前腕骨骨幹部の楔状(ウェッジ)骨折 で、AO/OTA分類2018年版では橈骨と尺骨を別々にコード化し、楔状骨折は橈骨2R2B・尺骨2U2Bとなる[1] 。転位例(成人の両骨転位骨折、または回旋変形>10°・角状変形>10°の単独転位骨折)は手術適応であり、治療の第一選択はORIF(観血的整復・圧迫プレート固定) である[1] 。楔状骨折(type B)にはラグスクリューを用いて解剖学的整復と絶対的安定性を得る手技が最適とされる[1] 。機能的予後は橈骨弓の再建と近位・遠位橈尺関節の解剖学的修復に大きく依存する[1] 。
重症度・疫学
疫学: AOの記録(1980〜1996年)によると、すべての骨折の10〜14%は前腕に発生する[1]
好発: 男性に多い。高エネルギー外傷によることが多い[1]
受傷機転: 高所からの転落・自動車の衝突事故・スポーツによる損傷・前腕への直達外力が含まれる[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:高エネルギー外傷で多いが、比較的単純な骨折の固定後にも起こりうる。受傷後・術後早期に過度の疼痛・腱の伸張痛を全例で観察し、診断後は即時の減張切開を行う[1]
橈骨神経(後骨間神経)損傷:橈骨近位部骨折、または術中の医原性損傷で起こりうる[1]
前骨間神経(正中神経の枝)損傷:時にみられる。橈骨神経浅枝と尺骨神経背側枝は外科的アプローチで損傷されうる[1]
骨間膜損傷:Essex-Lopresti損傷(橈骨近位骨幹部骨折または橈骨頚部/骨頭骨折+遠位橈尺関節の不安定性。橈骨の近位偏位で骨間膜が損傷し軸方向の不安定性を生じる)との鑑別が必須[1]
Monteggia損傷(尺骨骨幹部骨折+近位橈尺関節での橈骨頭脱臼)・Galeazzi損傷(橈骨骨幹部骨折+遠位橈尺関節脱臼)を合併する危険性[1]
偽関節:ASIF圧迫プレートで固定した急性骨幹部骨折330骨折では、骨癒合率は橈骨97.9%・尺骨96.3%[4] 。偽関節の多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・骨片間圧迫不足・不十分な固定性)に起因する[1]
感染:開放骨折を43%含む両骨骨折プレート固定30例で術後感染は0例であった[3]
橈尺骨癒合症(交叉癒合):稀だが難渋する。発生率2.6〜6.6%。橈尺骨の同レベル骨折・骨間膜損傷・高度軟部組織損傷と多骨片骨折・固定時期の遅延・1つの皮切での両骨固定・海綿骨移植・術後ギプス固定・頭部外傷合併が危険因子[1]
前腕回旋制限:橈骨弯曲の量と位置が正常に再建されないと、回旋可動域の回復が劣る[2]
治療方針
前腕骨骨幹部骨折は前腕の回旋機能(橈骨はその弯曲した形状により、軸として作用する尺骨の周りを回旋する)を考慮し、成人の両骨転位骨折と、一方の骨の単独転位骨折(回旋変形>10°、角状変形>10°)では手術加療を選択する[1] 。
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 適応:一方の骨の単独骨折で、単純な転位のない骨幹部骨折(装具やギプスなど)[1] 。なお警棒骨折(尺骨骨幹部の単独骨折)は単純な閉鎖骨折でも遷延癒合・偽関節を高率に合併する[1] → 方法:装具やギプスによる保存的治療[1] → 手術適応:成人の橈骨・尺骨両骨の転位骨折、一方の骨の単独転位骨折(回旋変形>10°、角状変形>10°)、Monteggia・Galeazzi・Essex-Lopresti型脱臼骨折、開放骨折、多発外傷・上肢の浮遊損傷・両側上肢損傷[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:ORIF(観血的整復・圧迫プレート固定)— 3.5mmプレート(一般的にはLC-DCP)。