織が許容できる状態で早期手術が原則。開放骨折・高度軟部組織損傷では創外固定で仮固定後、状態安定後(7〜14日)に確定的内固定
術後荷重: 粉砕型のため段階的荷重。術後4〜6週は部分荷重(toe-touch weight bearing)。X線で骨癒合の兆候(仮骨形成)を確認後に荷重増加。完全荷重は術後10〜12週以降を目安とする
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリンを術後12〜24時間より開始。術後28日まで継続を推奨
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本。NSAIDsは骨癒合への影響を考慮し長期投与は避ける。硬膜外鎮痛・末梢神経ブロックはコンパートメント症候群の症状をマスクするリスクがあるため注意が必要。コンパートメント症候群の疑いが生じた場合は直ちにブロックを中断し、筋内圧の直接測定を行うこと
リハビリテーション: 術翌日から端坐位・膝関節ROMトレーニング。筋力回復と歩行訓練を荷重制限の中で段階的に進める
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線(整復位の維持・ネイル/プレート位置)
術後6週: X線(仮骨形成の確認・アライメント評価)
術後12週: X線(骨癒合進行度・荷重増加の判断)
術後6ヶ月〜1年: 完全骨癒合の確認。必要に応じCT(骨癒合評価)
骨癒合遷延(6ヶ月で骨癒合不十分):ダイナミゼーション・骨移植・補助固定を検討
予後
骨癒合率:約85〜92%(粉砕型は単純型より低い)
偽関節:約5〜10%(開放骨折・感染合併例でさらに増加)
整復不良による変形治癒:内反・外反変形が残存すると膝関節症に移行
コンパートメント症候群を合併した例:長期的な筋力低下・神経障害が残存するケースあり
機能的予後:骨癒合率・アライメント・軟部組織の質に強く依存
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(41-A3 = 脛骨近位部・関節外・粉砕型) 2 関節内骨折(41-B/C)との鑑別を確認(CT必須) 3 コンパートメント症候群の評価(前方コンパートメント圧・5Ps:疼痛・蒼白・感覚異常・麻痺・脈拍消失、または受動的伸展痛) 4 軟部組織の状態を評価(開放骨折Gustilo分類・水疱・張力性浮腫) 5 血管・神経損傷の除外(膝窩動脈・腓骨神経) 6 術式の判断(IM釘 vs LCP vs 創外固定 — 軟部組織・粉砕パターン・開放/閉鎖に応じて) 7 ブロッキングスクリューの計画(近位骨幹端骨折でのIM釘) 8 Damage Controlの必要性(多発外傷・高度軟部組織損傷)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
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