前腕骨骨幹部に生じる単純骨折(Simple fracture) の群(AO分類22-A群)。2018年改訂のAO/OTA分類では橈骨と尺骨を別々にコード化し、骨幹部の単純骨折は橈骨が2R2A、尺骨が2U2Aとなる[1] 。本記事では22-A群全体に共通する治療原則 を解説する。成人の両骨の転位骨折と、単独骨の転位骨折(回旋変形>10°、角状変形>10°)は手術適応であり、転位のない単純な骨幹部骨折は装具やギプスなどで保存的に治療できる[1] 。単純骨折の手術ではラグスクリューとプレートによる解剖学的整復と絶対的安定性 が最適とされる[1] 。
重症度・疫学
疫学: AOの記録(1980〜1996年)では全骨折の10〜14%が前腕に発生している[1]
好発: 男性に多く、高エネルギー外傷で生じる傾向がある[1]
受傷機転: 高所からの転落・自動車の衝突事故・スポーツによる損傷・前腕への直達外力。典型的な警棒骨折(nightstick fracture:尺骨骨幹部の単独骨折)は鈍的外傷に対する防御で生じる[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:高エネルギー外傷で多いが、比較的単純な骨折の固定後にも起こりうる。受傷後・術後早期に過度の疼痛と腱の伸張痛を全例で観察し、診断したら2つの前方コンパートメントと1つの後方コンパートメントを即時に減張する[1]
後骨間神経(PIN)損傷:橈骨近位部骨折または術中の医原性損傷で起こりうる。橈骨近位部の展開で注意する[1]
前骨間神経・橈骨神経浅枝・尺骨神経背側枝の損傷:前骨間神経損傷が時にみられ、橈骨神経浅枝と尺骨神経背側枝は外科的アプローチで損傷されうる[1]
Monteggia骨折見落とし:尺骨骨幹部骨折に近位橈尺関節での橈骨頭脱臼を合併(必ず肘関節を含めてX線を撮影)[1]
Galeazzi骨折見落とし:橈骨骨幹部骨折に遠位橈尺関節(DRUJ)の脱臼を合併(必ず手関節を含めて評価)[1]
偽関節・遷延癒合:偽関節の発生率は文献で3.7〜10.3%で、多くは手技上の問題(不十分な整復・軟部組織の過度の剥離・骨片間圧迫不足・不十分な固定性)に起因する[1] 。尺骨単独骨折(警棒骨折)は通常単純な閉鎖骨折でも遷延癒合や偽関節の率が高い[1]
再骨折:インプラント抜去後に3.5〜25%。内固定後12か月以内など早期の抜去で危険性が増す[1]
前腕回旋障害(橈尺骨癒合症・交叉癒合 cross union):稀だが難渋する合併症で、発生率は2.6〜6.6%。両骨同レベルの骨折、骨間膜損傷、固定の遅延、1皮切での両骨固定、術後ギプス固定などが危険因子[1]
治療方針
成人の両骨骨幹部の転位骨折と、単独骨の転位骨折(回旋変形>10°、角状変形>10°)は手術適応である。単純な転位のない骨幹部骨折は装具やギプスなどで保存的に治療できる[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 成人の転位のある両骨骨折と、単独骨の転位骨折(回旋変形>10°、角状変形>10°)は保存療法の対象外(手術適応)[1] → 例外:転位のない単純な骨幹部骨折は装具やギプスで保存的に治療できる。ただし尺骨骨幹部の単独骨折(警棒骨折)は単純な閉鎖骨折でも遷延癒合・偽関節が多い[1] → 注:軟部組織の欠損でプレートを被覆できない場合の創外固定は保存療法ではなく一時的な手術的固定で、単独では骨癒合が得られにくく偽関節・変形癒合が多いため、早期にプレート固定へ切り替える[1] → 保存療法は装具やギプスなどで行う[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:ORIF — 比較的容易に整復される骨折型では、まずラグスクリューで骨片間を固定し、安定したら保護(中和)プレートをあてる。斜骨折では、プレートで軸圧をかけてからプレート越しにラグスクリューを挿入する[1] ℹ 第一選択:ORIF — 偏心スクリューによる圧迫プレーティング(横骨折 or 短斜骨折)[1] ℹ プレートは3.5 mm(LC-DCP)を用い、各主骨片に最低3本の両皮質スクリュー(6皮質)を確保する。単純骨折では7穴か8穴プレートとなる[1] ℹ 橈骨アプローチ:骨幹部全体 → Henry法(前方進入、プレートは掌側面)/ 近位1/3〜中央1/3 → Thompson法(背外側進入、プレートは背側面)も選択できる[1] ℹ 尺骨アプローチ:尺骨稜と平行な皮切で、尺側手根伸筋と尺側手根屈筋の間から進入。プレートは皮下縁を避けて後面(伸側)か前面(屈側)にあてる[1] ℹ 両骨骨折では、より単純な骨折型の骨から整復し、プレートを骨折部の両側にそれぞれ1〜2本のスクリューで仮固定して、もう一方の骨の骨長・回旋の指標にする[1] ℹ 代替:創外固定 — 軟部組織欠損でプレートを被覆できない場合の一時的固定。単独では偽関節・変形癒合が多く、早期にプレート固定へ切り替える[1]
