前腕骨骨幹部の橈骨・尺骨両骨幹部に生じる単純骨折。AO分類22-A2に相当し、両骨に単純型(横骨折・斜骨折・螺旋骨折)の骨折線が存在する 。前腕の回旋機能(回内・回外)は橈骨・尺骨の関係に依存するため、解剖学的整復と強固な固定が必須であり、成人では原則として両骨ともプレート固定(ORIF)が第一選択 となる。
重症度・疫学
発生頻度: AOの記録(1980〜1996年)では、すべての骨折の10〜14%が前腕に発生している[1]
好発: 高エネルギー外傷で生じ、男性に多い[1]
受傷機転: 高所からの転落、自動車の衝突事故、スポーツによる損傷、前腕への直達外力[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:高エネルギー外傷で多くみられるが、比較的単純な骨折の固定後にも発生することがある[1]
神経損傷:橈骨近位部骨折または術中の医原性損傷による後骨間神経損傷、前骨間神経損傷。橈骨神経浅枝・尺骨神経背側枝は外科的アプローチで損傷されることがある[1]
正中・尺骨・橈骨神経:受傷時に機能を評価し、橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍を触知する[1]
上橈尺関節(PRUJ)での橈骨頭脱臼の合併(Monteggia骨折):尺骨骨幹部骨折に合併する[1]
下橈尺関節(DRUJ)脱臼の合併(Galeazzi骨折):橈骨骨幹部骨折に合併する[1]
偽関節:3.7〜10.3%。多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・骨片間圧迫不足・不十分な固定性)に起因する[1]
橈尺骨癒合症(交叉癒合):2.6〜6.6%。稀だが非常に難渋する[1]
感染:3.5mm DCPによるプレート固定で0.8%(閉鎖骨折の表層創感染1例)[4]
治療方針
前腕骨骨幹部骨折の機能的予後は、橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの完全な解剖学的修復に大きく依存する[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 一方の骨の単独転位骨折は回旋変形>10°・角状変形>10°で手術適応。単純な転位のない骨幹部骨折は保存的に治療できる(装具やギプスなど)[1] → 例外:手術不能な全身状態、または不完全骨折(皮質連続性が部分的に保たれている場合) → 小児(10歳以下)は骨塑形能力があるため、変位が少ない場合は保存療法(ギプス固定)を考慮 → 創外固定を用いた場合も、通常、創外固定器単独では骨癒合は得られず偽関節・変形癒合(特に回旋変形)の発生率が高いため、早期にプレート固定へ切り替える段階的治療が推奨される[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:プレート固定 — 3.5mmプレートが理想的なサイズで、一般的にはLC-DCPを勧める[1] ℹ 橈骨:骨幹部全体にはHenryの前方進入法(プレートは前面)、近位1/3〜中央1/3には後外側進入法(Thompson、プレートは後面)[1] ℹ 尺骨:触知できる尺骨縁に沿った直線皮切。プレートは皮下縁を避け、後外側面(伸側)か前面(屈側)にあてる[1] ℹ 比較的容易に整復される単純骨折:まずラグスクリューを挿入して骨片同士を保持し、安定したら整復鉗子を外して保護プレートをあてる[1] ℹ 横骨折:プレートをあらかじめ少し成形し、主骨片のスクリュー孔に偏心性のドリリングをして軸圧をかける[1] ℹ 代替:創外固定 — 軟部組織の欠損でプレートを被覆できない場合に限り、一方の骨を一期的に内固定し、もう一方を創外固定で仮固定する[1] ℹ 髄内釘固定:横止め髄内釘は回旋不安定性のコントロールに問題が残り、有用性は不明。弾性髄内釘は成人では早期可動域訓練に十分な安定性が得られない[1]
治療選択アルゴリズム — 両骨ORIF(第一選択)vs 創外固定 vs 保存療法
診断・評価
前腕の疼痛・腫脹・変形と、前腕・肘の可動域制限を呈する。橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍触知と正中・尺骨・橈骨神経の機能評価が重要[1] 。
22-A2の診断ポイント
前腕2方向X線で骨折部位・骨折型・変位を確認する。Monteggia骨折・Galeazzi骨折・Essex-Lopresti型骨折などを除外するため、肘関節と手関節を含めて撮影する[1] 。
X線正面像 — 前腕骨骨幹部両骨折(橈骨・尺骨単純骨折)パターン
X線側面像 — 前腕骨両骨折(掌背側変位の評価)
