大腿骨遠位部の両顆を含む完全関節内骨折(33C)で、骨幹端が多骨片化している 。AO分類33-C2に相当する。骨幹端の多骨片化により著しい短縮および内反変位を生じるため、長さ・回旋・アライメントの回復 が必須となる。治療は軟部組織を慎重に取り扱う侵襲の少ない進入法による生物学的プレーティングが現在のゴールドスタンダードで、関節骨片を直視下に解剖学的に整復・ラグスクリューで固定し、あらかじめ解剖学的に成形されたロッキングプレート(LCP-DF等)で関節塊と骨幹部近位との間を架橋する 。受傷機序は若年者では高エネルギー外傷、粗鬆骨を有する高齢者では低エネルギー外傷である[1]
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 大腿骨遠位部骨折全体の約15〜20%
好発: 若年者では高エネルギー外傷、粗鬆骨を有する高齢者では低エネルギー外傷による[1]
受傷機転: 青壮年は高エネルギー外傷、粗鬆骨を有する高齢者は低エネルギー外傷[1] 。最も多い機序は屈曲した膝への介達外力で、圧迫による直達外力はより稀[2]
注意すべき合併症
外傷後変形性膝関節症(初期の軟骨損傷・整復不十分による):SOFCOT集計で二次性の外傷後変形性膝関節症50%[2]
偽関節(骨欠損のある症例など高エネルギーによる開放骨折で最も頻度が高い。硬すぎるインプラントによる不適切なひずみ環境も素因)[1]
感染(開放骨折で高率):SOFCOT集計で感染・感染性偽関節13%(開放骨折では29%)[2]
膝関節拘縮:SOFCOT集計で残存する拘縮35%[2]
側副靱帯損傷の合併は稀で、十字靱帯損傷の方がよくみられ、多くは関節内の多骨片骨折に合併する[1]
血管損傷:約3%(神経損傷は約1%)。(浅)大腿動脈は膝窩に入る前に内転筋管の中を走行するため損傷の可能性がある[1] 。末梢の拍動があっても血管損傷は除外できない[2]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 骨幹端粉砕・関節内骨折の組み合わせで保存療法は適応外 → 例外:手術が行えない患者・寝たきり患者のみ。通常は膝関節を固定した外固定で対応する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 侵襲の少ない進入法による生物学的プレーティングが現在のゴールドスタンダード — 関節面ORIF+あらかじめ解剖学的に成形されたロッキングプレート(LCP-DF等)で関節塊と骨幹部近位を架橋[1] ℹ 関節面の解剖整復を第1目標(骨折面の直視・ラグスクリュー固定) ℹ 骨幹端は橋渡しプレート(ブリッジ固定)で長さ・軸・回旋を回復(骨幹端骨片は直接操作しない) ℹ 関節内骨折では観血的整復+プレート内固定を行う(関節外骨折はすべての術式が可能だが、複雑な関節内骨折は順行性髄内釘の禁忌)[2] ℹ 逆行性髄内釘(RN):関節外骨折(33A)や、時に単純な関節内骨折(33C1・33C2)が適応。関節内骨折ではまず関節骨片を固定する[1] ℹ 多発外傷・重度の軟部組織損傷を伴う開放骨折・血管損傷例:膝関節架橋型の創外固定で仮固定し、後に最終的な内固定へ転換[1] ℹ 高度な粗鬆骨では例外的に、インプラントの固定性を上げるため骨セメントを用いることもある[1]
治療選択アルゴリズム — 33-C2・関節面ORIF+骨幹端ブリッジプレート(VA-LCP/LCP-DF)第一選択
診断・評価
大腿遠位部〜膝関節の疼痛・腫脹・変形・荷重不能。X線は隣接関節を含む大腿骨・脛骨の正面/側面像と膝関節を中心とした撮影を行い、関節内骨折には二次元・三次元リコンストラクションを含むCTで関節面骨折・嵌入、および単純X線で見逃されうる後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を評価する。血管損傷が疑われる場合はドプラー超音波、より正確な診断には血管造影で(浅)大腿動脈損傷を除外する[1]
X線AP+側面像(33-C2骨折像)— 両顆を含む完全関節内骨折と骨幹端粉砕の確認
CT横断面・冠状断・3D再構成 — 顆間骨折の転位量・骨幹端粉砕範囲・関節面評価
