大腿骨骨幹部(AO/OTA 部位32)の単純骨折(32A)。骨格的に成熟した健常骨に高エネルギーが加わった目印となる骨折で、多発外傷の一部であることが多い。治療の第一選択は閉鎖性リームドインターロッキング髄内釘(順行性)であり、仮骨形成による相対的安定性を与え、負荷分散型インプラントとして早期からの荷重が推奨される[1]。
重症度・疫学
年間発生件数: 大腿骨骨幹部骨折の発生率は、都市部と農村部が混在する地域で年間人口10万人あたり10〜37例[1]
好発: 年齢分布は典型的に三峰性で、小児期に比較的低いピーク、若年成人期に高いピーク、65歳以上のピークが高くなってきている(骨粗鬆症、ビスホスホネート治療の合併症、人工関節周囲骨折、高齢者の活動性向上による)[1]
受傷機転: 高エネルギー機序48%、低エネルギー機序35%(来院前死亡17%)。多発外傷の一部であることが多く、併発損傷が頻発する[1]
注意すべき合併症
- 全身性合併症:大腿骨骨折は多発外傷の一部であることが多く併発損傷が頻発し、単独骨折でも全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症することがある[1]
- DVT/PE:骨盤の静脈血栓が高率に発生するため、深部静脈血栓症の予防を考慮する[1]
- コンパートメント症候群:健側下肢のコンパートメント症候群は、陰部神経麻痺・会陰部の皮膚壊死とともに牽引台の使用に特有の合併症[2]
- 回旋不整(Malrotation):CTを用いた研究で最大28%に15°以上の回旋変形。長さと回旋の判定には小転子の輪郭を健側と比較する[1]
- 偽関節:順行性リームドネイルの癒合率は95%。アンリームドネイルはリームドネイルより偽関節率が高い(7.5% vs 1.6%)[1]
- 感染:リームド髄内釘551例で感染率1.1%(6例、深部3例・表層3例)。いずれも閉鎖骨折に発生した[2]
治療方針
骨幹部骨折は原則として手術。長管骨骨折の早期固定は合併症を減らし死亡率も下げ、遠隔臓器損傷の可能性が減り、重篤な脳障害の予後が改善し、外固定による合併症を減らすことができる[1]。
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →牽引またはギプスによる非手術的治療は受け入れがたい結果をもたらし、手術が選択肢ではない場合にのみ適用する[1]
- →例外:手術が選択肢でない場合。最終的な固定を行うまでは牽引で一時的な安定化を図る[1]
- →ダメージコントロール期間中の一時的外固定(創外固定)は許容される
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ第一選択:順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— リーミングあり、静的固定
- ℹ梨状窩エントリー:正面像で髄腔軸上、側面像で大腿骨後方1/3の縦軸上にガイドワイヤをおく(エントリーポイントはネイルのデザインで異なる)[1]
- ℹ大転子頂部エントリー:最近は多くの髄内釘がここから挿入される。間違ったエントリーポイントは整復不良や術中の医原性骨折を引き起こす[1]
- ℹ代替:逆行性髄内釘 — 絶対適応はないが、肥満、同側の大腿骨頚部・骨幹部骨折、同側の大腿骨骨幹部・脛骨骨幹部骨折、多発外傷、両側大腿骨骨折などが相対適応[1]
- ℹ代替:プレート固定 — 骨折線が転子部や顆部へ及ぶ32B・32C、狭いまたは変形した髄腔、人工関節周囲骨折、修復が必要な血管損傷などが相対適応[1]
治療選択アルゴリズム — 順行性IM釘(第一選択)→逆行性IM釘→プレート固定
診断・評価
大腿骨骨折が疑われる外傷患者はATLSの原則に従って系統だった評価をする。骨折そのものについては、軟部組織損傷(閉鎖性デグロービング・開放骨折創・裂傷)および四肢の神経血管の状態を丁寧に評価する[1]。
32-A1の診断ポイント
X線正面像・側面像で骨折線の方向(螺旋)・部位(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)を確認。CTは関節内合併・大腿骨頸部骨折の除外に有用。
X線正面像 — 大腿骨骨幹部螺旋骨折パターン(中央1/3)
骨折パターン比較 — 32-A1(螺旋)vs 32-A2(斜骨折)vs 32-A3(横骨折)
【必須】 直交する2方向のX線を骨折部上下の関節も含めて撮影する。大腿骨頚部を15°内旋させた撮影・膝関節の完璧な側面像・外傷CTの慎重な評価により、併発頻度の高い大腿骨頚部骨折(31B)と大腿骨遠位部部分関節内骨折(Hoffa、AO/OTA 33B3.2)を除外する[1]
✅ 許容される整復
- ✓冠状面・矢状面アライメント:リームド髄内釘後は内外反・前後弯とも10°を超えて癒合した骨折はなく、内外反は96%が5°未満で癒合した[2]
- ✓回旋:小転子の輪郭を健側と比較して確認する
- ✓短縮:健側と比較して長さを確認し、過延長・短縮を避ける
❌ 許容されない変形・状態
- ✕いずれかの面で5°を超える変形(遠位1/3骨折で生じる頻度が有意に高い)[2]
- ✕15°以上の回旋変形(階段昇降・スポーツ・ランニングなど激しい運動で支障を感じる)[1]
- ✕大腿骨頚部骨折の見落とし(大腿骨骨幹部骨折におよそ2.5〜6%合併し、初め見落とされがち)[1]
手術手技
体位
手術体位 — 牽引台仰臥位(透視AP/側面の両方向から確認)
牽引台での仰臥位(scissored traction): 徒手牽引が不要で健側と比較した長さ・回旋の評価が容易だが、多発外傷患者には理想的でなく、陰部神経圧迫の可能性や骨盤・寛骨臼骨折、同側下肢損傷の合併例では問題となる[1]。