骨折パターン比較 — 22-A1(橈骨単純骨折)vs 22-A2(尺骨単純骨折 / 両骨単純骨折)vs 22-A3(橈骨・尺骨両骨単純骨折)
【必須】 患側前腕正面・側面X線(肘関節・手関節を含む)。CT・MRIはほとんど必要ない。変形の程度を定量化できない場合は健側前腕X線で比較する[1]
✅ 許容される整復(保存療法の場合)
✓ 角状変形:一方の骨の単独転位骨折で角状変形>10°は手術適応[1] ✓ 回旋変形:一方の骨の単独転位骨折で回旋変形>10°は手術適応[1] ✓ 短縮:≦5mm ✓ ※単純な転位のない骨幹部骨折なら保存的に治療できる(装具やギプスなど)[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 角状変形>10°・回旋変形>10°(一方の骨の単独転位骨折の手術適応)[1] ✕ 橈骨弓の再建不良(機能的予後は橈骨弓の再建に大きく依存する)[1] ✕ PRUJ脱臼の見落とし(Monteggia骨折脱臼) ✕ DRUJ不安定性の見落とし(Galeazzi骨折脱臼) ✕ コンパートメント症候群の徴候(過度の疼痛・腱の伸張痛)[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・前腕を手術台辺縁に外転伸展位(Cアームセットアップ)
仰臥位: 患肢を手台か上肢台に置く。止血帯は可能な限り上腕の近位部に装着する(術中に大量出血が起きたときにのみ使用する外科医もいる)[1] 。
ORIF — 両骨プレート固定(第一選択)
アプローチ — 橈骨(Thompsonアプローチ/Henryアプローチ)・尺骨(直接アプローチ)
【橈骨の固定】(両骨骨折ではより単純な骨折型の骨から先に整復する) [1]
アプローチ選択: 橈骨骨幹部全体には Henry進入法(前方) :遠位は腕橈骨筋と橈側手根屈筋の間で、橈骨神経浅枝を橈側へ、橈骨動脈を尺側へよける。近位1/3〜中央1/3には Thompson進入法(背外側) :短橈側手根伸筋と総指伸筋の間[1]
露出・整復: Thompsonアプローチでは後骨間神経を同定して保護する。骨膜の剥離は最小限にとどめ、全周性の剥離は避ける。単純な横骨折は小さな整復鉗子2本で主骨片同士を引き寄せ、先端鋭の整復鉗子で直視下に整復する[1]
ラグスクリュー固定: プレート外からまたはプレートのスクリュー孔をとおして、可能な限り骨片間ラグスクリューを挿入する。一般的には3.5mm皮質骨スクリューを用い、小骨片には2.7mmや2.4mmを用いる[1]
橈骨 ラグスクリュー挿入(斜骨折タイプ・骨折面垂直方向)
プレート適用: 3.5mmプレート(一般的にはLC-DCP)を、Henry進入では橈骨前面(屈側)、後外側進入では橈骨後面(伸側)に設置する。プレート対側の骨折部の開大を防ぐため、プレートをあらかじめ少し成形(ベンディング)しておく[1]
スクリュー配置: 各主骨片に最低3本のバイコーティカルスクリューを挿入して6か所の皮質骨を貫通させる(単純骨折では7穴か8穴プレート)。一方または両主骨片のスクリュー孔に偏心性のドリリングをして軸圧をかける[1]
【尺骨の固定】(両骨骨折の場合。より単純な骨折型の骨から先に整復する[1] )
直接アプローチ: 尺骨稜に沿ってまっすぐな皮切をおき、尺側手根伸筋と尺側手根屈筋の間から骨幹部へ進入する。皮切の遠位部では尺骨神経の背側皮枝(手首皮線から5〜8cm近位で分岐)を保護する[1]
整復・プレート固定: 同様に整復後、3.5mmプレート(一般的にはLC-DCP)を皮下縁を避けて尺骨の後外側面(伸側)か前面(屈側)にあて、各主骨片で最低6皮質を固定する[1]
最終確認: 透視下で整復位とインプラントの位置を確認し、正面・側面像で前腕の全長を撮影してPRUJ・DRUJの整復とアライメントを確かめる。両骨固定後は前腕の回旋可動域が完全で対称的かを確認する[1]
⚠️ 両骨プレート固定ピットフォール
✕ 橈骨弓の再建が不十分 → 機能的予後は橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの完全な解剖学的修復に大きく依存する[1] ✕ 後骨間神経(PIN)損傷 → Thompsonアプローチでの橈骨近位露出時に必ず神経を確認・保護 ✕ 両骨を1つの皮切で固定 → 神経損傷や橈尺骨癒合症のリスクが増大するため勧められない[1] ✕ 骨片間圧迫不足・不十分な固定性 → 偽関節の原因となる[1] ✕ DRUJの整復・安定性の確認忘れ → 橈骨固定後に尺骨頭の亜脱臼・脱臼が残れば、多くは橈骨骨折の微細な整復不良が原因で、評価して修正する[1] ✕ 同一皮質面へのラグスクリューとプレートスクリューの競合 → 骨皮質損傷