✅ 許容される整復
✓ 関節骨片は直視下に解剖学的に整復する ✓ 下肢アライメント:内外反 ≦5°、矢状面アライメント ≦5°(過伸展 ≦5°) ✓ 短縮:骨粗鬆症や複雑な骨折では、骨折骨片の嵌入による多少の短縮は許容され、時に骨折の不安定性よりも望ましい[1]
❌ 許容されない変形
✕ 関節面の整復不十分(外傷後変形性膝関節症の要因) ✕ 内反変形(骨幹端が多骨片化した33C2では大腿四頭筋・ハムストリング・内転筋群が著しい短縮と内反変位を引き起こす)[1] ✕ 回旋異常(MIPO手技後に38.5%と高率。粉砕が高度な場合は反対側を参考にして術前計画を立てる)[1] ✕ 血管損傷の見落とし(末梢の拍動があっても除外できない[2] 。疑えばドプラー超音波、より正確には血管造影で(浅)大腿動脈損傷を除外する)[1]
手術手技
体位
仰臥位(膝屈曲位): 膝まくらを使用して膝関節を30〜45°屈曲させると腓腹筋が弛緩し、遠位骨片の屈曲変形が軽減される。短縮に対しては徒手牽引やディストラクタを用いる。透視装置は手術台の反対側、患肢の内側に配置する[1]
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲30〜60°・三角枕使用・Cアーム配置
DF-LCPによるORIF+ブリッジ固定 — 第一選択
アプローチ: 関節内骨折には外側傍膝蓋進入法(または内側傍膝蓋進入法)で関節切開し、内外顆と膝蓋大腿関節を展開して直接整復する。大腿骨内顆の関節内骨折・内側Hoffa骨折・重篤な両顆の多骨片関節内骨折では、内側広筋下進入法を外側傍膝蓋進入法に加えて用いる[1]
外側アプローチ+遠位大腿骨ロッキングプレート(DF-LCP)設置 — 関節面直視整復後に骨幹端ブリッジ固定
外側アプローチ・関節展開: 外側切開で遠位大腿骨外側面を展開。膝関節を切開し顆間・関節面の骨折を直視する
関節面の整復: 顆間の関節骨片を直視下に整復し、複数のクランプと通常1〜2本のK-ワイヤ(内側から外側、または外側から内側)で仮固定する[1]
顆間ラグスクリュー固定: 外側から内側へ大腿骨外顆の関節面に沿って3.5mm皮質骨ラグスクリューまたは3.5mmキャニュレイテッドスクリューを挿入し顆部間のギャップを圧迫する。外側プレートを設置できる骨の「フリーゾーン」を残す位置に配置する[1]
DF-LCPの設置: 傍膝蓋切開から外側広筋の筋層下に成形ロッキングプレートを挿入し、外側皮質の斜度に合わせて設置する。前後像で遠位の基準ピンが大腿骨遠位の関節面と平行、側面像でプレート後縁が後方皮質と平行になることを確認する[1]
骨幹端ブリッジ固定: 骨幹端の多骨片部は展開せず間接的整復で架橋し(生物学的骨折架橋、最小侵襲:MIPO法も選択可)、ロッキングスクリューは引き抜きのリスクを減らしスクリューの機能長を最大限にするためバイコーティカルに挿入する(近位は3〜4本のバイコーティカルスクリューが好まれる)[1]
アライメントの確認: 透視でAP/側面像にて下肢軸・内外反・回旋を確認。対側の膝関節X線と比較する
内側支持の補強: 特に内側の骨幹端粉砕が著しい場合、外側プレートだけでは軸方向・回旋方向の負荷に対する安定性が不足することがあり、前内側面に短い第2の3.5プレートを追加できる[1]
⚠️ DF-LCPピットフォール
✕ 関節塊を再建する前に骨幹部との架橋を行わない(直視下での関節骨片の解剖学的整復を基本原則とし、関節塊の再建後にロッキングプレートで関節塊と骨幹部近位との架橋を行う)[1] ✕ スクリューの関節内貫通(プレートを外旋位に設置するとスクリューが大腿骨滑車で関節内へ貫通し、顆部後方に設置すると顆間窩を貫通して十字靱帯を損傷する)[1] ✕ 軸・回旋のアライメント不良(内反変形と、腓腹筋・大内転筋の張力による反張膝=膝の過伸展と関節弛緩)— 術中は膝屈曲60°を保ち、透視で軸を確認する[1] ✕ 内側支持の欠如を見落とす(内側粉砕が強い場合は内側プレート追加) ✕ 遠位骨片の屈曲・後方回旋変形を放置(腓腹筋は大腿骨両顆後面から起始し拮抗筋がないため遠位骨片を屈曲させる)[1]
逆行性髄内釘(代替術式)
