大腿骨頭骨折(Pipkin I/II型)に臼蓋骨折が合併した 型で、Pipkin分類IV型にあたる[3] 。大腿骨頭骨折と臼蓋骨折がともに転位していなければ荷重を制限した保存療法が通常勧められ、転位していれば臼蓋骨折と大腿骨頭骨折の両方をORIF する[3] 。
重症度・疫学
発生頻度: 股関節後方脱臼の大規模シリーズでは、大腿骨頭骨折の合併は約5〜15%[3]
好発: 若年成人(患者の約2/3)。高エネルギー外傷(交通事故〈dashboard injury〉・高所転落)[3]
受傷機転: 大腿骨頭が臼蓋から逸脱する際に、大腿骨軸方向の剪断力が臼蓋縁に対してかかって骨頭が骨折する[3]
注意すべき合併症
骨頭壊死(AVN):大腿骨頭骨折全体で約11.8%[3]
外傷後変形性関節症:寛骨臼骨折を伴う大腿骨頭損傷では特によくみられる[4]
異所性骨化(HO):大腿骨頭骨折全体で約16.8%[3]
坐骨神経障害:股関節脱臼骨折全体の約4.0%[3]
人工関節脱臼(術後):臼蓋骨折修復不全・コンポーネント不良設置で増加
治療方針
脱臼の緊急閉鎖整復が第一優先。臼蓋骨折の転位量と不安定性を評価して手術適応を判断する。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 大腿骨頭骨折と臼蓋骨折がともに非転位の場合[3] → 骨折片が転位のない小さなものである場合[3] → 手術リスクが極めて高い場合(終末期・ASA分類IV以上) → 管理:荷重を制限する[3]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 骨頭骨折・臼蓋骨折が転位している場合 → 両骨折のORIF[3] ℹ 骨折片が転位し大きい場合 → ORIF[3] ℹ 後柱損傷・後方骨片の脱臼を伴う場合:Kocher-Langenbeck進入、または修正Gibson進入と大転子骨切りの併用で両骨折をORIF[3] ℹ 大転子翻転骨切り(trochanteric flip osteotomy)を行う場合、大殿筋を温存するためにGibson間隙(大殿筋と大腿筋膜張筋の間)が好ましいことがある[3] ℹ 高齢患者・骨粗鬆著明:人工股関節全置換術(THA)も考慮
治療選択アルゴリズム — 臼蓋骨折転位量評価による保存療法 vs 両骨折ORIF
診断・評価
患肢の短縮と屈曲・内転・内旋位(後方脱臼の典型肢位) が多いが、骨頭骨折を伴うとこの肢位をとらないことがある[3] 。整復後のX線・CTで骨頭骨折と臼蓋骨折の両方を評価する。
31-C3の診断ポイント
骨盤正面X線で脱臼骨折を確認する。CTで骨頭骨折の形態・転位・関節裂隙内の骨片と股関節全体の状態を評価する[3] 。
X線正面像 — 骨頭骨折線と臼蓋後壁骨折片(転位)の合併像
【必須】 骨盤正面X線・整復後の股関節CT。臼蓋骨折を合併していれば、経過観察のX線に腸骨斜位/閉鎖孔斜位を追加する[3]
✅ 推奨される整復・手術原則
✓ 脱臼は鎮静下に可能な限り早く閉鎖整復する(遅れると骨頭壊死の危険が増す)[3] ✓ Kocher-Langenbeck進入で骨頭骨折の視野が足りないときは、trochanteric flip osteotomy で進入を拡大する(別に前方進入を加える方法もある)[3] ✓ 臼蓋骨折は寛骨臼骨折の確立した治療原則に従って治療する[4] ✓ 骨頭骨折のcountersunk固定(関節面突出なし)
❌ 避けるべき選択・操作
✕ 転位した骨頭骨折・臼蓋骨折を保存療法にする(転位例は両骨折のORIFが推奨される)[3] ✕ Kocher-Langenbeck進入だけで骨頭骨折を固定しようとする(骨頭の視野が不十分で固定が妨げられる)[3] ✕ スクリューヘッドを軟骨下に埋没させずに関節面に残す[4]
手術手技
体位
手術体位(側臥位)— 患側を上に・骨盤を床面に垂直固定
側臥位: 外科的股関節脱臼(trochanteric flip osteotomy)は側臥位で行う[2] 。
外科的股関節脱臼(Trochanteric flip osteotomy)— 標準術式
適応: 大腿骨頭と臼蓋の一部の骨折に使える[2] 。大転子を骨切りして前方に翻転し、股関節を前方に脱臼させて骨頭と臼蓋を直視下に置く[2] 。
アプローチ — 大転子翻転骨切り術(trochanteric flip osteotomy)による外科的股関節脱臼
体位・アプローチ: 側臥位でKocher-Langenbeck切開を置き、大腿筋膜を切開する。Gibson進入で大殿筋を後方に引いても同様の展開ができる[2]
大転子翻転骨切り(trochanteric flip osteotomy): 骨切りの近位端を中殿筋の最後方付着部のすぐ前方に抜き、内側大腿回旋動脈の深枝を保護する。大転子骨片は前方に翻転する[2]
外科的股関節脱臼: 関節包を前方切開し股関節を脱臼させ、骨頭と臼蓋を直視下に展開
骨頭骨折整復・固定: 骨頭の血流を障害しないよう注意して骨片を直接整復し、3.5 mm/2.7 mm小骨片用スクリュー、3.0 mmキャニュレイテッドスクリュー、またはヘッドレススクリューで固定してスクリューヘッドを軟骨下に埋没させる。小さな骨軟骨片には吸収性ピンも使える[4]
