大腿骨頭骨折(Pipkin I/II型)に大腿骨頸部骨折が合併した最も重篤な型。AO分類31-C2に相当し、Pipkin分類III型に位置づく。頸部骨折の存在により閉鎖整復が原則として禁忌または困難であり、緊急の開放整復が必要となる。骨頭壊死(AVN)・偽関節・固定失敗のリスクが最も高く(文献では全Pipkin III症例が内固定失敗と報告)、若年患者では骨頭温存のためORIF、高齢患者では人工骨頭置換術(bipolar hemiarthroplasty)または人工股関節全置換術(THA)が選択される。
重症度・疫学
発生頻度: 大腿骨頭骨折は稀な損傷で、股関節後方脱臼の約5〜15%に合併する[2]
好発: 大腿骨頭骨折の患者の約2/3は若年成人。交通事故・高所転落などの高エネルギー外傷による股関節後方脱臼に合併する[2]
受傷機転: 同乗者の膝がダッシュボードに当たる dashboard injury(交通事故)や高所転落。頸部骨折の合併で閉鎖整復はできない[2]
予後: 多くの症例で大腿骨頭の主骨片の血行が失われているため最も予後が悪い[3]。ただし系統的レビューではPipkin亜型間の成績に統計学的な差は無い[2]
注意すべき合併症
- 骨頭壊死(AVN):Pipkin III では多くの症例で骨頭主骨片の血行が失われている[3]
- 偽関節・内固定失敗:固定不良や整復喪失が生じたら、失敗のタイプ・骨質・年齢やニーズで次の治療を決める[3]
- 外傷後変形性関節症:大腿骨頭損傷に頸部骨折を伴う場合に特に多い[3]
- 坐骨神経障害:大腿骨頭骨折の骨折脱臼の4.0%に生じる[2]
- 深部静脈血栓症・肺塞栓症:高エネルギー外傷・長期臥床により高率
治療方針
頸部骨折の合併は閉鎖整復の禁忌にあたり、緊急の開放整復が原則。術式は股関節の関節症の徴候と活動性で選択する[2]。
⚠️ 保存療法の適応条件
- →原則として保存療法は適応なし(頸部骨折で大腿骨が骨頭から離断しており、閉鎖整復ができない)[2]
- →例外:大腿骨近位部骨折の高齢患者のうち、末期疾患のため手術の候補にならない例(5〜8%)は緩和ケアのみ[3]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ閉鎖整復は頸部骨折のため基本的に禁忌 → 緊急開放整復が原則
- ℹ若年患者:骨頭温存を目指しORIF(Smith-Petersen法、症例によりWatson-Jones法)[2]。骨頭の血流が温存されている望みがあれば、骨頭骨折より先に頸部骨折を内固定する[3]
- ℹ高齢患者:進行した関節症の徴候や活動性低下があれば bipolar 人工骨頭置換術または人工股関節全置換術(THA)[2]
- ℹ40歳以上:一期的な人工股関節全置換術(THA)が行われる(症例によっては関節固定術)[3]
- ℹ手術時期:緊急(できる限り早期)
治療選択アルゴリズム — 年齢・活動性によるORIF vs 人工物置換の選択
診断・評価
後方脱臼では患肢は短縮し屈曲・内転・内旋位をとるが、頸部骨折や骨頭骨折を伴うとこの典型的な肢位にならないことがある。意識のある患者では、診察と単純X線が終わるまで整復を試みない[2]。
31-C2の診断ポイント
骨盤X線正面像で頸部骨折の有無を含めて系統的に評価する。CTは骨頭骨折の形態・転位量・関節内骨片の評価に要るが、術前CTのために手術を大きく遅らせない[2]。
X線正面像 — 骨頭骨折線と頸部骨折線(関節包内)の合併像
【必須】 骨盤X線正面像・股関節X線側面像(クロステーブル)。CTは可能なら術前に撮影する[3][2]
✅ 推奨される治療選択
- ✓若年:解剖整復+内固定による骨頭温存を最優先
- ✓高齢:転位のある関節包内骨折では、関節置換で再手術率を有意に減らせる[3]
- ✓高齢者の転位型大腿骨頸部骨折に対する人工骨頭置換では、セメント固定でインプラント関連合併症が少ない[4]
❌ 避けるべき選択・操作
- ✕頸部骨折合併例への閉鎖整復の試み(頸部骨折の合併は閉鎖整復の禁忌で、手術室での緊急の開放整復を行う)[2]
- ✕進行した関節症の徴候があり活動性の低い高齢患者への内固定の第一選択(bipolar 人工骨頭置換術か THA を優先する)[2]
- ✕高齢者の転位型大腿骨頸部骨折へのセメントレス人工骨頭(セメント固定よりインプラント関連合併症が多い)[4]
手術手技
体位
体位は術式・進入法に応じて選択する。ORIFは前内側のSmith-Petersen法、症例により前外側のWatson-Jones法で行う[2]。
ORIF — 若年患者(第一選択)
適応: 若年のPipkin III型。骨頭温存を目指し、頸部骨折と骨頭骨折をORIFする[2]。
アプローチ — Smith-Petersen前方法(骨頭・頸部を直視下に露出)
- 開放整復(Smith-Petersen前方アプローチ): 前内側の Smith-Petersen 進入法、症例により前外側の Watson-Jones 進入法で展開し整復する[2]