単純骨折では7穴か8穴、より複雑な骨折型ではより長いプレートが望ましい[1] ℹ 固定方法①(小さな楔状骨片):主骨片同士を整復固定し、軟部組織が付着している小骨片はそのままにしておく(生物学的活性のない小骨片は自家海綿骨移植で置き換える)[1] ℹ 固定方法②(骨膜が剥がれた大きな遊離骨片):小さいラグスクリューを用いて、プレート越しに、あるいは単独で主骨片に固定する[1] ℹ 固定方法③(別個のラグスクリュー):プレート外からラグスクリューを挿入して楔状骨片を固定後、プレートを適用。一般的には3.5mm皮質骨スクリューを用い、小骨片には2.7mmや2.4mmを用いる[1] ℹ 各主骨片に最低3本の二皮質スクリュー(6皮質)が必要[1] ℹ 橈骨:前方(Henry)アプローチ(骨幹部全体)、または後外側(Thompson)アプローチ(近位1/3〜中央1/3)[1] ℹ 尺骨:皮下に触知可能な尺骨稜に沿ったアプローチ(尺側手根伸筋と尺側手根屈筋の間から進入)[1] ℹ 代替:創外固定 — 軟部組織の欠損でプレートを被覆できない場合に限り一時固定として使用し、早期にプレート固定へ切り替える(創外固定単独では骨癒合が得られにくい)[1]
治療選択アルゴリズム — ORIF圧迫プレート固定(第一選択)→ 創外固定(重度開放)→ 保存療法(孤立性尺骨・非転位のみ)
診断・評価
前腕の疼痛・腫脹・変形と、前腕および肘の可動域制限を呈する。橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍、正中・尺骨・橈骨神経の機能を評価し、開放骨折、手関節と肘の安定性、切迫したコンパートメント症候群、神経血管損傷の有無を調べる[1] 。
22-B2の診断ポイント
X線正面像・側面像で骨折線のパターン(楔状骨片の位置・大きさ)、橈骨の弯曲(radial bow)の保持、橈骨頭の位置(Monteggia除外)、遠位橈尺関節の適合性(Galeazzi除外)を確認する。CTやMRIはほとんど必要なく、変形の程度を明確に定量化できない場合は健側前腕のX線が比較に役立つ[1] 。
術前X線像(正面/側面)— 前腕骨骨幹部楔状骨折パターン(橈骨または尺骨に楔状骨片)
骨折パターン比較 — 22-B1(螺旋楔状)vs 22-B2(屈曲楔状)vs 22-B3(骨片骨折)
【必須】 患側前腕全長正面・側面X線(Monteggia・Galeazzi・Essex-Lopresti型骨折を除外するため、手関節・肘関節を含む2関節のX線が必須)[1]
✅ 許容される整復
✓ アライメント:前腕全長の正面・側面像で、近位・遠位橈尺関節の整復と良好なアライメントを確認する[1] ✓ 短縮:なし(前腕の機能回復には骨長・アライメント・回旋の修復が不可欠)[1] ✓ 橈骨弯曲(Radial bow):正常な量と位置の回復が、良好な回旋機能(健側の80%を超える回旋)と関連する[2] ✓ 遠位橈尺関節:解剖学的適合性の確認[1]
❌ 許容されない変形
✕ 橈骨弯曲の量・位置の不整(正常な橈骨弯曲の量と位置が再建されないと回旋可動域の回復が劣る)[2] ✕ 回旋不整:完全な回旋整復が得られないと回旋可動域を全域で獲得できない(骨片同士を正確に噛み合わせる)[1] ✕ 遠位橈尺関節の不適合(Galeazzi損傷の見落とし。尺骨頭の亜脱臼・脱臼の残存は橈骨の微細な整復不良が原因のことが多い)[1] ✕ 橈骨頭の脱臼(Monteggia損傷の見落とし。残存する脱臼・亜脱臼は多くの場合尺骨の整復不良が原因)[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・上肢台(ラジオルーセント)を用いた前腕アプローチ
仰臥位・上肢台(標準): 患者を仰臥位とし、患肢を手台か上肢台に置く。近位に皮切を延長することがあるため、止血帯は可能な限り上腕の近位部に装着する[1] 。術中透視でAP像・側面像の両方が得られることを確認する。橈骨には前方または後外側、尺骨には尺骨稜に沿ったアプローチを用いる。
ORIF 圧迫プレート固定 — 第一選択
橈骨アプローチ
