橈骨・尺骨の両骨幹部に複雑な螺旋状骨折線(楔状または分節型)が生じる高エネルギー損傷 。AO分類22-C2に相当し、Cタイプ(多骨片型)のなかでも両骨に楔状・螺旋骨折が及ぶパターンを指す。前腕の回内・回外機能を司る精緻な解剖学的構造(橈尺骨弯曲・橈尺関節)の完全な回復が治療の本質であり、ほぼ全例で手術(ORIF)が必要 。保存療法では機能的整復が維持できず、予後不良となる [5] 。
重症度・疫学
発生頻度: 前腕骨骨幹部骨折の発生率は11.7/100,000/年。AO/OTA分類ではType A(単純骨折)が86.4%を占め、Type C(複雑骨折)は1.7%にとどまる [5]
好発: 前腕骨骨幹部骨折全体では、平均年齢は約40歳で男性に多い(男女比 73:27)[5]
受傷機転: 主な原因は転倒・直達外力(打撃)・スポーツ・交通事故。高エネルギー損傷では粉砕骨折・分節骨折が生じやすい。開放骨折は前腕骨骨幹部骨折の11.7% [5]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:上肢では比較的まれだが、圧挫・高エネルギー損傷が危険因子。臨床像に不釣り合いな激痛・手指の他動伸展時痛・手の感覚低下/異常感覚が主要徴候 [5] 。受傷後と術後早期に徴候を観察する [1]
後骨間神経(PIN)損傷:橈骨近位部骨折や術中の医原性損傷で起こりうる [1]
橈骨神経浅枝(SBRN)損傷:外科的アプローチで損傷されることがある [1] 。橈骨遠位1/3で掌側から背側へ横切る部位で損傷されやすい [5]
尺骨神経損傷:尺骨遠位1/3の展開では、尺骨遠位端を掌側から背側へ横切る尺骨神経の浅枝を損傷しやすい。橈骨・尺骨動脈の一方の損傷では、通常は血行再建を要しない [5]
橈尺骨癒合症(交叉癒合 cross union):発生率2.6〜6.6% [1] 。両骨は別々の皮切で展開し、骨間膜付近の剥離を控えることが予防の要点 [5]
偽関節:AO の教科書では3.7〜10.3%とされる(引用元は機能装具で治療した尺骨骨幹部単独骨折の報告)[1] 。プレート固定後は2%未満とする報告もある [5] 。多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・固定性不足)による [1]
DRUJ(遠位橈尺関節)不安定性:橈骨骨折にDRUJ脱臼を合併したもの(Galeazzi型)は両骨骨折でも起こり、見落とされやすい [5]
回内外制限・筋力低下:プレート固定で解剖と可動域はほぼ正常に戻るが、前腕・手関節の筋力と握力の中等度の低下が残ることを想定しておく [4]
治療方針
前腕骨骨幹部の転位した骨折(特に複雑型)は原則として手術。橈骨弯曲(radial bow)を回復させることが前提であり、徒手整復とギプス固定では変形癒合・偽関節・癒合症による不良成績が最大92%と報告されている [5] 。
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 成人の転位した前腕両骨骨幹部骨折への徒手整復・ギプス固定は、現代のプレート固定の普及とともに事実上行われなくなっている [5] → 例外:多発外傷で全身状態が不良な例や、来院が遅れて切開予定部の近くに骨折水疱・感染創がある例では、全身状態や軟部組織が安定・改善するまで手術を遅らせてよい(保存療法を選ぶ根拠ではない)[5] → 徒手整復・ギプス固定による保存療法では整復位の獲得・維持が難しく、変形癒合・偽関節・癒合症による不良成績が最大92%と報告されている [5]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:プレート固定によるORIF(尺骨も骨折していれば両骨とも固定)— 橈骨弯曲・長さ・回旋の回復を目標 [5] ℹ 複雑型(Cタイプ):各骨折線が単純な分節骨折なら圧迫プレート、粉砕が強く小骨片をラグスクリューで固定できなければブリッジプレート(架橋プレート)で固定する [5] ℹ ブリッジプレート:主骨片間にプレートをかけ、粉砕部は展開せず周囲軟部組織に覆われたままにして骨片の血流を温存する [5] ℹ 髄内釘(IMN):弯曲の再建・回旋安定性・早期運動の点でプレートに劣り、プレート固定が可能な成人の転位骨折には勧められない [5] ℹ 創外固定:軟部組織・骨の欠損が大きい開放骨折や重症例のダメージコントロールに限った一時的固定。