大腿骨遠位部の関節面と骨幹端の両方が粉砕する最重症骨折。AO分類33-C3に相当する(Complete articular fracture, multifragmentary articular, multifragmentary metaphyseal)。関節内骨片が複数に分裂し、骨幹端も粉砕しているため単純なプレート固定では不十分で、ラグスクリューによる顆部解剖整復 + ブリッジプレートによる骨幹端架橋固定の組み合わせが標準となる。術前CTは必須。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 大腿骨遠位部骨折全体の約15〜20%(C型の中で最重症)
好発: 高エネルギー外傷(交通事故・高所墜落)では若年成人、骨粗鬆症性脆弱性骨折では高齢女性
受傷機転: 膝関節への直達外力(ダッシュボード損傷・落下時の膝衝突)と軸圧・回旋力の複合。骨粗鬆症例では軽微な外傷でも発生
注意すべき合併症
- 外傷後変形性膝関節症(関節面整復不良・関節軟骨損傷による):長期的には生じうる(報告により発症率は様々であり、関節面整復精度に強く依存する)
- 骨癒合不全・偽関節(粉砕が強く骨接触面積が小さい):5〜10%
- 骨片の無菌性壊死(後方顆骨片の血行障害)
- 膝関節拘縮(術後の早期可動域訓練不足):屈曲制限が残ることが多い
- 感染(ORIF時の広範囲展開による):深部感染2〜5%
- 腓骨神経・膝窩血管損傷(高エネルギー骨折)
- DVT/PE
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →粉砕した関節内骨折の保存療法は関節面不整合を残しやすく原則として手術推奨
- →例外:手術リスクが極めて高い患者(重篤な全身合併症・余命限定的)のみ牽引・ギプス固定を考慮
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ第一選択:ラグスクリュー(顆部骨折の解剖整復)+ MIOブリッジプレート(骨幹端架橋)
- ℹ骨粗鬆症例・骨片が多数:ダブルプレート(内側ロッキングプレート medial LCP + 外側ロッキングプレート)
- ℹ開放性骨折(GustiloⅡ度以上)・関節周囲軟部組織損傷が重篤:一時的外固定(創外固定)→ 全身状態改善後に確定手術
- ℹ超高齢者・骨質不良例(ORIFが困難):全人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty; TKA)も選択肢
- ℹ外側ロッキングコンダイラープレート(LCP-DF)が現在の標準インプラント
治療選択アルゴリズム — 33-C3・ORIF(ラグスクリュー+ブリッジプレート)・ダブルプレート・TKAの使い分け
診断・評価
強い膝関節の腫脹・疼痛・変形(内反または外反変形)・荷重不能。X線正面像・側面像では骨折パターンの全貌は把握できず、CT(3次元再構成含む)が必須。関節内血腫は関節内骨折のサイン。骨片数・骨折面の方向・関節軟骨損傷域・骨幹端粉砕の範囲をCTで詳細に評価する。血管損傷が疑われる場合はCT血管造影(CTA)も施行。
X線AP像・側面像(大腿骨遠位部 粉砕骨折)— AP/Lat・骨折線多数・顆部粉砕・骨幹端粉砕を確認
CT横断・冠状・矢状断 + 3D再構成 — 顆部骨片数・骨折面方向・骨幹端粉砕範囲の評価に必須
✅ 許容される整復基準
- ✓関節面転位 ≦2mm(理想は ≦1mm)
- ✓下肢機械的軸(股関節中心〜足関節中心)の正常位(内反/外反変形なし)
- ✓前額面・矢状面ともに5°以内の角状変形
❌ 許容されない変形
- ✕関節面転位 >2mm(外傷後変形性膝関節症の直接リスク)
- ✕内反・外反変形 >5°(下肢アライメント異常)
- ✕矢状面屈曲変形 >10°(伸展障害)
- ✕回旋変形 >5°(歩行障害)
手術手技
体位
仰臥位(膝関節30〜60°屈曲): 仰臥位にて膝下に枕・ロールを置き膝を30〜60°屈曲させる。腓腹筋の緊張を緩め骨折部後方の骨片を前方へリラックスさせるとともに、後方血管・神経の展開を避ける。透視は手術台に対し内側または外側から侵入できるよう配置する。
手術体位 — 仰臥位・膝関節30〜60°屈曲・透視セットアップ(外側アプローチ)
ORIF(ラグスクリュー+外側ブリッジプレート)— 第一選択
ORIF手技 — 外側アプローチ・ラグスクリューによる顆部解剖整復 → LCP-DFブリッジプレート(MIO/直視)固定
- 外側アプローチ(外側傍膝蓋腱切開 or 外側広筋下アプローチ): 外側切開で大腿遠位外側を展開。関節包を切開し関節内を直視。骨折部の血腫を除去し骨片を確認する
- 顆部の解剖整復: ポインテッドリダクションクランプで外側顆と内側顆を圧迫整復。骨片が多数の場合は小骨片から順次仮固定(K-wire 2〜3本)。整復精度は透視と直視の両方で確認
- ラグスクリュー刺入(顆部固定): 解剖整復後に3.5〜6.5mmラグスクリューを適切な方向(骨折面に垂直)で刺入。スクリューは関節面からcountersunk(沈下)させること。顆部骨折面に応じ複数本使用(通常2〜3本)
- 外側ロッキングコンダイラープレート(LCP-DF)設置: 遠位端を外側顆に合わせプレートを設置。遠位ロッキングスクリューで顆部ブロックをプレートに固定する(3〜4本)
