大腿骨骨幹部に斜めの骨折線 を持つ単純骨折。AO分類32-A2に相当する。治療の第一選択は順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing) [1] 。近位・遠位1/3への骨折ではポーラースクリュー(Poller/Blocking screw)が整復・固定の補助として有効。
重症度・疫学
年間発生件数: 大腿骨骨幹部骨折全体で年間人口10万人あたり10〜37例[1]
好発: 年齢分布は三峰性で、若年成人期に高いピーク、65歳以上でもピークが高くなってきている。機序は高エネルギー48%・低エネルギー35%[1]
受傷機転: リームド髄内釘で治療した551骨折のシリーズでは87%が自動車・オートバイ事故[3]
注意すべき合併症
脂肪塞栓症候群(FES):約1〜3%。受傷後48〜72時間以内
DVT:骨盤の静脈血栓が高率に発生するため、深部静脈血栓症の予防を考慮する[1]
回旋不整:髄内釘挿入後に比較的頻発し、しばしば不満足な機能的結果を残す[1]
ポーラースクリュー不使用での整復不良:近位・遠位骨折では内反・前弯が生じやすい
健側下肢のコンパートメント症候群:牽引台の使用に特有の合併症[3]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 原則として適応なし(牽引・ギプスによる非手術的治療は受け入れがたい結果をもたらす)[1] → 手術が選択肢でない場合にのみ非手術的治療を適用。最終的な固定までは牽引で一時的に安定化する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)・リーミングあり・静的固定 ℹ 近位・遠位1/3骨折ではポーラースクリュー(blocking screw)で整復補助・固定安定化 ℹ 代替:逆行性髄内釘(相対適応:同側の大腿骨・脛骨骨幹部骨折〔一皮切で両方の髄内釘を挿入できる〕など)[1] ℹ 代替:観血的プレート固定(急性期の適応はまれ)。可能な限り主骨折線に垂直に、できればプレート孔をとおしてラグスクリューを挿入する[1] ℹ 急性期の髄内釘固定では横止めを静的な位置で行い、通常は近位・遠位に2本ずつ[1]
治療選択アルゴリズム — 順行性IM釘(第一選択)、近位/遠位1/3でポーラースクリュー追加
診断・評価
X線は直交する2方向で、骨折部上下の関節も含めて撮影する[1] 。
X線正面像 — 大腿骨骨幹部斜骨折パターン(≥30°)、骨折端の皮質接触あり
【必須】 大腿骨の直交2方向X線(骨折部上下の関節を含む)。併発して見逃されやすい大腿骨頚部骨折(31B)と大腿骨遠位部部分関節内骨折(Hoffa)を除外する[1]
✅ 許容される整復
✓ 癒合時の角状変形が冠状面・矢状面とも5°未満だった骨折は、アライメントを評価できた骨折の89%[3] ✓ 回旋 ≦10° ✓ 短縮 ≦1 cm
❌ 許容されない変形
✕ 内反・外反(変形癒合は大腿骨の近位・遠位1/3の骨折で最も多い)[1] ✕ 前弯・後弯(5°を超える角状変形は遠位1/3骨折と関連。腓腹筋が遠位骨片を屈曲させる)[3] ✕ 回旋 15°以上(CT評価で最大28%に認められ、階段昇降・スポーツ・ランニングなどの激しい運動で支障を来す)[1]
手術手技
体位
牽引台での仰臥位: 健側と比較して長さと回旋を評価しやすいが、陰部神経圧迫の可能性があり、多発外傷には理想的でない[1] 。
順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 第一選択
ポーラースクリュー(Poller/Blocking screw)の役割: 近位・遠位1/3の斜骨折では、髄内釘が偏位しやすい広い髄腔部分での整復不良を防ぐため、骨折のconcave側にポーラースクリューを配置し、釘の軌道を矯正する。
ポーラースクリュー(Blocking screw)— 骨折のconcave側に配置し髄内釘の軌道を矯正
整復:牽引+補助整復(Schanzスクリュー・骨フック)
エントリーポイント作成(梨状筋窩 or 大転子先端)
ポーラースクリュー配置:近位・遠位1/3骨折では先にK-wireまたはスクリューを骨折のconcave側に設置
ガイドワイヤー挿入・リーミング(鋭で深い溝のリーマヘッドを用い、0.5 mm間隔で段階的に)[1]
ネイル挿入(順行性髄内釘は膝蓋骨中央の高さまで)[1]
遠位ロッキング:静的な位置で2本[1]
バックスラップ(骨折端圧縮):スライドハンマーでネイルを近位へ押し戻し、骨折端を圧縮(斜・螺旋骨折の皮質接触を高める)
回旋評価:健側下肢も消毒・ドレーピングし、長さと回旋を健側と比較する[1]
近位ロッキング:静的な位置で2本[1]
術中透視(AP/側面)— 整復位・ネイル位置確認
⚠️ IM ネイリング ピットフォール
✕ 近位・遠位1/3骨折でポーラースクリューなし → 内反・前後弯の整復不良 ✕ 偏心リーミング → 皮質弱体化 ✕ 鋭で深い溝のリーマヘッドを用い0.5 mm間隔でリーミング → リーミングの潜在的な合併症を減らす[1] ✕ 髄内釘挿入後の回旋異常(malrotation):比較的頻発し、しばしば不満足な機能的結果を残す[1] ✕ 大腿骨頸部骨折の見落とし
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 順行性髄内釘+静的ロッキング(遠位2本・近位2本)
手術タイミング: 迅速な蘇生後、全身状態が安定した最も早期で安全な時点、通常受傷後24時間以内に行う[1]
術後荷重: 髄内釘と近位・遠位の横止めスクリューで固定した場合、粉砕の程度にかかわらず術直後から許容可能な範囲内の荷重を許可してよい[1]
DVT/PE予防: 骨盤の静脈血栓が高率に発生するため、深部静脈血栓症の予防を考慮する[1]
コンパートメント監視: 術後48時間
リハビリテーション: 術後可及的早期から膝関節・股関節の可動域訓練と離床を始める[1]
フォローアップ
術後2週:創部・X線確認
術後6週:骨癒合初期確認
骨癒合:リームド髄内釘の症例研究では、カルテへの記載、または2方向のX線像で架橋仮骨を認めた場合に癒合と判定した[3]
遷延癒合で長さ・回旋の安定性が確保されている場合は、動的横止め(ダイナミゼーション)を検討[1]
予後
骨癒合率:リームド横止め髄内釘で98.9%(551骨折)[3]
回旋不整:髄内釘挿入後の回旋異常は比較的頻発し、しばしば不満足な機能的結果を残す[1]
偽関節:順行性リームド髄内釘の癒合率は95%。偽関節率はリームド1.6%、アンリームドまたは比較的径の細い髄内釘7.5%[1]
近位/遠位1/3のポーラースクリュー使用で整復精度が向上
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(32-A2 = 大腿骨骨幹部の単純骨折・斜骨折) 2 骨折部位を確認(近位/中央/遠位1/3) 3 同側大腿骨頸部骨折を除外 4 ポーラースクリューの必要性を評価(近位・遠位1/3骨折で検討) 5 術式を確認(順行性IM釘・静的ロッキング) 6 術中回旋評価を計画 7 術直後から許容可能な範囲内の荷重を許可できることを患者に説明[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Ostrum RF, et al.(2000)The use of blocking screws in the treatment of subtrochanteric femur fractures with intramedullary nailing. J Orthop Trauma, 14:348–52.
Wolinsky PR, et al.(1999)Reamed intramedullary nailing of the femur: 551 cases. J Trauma, 46:392–9. PMID: 10088839