大腿骨骨幹部に曲げ力によって生じる楔状(バタフライ)骨片を伴う骨折 。AO分類32-B2に相当する。骨幹部への直接または間接的な曲げ応力により凸側(tension side)から亀裂が走り三角形の楔状骨片が形成される。骨片は単一で比較的整復しやすい(粉砕していない)。螺旋楔型(32-B1)と異なり骨折線はより横断面に近い傾向がある。治療の第一選択は順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing) 。骨片が大きければラグスクリューで固定し、静的ロッキングで固定する。
重症度・疫学
好発: 高エネルギー機序が48%、低エネルギー機序が35%。年齢分布は三峰性で、小児期に比較的低いピーク、続いて若年成人期に高いピーク、65歳以上でピークが高くなってきている[1]
注意すべき合併症
骨膜血管・貫通動脈の損傷(骨片の血行障害)
回旋不整
肺機能障害(固定インプラントや挿入手技よりも肺損傷の重症度と蘇生の質が関係)
DVT/PE
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 原則適応なし → 創外固定はダメージコントロール手術と、時に感染性偽関節で用いる(最終固定までの仮固定)
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:順行性髄内釘(静的ロッキング) ℹ 骨幹部内では骨折型によって固定方法は変わらない ℹ 整復の補助にはボーンフック・ボールスパイクプッシャー・Schanzスクリューなどの経皮的補助器具を用いる ℹ 代替:プレート固定(骨幹端・関節内骨折の併発、人工関節周囲骨折など。LCP・LISS)
治療選択アルゴリズム — 曲げ楔型の治療フロー
診断・評価
X線は直交する2方向で骨折部上下の関節を含めて撮影し、併発しやすい大腿骨頚部骨折(31B)と大腿骨遠位部部分関節内骨折(Hoffa、AO/OTA 33B3.2)を見逃さない。軟部組織損傷と四肢の神経血管の状態も評価する。
X線正面像 — 曲げ楔型骨折線と楔状骨片
❌ 許容されない変形
✕ 15°以上の回旋変形(CT研究で最大28%)は軸アライメントにも影響する
手術手技
体位
牽引台での仰臥位(scissored traction): 徒手牽引が不要で長さと回旋の評価が容易だが、陰部神経圧迫の可能性があり多発外傷患者には理想的でない。
順行性髄内釘 — 第一選択
楔状骨片の経皮的クランプ整復+ラグスクリュー固定
非観血的な徒手整復を基本とし、経皮的補助器具と適度な薬理学的筋弛緩を併用する
髄内釘は相対的安定性を与え仮骨形成で治癒する
エントリーポイント作成→段階的リーミング→ネイル挿入
遠位ロッキング(2本、静的)
回旋評価(小転子徴候)
近位ロッキング(2本)。最終透視確認
⚠️ IM ネイリング ピットフォール
✕ 骨膜血管・貫通動脈の損傷(血行温存が重要) ✕ 鋭利で深い溝のリーマヘッドを使い0.5mm間隔でリーミングするとリーミングの合併症を減らせる ✕ 回旋評価省略 → 回旋不整(malrotation)
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 順行性髄内釘+楔状骨片ラグスクリュー+静的ロッキング
術後荷重: 髄内釘と近位・遠位の横止めスクリューで固定されていれば、粉砕の程度にかかわらず術直後から許容可能な範囲内の荷重を許可してよい
DVT/PE予防: 骨盤の静脈血栓が高率に発生するため深部静脈血栓症の予防を考慮する
フォローアップ
予後
骨癒合率:順行性リームド髄内釘で95%(アンリームド/細径では偽関節率が高い:7.5% vs 1.6%)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(32-B2 = 大腿骨骨幹部楔状骨折・曲げ楔型) 2 分類から整復手技の術前計画と、回旋アライメント達成の困難度・術中合併症を見積もる 3 骨片の血行を温存するため展開は必要最小限にする(骨膜外にとどめる) 4 術中回旋評価(小転子徴候) 5 静的ロッキングを確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767