近位1/3骨折:前方(Henry)アプローチでは、遠位は腕橈骨筋と橈側手根屈筋の間、近位は腕橈骨筋と円回内筋の間で展開する。近位の展開では前腕を完全回外位とし、回外筋付着部を剥離して尺側から橈側へ翻転する(後骨間神経の損傷に細心の注意を払う)[1] 。後外側(Thompson)アプローチは近位部骨折の固定器具の使用がHenry法よりしばしば容易だが、後骨間神経の同定が必要で、目立つ手術瘢痕が残る[1] 。
中・遠位1/3骨折:前方(Henry)アプローチ(骨幹部全体に適用)を用いる。後外側(Thompson)アプローチ は近位1/3〜中央1/3に用い、短橈側手根伸筋と総指伸筋の間を展開する[1] 。
尺骨アプローチ
尺骨稜と平行にまっすぐな皮切をおく。ランドマークは肘頭と尺骨茎状突起。尺側手根伸筋と尺側手根屈筋の間から進入し、プレートは尺骨の皮下縁を避けて後面(伸側)か前面(屈側)に設置する。皮切の遠位部では尺骨神経の背側皮枝を損傷しないよう注意する[1] 。
前腕アプローチ — 橈骨(前方Henry法)と尺骨(尺骨稜沿い)の展開解剖
展開・骨折確認: アプローチに従い軟部組織を展開。楔状骨片と主骨片を確認し、軟部組織付着を可能な限り温存する(血流保持)[1]
整復: 先端鋭の整復鉗子(pointed reduction forceps)を用い、骨片に付着した軟部組織を剥がさないように整復する。完全な回旋整復のため骨片同士を正確に噛み合わせ、解剖学的整復を確認(回旋・長さ・橈骨弯曲)[1]
楔状骨片の固定(大きな遊離骨片の場合):
整復鉗子で整復位が保持できない場合は、まず一方の主骨片(通常近位側)にプレートを固定し、もう一方の主骨片をプレートに合わせて整復する(原典では単純横骨折・短斜骨折での手順)[1]
近位皮質にグライディングホールを作成(径は用いるラグスクリューに合わせる)
対側の皮質(far cortex)にパイロットホールを作成
ラグスクリュー(プレート経由または単独。一般に3.5 mm、小骨片には2.7 mmや2.4 mm)を挿入して楔状骨片を圧迫[1]
プレート適用: 比較的容易に整復される骨折型では、まずラグスクリューで骨片同士を保持し、安定したら整復鉗子を外して保護プレートをあてる。単純骨折(楔状骨片の無い型)では、プレートをあらかじめわずかに弯曲させ(プレベンディング)、プレート対側の骨折部の開大を防ぎ、一方または両主骨片のスクリュー孔に偏心性のドリリングをして軸圧をかける[1]
スクリュー固定: 各主骨片に最低3本の二皮質スクリューを挿入し、6か所の皮質骨を貫通させる[1]
最終確認: 透視下で整復位とインプラントの位置を確認し、前腕全長の正面・側面像で近位および遠位橈尺関節の整復とアライメントを確認する。両骨の内固定後、前腕の回旋可動域が完全で対称的かを確認する[1]
術中透視像 — 橈骨DCPプレート(前方設置)と尺骨プレート(背側設置)の最終固定構成
⚠️ 前腕ORIF ピットフォール
✕ 骨膜・軟部組織の過剰剥離 → 偽関節リスク増大(骨膜剥離は各主骨片の骨折縁から1mm程度にとどめ全周性の剥離は避ける。楔状骨片への軟部組織付着を温存)[1] ✕ 橈骨弯曲の消失 → 前腕回旋の回復不良[2] ✕ 各主骨片3本未満のスクリュー → 固定力不足(原典は各主骨片に最低3本の二皮質スクリューを求める)[1] ✕ 後骨間神経損傷(橈骨近位1/3)→ Henry法では前腕を回外位にして回外筋付着部を翻転し(回外位の方が損傷されにくい)、Thompson法では神経を同定して保護する[1] ✕ Monteggia/Galeazzi の見落とし → 術前の2関節X線・術中透視で確認必須[1] ✕ 両骨を同一切開から展開しない → 橈尺骨癒合症・神経損傷のリスク[1]
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 橈骨・尺骨プレート固定後(楔状骨片のラグスクリュー固定を含む)
手術タイミング: 閉鎖性の前腕骨骨折は受傷後24時間以内の手術が理想的である。開放骨折では緊急でデブリドマン・洗浄と固定を行う。固定までの時間が長いと橈尺骨癒合症のリスクが高くなる可能性がある[1]
