大転子から始まり後内側皮質(小転子を含む骨片)が粉砕して外側壁が不全 となる転子部骨折。骨折片が3個以上の多分画性骨折であり、外側壁の破綻によって骨折は不安定型 となる。
AO分類31-A2は内側および後方皮質骨(小転子)が数か所で骨折した多骨片の転子部骨折である。不安定型骨折に対しては髄内釘が有利であるが、SHSも適切な手術手技とインプラント選択によって不安定型骨折に十分な適応がある[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 大腿骨頚部/転子部骨折全体で年間約20万例[1]
好発: 75歳以上の高齢者(75歳以上では頚部骨折より転子部骨折の患者数が多い)[1]
受傷機転: 高齢者では立位からの転倒が大部分を占める[2]
1年死亡率: 転子部骨折で10.1〜31.5%[1]
JOAガイドライン: 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)。転子部骨折の治療は第7章、周術期管理は第8章。推奨の強さは1(強い)・2(弱い)、エビデンスの強さはA〜Dで示される[1]
注意すべき合併症
カットアウト(スクリュー逸脱):short femoral nailで1.6〜5.3%、SHSで1〜2.9%と報告されている[6]
外側壁骨折・再転位:SHS単独固定の最大リスク(術中・術後)
深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症:大腿骨近位部骨折術後で1.1〜1.9%[1]
術後感染(手術部位感染):骨接合術で0.2〜3.9%、日本の報告では0.6〜3.7%[1]
偽関節・骨癒合不全:偽関節は3%未満。術後6ヵ月時点の骨癒合不全は髄外・髄内インプラントを問わず約15%[1]
治療方針
⚠️ 保存療法を選ぶ条件
→ 末期疾患のため手術療法の候補にならない場合(老年病科チームの評価後、高齢患者の5〜8%と推定)[2] → 手術療法の候補にならない患者は緩和ケアのみで治療する[2] → 牽引やヒップスパイカによる長期固定の保存療法は、患者・看護の負担が大きく、予後もよくない[2]
長期臥床による合併症リスクが高く、原則として手術療法が推奨される 。SHSと髄内釘は転子部骨折全般では臨床成績に差はないが、不安定型骨折に対しては髄内釘が有利である[1] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 全身状態の評価後、末期疾患のため手術の候補にならない例(高齢患者の5〜8%)を除き、手術療法の適応となる[2] ℹ 手術はできるだけ早期に行う。早期手術は合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い(第7章解説1)[1] ℹ 第一選択:髄内釘 — 大腿骨転子部不安定型骨折に推奨(推奨度1、エビデンスの強さA)[1] ℹ 代替選択肢:SHS+転子安定化プレート(TSP) — 後外側不安定性がある場合にTSPで支持する[5] ℹ SHSは適切な手術手技とインプラント選択で不安定型骨折にも適応があるが、不安定型骨折には髄内釘が有利である[1]
治療選択アルゴリズム — 外側壁不全の有無に基づく術式選択フロー
診断・評価
股関節回旋で激しい痛みを訴え、患肢の外旋・短縮が特徴的である[2] 。
31-A2の診断ポイント:外側壁不全の評価
外側壁(lateral wall)の評価は31-A2診断の核心であり、術前CTによる評価が必須である。外側壁の骨皮質厚が20.5mm以下 、または大転子外側骨皮質に骨折線が及ぶ場合に外側壁不全と判定する(Gotfried基準)。
X線正面像 — 外側壁骨折線・遊離小転子の確認
X線側面像 — 矢状面方向の転位・後方粉砕の評価
CT冠状断 — 外側壁厚の計測(20.5mm基準)
3D-CTで不安定型と判定される骨折の一部は、単純X線写真の分類(AO/OTA分類、Evans分類、Jensen分類)では安定型と分類される[1] 。
【必須】 骨盤X線正面像と患側大腿骨近位部のクロステーブル側面像(外側皮質の転位のない骨折線・前額面骨折に注意)。髄内釘を検討する場合は大腿骨幹部の画像も確認する[2]