順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 第一選択
エントリーポイント — 梨状筋窩(直型ネイル)vs 大転子先端(近位彎曲ネイル)
- 整復: 牽引により間接整復。骨片をSchanzスクリューや骨フックで補助整復。透視でAP・側面のアライメントを確認
- エントリーポイント作成: 皮切は通常大転子から2〜4cm近位におく。梨状窩または大転子頂部にガイドワイヤを刺入し、2方向とも髄腔軸上にあることを確認する[1]
- リーミング(拡髄): 鋭で深い溝のリーマヘッドを用い0.5mm間隔で拡髄する。リーマが峡部近くの皮質骨を噛み始めていることを示す cortical chatter が生じるまで行う[1]
リーミング(段階的拡髄)— 9mmから0.5mm刻み、チャター感で停止
- ネイル選択・挿入: 長さは健側との比較などで決定し、順行性髄内釘は膝蓋骨中央の高さまで挿入する[1]
- 遠位ロッキング: 急性期の大腿骨髄内釘固定では横止めを必ず静的な位置で行い、骨折遠位に2本のロッキングスクリューを挿入する[1]
- 長さ・アライメントの確認: 過延長や短縮を招かないよう、透視で骨折部の長さとアライメントを確認する
- 回旋評価: 小転子の輪郭を健側と比較して長さと回旋を確認し、近位も2本のスクリューで横止めする[1]
- 最終確認: AP・側面透視でアライメント・スクリュー位置・回旋・骨折端接触を確認
遠位ロッキングスクリュー(perfect circle法)+最終固定構成(遠位2本・近位2本)
⚠️ IM ネイリング ピットフォール
- ✕エントリーポイントの誤り(ガイドワイヤ位置不良)→ 整復不良・術中の医原性骨折[1]
- ✕リーマヘッドの選択とリーミング手順(鋭で深い溝・0.5 mm間隔)を守らない → リーミングの潜在的合併症[1]
- ✕エントリーポイントの骨は外側が柔らかく内側が硬い → 複雑な大腿骨近位部骨折の若年患者では挿入時に抵抗を感じてエントリーポイントが外側にずれて拡大し、整復不十分な内反変形となる[1]
- ✕回旋評価の省略 → CTを用いた研究では最大28%に15°以上の回旋変形[1]
- ✕大腿骨頸部骨折の見落とし(外傷CTの慎重な評価と、手術の際に透視下で不顕性骨折を検索する)[1]
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 順行性髄内釘+静的ロッキング(遠位2本・近位2本)
手術タイミング: 迅速な蘇生後、最も早期で安全な時点(全身状態の安定化、リソースと人員の確保)に、通常は受傷後24時間以内に施行。重篤な頭部・胸部外傷では創外固定で仮固定するダメージコントロールが選択肢となる[1]
術後荷重: 髄内釘と近位・遠位の横止めスクリューで固定されている場合、粉砕の程度にかかわらず術直後から許容可能な範囲内の荷重を許可してよい[1]
DVT/PE予防: 骨盤の静脈血栓が高率に発生するため、深部静脈血栓症の予防を考慮する
術後観察: 深部静脈血栓症に注意する(骨盤の静脈血栓が高率に発生するため予防を考慮する)[1]
疼痛管理: 順行性髄内釘術後は股関節部痛が出現する可能性を患者に伝えておく(逆行性ではエントリーポイントの膝痛)[1]
リハビリテーション: 術後可及的早期から膝関節・股関節の可動域訓練と離床を始める[1]
フォローアップ
- 術後の外来診察: 創部確認・X線撮影(アライメント・スクリュー位置)
- 骨癒合の確認: X線撮影(仮骨形成の確認)
- 骨癒合の遅れ: 遷延癒合の所見があればダイナミゼーション(遠位横止めスクリューの抜去)または exchange nailing(リームド)を検討[1][2]
- 骨癒合後: 約30%の患者がデバイスの抜釘を必要とする[1]
予後
- 骨癒合率:約95〜98%(リーム順行性IM釘)
- 回旋変形:CTを用いた研究で最大28%に15°以上[1]。551例では回旋矯正骨切りを要した症例はなかった[2]
- 偽関節:リームドネイル1.6% vs アンリームドネイル・細径ネイル7.5%[1]。551例では6例(1.1%)が癒合しなかった[2]
- 感染:1.1%(551例中6例。いずれも閉鎖骨折で発生し、開放骨折では術後感染がなかった)[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(32A = 大腿骨,骨幹部セグメント,単純骨折)
- 2部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)
- 3同側大腿骨頸部骨折を除外(骨盤・股関節X線)
- 4術後の呼吸機能障害に注意(固定インプラントや挿入手技よりも肺損傷の重症度と蘇生の質が肺機能障害に関係する)[1]
- 5術式を確認(第一選択:順行性IM釘・リーミングあり)
- 6エントリーポイントを確認(梨状筋窩 or 大転子先端)
- 7術中回旋評価を計画(小転子徴候・健側比較)
- 8術直後から許容可能な範囲内の荷重が可能であることを患者に説明[1]
- 9深部静脈血栓症の予防を考慮する(骨盤の静脈血栓が高率に発生する)
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Wolinsky PR, et al.(1999)Reamed intramedullary nailing of the femur: 551 cases. J Trauma, 46:392–9. PMID: 10088839