大転子から小転子へ向かう単純な骨折線を有する転子部骨折。骨片は骨頭側と骨幹部側の2個で、小転子は独立した骨片にならない[9] 。後内側皮質の支持が保たれるため安定型に分類される。
AO分類31-A1では骨折線が1本で、内側皮質の支持が比較的保たれる。内側皮質の接触が保たれるため、スライディングヒップスクリュー(SHS)および髄内釘いずれも適用可能であり[1] 、術後早期から荷重開始が可能な安定型骨折の代表例である。
重症度・疫学
年間発生件数(日本・大腿骨近位部骨折): 頸部骨折と合わせて2012年に175,700例。2040年には約32万人に達すると推計されている。全国調査では頸部骨折より転子部骨折のほうが多い[1]
好発: 75歳以上の高齢女性(女性:男性 = 3:1)
受傷機転: 低エネルギー転倒(立位・歩行中)が主体。骨粗鬆症を背景とした軽微な外力で発生する骨粗鬆症性骨折の代表例。
1年死亡率: 男性20.6%、女性9.5%(日本の全国データベース/65歳以上の大腿骨近位部骨折手術例 約119万例)[4]
JOAガイドライン: 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)[1]
注意すべき合併症
カットアウト(スクリュー逸脱):約8%(TAD 25mm以下では0%)(重大)[2]
深部静脈血栓症・肺塞栓症:1.1〜1.9%(生命の危機)[1]
肺炎:発生率は本記事の出典に記載が無いが、大腿骨近位部骨折の死亡原因としては最も多い(生命の危機)[13]
手術部位感染(SSI):骨接合術では0.2〜3.9%(日本の報告では術式を問わず0.6〜3.7%)(重大)[1]
骨折再転位(整復損失)(重大)
偽関節:3%未満(重大)[1]
治療方針
⚠️ 保存療法を選ぶ条件
→ ASA分類IV以上など手術リスクが極めて高い場合 → 余命が極めて短い終末期患者(疼痛管理目的)
保存療法では長期臥床による合併症(肺炎・深部静脈血栓症・褥瘡)のリスクが高くなるため、適応は上記のような場合に限られる。
手術までの待機中も、VTE予防(弾性ストッキング・足関節自動運動・間欠的空気圧迫法)と疼痛対策を術前から始める[8] [1] 。詳細は術後管理を参照。
🔷 手術適応基準
ℹ 大腿骨転子部骨折(安定型31-A1を含む)は原則として手術療法が推奨される ℹ 手術時期は内科的合併症で遅れる場合を除き、できるだけ早期が望ましい[1] ℹ 安定型(31-A1)ではSHS・髄内釘のいずれも選択でき、両者の臨床成績に差はない[1] ℹ 転子部骨折全体では、SHS と髄内釘の機能的予後は同等。髄内釘は感染と偽関節が少ない一方、インプラント関連骨折が多い(67例に1例。新しい設計でも減っていない)[3] ℹ 内側皮質の支持が保たれる場合は2〜4穴プレートのSHSで対応可能 ℹ 髄内釘(PFNA、Gamma3等)は軟部組織侵襲が少なく骨粗鬆症例にも適用しやすい代替選択肢
いずれの術式でも TAD(Tip-Apex Distance)25mm以下 がカットアウト予防の最重要項目である[2] [1] 。25mmを必須ラインとし、可能なら20mm以内を狙う(20mm以下でカットアウトが8%から0%に減った報告がある)[1] [9] 。
治療選択アルゴリズム — 骨折タイプ・患者背景に基づく方針決定フロー
診断・評価
受傷後に股関節部の疼痛、患肢の外旋・短縮変形、荷重不能を呈する。大腿近位部の腫脹・皮下出血を認めることが多いが、股関節部は厚い筋肉におおわれるため、受傷直後に腫脹が乏しくても骨折は否定できない[12] 。
身体所見として大転子部の圧痛・叩打痛が特徴的であり、患肢の外旋変形(外旋45〜90度)が著明に認められる。
骨折部の異常可動性や軋轢音を確かめる診察は、強い疼痛と血管・神経の二次損傷を招き、転位のない骨折を転位させうるため、転子部骨折を疑う高齢者では意図的に行わない[12] 。これらを認めないことも骨折を否定する根拠にならない。
X線正面像 — 骨折線・転位・短縮の確認
X線側面像 — 矢状面方向の転位評価
CT冠状断(骨条件 + 3D再構成)