【考慮】 術前CT・3D-CTによる骨折型の把握(単純X線では骨折型の詳細な把握が困難な場合が多い)[6]
【考慮】 MRI:単純X線陰性かつ骨折疑いの場合
術中透視(Cアーム)の3方向評価
AP像: 頸体角・内側皮質・整復アライメント評価、外側壁骨折の確認
軸位像: ラグスクリューが骨頭の中央に位置することを正面像とあわせて確認[1]
側面像: 骨折端の前後アライメント確認
TAD(Tip-Apex Distance)は正面像と側面像で骨頭頂点からラグスクリュー先端までの距離を拡大率補正して合計した値で、25mm未満 でカットアウトの危険性が低くなる[1] 。
整復基準
✅ 許容される整復
✓ AP像:内側皮質に接触があること(medial cortex contact) ✓ 正面像:正常あるいはやや外反のアライメントで、内反位整復を避ける[1] ✓ 軸位像:前方の骨皮質同士がしっかり噛み合っているか、近位骨片が軽度髄外型にあること[6] ✓ 軸位像:前捻角が健側と同様に保たれていること[5] ✓ good reductionの基準:正面像で正常〜やや外反かつ側面像で屈曲変形20°以下、すべての骨片の転位が4mm以内(いずれか一方を満たさなければacceptable)[1] ✓ TAD(Tip-Apex Distance)25mm未満[1]
❌ 許容されない変形
✕ 内反位整復(内反変形)[1] ✕ 内側皮質にgap(骨折端間の開大)がある場合 ✕ 回旋変形(健側と異なる前捻角での固定) ✕ 軸位像で近位骨片が遠位骨片の髄腔に嵌入した髄内型(subtype P)のまま[1] ✕ 外側壁の大きな骨片が整復されていない状態でのインプラント挿入
手術手技
体位
手術体位・手術台セットアップ
骨折台での仰臥位(標準): 牽引手術台またはX線透過性手術台上で仰臥位とし、透視下で下肢の牽引と内旋により徒手整復を行う。整復が成功の鍵であり、内反位の整復ではhip screwを正しい位置に挿入できず、カットアウトの危険が増す[2] 。
整復の要点: 整復の目標は、側面像で前方の骨皮質同士を噛み合わせ、近位骨片を軽度髄外型にすることである[6] 。牽引手術台での整復で骨性コンタクトが得られなければ、術中に観血的整復を行う[5] 。近位骨片の前方骨皮質が遠位骨片の髄内に入る形になっている場合は、骨折部前方に小皮切を加えてエレバトリウムを挿入し、Kapandji 法の要領で整復する[6] 。
整復位は側面像の生田分類(subtype A/N/P)で評価する。転位の形は腸骨大腿靱帯と骨折線の位置関係に左右され、骨折線が靱帯付着部より遠位にあれば subtype A、近位にあれば subtype P、付着部をまたぐ位置にあれば subtype N の形になる[7] 。
整復位の評価(側面像)— 腸骨大腿靱帯の付着部と骨折線の位置で転位の形が決まる。付着部より遠位=髄外型(subtype A)/付着部をまたぐ=解剖型(subtype N)/付着部より近位=髄内型(subtype P)。目標は髄外型
追加の整復が要るかの判断 — 側面像で前方骨皮質の噛み合い(骨性コンタクト)が得られているかで決める。目標は軽度髄外型(subtype A)
エレバトリウムによる整復(多骨片型)— a 整復前/b 遠位を外旋して骨折部前方を開く/c エレバトリウムを挿入/d 内旋して整復
髄内釘(PFNA / Gamma3)— 第一選択
適応: SHSと髄内釘は転子部骨折全般では臨床成績に差はないが、不安定型骨折に対しては髄内釘が有利である[1] 。
術前マーキング(髄内釘の刺入部)— 大転子上端に印を付け、大腿骨軸の延長線上で大転子上端から2横指近位に、2横指分の皮切を置く
髄内釘(ショートフェモラールネイル)の形の違い — 骨頭に入れる部品がラグスクリュー1本/2本一体型/2本スクリュー型/ブレード型
術中透視像 — 髄内釘(PFNA)設置確認・TAD計測
患者体位: フラクチャーテーブルを使用した仰臥位とし、患肢は軽度屈曲・軽度内転位とする。回旋は整復の状態を確認しながら中間〜内旋位に調節する[6]
整復確認: 頚体角・前捻角を健側と同様に保ち、主骨片同士の骨性コンタクトが得られているかを透視の正面像・側面像で確認する[5]