術後荷重: 患肢での荷重は術後6〜8週で許可できることが多い[1]
VTE予防: 明確な基準は手元の文献に無く、多発外傷・長期臥床を伴う場合は施設の血栓予防方針に従う
疼痛管理: CRPSは上肢近位部の骨折よりも前腕・手関節の骨折後に多くみられるようであり、良好な疼痛管理と早期運動による予防が最善とされる[1]
リハビリテーション: 安定した内固定が得られたら、術後早期から手指・手関節・肘・肩の自動運動を促し、拘縮やCRPSを予防する。術後1週間程度は掌側副子またはシュガートング固定で疼痛を軽減し、全周性のギプス固定は避ける[1] 。両骨骨折プレート固定30例の報告では、理学療法士の補助のもと術後約6週から筋力強化を開始していた[3]
フォローアップ
術後1週: 創部確認・スプリントの状態確認
術後2週: 創部確認。副子は術後1週間程度で外し、手指・手関節・肘・肩の自動運動は術後早期から促す[1]
術後4週: 臨床所見の確認(X線撮影は術後6週と12週に行う[1] )
術後6〜8週: X線撮影(術後6週、骨癒合評価)。荷重は術後6〜8週で許可できることが多い[1] 。抵抗運動の開始時期を判断
術後12週: X線撮影(骨癒合判定)[1] 。骨癒合遅延の場合は追加処置を検討
インプラント抜去: 原則として抜去しない。患者が強く希望しない限り抜去せず、内固定後12か月以内など早期の抜去は再骨折の危険性を増す[1]
予後
骨癒合率:ASIF圧迫プレート固定で橈骨97.9%・尺骨96.3%[4]
骨癒合期間:症例により異なり、術後6週・12週のX線で骨癒合所見を確認しながら判断する[1]
前腕回旋機能:両骨骨折のプレート固定後、回内は健側の91%、回外は90%(平均5.4年)[3] 。健側の80%を超える回旋の回復は、橈骨弓の量と位置の回復と関連する[2]
偽関節:ASIF圧迫プレート固定では骨癒合率が橈骨97.9%・尺骨96.3%[4] 。原因の多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・骨片間圧迫不足・不十分な固定性)[1]
感染:両骨骨折プレート固定30例(開放骨折43%を含む)で術後感染0例[3]
再骨折(プレート抜去後):報告では3.5〜25%。内固定術後12か月以内など早期の抜去で危険性が増す[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(2018年版では楔状骨折は橈骨2R2B・尺骨2U2B)[1] 2 骨折部位を確認(橈骨のみ・尺骨のみ・両骨、近位1/3・中央1/3・遠位1/3) 3 Monteggia損傷を除外(肘関節X線で橈骨頭の位置確認) 4 Galeazzi損傷を除外(手関節X線で遠位橈尺関節の確認) 5 コンパートメント症候群の初期徴候を確認(手指伸展痛・前腕硬直) 6 神経機能を評価(後骨間神経:母指伸展、正中神経:母指対立、尺骨神経:小指外転) 7 術式を確認(第一選択:ORIF圧迫プレート固定・3.5mmプレート〈一般的にはLC-DCP〉、各主骨片3本以上のスクリューが入る長さ) 8 橈骨弯曲(radial bow)の解剖学的整復が達成されているか 9 各主骨片に3本以上の二皮質スクリューが挿入されているか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Schemitsch EH, Richards RR(1992)The effect of malunion on functional outcome after plate fixation of fractures of both bones of the forearm in adults. J Bone Joint Surg Am, 74(7):1068–78. PMID: 1522093
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