前腕近位部における尺骨骨折と橈骨頭脱臼の合併損傷。AO/OTA 2018では尺骨骨幹骨折+近位橈尺関節(PRUJ)脱臼として分類され、尺骨骨幹コードに修飾(m)を付す:単純型=2U2-A(m)/楞状型=2U2-B(m)(原著 Meinberg 2018)。旧1996年版の21-B3に相当し、不安定型なので近位尺骨2U1でなく骨幹2U2である点に注意。Bado分類(I〜IV型)によりサブタイプに細分される。尺骨の解剖学的整復・固定が橈骨頭整復の前提であり、尺骨の整復不良は橈骨頭の自然整復を妨げる最大の原因となる。高エネルギー外傷で発生し、後骨間神経(PIN)損傷を約17%に合併するため、術前の神経学的評価が必須。成人例では原則として手術(プレート固定)が第一選択となる。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 前腕骨折全体の約1〜5%。比較的稀な損傷で、成人では小児に比べて頻度が低い
好発: 成人48例の報告では女性25例・男性23例、平均年齢52歳(18〜88歳)で、幅広い年齢に生じる[2]
受傷機転: 成人48例では29例が立った高さからの転倒による低エネルギー損傷で、残る19例は高所転落などによる高エネルギー損傷だった[2]
Bado分類:
- I型: 橈骨頭前方脱臼。成人48例中7例[2]
- II型(成人で最多): 橈骨頭後方脱臼。成人48例中38例[2]
- III型(約20%): 橈骨頭外方脱臼+尺骨近位内側骨折(外転機転、小児に多い)
- IV型(約5%): 橈骨頭脱臼+橈骨・尺骨両骨骨折
治療方針: 成人では、プレートとスクリューによる尺骨の安定した解剖学的固定で多くの例が満足な成績を得る[2]
注意すべき合併症
- 神経損傷:成人例の報告では、受傷時に生じた神経損傷はいずれも回復せず、全例で再建のための腱移行術を行った[2]
- 橈骨頭再脱臼:後方Monteggia脱臼骨折では、後方プレートで尺骨近位部を再建し、長さ・アライメント・回旋を完全に回復すると、近位橈尺関節の脱臼は整復される[4]
- 肘関節拘縮:肘の外傷はほとんどの患者で拘縮をもたらし、屈曲・伸展と回内外の機能的可動域の回復が目標となる[4]
- 近位橈尺骨癒合症:予防には、両骨を同時に展開する進入(Boyd進入法など)を避け、早期の自動運動を促す[2]
- 骨不癒合:晩期合併症に偽関節があり、特に橈骨頚部骨折が挙げられる[4]
- 橈骨頭骨折合併(複合損傷):Monteggia equivalent(等価損傷)として分類される場合がある
治療方針
成人Monteggia損傷の治療原則は尺骨の解剖学的整復・安定固定が最優先であり、尺骨固定後に橈骨頭の整復を確認する。Bado I型では、尺骨の長さとアライメントの安定した回復で7例中6例の橈骨頭が整復され、残る1例は観血的整復を要した[2]。
⚠️ 保存療法(成人例は原則非適応)
- →転位を伴う脱臼骨折や、解剖学的整復を維持できない骨折・脱臼骨折は手術適応となる[4]
- →例外的に手術リスクが極めて高い場合(ASA分類IV以上・終末期)のみ考慮
- →小児のMonteggia損傷は、受傷機転・損傷形態・予後・推奨される治療法が成人と異なり、別に扱う[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ成人Monteggia損傷 → 尺骨骨折をプレートとスクリューで安定した解剖学的固定とすることで、多くの成人で満足な成績が得られる[2]
- ℹ尺骨骨折 → 3.5 mm LC-DCPのような強固なプレートを尺骨後面に当て、近位は肘頭先端まで成形して固定することが推奨されている[2]
- ℹ楔状(wedge)骨折(21-B3の楔状型)→ 圧迫プレート+ラグスクリュー
- ℹ尺骨の長さとアライメントを回復しても橈骨頭が整復されない場合 → 橈骨頭の観血的整復を追加する[2]
- ℹ橈骨頭骨折を合併する場合 → 粉砕が強く修復が難しい骨折では、切除(人工橈骨頭置換の併用を含む)を考慮する[2]
- ℹ橈骨頭の展開を追加する場合 → 両骨を同時に展開する進入(Boyd進入法など)は避け、各骨を別々の筋間から進入する(近位橈尺骨癒合症の予防)[2]
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診断・評価
患者は疼痛を訴え、肘を回旋できないことが多い。尺骨神経が尺骨近位部に近いため、知覚と運動機能を全例で評価する[4]。
Monteggia損傷の診断ポイント