- 頸部骨折固定: 骨頭の血流が温存されている望みがあれば、骨頭骨折の固定より先に頸部骨折を7.0 mmか7.3 mmの海綿骨スクリューで内固定する[3]
- 骨頭骨折固定: 3.5 mmか2.7 mmの小骨片用スクリュー、threaded washer systemの3.0 mmキャニュレイテッドスクリュー、またはヘッドレススクリューで固定し、スクリューヘッドは軟骨下に埋没させる[3]
- 最終確認: 透視で両骨折の整復・固定を確認
固定構成 — 骨頭ヘッドレス圧迫スクリュー+頸部平行カニュレイテッドスクリューの二段階固定
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕頸部骨折の見落とし(骨盤X線正面像では頸部骨折の有無を系統的に確認する)[2]
- ✕頸部骨折を内反位のまま固定すること(骨粗鬆症骨ではキャニュレイテッドスクリューを内反の無い整復位で頸部皮質に沿わせる)[3]
- ✕若年患者への人工物置換優先(骨頭温存機会の喪失)
人工物置換 — 高齢患者
適応: 進行した関節症の徴候があり活動性の低い高齢のPipkin III型。bipolar 人工骨頭置換術か THA を選ぶ[2]。
人工物の比較 — bipolar 人工骨頭置換(左)vs 人工股関節全置換術 THA(右)
術後管理
術後X線像(正面像/側面像)— 二段階固定後の整復位確認
手術タイミング: 緊急。閉鎖整復ができないため速やかにORIFを行う[2]
術後荷重: 大腿骨近位部骨折の高齢患者では、治療は即時の全荷重が可能でなければならない[3]。大腿骨頭骨折の術後は松葉杖で20 kg部分荷重を最低6週行い、全荷重はおおむね術後3か月で達成される[2]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、神経ブロックを補助的に使用
リハビリテーション: 術後1日目から動かすことを目標とし、荷重は術式と年齢に応じて進める[3]
フォローアップ
- 経過観察: 骨盤単純X線と股関節2方向X線で整復位を確認する[2]
- 術後: 観血的整復術後にはCTをルーチンで撮影する[2]
- 遠隔期: 骨頭壊死の早期診断にMRIを用いる[2]。転位した骨頭下骨折後の阻血性壊死は、X線で描出されるまで2〜3年かかることがある[3]
- 固定不良では、骨が脆弱で機能的要求の少ない患者に人工骨頭置換または人工関節置換を行う。骨頭壊死では人工股関節置換術(THA)を検討し、若年で圧壊範囲が骨頭の50%以下なら転子間骨切り術も選択肢となる[3]
予後
Pipkin III型は多くの症例で大腿骨頭の主骨片の血行が失われているため最も予後が悪い[3]が、系統的レビューではPipkin亜型間の成績に統計学的な差は無い[2]。
- 骨頭壊死(AVN):多くの症例で大腿骨頭の主骨片の血行が失われている[3]
- 固定失敗・再手術:文献では全Pipkin III症例が内固定失敗と報告
- 術後成績:合併損傷に大きく左右され[2]、関節を解剖学的に再建しても個々の患者では予測できない[3]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(31-C2 = 大腿骨頭骨折+頸部骨折合併 / Pipkin III型)
- 2頸部骨折の合併を確認(閉鎖整復は原則禁忌)
- 3年齢・活動性を評価(ORIF vs 人工物置換)
- 4緊急手術の適応を確認(速やかな開放整復が必要)
- 5術式を確認(若年=骨頭温存ORIF / 高齢で進行した関節症・低活動=バイポーラ人工骨頭またはTHA)[2]
- 6合併症を把握(骨頭壊死・外傷後関節症・異所性骨化・坐骨神経障害)[2]
- 7術後荷重プロトコルを確認(大腿骨頭骨折の術後:松葉杖で20 kg部分荷重を最低6週[2] / 大腿骨近位部骨折の高齢者:即時全荷重が可能な治療[3])
文献
- Pipkin G(1957)Treatment of grade IV fracture-dislocation of the hip. J Bone Joint Surg Am, 39-A:1027–42. PMID: 13475403
- Menger MM, Braun BJ, Herath SC, et al.(2021)Fractures of the femoral head: a narrative review. EFORT Open Rev, 6(11):1122–31. PMID: 34909230
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Lewis DP, et al.(2019)Cemented vs Uncemented Hemiarthroplasty for Femoral Neck Fracture: meta-analysis.