大腿骨遠位部の完全関節内骨折(33C)のうち、骨折型が単純なもの。AO分類33-C1に相当する。腓腹筋は拮抗筋を持たず遠位骨片の屈曲変形を引き起こし、典型的には遠位骨片が屈曲・内反・後方回旋する[1]。治療は直視下で関節骨片を解剖学的に整復してラグスクリューで固定し、解剖学的に成形されたロッキングプレートで関節塊と骨幹部を架橋するのが基本で、逆行性髄内釘は時に単純関節内骨折(33C1、33C2)にも適応がある[1]。
重症度・疫学
発生頻度: 大腿骨遠位部骨折は大腿骨骨折全体の約6%を占める[1]
好発: 若年者(高エネルギー外傷)と、粗鬆骨を有する高齢者(低エネルギー外傷)[1]
受傷機転: 交通事故などの高エネルギー外傷と、立った高さからの転倒などの低エネルギー外傷[2]
注意すべき合併症
- 外傷後変形性膝関節症
- 骨癒合不全(開放骨折と糖尿病は、骨癒合を促す再手術の独立した危険因子)[2]
- 腓腹筋と大内転筋の張力による反張膝と短縮(膝関節完全伸展位で生じる)[1]
- 膝関節拘縮
- DVT/PE
- 血管損傷(約3%)[1]
- 神経損傷(約1%)[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →手術が行えない患者・寝たきり患者の場合のみ(転位のない嵌入骨折を保存的に治療できるのは関節外骨折〔type A〕)[1]
- →多発外傷・重度軟部組織損傷を伴う開放骨折・血管損傷などでダメージコントロール手術が必要な場合は、膝関節架橋型創外固定が迅速かつ効果的な一時固定[1]
- →保存的治療を選ぶ症例(手術が行えない・寝たきり)では、通常、膝関節を固定した外固定で十分[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ基本術式:ORIF — ラグスクリュー(関節骨片)+あらかじめ解剖学的に成形されたロッキングプレートで関節塊と骨幹部を架橋[1]
- ℹ選択肢:ラグスクリュー(関節骨片)+逆行性髄内釘(単純関節内骨折33C1・33C2に時に適応。関節骨片を先に固定)[1]
- ℹ関節ブロック再建:ラグスクリューを外側から内側(L→M)に刺入し顆間裂隙を圧迫固定
- ℹ骨幹端固定:外側ロッキングプレートは全長9穴以上・骨折部より近位8穴以上の長さを用いる[2]
- ℹ逆行性釘は遠位端を大転子直下まで届かせる(大腿骨頸部へのストレスライザー回避)
- ℹ高齢者・骨折脱臼・重篤な骨粗鬆症例では一期的人工膝関節置換術(arthroplasty)も考慮
治療選択アルゴリズム — 33-C1完全関節内単純型・ラグスクリュー+VALCP vs 逆行性髄内釘の選択基準
診断・評価
神経血管の状態を慎重に検査する。ドプラー超音波検査や血管造影で(浅)大腿動脈損傷を除外する(内転筋管を走行するため損傷の可能性がある)[1]。膝靱帯の安定性検査は骨折が安定した後に行う[1]。
X線正面像・側面像: 下肢の多発外傷が疑われる場合は、隣接する関節を含む大腿骨と脛骨の正面像・側面像と、膝関節を中心とした撮影も行う。著しい短縮がある場合は牽引下のX線も有用である[1]。
CT: 関節内骨折には二次元・三次元リコンストラクションを含むCTが推奨される。関節面骨折と嵌入、特に単純X線で見逃されうる後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を評価し、術前計画が大きく変わることがある[1]。
術前X線正面像(T字状の顆間+骨幹端骨折線)と側面像(遠位骨片の後方回転・過伸展変形)
CT横断面・矢状断面 — 顆間裂隙の転位量・Hoffa骨折の合併を評価
✅ 許容される整復
- ✓関節面の解剖学的再建[1]
- ✓冠状面アライメントの修復(正常LDFAは80~84°。健肢のLDFAを基準に評価)[1]
- ✓正しい回旋の修復[1]
- ✓長さの回復(骨粗鬆症や複雑な骨折では、骨片の嵌入による多少の短縮は許容される)[1]
❌ 許容されない変形
- ✕関節面の解剖学的再建が得られていない状態[1]
- ✕内反変形(固定角のないインプラントでは、特に骨幹端粉砕例で内反崩壊が多い)[2]
- ✕遠位骨片の屈曲変形の残存[1]