肘関節を含む前腕の正面・側面X線で、腕橈関節と腕尺関節の適合性を慎重に評価する。わずかな亜脱臼でも重大な不安定性を呈しうる[4]。
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【必須】 X線正面像(前腕に対して垂直に入射)・肘の側面像・斜位像[4]
【考慮】 CT・MRI(複雑な症例や靱帯の不安定性が疑われる症例)、手関節損傷の兆候があれば手関節X線(遠位橈尺関節損傷の除外)[4]
✅ 許容される整復
- ✓尺骨の解剖学的整復(滑車切痕の正常な形状と大きさの回復を含む)[2]
- ✓腕橈関節・腕尺関節の適合性が保たれ、亜脱臼がない[4]
- ✓推奨される固定:近位を成形したプレートで近位骨片に多くのスクリューを入れ、最近位のスクリューが遠位のスクリューと90°をなす、より安定した構造としている[2]
- ✓早期から肘の自動運動ができる安定した骨折固定と、安定した肘関節が得られている[4]
❌ 許容されない変形
- ✕尺骨の長さ・アライメント・回旋の回復不足(後方Monteggia脱臼骨折では、これらを完全に回復すると近位橈尺関節の脱臼は整復される)[4]
- ✕腕橈関節・腕尺関節のわずかな亜脱臼(重大な不安定性を呈しうる)[4]
- ✕橈骨頭を手術で固定した際に、突出したインプラントが残っている[2]
- ✕尺骨固定後も腕尺関節の不安定性が残る(鉤状突起の整復不良や尺骨の屈曲変形の残存を確認し、回内でも安定しなければ外側側副靱帯複合体の修復を考慮)[2]
手術手技
体位
側臥位: 単独の尺骨近位部骨折や複雑な脱臼骨折では、側臥位で肘を手台にのせて屈曲位とする体位が好まれる[4]。
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尺骨プレート固定(ORIF)— 第一選択
適応: 成人Monteggia損傷の尺骨骨折。滑車切痕の正常な形状と大きさの回復を含めた尺骨の解剖学的整復が、良好な成績の鍵となる[2]。
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- 展開: 尺骨は皮下で直接、外側の肘筋・尺側手根伸筋と内側の尺側手根屈筋の間から展開する[2]
- 骨折整復: 尺骨を解剖学的に整復し、滑車切痕の正常な輪郭と大きさを回復する[2]
- プレート設置: 尺骨近位部に及ぶ骨折では、3.5mm LC-DCPのような強固なプレートを尺骨後面に当て、近位は肘頭先端まで成形する[2]
- スクリュー固定: プレートを近位で肘頭先端まで成形すると近位骨片に多くのスクリューを入れられ、最近位のスクリューが遠位のスクリューと90°をなして固定が安定する[2]
- 橈骨頭確認: 尺骨の長さとアライメントを安定して回復すると橈骨頭は整復されることが多く、Bado I型7例中6例はこれで整復された[2]
- 橈骨頭への追加操作(必要時): 尺骨固定後も橈骨頭が整復されない場合は、肘筋と尺側手根伸筋の間から入るKocher進入法で橈骨頭を展開する[4]
- 最終確認: 透視で尺骨整復位・プレート位置・スクリュー長・橈骨頭整復を確認
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⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕尺骨整復不良(最重要)→ 良好な成績の鍵である尺骨の解剖学的整復(滑車切痕の正常な輪郭と大きさの回復を含む)を損なう[2]
- ✕骨膜の過剰剥離 → 骨折部の血流障害・骨不癒合リスク増大
- ✕近位の尺骨骨折でプレートを尺骨の内側・外側面に設置 → 早期の固定破綻(内外側プレート7例中5例)[2]
- ✕近位橈尺関節脱臼の見逃し → 受傷8週後に判明した例では、尺骨のプレート固定に加えて橈骨頭の観血的整復と筋膜による輪状靱帯再建を要した[2]
- ✕後骨間神経(PIN)損傷 → 橈骨頭へのアプローチでは、橈骨頭・橈骨頚の近くを走り橈骨頭レベルで浅枝と深枝に分かれる橈骨神経に注意する[4]
- ✕橈骨と尺骨を同時に展開(Boyd進入法など)→ 近位橈尺骨癒合のリスク。各骨は別の筋間から進入する[2]
橈骨頭への追加アプローチ(必要時)
Kocher法(外側アプローチ): 橈骨頭の展開で好まれる進入法で、肘筋と尺側手根伸筋の間から入る真のinternervousアプローチ[4]