- 骨幹端:MIO(低侵襲)ブリッジ固定: プレート近位端は骨膜を剥離せずスライドさせて挿入(MIO: minimally invasive osteosynthesis)。近位に2〜4本の皮質骨またはロッキングスクリューを刺入し骨幹端を架橋固定
- 透視確認: 整復位(AP/Lat)・プレート位置・スクリュー長・下肢アライメント(長軸)を透視で確認。スクリューが膝関節内に迷入していないことを確認する
- 洗浄・閉創: 関節内を生理食塩水で洗浄。ドレーン留置後に閉創
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕骨幹端の骨膜過剰剥離(MIOで骨膜を温存しないと骨癒合遅延・壊死リスク)
- ✕遠位ロッキングスクリューの関節内迷入(透視で必ず全スクリューを確認)
- ✕内側顆後方骨片(Hoffa型)の見落とし(CT必須・ラグスクリューで個別固定が必要)
- ✕下肢アライメント不整(特に内反変形):患側と健側の機械的軸を術中透視で比較
- ✕腓骨神経の過度な牽引(外側アプローチ時)
ダブルプレート(内側 + 外側ロッキングプレート)— 骨粗鬆症・高度粉砕例
骨粗鬆症例や骨片が多数で外側プレート単独では固定性が不十分な場合に選択。外側にLCP-DFを設置後、内側に術中形態に合わせて曲げ形成した内側ロッキングプレート(medial LCP)を追加固定する。内側プレートの操作は内側アプローチ(内側傍膝蓋腱切開または内側低侵襲アプローチ)で行う。
術後管理
術後X線像(AP/側面)— 外側LCP-DFプレート+ラグスクリュー固定。顆部解剖整復・骨幹端架橋固定
手術タイミング: 開放性骨折・血管損傷は緊急手術。閉鎖性骨折は全身状態安定化・腫脹軽減後(受傷後3〜7日が一般的)に確定手術。腫脹が著しい場合は創外固定で仮固定し1〜2週後に確定手術(二期的アプローチ)
術後荷重: 術後6〜10週はtoe-touch荷重(10〜15kg)。X線で骨癒合徴候(仮骨形成・骨折線不明瞭化)を確認後、部分荷重へ段階的に移行。完全荷重は術後12週以降を目安とする。骨粗鬆症例はさらに慎重に
VTE予防: エドキサバン(またはリバーロキサバン)を術後翌日より開始、術後4〜6週継続
疼痛管理: 術後は硬膜外または末梢神経ブロック(大腿神経ブロック)を活用。定期的なNSAIDsまたはアセトアミノフェン投与
リハビリテーション: 術翌日よりCPM(continuous passive motion)開始。筋力訓練は術後1〜2週より開始。膝関節屈曲90°以上を術後12週を目標とする(早期可動域訓練を継続しながら段階的に)
フォローアップ
- 術後2週:創部確認・抜糸・X線(整復位・スクリュー位置)
- 術後6週:X線(仮骨形成確認)・荷重量評価・可動域訓練進行状況
- 術後12週:X線(骨癒合進行)・荷重プログレッション評価
- 術後6ヶ月:X線 ± CT(完全骨癒合・変形性膝関節症の評価)
- 術後12ヶ月:最終評価(機能・疼痛・変形性膝関節症の有無)
予後
- 骨癒合率:85〜92%(単純C1と比較し粉砕が強いほど低下)
- 骨癒合不全・偽関節:5〜10%(粉砕が高度・骨粗鬆症例で高い)
- 外傷後変形性膝関節症:長期的には生じうる(報告により発症率は様々、関節面整復精度に強く依存)
- 深部感染:2〜5%(広範囲展開・高エネルギー損傷例で高い)
- 膝関節屈曲可動域:平均90〜110°(術前の軟部組織損傷・術後リハビリに依存)
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(33-C3 = 大腿骨遠位部・完全関節内・顆部粉砕 + 骨幹端粉砕)
- 2術前CT必須(骨片数・骨折面方向・Hoffa骨折の有無・骨幹端粉砕範囲)
- 3Hoffa骨折(後方顆冠状面骨折)の見落としがないか確認
- 4血管損傷(膝窩動脈)の評価(ABI測定またはCTA)
- 5下肢アライメント(機械的軸)の術前計画および術中透視での確認
- 6ラグスクリューが関節面からcountersunk(沈下)していることを術中透視で確認
- 7遠位ロッキングスクリューの関節内迷入がないことを透視で確認
- 8骨粗鬆症評価(DXAまたは骨皮質厚)→ ダブルプレート or ロッキングプレート選択の判断
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Martinet O et al.(2000)Epidemiology of fractures of the distal femur. Injury, 31(Suppl 3):C62–3. PMID: 11052383
- Meinberg EG, Agel J, Roberts CS, et al.(2018)Fracture and Dislocation Classification Compendium—2018. J Orthop Trauma, 32(Suppl 1):S1–S170.
- Ehlinger M et al.(2012)Locking plate fixation of distal femur fractures — technical tricks. Orthop Traumatol Surg Res, 98(5):485–92.