- ✕Hoffa骨折(後顆の冠状骨折)の見落とし(単純X線では見逃されうるため、関節内骨折ではCTで評価する)[1]
手術手技
体位
仰臥位(膝30〜45°屈曲): 膝まくらを使用して膝関節を30〜45°屈曲させ、腓腹筋を弛緩させる。短縮には徒手牽引やディストラクタを用いる[1]。逆行性髄内釘ではガイドワイヤ挿入時に膝を30°くらいに屈曲する[1]。
体位・透視設定 — 仰臥位・膝30°屈曲・ボルスター設置。術中透視でAP/側面の確認ができる配置
ORIF(ラグスクリュー+外側遠位大腿骨ロッキングプレート) — 第一選択A
外側アプローチ・顆間ラグスクリュー+condylar VA-LCP固定の術中透視像(正面・側面)
- 外側傍膝蓋進入法: 関節内骨折には外側傍膝蓋進入法・内側傍膝蓋進入法・内側広筋下進入法が用いられ、関節切開により関節骨片を直視下に整復する[1]
- 関節ブロックの再建(Step 1): 経皮的に内顆骨片に挿入したSchanzスクリューで整復とクランプ固定を補助し、関節骨片を解剖学的に整復する。整復した関節内骨片はK-ワイヤ1〜2本で仮固定する[1]
- ラグスクリュー固定: 3.5 mmラグスクリューまたは3.5 mmキャニュレイテッドスクリューを外側から内側に向かって大腿骨外顆の関節面に沿って挿入し、顆部間のギャップを圧迫。骨の「フリーゾーン」を残して外側プレートを設置できるようにする[1]
- 骨幹端/骨幹の整復(Step 2): 骨折部の下に枕をおき膝を30°屈曲させると、多くの場合骨折は整復できる。膝を架橋する大腿骨ディストラクタや遠位骨片のジョイスティックで補助する[1]
- ロッキングプレート設置: 外側広筋の筋層下にプレートを挿入し、外側皮質の斜度に合わせて設置する。プレート遠位部の中心の穴にSchanzスクリューまたはSteinmannピンを刺入する[1]
- 遠位固定: 内外反変形を回避するため、前後像で基準ピンまたはスクリューが大腿骨遠位の関節面と平行であることを確認する。側面像では後方皮質の陰影がプレートの後縁と平行になる[1]
- 近位固定: 近位には3〜4本のバイコーティカルスクリューを挿入する[1]
- 最終透視確認: プレート位置を透視下で評価し、内旋約25°の透視像でスクリューが内側へ突出していないことを確認する[1]
⚠️ ORIF(プレート)ピットフォール
- ✕関節骨片の直視下での解剖学的整復とラグスクリュー固定を先に行い、その後に関節塊を骨幹部へ固定する[1]
- ✕硬すぎるインプラントを使用すると不適切なひずみ環境となり、偽関節の素因となる[1]
- ✕プレート遠位中央穴の基準ピン(またはスクリュー)が前後像で大腿骨遠位の関節面と平行でないと内外反変形が残る[1]
- ✕Hoffa骨折(後顆の冠状骨折)は単純X線で見逃されうるため、関節内骨折では二次元・三次元再構成を含むCTで評価する[1]
- ✕ロッキングプレート近位固定の破綻(プレート全長9穴以上・骨折部より近位8穴以上の比較的長いプレートを用いる)[2]
ORIF(ラグスクリュー+逆行性髄内釘) — 第一選択B
逆行性髄内釘の刺入点・遠位鎖錠スクリュー・顆間ラグスクリューの配置(術中透視正面・側面)
- 関節ブロックの再建(Step 1): 釘挿入の前にまず関節骨片を固定する。ラグスクリューは関節面近くに挿入し、後に挿入する髄内釘の位置に配慮する[1]
- 逆行性釘の刺入点確認: 膝を30°程度屈曲し、2方向透視で確認しながらガイドワイヤを挿入。顆間窩のすぐ前方で髄腔を開窓する(後十字靱帯起始部に注意)[1]
- 髄腔拡大(リーミング): ガイドワイヤに沿ってリーミングする。リーマによる損傷から軟部組織を常に保護する[1]
- 釘の挿入: エイミングデバイスに装着した釘をガイドワイヤに沿って髄腔内へ挿入する[1]
- 遠位横止めスクリュー: 挿入ミスを防ぐため、エイミングデバイスを用いて外側から内側へ挿入する。必要なら注意深く軸圧をかけて骨折部を圧着する[1]
- 近位横止めスクリュー: 長さ・アライメント・回旋を維持するため近位側でも横止めする。近位の横止めは放射線透過性のドリルを用いる[1]
- エンドキャップ: 0mmエンドキャップで関節面より深い位置に釘末端を固定