転子部骨折では大腿骨頸部骨折(Pauwels分類)と異なり、骨折部への血流障害が少なく骨頭壊死の発生率は低い[1] 。単純X線写真ではすべての骨折を診断できず、CTまたはMRIが診断に有用である。不顕性骨折は早期診断が重要で、診断が遅れると骨折が転位する危険が増す。MRIのほうが診断率は高いが、早期手術を優先する状況では早期に撮影できるCTを第一選択とする報告もある[1] 。
【必須】 骨盤正面X線、患側大腿骨正面・側面X線
【推奨】 術前CTによる骨折形態の詳細評価(特にA2/A3との鑑別、後壁骨皮質の評価)
MRIまたはCT:単純X線陰性かつ骨折疑いの場合に施行
骨折線がはっきりしないときは、①両下肢をそろえて10〜15度内旋した正面像を撮り直す(大転子の重なりが消え、骨皮質・骨梁のわずかな断裂を認識しやすい)、②それでも指摘できなければMRI(早期手術を優先する状況ではCT)に進む[9] [1] 。高齢者の転倒後の股関節痛では寛骨臼骨折も鑑別に入れ、疑えば閉鎖孔位像・腸骨位像とCTで骨折型まで確かめる[14] 。
術中透視(Cアーム)の3方向評価
AP像: 整復アライメント(正常またはやや外反)・内側皮質の接触の評価
軸位像(最重要): 頭頸部内インプラントの前後位置確認
側面像: 骨折端の前後アライメント確認
TAD(Tip-Apex Distance)は術中にAP像距離と軸位像距離を加算して計測し、25mm以下 を目標とする[2] 。
整復基準
✅ 許容される整復
✓ AP像:内側皮質に接触があること(medial cortex contact) ✓ AP像:正常またはやや外反のアライメントであること[1] ✓ AP像:大転子の転位がないこと ✓ 軸位像:前方皮質が連続していること ✓ 軸位像:約15度の前捻(anteversion)が保たれていること(健側との差ではなく前捻角そのものの値) ✓ 短縮変形は8mm以内(8mmを超えると歩行のケイデンス低下・歩幅短縮が生じる)[5] ✓ TAD(Tip-Apex Distance)25mm以下[2]
❌ 許容されない変形
✕ 内反位整復(カットアウトのリスクが高い)[1] ✕ 内側皮質にgap(骨折端間の開大)がある場合 ✕ 回旋変形(健側と比べて前捻角の差が15度以上)[6] ✕ poor reduction=①正面像で正常またはやや外反のアライメントかつ側面像の屈曲変形が20度以下、②すべての骨片の転位が4mm以内、この①②のいずれも満たさないもの(①②の片方のみ満たすものは acceptable)[1]
手術手技
体位
手術体位・手術台セットアップ
骨折台での仰臥位(標準): 転子部骨折・頸部骨折への標準的体位。骨折台での牽引と下肢内旋により整復を行う。会陰部に牽引ポストを当て、患肢を牽引しながら内旋・外転させて骨折を整復する。非手術側は外転位に固定し術野と透視アクセスを確保する。
整復の要点: 31-A1のように一次骨折線が小転子から大転子へ斜めに走る型では、下肢を内旋すると骨片は整復される。ただし牽引しすぎると近位骨片の内反転位がかえって強まる。徒手的に大転子を内側へ圧迫しても整復位が得られない場合は、小切開による直視下の整復操作が必要になることがある[9] 。
整復の目標は、側面像で前方の骨皮質同士を噛み合わせ、近位骨片を軽度髄外型にすることである[17] 。牽引手術台での整復で骨性コンタクトが得られなければ、術中に観血的整復を行う[16] 。近位骨片の前方骨皮質が遠位骨片の髄内に入る形になっている場合は、骨折部前方に小皮切を加えてエレバトリウムを挿入し、Kapandji 法の要領で近位骨片が遠位骨片と噛み合う位置かやや髄外になるところまで整復する[17] 。3.0mm K-wire を用いても同様に整復でき、エレバトリウムや K-wire はラグスクリューやブレードが挿入されるまで保持する[17] 。
整復位は側面像の生田分類(subtype A/N/P)で評価する。転位の形は腸骨大腿靱帯と骨折線の位置関係に左右され、骨折線が靱帯付着部より遠位にあれば subtype A、近位にあれば subtype P、付着部をまたぐ位置にあれば subtype N の形になる[18] 。