骨頭整復・臼蓋骨折整復・固定: 骨頭を臼蓋に整復し、後壁骨折は寛骨臼骨折の確立した治療原則に従って整復・固定する[4]
大転子の再固定: 大転子を3.5 mm皮質骨スクリュー2〜3本または締結ワイヤで再固定し閉創[2]
固定構成 — 骨頭ヘッドレス圧迫スクリュー(緑)+臼蓋後壁プレート(青)+大転子再固定スクリュー
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 骨切りの近位端を中殿筋の最後方付着部のすぐ前方に抜かないと、骨頭を栄養する内側大腿回旋動脈の深枝を損傷するおそれ[2] ✕ 臼蓋後壁の固定不足 → 股関節不安定性の残存 ✕ スクリューの関節面突出(countersunk 確認不足) ✕ 異所性骨化(HO):大腿骨頭骨折の主な晩期合併症の一つ(16.8%)[3]
術後管理
術後X線像(正面像/側面像)— 骨頭スクリュー+後壁プレート+大転子再固定の整復位確認
手術タイミング: 股関節脱臼は骨頭骨折の有無にかかわらず緊急で閉鎖整復する[3] 。外傷性脱臼では6時間が臨界とされる[2]
術後荷重: 松葉杖での20 kg部分荷重を術後少なくとも6週間行い、全荷重は術後約3か月で達成する[3]
術後の肢位制限: 症例によっては、寛骨臼後縁の脆弱部への剪断力を減らすため股関節屈曲70°超を避ける[3]
VTE予防: 外科的股関節脱臼の報告では、術後8週間、低用量ヘパリンを自己皮下注している[2]
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、神経ブロックを補助的に使用
リハビリテーション: 早期から他動・自動介助・自動の可動域訓練を行い、術後6週でX線上の骨癒合徴候があれば松葉杖を外して軽い筋力訓練を始める[3]
フォローアップ
術後X線: 骨盤正面像と股関節2方向を撮影し、寛骨臼骨折合併例では腸骨斜位・閉鎖孔斜位を追加する[3]
術後6週: X線で骨癒合徴候を確認し、あれば松葉杖を外す[3]
経過観察: 晩期合併症(骨頭壊死・外傷後関節症・異所性骨化)を確認し、骨頭壊死の早期診断にはMRIを用いる[3]
完全阻血性骨頭壊死や痛みを伴う関節症では、人工股関節全置換術または股関節固定術が二次治療の選択肢となる[4]
予後
骨頭壊死(AVN):11.8%[3] 。外科的股関節脱臼では外旋筋群を温存して内側大腿回旋動脈を保護する[2]
外傷後変形性関節症:発生率は受傷時の軟骨・軟骨下骨損傷と骨頭骨折の整復の質で決まり、寛骨臼骨折を伴う場合に特によくみられる[4]
異所性骨化(HO):大腿骨頭骨折全体で約16.8%[3]
良好転帰(Thompson-Epstein 優・良):大腿骨頭骨折全体で優14.3%・良39.8%。Pipkin亜型の間に統計学的な差は無い[3]
大転子の固定破綻:外科的股関節脱臼213股中3例で再手術を要した[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(31-C3 = 大腿骨頭骨折+臼蓋骨折合併 / Pipkin IV型) 2 脱臼が整復済みか確認(骨頭骨折の有無にかかわらず緊急で閉鎖整復する)[3] 3 臼蓋後壁骨折の転位量と股関節安定性を評価 4 手術適応を確認(骨頭骨折・寛骨臼骨折が転位していれば両者をORIF)[3] 5 術式を確認(後壁・後柱骨折合併ではKocher-Langenbeck進入、骨頭骨折の固定には別の前方進入またはtrochanteric flip osteotomyによる後方進入の拡大)[3] 6 体位を確認(側臥位)[2] 7 合併症を把握(AVN・変形性関節症・異所性骨化・坐骨神経障害) 8 術後荷重制限(松葉杖で20 kgの部分荷重を術後少なくとも6週間)を患者・家族に説明[3]
文献
Pipkin G(1957)Treatment of grade IV fracture-dislocation of the hip. J Bone Joint Surg Am, 39-A:1027–42. PMID: 13475403
Ganz R, et al.(2001)Surgical dislocation of the adult hip: a technique with full access to the femoral head and acetabulum without the risk of avascular necrosis. J Bone Joint Surg Br, 83-B:1119–24. PMID: 11764423
Menger MM, Braun BJ, Herath SC, et al.(2021)Fractures of the femoral head: a narrative review. EFORT Open Rev, 6(11):1122–31. PMID: 34909230
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767