⚠️ 逆行性髄内釘 ピットフォール
- ✕関節内骨折では釘挿入の前に関節骨片を固定し、ラグスクリューは後に挿入する釘の位置に配慮して置く[1]
- ✕釘が大転子より近位に突出すると大腿骨頸部ストレスライザーになる
- ✕誤った刺入点・広い髄腔・遠位骨片の不適切な固定は内外反/前後方向の角度変形につながる(Pollerスクリューで回避)[1]
- ✕遠位スクリュー1本のみでは不安定(最低2本必須)
- ✕回旋アライメント不良(大腿骨遠位部骨折治療の典型的な問題)の見落とし[1]
術後管理
術後X線正面像・側面像 — 顆間ラグスクリュー+外側VA-LCP(またはラグスクリュー+逆行性釘)。関節面整復・軸回復を確認
手術タイミング: 多発外傷、重度軟部組織損傷を伴う開放骨折、血管損傷例、または早期の最終治療ができない状況では、膝関節架橋型創外固定によるダメージコントロール手術を行い、後に最終固定する[1]
術後荷重: 単純骨折で骨片同士が接触し内固定が安定していれば、術直後から部分荷重(10〜15 kg)が可能。術後6〜12週のフォローアップで仮骨形成がみられれば段階的に荷重を増やす[1]
VTE予防: 地域のガイドラインに準じて行う
疼痛管理: 十分な疼痛管理のもとで、早くて術後48時間から自動介助運動を始める[1]
リハビリテーション: 軟部組織の状態と疼痛管理が十分であれば、早くて術後48時間から股関節・膝・足関節の自動介助運動を開始する。CPM(continuous passive motion)も効果的[1]
フォローアップ
- 術後2〜3週: 創部確認・X線(整復位維持・implant位置)
- 術後6〜12週: X線(仮骨形成の確認・段階的荷重の判断)[1]
- 術後12週: X線(骨癒合・全荷重達成確認)
- 術後6ヶ月: X線(骨癒合完成評価)
- 術後12ヶ月: X線 ± CT(骨癒合・変形性関節症の評価)
予後
- 骨癒合率:約85〜90%(プレート固定)、約80〜88%(逆行性釘)
- 顆部・関節面の解剖学的再建と、四肢のアライメント・回旋の修復が必須[1]
- 膝関節可動域:軟部組織の状態と疼痛管理が許せば、早くて術後48時間から膝の自動介助運動を始められ、CPMも効果的[1]
- 主要合併症(外側ロッキングプレート335骨折):骨癒合促進の再手術19%(閉鎖骨折10%)、implant failure 7%、深部感染5%[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(33-C1 = 完全関節内・関節面単純・骨幹端単純)
- 2CT評価完了(関節面転位量・Hoffa骨折の合併・三次元骨折パターン)
- 3(浅)大腿動脈損傷の除外(神経血管の状態を慎重に検査し、ドプラー超音波または血管造影で評価)[1]
- 4遠位骨片の屈曲・内反・後方回旋と短縮(腓腹筋による典型的変形)の評価と術中矯正計画[1]
- 5関節ブロック再建の先行計画(ラグスクリューの方向・本数・free-zone確保)
- 6アライメント確認の計画(健側のLDFAを測定し、術中の冠状面アライメント評価の基準とする)[1]
- 7術後荷重スケジュール確認(単純骨折で内固定が安定していれば術直後から部分荷重10〜15 kg → 術後6〜12週に仮骨形成を確認して段階的荷重)[1]
- 8VTE予防薬の処方確認
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Ricci WM, Streubel PN, Morshed S, et al.(2014)Risk factors for failure of locked plate fixation of distal femur fractures. J Orthop Trauma, 28:83–9. PMID: 23760176
- Liow MHL, Yeo DCM, Huang EH, et al.(2016)Retrograde intramedullary nailing and locked plating for distal femoral fractures. J Orthop Surg (Hong Kong), 24:185–9.