治療選択アルゴリズム — 22-A1単純骨折:ORIF(ラグスクリュー+プレート or 圧迫プレーティング)
診断・評価
前腕部の疼痛・腫脹・変形、前腕と肘の可動域制限を呈する。橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍と正中・尺骨・橈骨神経の機能を評価し、開放骨折、手関節と肘の安定性、切迫した前腕コンパートメントを調べる。肘関節・手関節の合併損傷(Monteggia・Galeazzi)を除外すること[1] 。
22-A1の診断ポイント
X線正面像・側面像で骨折線の方向(横・斜・螺旋)・部位(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)・変位の程度を確認。必ず肘関節と手関節を含む前腕全長X線を撮影 し、橈骨頭脱臼とDRUJ損傷を除外する[1] 。
X線像 — 前腕骨骨幹部単純骨折パターン(22-A1: 橈骨斜骨折、22-A2: 尺骨横骨折、22-A3: 両骨骨折)
骨折分類 — 22-A1(単骨 or 両骨単純骨折)vs 22-B(楔状骨折)vs 22-C(多骨片骨折)比較
【必須】 前腕(橈骨・尺骨)正面・側面X線(肘関節・手関節含む全長)[1]
【必要に応じて】 健側前腕X線(変形の程度を定量しにくい場合の比較)。CT・MRIはほとんど必要ない[1]
✅ 保存療法の対象(一方の骨の単独骨折で転位のないもの)[1]
✓ 転位:転位のない単純骨折[1] ✓ 短縮:1cm以下 ✓ 成角:角状変形>10°の単独骨の転位骨折は手術適応(保存療法の対象は転位のない単純骨折)[1] ✓ 回旋:回旋変形>10°の単独骨の転位骨折は手術適応(保存療法の対象は転位のない単純骨折)[1]
❌ 許容されない変形・状態(手術適応となる)
✕ 変位のある両骨骨折(成人では手術適応)[1] ✕ 単独骨の転位骨折で回旋変形>10°または角状変形>10°[1] ✕ Monteggia骨折(尺骨骨折+橈骨頭脱臼)— 手術時期が遅れると機能的成績が低下するため、早期に観血的整復・固定[1] ✕ Galeazzi骨折(橈骨骨折+DRUJ脱臼)— ORIFが必須(fracture of necessity)[1] ✕ 開放骨折(緊急でデブリドマン・洗浄・固定)[1] ✕ コンパートメント症候群(2つの前方コンパートメントと1つの後方コンパートメントの即時減張術)[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位、患肢を手術台横のアームボード上に外転位で展開
仰臥位(標準): 患者を仰臥位とし、患肢を手台か上肢台におく。近位に皮切を延長することがあるため、止血帯は上腕のできるだけ近位に装着する(大量出血時にのみ使用する外科医もいる)。透視装置は手台の助手側から導入する[1] 。
ORIF — ラグスクリュー+中和プレート(斜骨折・螺旋骨折:第一選択)
アプローチと骨折露出 — Henry法(橈骨前方)/ 皮下縁アプローチ(尺骨)
橈骨アプローチ(Henry法 / 前方アプローチ):
皮切: 近位は腕橈骨筋と上腕二頭筋腱遠位部の間の溝、遠位は橈骨茎状突起をランドマークとし、前腕掌側に直線の皮切をおく。近位まで延長する場合は肘関節部で内側へ弯曲させる[1] 。
神経血管の確認: 遠位は腕橈骨筋と橈側手根屈筋の間、近位は腕橈骨筋と円回内筋の間で筋膜を切開し、橈骨神経浅枝を橈側へ、橈骨動脈を尺側へよけて展開する。近位では腕橈骨筋を栄養する橈骨動脈の回旋枝を結紮し、回外筋付着部の剥離時は後骨間神経に注意する[1] 。