軟部組織が改善したら内固定へ切り替える [5] ℹ 固定後にDRUJの安定性を確認し、整復できても回旋で不安定なら、前腕回外位でK-ワイヤ2本により尺骨遠位を橈骨に仮固定し、前腕回外位で上腕からの副子を当てる(Galeazzi型の治療として記載。ワイヤは6週で抜去。大きな尺骨茎状突起骨片は整復固定)[5]
治療選択アルゴリズム — ブリッジプレートORIF(第一選択)→創外固定→髄内釘
診断・評価
前腕の腫脹・変形・疼痛と、前腕・肘の可動域制限を呈する。開放骨折の有無、橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍、正中・尺骨・橈骨神経の機能を系統的に評価する [1]
22-C2の診断ポイント
X線正面像・側面像で両骨の骨折パターン(螺旋・楔状・分節型)・部位・変位方向を評価。橈骨弯曲の消失・短縮・回旋変形に注意。CT・MRIが必要になることはまれ。骨折の高さにかかわらず、肘関節・手関節を含めて撮影し、Monteggia病変(橈骨頭脱臼合併)とGaleazzi病変(DRUJ脱臼合併)を除外する [5]
X線正面像 — 前腕両骨骨幹部複雑螺旋骨折(橈骨・尺骨の多骨片型)
X線側面像 — 橈骨弯曲消失・骨片変位パターン
CT横断・3D再構成 — 骨折パターンの立体的把握と術前計画
【必須】 前腕2方向X線(肘関節・手関節を含める)。PRUJ・DRUJの状態が不確かなら斜位像を追加する [5]
✅ 許容される整復(前腕骨の基準)
✓ 橈骨弯曲(radial bow):Schemitsch と Richards の報告では、最大弯曲の量が健側との差1.5mm以内に回復した例で成績が良かった [4] [5] 。位置の基準は、同じ報告を引く二次文献で数値が異なる(健側との差4.3%以内 [4] 、9%以内 [5] ) ✓ 回旋アライメント:骨折の両側で骨間縁の稜線を合わせて回旋を正確に整復する [5] 。固定後に前腕の回旋可動域が完全で左右対称かを確認する [1] ✓ 長さ:橈骨・尺骨とも骨長を正確に回復する(PRUJ・DRUJの解剖学的整復が回内外の回復に不可欠)[5] ✓ 角状変形:軸アライメントも解剖学的に整復し、角状変形を残さない [5]
❌ 許容されない変形
✕ 橈骨弯曲の消失・減少(弯曲の量と位置の回復が回内外可動域の回復と関連する)[2] ✕ 短縮(Galeazzi型では、橈骨の短縮が残ると DRUJ の問題につながる)[5] ✕ 回旋不整(回旋変形癒合による回内外可動域の喪失)[5] ✕ Monteggia病変・Galeazzi病変の見落とし(肘・手関節を含めた撮影で除外する)[5]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・前腕を手術台に乗せてアーム形成(Cアーム透視準備)
仰臥位(標準): 患肢を手台(上肢台)に置く。透視装置は手台の助手側から入れる。止血帯は皮切の近位延長に備えて上腕のできるだけ近位に装着する [1]
プレートORIF — 第一選択(22-C2)
アプローチ解剖 — 尺骨皮下アプローチ(後方)および橈骨Henryアプローチ(掌側)
尺骨固定(両骨のうち、より単純な骨折型の骨から先に整復・固定する。尺骨が先とは限らない): [1]
アプローチ: 尺骨稜に沿った直線皮切で、尺側手根伸筋と尺側手根屈筋の間から進入する。プレートは皮下縁を避け、尺骨の後面(伸側)か前面(屈側)に置く [1]