挿入点設定: ガイドワイヤーを大転子頂部から刺入し、正面像・側面像ともにその先端が骨幹部中央にあることを確認する[6]
開口: Hollow reamerで小転子レベルまで開孔する。大転子の外側を削ってしまうことがあるため、できるだけ内側に押し付けてリーミングする[6]
髄内釘挿入: 髄内釘の術中合併症には骨幹部骨折・骨折部の離開・ネイルのジャミングがあり、髄腔が狭い場合は術前にネイルと髄腔の適合性を評価しておく[1]
近位固定(スパイラルブレード / ラグスクリュー): 正面像・側面像ともに骨頭の中央に挿入し、TAD<25 mmとする[1]
遠位ロッキング: 遠位ロッキングは静的とする[2]
⚠️ 髄内釘 ピットフォール
✕ 解剖学的整復がされていないままの固定 → カットアウトの要因(ラグスクリューの位置不良などと重なった例に多い)[1] ✕ ネイル挿入孔の位置不良(大転子外側だけを削る)→ ネイル挿入時のジャミング・骨折線の開大・骨片の転位[6] ✕ 側面像でラグスクリュー(ガイドワイヤー)が骨頭中央から外れる → カットアウトのリスク[1] ✕ 遠位横止めスクリュー孔のドリリング → 大腿深動脈損傷(0.2%)[1] ✕ 肥満患者では皮切延長が必要になることがある
SHS+転子安定化プレート(TSP)— 代替選択肢
適応: SHSは安定型転子部骨折であるAO/OTA分類31-A1、31-A2.1に良い適応がある。後外側不安定性がある場合はTSP(trochanteric stabilizing plate)を使用して支持する[5] 。
スライディングヒップスクリュー+TSP(左)と髄内釘(右)— 骨頭への荷重Fに対し、荷重を受ける軸から骨頭までの距離は髄内釘のほうが短く、F×D>F×d となる
Locking Trochanter Stabilizing Plate — 左:プレート単体(正面と側面)/右:設置後の正面像。大転子を外側から支持する
患者体位: 骨折台での牽引・整復(仰臥位)
閉鎖整復: 牽引・内旋による整復後、透視でアライメントを確認
アンチローテーションスクリュー(必要時): 頚基部骨折など近位骨片が転子間稜付近で骨折し主骨片同士の接触面が小さい症例では、回旋不安定性を軽減するために追加する[5]
ラグスクリュー用ガイドワイヤー挿入: 正面像・側面像ともに骨頭の中央を狙い、TAD<25 mmとする[1]
リーミング・スクリュー挿入: ガイドワイヤーに沿ってリーミングし、ラグスクリューを挿入する
プレート装着: プレートバレルは骨軸から外れないように設置する。ロッキングスクリューで固定するときは、バレルが少し内反して浮いていても無理に寄せずに固定する[5]
TSP固定: 大転子骨片に引っ掛かり抱きかかえるよう、背側に向かうプレート部をあらかじめ捻っておき、遠位スクリューから順に締め込んでバットレスプレートとして後外側支持を与える[5]
⚠️ SHS+TSP ピットフォール
✕ 後外側不安定性があるのにTSPで支持しないSHS固定 → 近位骨片の回旋で主骨片同士の骨性コンタクトを失い、過度のtelescopingやカットアウトを生じることがある[5] ✕ 内反位での整復 → hip screwを正しい位置に挿入できず、カットアウトの危険が増す[2] ✕ ガイドワイヤーの不適切な位置 → 固定失敗 ✕ 整復不良のままの固定 → 整復損失・カットアウトなどの局所合併症の増加[1]
術後管理
手術タイミング: できるだけ早期に手術を行うべきであり、早期手術は合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い[1] 。
術後荷重: よほどの不安定型骨折でない限り、術後から車椅子乗車(早期離床目的)と痛みに応じた全荷重を許可する[7]
VTE予防: エドキサバン(リクシアナ)または低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始
疼痛管理: 術後の神経ブロック(大腿神経ブロック・腸骨筋膜下ブロックなど)は疼痛管理に有用である。弱オピオイドはNSAIDsと同様の効果を示し、アセトアミノフェンも術後疼痛に効果を示す[1]