整復位の評価(側面像)— 腸骨大腿靱帯の付着部と骨折線の位置で転位の形が決まる。付着部より遠位=髄外型(subtype A)/付着部をまたぐ=解剖型(subtype N)/付着部より近位=髄内型(subtype P)。目標は髄外型
追加の整復が要るかの判断 — 側面像で前方骨皮質の噛み合い(骨性コンタクト)が得られているかで決める。目標は軽度髄外型(subtype A)
エレバトリウムによる整復 — a 整復前/b 遠位を外旋して骨折部前方を開く/c エレバトリウムを挿入/d 内旋して整復
intrafocal pinning(側面)— a 整復前/b 骨折線から K-wire を刺入/c 近位骨片を前方へ移動/d ラグスクリュー挿入後に K-wire を抜去
SHS(Sliding Hip Screw)
適応: 31-A1(安定型転子部骨折)の標準的な選択肢のひとつ。内側皮質支持が保たれる安定型に適する[1] 。
スライディングヒップスクリュー(左)とショートフェモラールネイル(右)— 左は滑動機構で骨片間を圧迫し、CCD角135°・安定型に有効。右は骨幹部の中央を通り、整復位の保持を期待、CCD角125〜130°・不安定型に有効。ともにTAD ≦25mmを確認する
患者体位: 骨折台での牽引・整復(仰臥位)。整復確認:内側皮質接触・AP像のアライメント(正常またはやや外反)・前捻の確認
皮切: 大転子外側から遠位に向かう斜切開(10〜15cm)。腸脛靱帯・外側筋間中隔の切開後、大腿骨外側皮質を露出する。
ガイドワイヤー挿入とTAD確認: 135度のサイドプレート用角度ガイドを使用し大腿骨頭頸部中央に刺入。TAD(AP像距離+軸位像距離)が25mm以下であることを確認。
スクリュー挿入: ガイドワイヤーに沿ってドリリング・タッピング後、適切なサイズのラグスクリューを挿入。先端は骨頭軟骨下骨から5〜12mmの位置とし、正面・側面の2方向で骨頭中央(中1/3)に置く[1] 。
サイドプレート固定: 2〜4穴プレートで大腿骨外側皮質に固定。ノンロッキングスクリューで皮質骨に確実に固定。
⚠️ SHS ピットフォール
✕ 内反位のまま整復不十分で固定すること(内側皮質の接触確認が最優先) ✕ TAD 25mm超(カットアウト高リスク)[2] ✕ ガイドワイヤーの後方偏位(軸位像で後方に位置する) ✕ 小転子が大きな骨片として残る場合は31-A2との鑑別を要する ✕ 近位骨片のAdams弓がspike状に前方突出している(骨頭が頚部軸に対し後方回転している)と徒手整復が困難なことがある。まず同部を少し展開して直視下に整復し、それでも整復できなければspikeが腸骨大腿靱帯に刺さっているので、さらに展開して靱帯の一部を切離する[9] ✕ 骨頭骨片が後方へ回転している症例は術後も同じ方向へ転位しやすいため、回旋防止の中空スクリューを追加する[9]
PFNA / 近位大腿骨髄内釘
適応: 31-A1への代替選択肢。生物学的固定が得やすく、骨粗鬆症例でも適用可能。軟部組織侵襲が少なく、早期荷重に有利。
術前マーキング(髄内釘の刺入部)— 大転子上端に印を付け、大腿骨軸の延長線上で大転子上端から2横指近位に、2横指分の皮切を置く
PFNA(近位大腿骨髄内釘)— らせん状のブレードが頚部の中央を通って骨頭に入り、髄内釘の遠位に横止めスクリューを設置する。右は骨頭内でのブレードの拡大
患者体位: 骨折台での牽引・整復(仰臥位)。特に軸位像での整復確認が重要。
挿入点設定: 大転子先端(または梨状窩)に挿入点を設定。AP像で大腿骨髄腔軸線上を確認し、前外側への偏位を防ぐ。
開口: カニュレイテッドドリルで大転子先端を開口する。ドリルの方向が前外側に偏らないよう注意する。
ガイドロッド挿入: 髄腔内にガイドロッドを挿入し透視でアライメントを確認。AP像・軸位像の両方向で確認。
髄内釘挿入: 適切なサイズ(長さ・径)の髄内釘を選択し釘を挿入。過度の打ち込みは遠位骨皮質の骨折を引き起こすため注意。
近位スクリュー(ブレード)挿入: ターゲティングデバイスを使用してガイドワイヤーを挿入し、TAD 25mm以下を確保。
遠位ロッキング: 静的ロッキングスクリュー2本で固定。遠位ロッキング位置が骨幹部応力集中点にならないよう確認。