整復: 単純な骨折は先端鋭の整復鉗子で直接整復し、ラグスクリューで絶対的安定性を得る。多骨片骨折ではpush-pull法や創外固定器による牽引で長さ・回旋を戻す。骨膜剥離は各主骨片の骨折縁から1mm程度にとどめ、全周性の剥離は避ける [1]
プレート設置: 3.5mmプレート(LC-DCP)を用い、各主骨片に最低3本の両皮質スクリュー(6皮質)を入れる。単純骨折なら7〜8穴、複雑な骨折型ではより長いプレートを選ぶ [1]
仮固定→透視確認: 先に整復した骨折部の両側に1〜2本ずつスクリューを入れて仮固定し、もう一方の骨を整復する。整復が困難なら仮固定したプレートをゆるめて再整復し、両骨固定後に回旋可動域が完全で左右対称かを確認する [1]
橈骨固定:
アプローチ: Henryの前方進入法(遠位は腕橈骨筋と橈側手根屈筋の間、近位は腕橈骨筋と円回内筋の間。橈骨神経浅枝は橈側へ、橈骨動脈は尺側へよける)。近位〜中央1/3ではThompson(背外側)進入法も使えるが、回外筋内の後骨間神経を同定・保護する [1]
整復: 先に固定した骨を長さ・回旋の指標にして、橈骨の長さ・弯曲・回旋を復元する。機能予後は橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの解剖学的修復に大きく依存する [1]
ブリッジプレート設置: 3.5mmプレート(一般にはLC-DCP 3.5)を架橋プレートとして用い、骨長・アライメント・回旋を修復する。各主骨片に最低3本の2皮質スクリューを挿入 [1]
DRUJ評価: 両骨固定後に透視2方向と前腕の他動回内外でDRUJの整復を確認する。整復できても回旋で不安定なら、前腕回外位でK-ワイヤ2本により尺骨遠位を橈骨に仮固定し、前腕回外位で上腕からの副子を当てる(Galeazzi型の治療として記載。ワイヤは6週で抜去。大きな尺骨茎状突起骨片は整復固定)[5]
ブリッジプレート固定 — 尺骨LC-DCP・橈骨LCP(粉砕部を骨膜を温存してブリッジ)
⚠️ ブリッジプレートORIF ピットフォール
✕ 橈骨弯曲の不完全整復 → 回内外可動域・握力の回復不良 [2] ✕ 粉砕部・骨片への過度な剥離 → 血流障害・偽関節リスク増大 [1] ✕ 1つの皮切で両骨を展開・固定する → 橈尺骨癒合症・神経損傷のリスク増大(両骨は別々の皮切で進入する)[1] ✕ 長さ不足のプレート・不適切なインプラント(1/3円プレートなど)・各主骨片のスクリュー不足(<3本)→ 固定性不足・偽関節 [5] [1] ✕ PIN損傷(Thompson アプローチで橈骨近位骨幹部を展開する際は回外筋を貫く後骨間神経を同定・保護する)[1]
創外固定(ダメージコントロール・二期的ORIF前)
開放骨折でも十分なデブリドマン後の一期的プレート固定が原則。軟部組織の被覆が困難か汚染が高度な場合に限り一時的に創外固定を置き、軟部組織が安定したら内固定に切り替える。創外固定のピンは尺骨の皮下縁に入れるのが安全(尺骨の近位部・遠位部では尺骨神経が骨に近接するので注意)で、橈骨に入れる場合は神経血管損傷を避けて直視下に刺入する [5] 。
術後管理
術後X線(正面/側面)— 橈骨LCP+尺骨LC-DCP によるブリッジプレート固定後
手術タイミング: 閉鎖骨折は受傷後できるだけ早期(理想は24時間以内)に内固定する。固定までの時間が長いと橈尺骨癒合症のリスクが高くなる可能性がある。開放骨折は緊急でデブリドマン・洗浄と固定を行う [1]
術後の負荷: 通常の日常生活動作は術後2〜3週から再開でき、手作業や患肢を使うスポーツは骨癒合(12〜16週かかることがある)まで控える [5]
VTE予防: 前腕の手術単独での要否は、患者個別のVTEリスク因子(長期臥床・多発外傷など)で判断する
疼痛管理: 良好な疼痛管理と早期運動は CRPS の予防にもつながる [1]