リハビリテーション: 術後1日目から動かすことを目標とする[2]
フォローアップ
術後3〜6週: X線撮影(整復位・インプラント確認、外側壁骨折の経過観察)
術後6週: 荷重状況確認、骨癒合評価
二次骨折予防: 二次骨折リスクが高いため、骨粗鬆症治療と転倒予防対策を講じる[1]
術後6〜12ヶ月: 最終評価、インプラント刺激症状の確認
予後
転子部骨折の偽関節の発生率は3%未満であるが、術後6ヵ月では髄外・髄内インプラントにかかわらず約15%に骨癒合不全がみられる[1] 。
1年死亡率:転子部骨折で10.1〜31.5%[1]
ADL復帰率:約50〜65%
骨癒合:偽関節の発生率は3%未満、術後6ヵ月では髄外・髄内インプラントにかかわらず骨癒合不全が約15%にみられる[1]
カットアウト率:Gamma nailで治療した転子部骨折3,066例で2.3%[1]
術後歩行能力:高齢、リハビリテーション開始の遅れ、認知症、合併症が回復に悪い影響を及ぼす可能性がある[1]
大腿骨近位部骨折を起こした患者では次の大腿骨近位部骨折のRRが2.2(95%CI 2.0〜2.5)であり[1] 、FLS(骨折リエゾンサービス)は大腿骨近位部骨折の二次骨折予防に効果がある[1] 。
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(31-A2 = 多分画性転子部骨折・外側壁不全) 2 外側壁不全の評価(術前CT:外側壁厚20.5mm以下 or 骨折線の及ぶ範囲を確認) 3 手術適応を確認(できるだけ早期に手術を行う)[1] 4 術式を確認(不安定型骨折には髄内釘が有利。SHSも適切な手術手技とインプラント選択で不安定型骨折に適応がある)[1] 5 術中TADの計画(正面像+側面像の合計で25mm未満を目標)[1] 6 注意すべき合併症を把握(カットアウト・外側壁骨折・DVT・感染) 7 整復先行の原則(インプラント挿入前に良好な整復位を得る。解剖学的整復を目指し、特に内反位整復は避ける)[1] 8 JOAガイドライン根拠を確認(転子部骨折の治療は第7章、周術期管理は第8章。評価は推奨度1・2とエビデンスの強さA〜D)
文献
日本整形外科学会(2021)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版). 南江堂. https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00625.pdf
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Baumgaertner MR et al.(1995)The value of the tip-apex distance in predicting failure of fixation of peritrochanteric fractures of the hip. J Bone Joint Surg Am, 77(7):1058–64. PMID: 7608228
Gotfried Y(2004)The lateral trochanteric wall: a key element in the reconstruction of unstable pertrochanteric hip fractures. Clin Orthop Relat Res, (425):82–6. PMID: 15292791
塩田直史(2013)大腿骨転子部骨折(plating). Monthly Book Orthopaedics, 26(11)(特集「下肢骨折治療基本手技」):47–52.
正田悦朗(2013)大腿骨転子部骨折(nailing). Monthly Book Orthopaedics, 26(11)(特集「下肢骨折治療基本手技」):53–62.
山口正哉(2019)骨折治療基本手技アトラス~押さえておきたい10のプロジェクト~. 最上敦彦(編), p272(Monthly Book Orthopaedics誌30周年記念書籍). 全日本病院出版会. ISBN 978-4-86519-257-5