深層の展開: 部位に応じて方形回内筋・長母指屈筋・円回内筋・浅指屈筋・回外筋を橈骨から剥離する。骨膜の剥離は骨折縁から1 mm程度にとどめ、全周性の剥離は避ける[1] 。
尺骨アプローチ(皮下縁アプローチ):
前腕尺側縁(尺骨稜)と平行に切開し、尺側手根伸筋(ECU)と尺側手根屈筋(FCU)の間から進入する。プレートは尺骨後面(伸側)か前面(屈側)に設置し、皮下縁には直接あてない。皮切の遠位部では尺骨神経の背側皮枝を損傷しないよう注意する[1] 。
固定手順(斜骨折・螺旋骨折):
整復: 先端鋭の整復鉗子(ポイントリダクションクランプ)で直接整復し、解剖学的位置を確認する。骨片に付着する軟部組織を剥離しないよう注意する[1] 。
ラグスクリュー挿入: 可能な限り骨片間ラグスクリューを、プレート外から、またはプレートのスクリュー孔をとおして挿入する。一般には3.5 mm皮質骨スクリュー、小骨片には2.7 mmや2.4 mmを用いる[1] 。
中和(保護)プレート固定: 3.5 mmプレート(一般にはLC-DCP)を用い、各主骨片に最低3本の両皮質スクリューを確保する(計6スクリュー以上)。ラグスクリューで安定させたあと、保護プレートとしてあてる。斜骨折では、プレートで軸圧をかけてからプレート越しにラグスクリューを挿入する[1] 。
ラグスクリュー+中和プレート固定法(斜骨折)— スクリュー軌道と圧迫方向
整復確認: 透視で前腕全長の正面・側面像を撮り、近位・遠位橈尺関節の整復、アライメント、インプラント位置を確認する。前腕回旋(回内・回外)の可動域が完全で対称的であることを術中に確認する[1] 。
⚠️ ORIFピットフォール
✕ 後骨間神経(PIN)損傷 — 橈骨近位へ展開する際は前腕を回外位にする(回内位は視野がよいが、回外位のほうがPINを損傷しにくい)。PINは回外筋内を走行し、橈骨頭から約3横指遠位で触知できる[1] ✕ 過度の剥離 — 骨膜の剥離は骨折縁から1 mm程度にとどめ、全周性の剥離は避ける。骨間膜損傷は橈尺骨癒合症の危険因子[1] ✕ プレート長不足 — 各主骨片に最低3本の両皮質スクリュー(単純骨折では7穴か8穴プレート)を確保する[1] ✕ 橈骨の回旋アライメント不整・橈骨弓の再建不良 — 機能的予後は橈骨弓の再建とPRUJ・DRUJの解剖学的修復に大きく依存する[1] ✕ DRUJの整復・安定性の確認 — Galeazzi骨折では固定後にDRUJの整復状況を透視下および臨床的に評価し、不安定なら中間位かやや回外位でK-ワイヤ2本によるクロスピンニングを行い、肘関節と手関節を含む前腕副子固定を追加する[1]
ORIF — 圧迫プレーティング(横骨折・短斜骨折)
横骨折・短斜骨折では、プレートのスクリュー孔に偏心性のドリリングをして軸圧をかける(Load screw technique)[1] 。
整復: 骨折端を直接整復し、先端鋭の整復鉗子で把持する。鉗子で整復位を保持できない場合(多い)は、まず一方の主骨片(通常近位側)にプレートを固定し、もう一方の主骨片をプレートに合わせて整復する[1] 。
プレート配置・プレベンディング: DCP/LCPをあらかじめ少し成形(ベンディング)してから骨表面に当て、一方の骨片に固定する(成形しないとプレート対側の骨折部が開大する)[1] 。
偏心スクリュー(Load screw)挿入: 一方または両方の主骨片のスクリュー孔に偏心位(Eccentric position)でドリルし、スクリューを締め込むことで軸方向圧迫を得る[1] 。
残余スクリュー挿入: 残りのスクリューを挿入し、各主骨片に最低3本の両皮質スクリューを確保する[1] 。
圧迫プレーティング(横骨折)— オーバーベンドと偏心スクリューによる軸圧迫
術後管理
術後X線像(正面/側面)— ORIF後(ラグスクリュー+中和プレート / 圧迫プレーティング)
手術タイミング: 閉鎖骨折は受傷後24時間以内の手術が理想。開放骨折は緊急でデブリドマン・洗浄・固定を行う。固定までの時間が長いと橈尺骨癒合症のリスクが高くなる可能性がある[1]
術後固定: 安定した内固定が得られた場合、術後1週間程度、掌側副子またはシュガートング固定で疼痛を軽減する(信用のおけない患者ではさらに長く使用してもよい)。早期から手指・手関節・肘・肩の自動運動を促す。全周性のギプス固定は避ける[1]