リハビリテーション: 安定した内固定なら術後早期から手指・手関節・肘・肩の自動運動を促し、拘縮とCRPSを防ぐ。疼痛軽減のため術後1週間程度は掌側副子かシュガートング固定を用い、全周性のギプスは避ける [1]
フォローアップ
術後1週: 疼痛軽減のための副子(掌側副子かシュガートング)は術後1週間程度で外し、自動運動を進める [1]
術後6週: 前腕X線で骨癒合の進行を評価する [1]
術後6〜8週: 荷重を許可できることが多い [1] 。手作業や患肢を使うスポーツは骨癒合まで控える [5]
術後12週: X線で骨癒合を評価する [1] (骨癒合まで12〜16週かかることがある [5] )
インプラント抜去: 再骨折や橈骨神経浅枝損傷のリスクがあり、症状のない患者では行わない。疼痛などインプラントによる症状がある場合に限り、初回固定から少なくとも18か月空けて検討する [5]
予後
骨癒合率:プレート固定で橈骨98%・尺骨96%(前腕骨骨幹部骨折、Anderson らの報告) [5]
骨癒合期間:骨癒合まで12〜16週かかることがある [5]
回内外可動域:両骨骨折のプレート固定後、平均で健側の回外90%・回内91%まで回復 [4]
回内外制限:橈骨弯曲の量と位置の回復は回旋の回復と関連する(健側の80%超の回旋が得られた良好例は、弯曲の量と位置の正常な回復と関連)[2]
橈尺骨癒合症:2.6〜6.6%(高度な軟部組織損傷と多骨片骨折・頭部外傷合併などが危険因子)[1]
偽関節:AO の教科書では3.7〜10.3%とされる(引用元は機能装具で治療した尺骨骨幹部単独骨折の報告)[1] 。プレート固定後は2%未満とする報告もある [5] 。多くは手技上の問題(不十分な整復・過度の剥離・固定性不足)による [1]
感染:開放骨折を一期的にプレート固定した報告で深部感染は4%(Gustilo 3型11例を含む50例)[5]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(22-C2 = 前腕両骨骨幹部骨折・複雑・螺旋型) 2 Monteggia病変を除外(肘関節X線で橈骨頭の整復位確認) 3 Galeazzi病変を除外(手関節X線でDRUJ整合性確認) 4 コンパートメント症候群の徴候(過度の疼痛・手指の他動伸展時痛・感覚低下)を受傷後と術後早期に評価 5 後骨間神経(PIN)機能を評価(手指伸展 — 術前・術後ともに確認) 6 橈骨弯曲(radial bow)の整復が計画されているか(最重要 — 術前X線と健側を比較) 7 術式を確認(第一選択:プレート固定ORIF — 3.5mmプレート、一般にはLC-DCP 3.5)[1] 8 DRUJ安定性を術中評価する計画があるか(前腕回内外テスト) 9 インプラント抜去の方針を患者に説明(原則として不要)
文献
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Schemitsch EH, Richards RR(1992)The effect of malunion on functional outcome after plate fixation of fractures of both bones of the forearm in adults. J Bone Joint Surg Am, 74-A:1068–78. PMID: 1522093
Mackay D, Wood L, Rangan A(2000)The treatment of isolated ulnar fractures in adults: a systematic review. Injury, 31:565–70. PMID: 10986368
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