⚠️ 近位大腿骨髄内釘 ピットフォール
✕ 挿入点の前外側への偏位(外反変形の原因) ✕ 整復前の強制的な釘挿入による医原性粉砕 ✕ 遠位ロッキング位置の誤り(応力集中による遠位骨折リスク) ✕ 肥満患者では皮切延長が必要になることがある ✕ ガンマネイルでは、ネイル挿入部近くに骨折線がある骨折、大腿骨頚部基部に近い骨折、近位骨片が回旋または前方回転する骨折で、ラグスクリューのカットアウトの危険性があり手術手技に注意が必要である[11]
機種による違い: 手順6のブレードはPFNA(helical blade)を前提にしている。ガンマネイルなどラグスクリュー式は頭頚部内インプラントの機構が異なり、上のピットフォールのカットアウトの注意がそちらに当たる。
術後管理
術後X線像(正面像/側面像)— 髄内釘固定後。ラグスクリューが頚部の中央を通って骨頭に達し、遠位に横止めスクリューを設置する
術後荷重: 術翌日より全荷重歩行を原則とする。早期荷重で合併症が増えたという報告はなく歩行能力の回復に有用で、高齢者は荷重制限の指示を守ることが難しいため、部分荷重を要する術後指示は避ける[1]
予防抗菌薬: 第一・第二世代セフェム系を第一選択とし、執刀60分前から執刀直前に静脈内投与する(皮切時に有効血中濃度に達していること)[15] 。投与は手術日のみでよい(術後1週間の投与と深部・表層感染の発生率に差がない)[1] 。1回量・術中の再投与・βラクタムアレルギー時の代替は、骨接合術を対象とした推奨が無いので施設の手順に従う。
VTE予防(理学的): 受傷直後から弾性ストッキングと足関節自動運動を始め、間欠的空気圧迫法はできるだけ早期に開始して安静期間中は継続する[8] 。足関節の底背屈はヒラメ筋の収縮で下腿の静脈還流を促すので、繰り返し行うよう指導する[12] 。術直後は他動運動から始め、覚醒したら自動運動へ切り替える[13] 。
VTE予防(薬物): 予防的抗凝固療法を行う場合は、出血がないことを確認したうえで開始する。エドキサバン(リクシアナ)は術後12時間から30mgを1日1回11〜14日間。CCr 30mL/分未満では禁忌、30〜50mL/分では15mgへの減量を考慮する。フォンダパリヌクスは術後24時間から2.5mgを1日1回、腎機能障害の程度に応じて1.5mgへ減量し、整形外科では術後2週間が推奨最長投与期間である。エノキサパリンも股関節骨折手術後のVTE予防に保険適用があるが、このガイドラインは整形外科での開始時期を示していないため添付文書で確認する。手術待期が長くなる可能性がある場合は未分画ヘパリンの術前使用を、出血リスクが高い症例では間欠的空気圧迫法による予防を考慮する[8] 。
持続硬膜外カテーテルを留置している場合は、硬膜外血腫を避けるため、抗凝固薬の開始・再開前にカテーテルを抜去する[12] 。最終投与→抜去、抜去→次回投与の間隔は薬剤ごとに異なるので、「抗血栓治療中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」と添付文書で両方向を確認する[1] 。
肺塞栓症の察知: 離床の初回歩行・排泄での移動・体位変換で突発する呼吸困難・胸痛・失神、頻呼吸・頻脈があれば急性肺血栓塞栓症を疑う[8] 。発症は受傷・手術から3週間以内に多い[12] 。PaO2 が正常でも否定できず、スクリーニングは SpO2 が有用。疑ったら造影CTで確定し、ショックを伴う場合や造影CTに時間がかかる場合は心エコーも参考にする[8] 。
疼痛管理: 術前から始める。①アセトアミノフェンの定期投与を基本に、②大腿神経ブロック・腸骨筋膜下ブロック(FICB)を積極的に併用し、③NSAIDsは腎機能・消化管リスクを見て限定的に使う[1] 。④弱オピオイド(トラマドール等)は外傷性疼痛に保険適用がないため上級医と相談する[1] 。術後の疼痛の訴えには夜間でも診察し、肢位・圧迫包帯・神経麻痺・区画症候群の前徴を除外してから鎮痛薬を使う[12] 。中枢性の鎮痛薬は転倒の危険因子でもあり、退院時に漫然と継続しない。