Boyd法: 尺骨と橈骨の両骨を同時に展開する進入法。近位橈尺骨癒合のリスクを減らすため両骨の同時展開は避け、各骨は別の筋間から進入する[2]
術後管理
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手術タイミング: 脱臼や脱臼骨折は早急に整復する。閉鎖骨折では軟部組織の腫脹があっても早期手術が可能なことが多い[4]
術後固定: 安定した肘関節を再建し、術後早期(理想的には創が乾燥する48時間後、遅くとも1週間以内)に理学療法による自動運動を始める[4]
術後荷重: 患肢上肢荷重は術後約8週間、骨癒合確認後に開放。術翌日より指の早期自動運動を開始する
VTE予防: 下肢DVT予防として弾性ストッキング・間欠的空気圧迫。長期臥床例では低分子ヘパリン考慮
疼痛管理: 痛みがあるとリハビリテーションが進みにくく、明確なリハビリテーションと疼痛管理のプログラムが不可欠である[4]
リハビリテーション: 大半の例で、抜糸前後(通常術後14日以内)から腕尺関節・橈尺関節の愛護的な自動運動を開始していた[2]
フォローアップ
- 術後2週: X線(橈骨頭整復位・プレート位置の確認)、後骨間神経機能評価
- 術後6週: X線(骨癒合経過・橈骨頭安定性)、可動域評価
- 術後12週: X線・必要に応じCT(尺骨骨癒合評価)、荷重・復帰判断
- 術後1年: X線(最終骨癒合・肘関節変形性変化の確認)
- 受傷時の神経麻痺はいずれも回復せず、全例で腱移行術による再建を要した[2]
- 尺骨プレートを待機的に抜去した例は6例で、インプラントに関連した晩期の問題は生じなかった[2]
予後
- 橈骨頭の整復:Bado I型7例中6例は尺骨の長さとアライメントの回復で整復され、1例は橈骨頭の観血的整復を要した[2]
- 骨癒合遅延:髄内Steinmannピンで固定したBado II型尺骨骨幹部骨折の1例で遅延癒合となり、術後6か月の抜釘時に未癒合で後方凸変形が再発した[2]
- 受傷時の神経損傷の回復:成人例の報告では、受傷時に生じた神経損傷はいずれも回復せず、全例で腱移行術による再建を行った[2]
- 肘関節可動域:最終観察時の平均は屈曲128°、伸展-16°、回内65°、回外63°(成人48例)[2]
- 長期成績:平均8.4年の追跡でBroberg-Morrey評価は優47%・良26%・可19%・不可8%(47例)[3]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(2U2(m)=尺骨骨幹骨折+PRUJ脱臼〈単純2U2-A(m)/楞状2U2-B(m)〉=Monteggia損傷。旧21-B3。前腕近位2U1でなく骨幹2U2)
- 2Bado分類を決定(I型=橈骨頭前方 / II型=後方 / III型=外方 / IV型=両骨骨折合併)
- 3術前に尺骨神経の知覚・運動機能を全例で評価・記録する[4]
- 4X線で腕橈関節と腕尺関節の適合性を評価する(わずかな亜脱臼でも重大な不安定性を呈しうる)[4]
- 5尺骨骨折の高さを確認(Bado II型の鉤状突起レベルの骨折では、鉤状突起の大部分が1つの大骨片として尺骨近位部から分離する)[2]
- 6後方Monteggia損傷では、尺骨近位部の長さ・アライメント・回旋を完全に回復したあと、近位橈尺関節の脱臼が整復されたことを確認[4]
- 7尺骨の整復固定後も橈骨頭が整復されない場合は橈骨頭を観血的に整復する(Bado I型7例中1例)[2]
- 8術後早期(理想的には創が乾燥する48時間後、遅くとも1週間以内)に自動運動を始められる安定性が得られたか確認[4]
文献
- Bado JL(1967)The Monteggia lesion. Clin Orthop Relat Res, 50:71–86. PMID: 6029027
- Ring D, Jupiter JB, Simpson NS(1998)Monteggia fractures in adults. J Bone Joint Surg Am, 80(12):1733–44. PMID: 9875931
- Konrad GG, et al.(2007)Monteggia fractures in adults: long-term results and prognostic factors. J Bone Joint Surg Br, 89(3):354–60. PMID: 17356149
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767