関節外骨折(33A)や単純な関節内骨折(33C1・33C2)での代替。関節骨片をラグスクリューで関節面近くに先に固定し(後に挿入する髄内釘の位置に配慮する)、膝を30°ほど屈曲して顆間窩のすぐ前方で髄腔を開窓し(後十字靱帯起始部に注意)、ガイドワイヤに沿って逆行性髄内釘を挿入する。横止めスクリューはエイミングデバイスを用いて外側から内側へ挿入する[1]
術後管理
術後X線像(AP/側面)— DF-LCPで関節面整復固定・骨幹端ブリッジ固定。遠位ロッキングスクリュー関節面下に位置
手術タイミング: 多発外傷患者、重度の軟部組織損傷を伴う開放骨折、血管損傷例、早期の最終治療ができない状況では、膝関節架橋型の創外固定によるダメージコントロール手術を先行させる。開放骨折は適切な抗菌薬の早期投与に続き綿密なデブリドマンと洗浄を行い、その後に根治的な固定を行う[1]
術後荷重: 多骨片骨折に対する架橋プレート構造では一般に保護をより必要とし、当初は荷重を許可しない。術後6〜12週のフォローアップの間に仮骨形成がみられれば段階的な荷重を許可する[1]
疼痛管理: 大腿神経ブロックは救急外来での実施が推奨される[2] 。術後は早期から自動介助運動を開始できるよう十分な疼痛管理を行う[1]
リハビリテーション: 軟部組織損傷の状態と疼痛管理が十分であれば、早くて術後48時間から股関節・膝・足関節の自動介助運動を始める。CPM(continuous passive motion)も効果的である[1]
フォローアップ
創部の状態と感染兆候の確認
術後6〜12週:X線で仮骨形成とアライメントを確認[1]
荷重は術後6〜12週のフォローアップの間に仮骨形成がみられれば段階的に許可する。多骨片骨折に対する架橋プレート構造では当初は荷重を許可できない[1]
長期の経過観察:関節内骨折では画像上の変形性膝関節症への進行に注意する
予後
骨癒合率:開放骨折Ⅰ型・Ⅱ型は80%、Ⅲ型は61.3%で、閉鎖損傷は開放損傷より治癒率が高い。偽関節は観血的整復32.0%に対し筋層下プレート固定10.7%[1]
膝関節可動域:大腿骨遠位部骨折の逆行性髄内釘では平均104.6°[3]
外傷後変形性膝関節症:二次性の外傷後変形性関節症は50%にみられ、初期の軟骨損傷と不完全な整復が関与する[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(33-C2 = 大腿骨遠位部・完全関節内・骨幹端粉砕型) 2 CT(二次元・三次元リコンストラクション含む)で関節面骨折・嵌入と、単純X線で見逃されうる後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を評価[1] 3 神経血管の状態を慎重に検査する。末梢の拍動があっても血管損傷は除外できない[2] 。疑いがあればドプラー超音波や血管造影で(浅)大腿動脈損傷を除外する[1] 4 関節面は直視下で解剖学的に整復する計画を立てる 5 内旋約25°の透視像でロッキングスクリューが内側に突出していないこと、スクリューが顆間窩や滑車に貫通していないことを確認[1] 6 骨幹端ブリッジ固定のアライメント確認(内外反・回旋・短縮) 7 内側支持の有無確認(内側粉砕強い場合は追加固定を検討) 8 自動介助運動・CPMの開始時期(早くて術後48時間から)と荷重計画の確認[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Ehlinger M et al.(2013)Distal femur fractures surgical techniques and a review of the literature. Orthop Traumatol Surg Res, 99(3):353–60. PMID: 23518071
Papadokostakis G et al.(2005)The role and efficacy of retrograding nailing for the treatment of diaphyseal and distal femoral fractures. Injury, 36:813–22. PMID: 15949481