呼吸器合併症の予防: 大腿骨近位部骨折患者の死亡原因は肺炎が最も多く、心不全、腎不全がこれに次ぐ。高齢者例では手術前・後に肺炎を合併する危険性が高いため、下肢の運動療法と並行して、呼吸機能の維持・悪化防止のための呼吸理学療法を必ず行う。とくに脳血管疾患の既往を有する症例、80歳以上の高齢者では誤嚥性肺炎の危険もあるため、言語聴覚士による嚥下機能評価および訓練、口腔ケアを実施する[13]
リハビリテーション: 入院後直ちに開始する。手術待機中は上肢と健側下肢の筋力強化から始め[13] 、患肢は足関節底背屈と大腿四頭筋のセッティングにとどめる。股関節の外転・伸展運動は、外転筋の力が骨折部に内反方向にかかるため骨接合後に始める[9] 。術翌日から端坐位・立位、理学療法士によるADL訓練・歩行練習を進める。
フォローアップ
術後2週: 創部確認、X線撮影(整復位・インプラント確認)
術後6週: 荷重状況確認、骨癒合評価
術後3ヶ月: X線撮影、歩行能力評価、FLS介入確認
術後1年: 最終評価、対側骨折リスク評価
骨癒合の目安は術後3ヶ月の評価にあたる(3〜4ヶ月で癒合しなければ遷延治癒、6〜8ヶ月で骨折線が残れば偽関節と診断することが多い)。骨癒合期を過ぎても移乗・歩行時に骨折部の疼痛が続けば癒合不全を疑い、単純X線で疑わしければCTが有用である[12] 。
予後
安定型(31-A1)は骨癒合が得られやすい一方、大腿骨近位部骨折としての生命予後と歩行能力は患者背景に強く左右される。主な指標と、それに影響する因子は以下のとおり。
1年死亡率:男性20.6%/女性9.5%(日本の全国データベース)[4]
生命予後に影響する因子:高齢・男性・骨粗鬆症・術前の状態不良・内科合併症(特に呼吸循環器系)・骨折前の移動能力が低いこと・不安定型骨折[1]
骨癒合:偽関節の発生率は3%未満。術後6ヶ月時点では髄外・髄内インプラントを問わず約15%が骨癒合不全[1]
歩行能力の回復:良好な整復位はよい影響。高齢・リハビリテーション開始の遅れ・認知症・合併症は悪い影響[1]
死因:肺炎が最も多い(術後管理の「呼吸器合併症の予防」を参照)[13]
転子部は海綿骨に富み癒合しやすく[10] 、31-A1 はさらに後内側皮質の支持が保たれるため安定型として有利である。整復で内側皮質の接触を得られるかどうかがこれを左右する。
二次骨折予防: FLS(骨折リエゾンサービス)介入による二次骨折予防が推奨されている。初回骨折後10年間に6.9%が対側の大腿骨近位部骨折を起こし、そのうち68.4%は最初の2年以内に発生する(追跡脱落を補正した10年発生率は12.9%)[7] 。
骨粗鬆症の薬物療法も二次骨折予防の柱で、骨吸収抑制薬(ビスホスホネートを含む)の骨接合術後の早期投与は骨癒合を妨げないので、術後早期に始めてよい[1] 。薬剤の選択と開始前の確認事項は施設の骨粗鬆症治療の手順に従う。
転倒予防は退院先に合わせて組む。危険因子(内的・外的・薬剤)を評価して改善する[13] 。在宅では運動療法と住環境改善が転倒を減らし、介護施設ではヒッププロテクターが大腿骨近位部骨折を減らす[1] 。いずれも多職種で取り組む[13] 。退院処方から中枢性の鎮痛薬・睡眠薬・向精神薬を減らす(痛みが残る患者から鎮痛薬を引き上げることではない)[1] 。詳細は転倒予防のトピック記事を参照。
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(31-A1 = タイプA・グループ1:安定型転子部骨折) 2 手術適応を確認(できるだけ早期の手術が推奨) 3 推奨術式を把握(安定型はSHS・髄内釘のいずれも可、不安定型は髄内釘を推奨) 4 術中TADの計画(AP像+軸位像の合計25mm以下が必須ライン、可能なら20mm以内) 5 注意すべき合併症を把握(カットアウト・DVT/肺塞栓症・肺炎・SSI・再転位・偽関節) 6 周術期の指示を確認(予防抗菌薬・VTE予防・呼吸理学療法と嚥下/口腔ケア) 7 JOAガイドライン根拠を確認(治療は第7章、ほかに第2・5・6・8章を参照) 8 二次骨折予防の段取りを確認(骨粗鬆症治療の開始判断・FLS介入・退院先に応じた転倒予防)
文献
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