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 両骨プレート固定後(橈骨 + 尺骨)
手術タイミング: 閉鎖骨折は受傷後24時間以内の手術が理想的。開放骨折は緊急でデブリドマン・洗浄・固定を行う。固定までの時間が長いと橈尺骨癒合症のリスクが高くなる可能性がある[1]
術後荷重: 術後6〜8週で前腕の荷重を許可できることが多い[1]
VTE予防: 上肢骨折のみの場合、一般的なVTEリスクは低い。術後早期の上肢・下肢の積極的運動を促す
疼痛管理: 術後1週間程度は掌側副子固定あるいはシュガートング固定で疼痛を軽減させる[1]
リハビリテーション: 安定した内固定が得られたら、術後早期から手指・手関節・肘・肩の自動運動を促し、拘縮やCRPSを予防する[1]
フォローアップ
術後1週: 掌側副子固定あるいはシュガートング固定で疼痛を軽減させる(全周性のギプス固定は避ける)[1]
術後6週: X線撮影。術後6〜8週で荷重を許可できることが多い[1]
術後12週: X線撮影[1]
術後16〜20週: 骨癒合完成の確認。回旋機能の最終評価
インプラント抜去: 患者が強く希望しない限り抜去しない。内固定術後12か月以内など早期の抜去は再骨折の危険性を高める[1]
予後
骨癒合率:圧迫プレート固定で橈骨97.9%・尺骨96.3%[2]
骨癒合期間:3.5mm DCPによるプレート固定で96.3%が1回の手術で6か月以内に問題なく癒合[4]
前腕回旋機能:機能的予後は橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの完全な解剖学的修復に大きく依存する[1]
偽関節:3.7〜10.3%。多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・骨片間圧迫不足・不十分な固定性)に起因する[1]
橈尺骨癒合症(交叉癒合):2.6〜6.6%(橈骨と尺骨が同じレベルでの骨折・固定時期の遅延・1つの皮切での両骨固定などが危険因子)[1]
感染:閉鎖骨折の術後に1例のみ(術中汚染による)[4]
再骨折(インプラント抜去後):3.5〜25%。プレート3.5の使用で発生率がかなり減少するとされる[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(22-A2 = 前腕骨骨幹部単純骨折 — 橈骨・尺骨両骨に骨折が及ぶパターンは22-A3に相当することもある。本記事は両骨単純骨折の治療原則を解説) 2 橈骨・尺骨それぞれの骨折部位(近位/中央/遠位1/3)・骨折パターン(横/斜/螺旋)を確認 3 PRUJ(上橈尺関節)損傷を除外(Monteggia骨折脱臼)— 肘関節X線で必ず確認 4 DRUJ(下橈尺関節)不安定性を除外(Galeazzi骨折脱臼)— 手関節X線で必ず確認 5 コンパートメント症候群の評価(過度の疼痛・腱の伸張痛。診断後は2つの前方コンパートメントと1つの後方筋膜コンパートメントの即時減張術)[1] 6 神経損傷の評価(後骨間神経・正中神経・尺骨神経) 7 橈骨弓(radial bow)の再建を確認(機能的予後は橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの解剖学的修復に大きく依存する)[1] 8 術式を確認(橈骨:Thompson/Henryアプローチ、尺骨:直接アプローチ、別切開) 9 両骨に別々の皮膚切開を計画(synostosis予防)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Anderson LD, et al.(1975)Compression plate fixation in acute diaphyseal fractures of the radius and ulna. J Bone Joint Surg Am, 57-A:287–97. PMID: 1091653
Chapman MW, Gordon JE, Zissimos AG(1989)Compression-plate fixation of acute fractures of the diaphyses of the radius and ulna. J Bone Joint Surg Am, 71-A:159–69. PMID: 2918001
Hertel R, et al.(1996)Plate osteosynthesis of diaphyseal fractures of the radius and ulna. Injury, 27:545–8. PMID: 8994558