術後荷重: 術後6〜8週で荷重を許可できることが多い。X線撮影は術後6週と12週で行う[1]
VTE予防: 長期臥床など患者側の危険因子に応じて個別に検討する
疼痛管理: 良好な疼痛管理と早期運動は、複合性局所疼痛症候群(CRPS。上肢近位部の骨折よりも前腕・手関節の骨折後に多いとされる)の最善の予防法である[1]
リハビリテーション: 安定した内固定が得られたら、術後早期から手指・手関節・肘・肩の自動運動を促して拘縮や複合性局所疼痛症候群(CRPS)を予防する[1] 。段階的に作業療法(ADL訓練)へ移行
フォローアップ
術後1週: 創部確認・感染徴候チェック
術後2週: 抜糸。副子は術後1週間程度で外し(信用のおけない患者ではさらに長く使用してもよい)、自動運動は術後早期から継続する[1]
術後4週: 臨床所見の確認(X線撮影は術後6週と12週で行う)[1]
術後6〜8週: X線撮影(術後6週)。荷重を許可できることが多い[1]
術後12週: X線撮影[1] 。術後4か月を過ぎても骨折線が残るものを遷延癒合とした報告がある(強固な内固定下では定義が難しいための便宜的な定義)[4]
インプラント抜去: 症状のない患者では原則として抜去しない(神経血管損傷・再骨折のリスク)。抜去する場合も、内固定後12か月以内など早期の抜去は再骨折の危険性を高める[1]
予後
骨癒合率(粉砕骨折を含む前腕骨幹部骨折全体の報告):圧迫プレート固定で橈骨97.9%・尺骨96.3%[2] 、AOプレート固定で骨の97%[4]
骨癒合の評価:X線撮影は術後6週と12週で行う[1]
前腕機能(粉砕骨折・脱臼骨折を含む前腕骨幹部骨折全体の報告):AOプレート固定で優・良が80%。回内・回外は最も制限されやすく、30°以上失われた例がそれぞれ19人(うち6人は橈尺骨癒合症)[4]
偽関節:文献上3.7〜10.3%(不十分な整復・過度の剥離・圧迫不足・不十分な固定性など手技上の問題が多い)[1]
再骨折:インプラント抜去後に3.5〜25%(内固定後12か月以内の早期抜去で危険性が増す)[1]
感染(前腕骨幹部骨折全体の報告):AOプレート固定で閉鎖骨折6%(84肢中5肢、うち深部4)、開放骨折11%(27肢中3肢)[4]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(2018年版:橈骨骨幹部単純骨折 = 2R2A / 尺骨骨幹部単純骨折 = 2U2A)[1] 2 骨折部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)と骨折型(横・斜・螺旋)を記録 3 Monteggia骨折を除外(尺骨骨折 → 必ず肘関節X線で橈骨頭脱臼を確認) 4 Galeazzi骨折を除外(橈骨骨折 → 必ず手関節X線でDRUJ損傷を確認) 5 コンパートメント症候群の徴候(過度の疼痛・腱の伸張痛)を受傷後・術後早期に観察したか[1] 6 術式を確認(斜/螺旋骨折 → ラグスクリュー+中和プレート / 横骨折 → 圧迫プレーティング) 7 橈骨アプローチで後骨間神経(PIN)を確認・保護したか(近位1/3の場合) 8 術中に前腕回旋(全域)が問題なく行えることを確認したか 9 Galeazzi骨折でDRUJの整復・安定性を透視下および臨床的に評価したか[1] 10 術後スプリント固定期間と開始運動内容を患者・担当療法士に伝達したか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Anderson LD, et al.(1975)Compression-plate fixation in acute diaphyseal fractures of the radius and ulna. J Bone Joint Surg Am, 57-A:287–97. PMID: 1091653
Botting TD(1970)Posttraumatic radio-ulnar cross-union. J Trauma, 10:16–24.
Hadden WA, Reschauer R, Seggl W(1983)Results of AO plate fixation of forearm shaft fractures in adults. Injury, 15:44–52. PMID: 6885147