上腕骨遠位部が関節面全体にわたって骨折し、骨幹端部に粉砕を伴う骨折。AO分類13-C2 (完全関節内骨折のうち、関節内は単純骨折で骨幹端が粉砕したもの)に相当する[1] 。内外側の両柱が損傷される。事前成形されたロッキングコンプレッションプレート(LCP)が標準的なインプラント であり[1] 、骨幹端部の粉砕を伴う骨折では直角に設置した2枚のLCPのほうが生体力学的に優れた安定性を発揮する[1] 。関節の解剖学的整復、骨幹端部の正しいアライメント、術後数日から自動運動を開始できる強固な固定が同時に必要になる[1] 。人工肘関節置換術は慎重に適用し、機能的要求度の低い患者やもともと変形性肘関節症であった患者に適応がある[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨遠位部骨折全体の推計約4,000〜6,000件。そのうち完全関節内型(C型)は約30〜40%を占め、C2型はC型の中で最多グループ
好発: 若年男性と高齢女性の二峰性分布。若年者は通常高エネルギー外傷、高齢者は単なる転倒でも生じる[1]
受傷機転: 若年者は通常高エネルギー外傷で受傷し、高齢者では単なる転倒でも生じる。腕を伸ばした状態で肘の過伸展をきたすことが多く、開放創は通常後方にある[1]
注意すべき合併症
尺骨神経障害(術前に神経学的評価を行う。医原性の尺骨神経障害は5人に1人以上にみられ、通常は一過性[1] )
橈骨神経損傷(長い外側柱プレート、特に直接外側に配置したプレートや、皮切を近位に延ばした際に危険がある)[1]
コンパートメント症候群(不安定な肘損傷に転位のある前腕・手関節損傷が合併しているときに発生しやすい)[1]
肘関節拘縮(関節包拘縮・関節線維症・インプラント突出・関節内外の変形と関係する)[1]
異所性骨化(外傷性脳損傷に続くことがあり、固定の遅れや肘関節の強制的な他動的ストレッチング後に生じやすい)[1]
骨癒合不全・偽関節(通常は顆上部レベル。不適切な内固定・術後早期の患肢の過度の運動・骨幹端部の粉砕・骨欠損がリスク因子)[1]
固定の破綻(関節骨片をスクリューで固定し2枚のプレートを直角に設置する方法で、高度な粉砕・骨粗鬆症・骨欠損がある場合)[2]
肺塞栓症(転子部骨折を合併した高齢者で術後29日の死亡例の報告がある)[2]
治療方針
⚠️ 保存療法(衰弱した患者・活動性の低い患者で検討)
→ 例外:衰弱した患者や活動性の低い患者では保存療法を常に検討する(この集団では結果は比較的良好)[1] → 保存療法では偽関節や重篤な変形癒合に遭遇することがあり、晩期の人工肘関節置換術で救済する[1] → 活動性の低い患者は、ギプス、三角巾やcollar and cuffスリングなどの保存加療で十分である[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:ORIF — 事前成形されたLCPが標準的なインプラント(variable angleロッキングヘッドスクリューも使用可)[1] ℹ 関節面を整復後、両柱にプレートを置く。従来は互いに直角(通常は内側面と後外側面)に設置し、平行配置(内側プレート1枚と外側プレート1枚)は特に低位置の骨折や関節面が広範に多骨片化した骨折で利点をもつ選択肢[1] ℹ 骨幹端部の著しい粉砕には、角度安定性をもつロッキングプレート(LCPなど)が有用[1] ℹ 高齢者で安定した内固定が得られない複雑な骨折:全肘関節置換術(TEA)をORIFに代わる選択肢として考慮[4] ℹ 骨格未成熟例・若年者で関節面再建不能:上腕骨遠位部ヘミアートロプラスティ(hemiarthroplasty) ℹ 開放骨折:ほとんどはデブリドマン・洗浄後に直ちに内固定できる。大きな開放創は受傷48時間後に繰り延べ一次縫合する[1] ℹ 尺骨神経は術中に同定・前方移行(anterior transposition)を考慮
治療選択アルゴリズム(13-C2)— 骨折型評価→年齢・骨質評価→ORIF(二重プレート)または全肘関節置換術
診断・評価
身体所見: 肘関節周囲の著明な腫脹・変形・疼痛。肘関節を横切る3本の主要神経(尺骨神経・橈骨神経・正中神経)をすべて評価し、血管損傷を除外する[1] 。前腕コンパートメント評価。
X線: 正面像・側面像・斜位像で骨折パターンと骨幹端部の粉砕を評価する。麻酔導入後の牽引下X線も術前計画に役立つ[1] 。
CT: 関節面の粉砕度・骨折線の詳細を評価し、術前計画に役立てる。橈骨と尺骨を消去した3D-CT画像も有用[1] 。
術前X線(AP・側面)— 上腕骨遠位部にT字型骨折線。骨幹端粉砕を伴う完全関節内骨折(13-C2)
術前CT(冠状断・3D再構成)— 関節面骨折線の詳細・骨幹端粉砕の程度・小骨片を確認
✅ 許容される整復
✓ 関節面の解剖学的整復[2] ✓ 回旋・外反アライメントの維持(顆上短縮で遠位骨片を内外側に移動させる場合も保つ)[2] ✓ 骨幹端部の正しいアライメントの回復[1]
❌ 許容されない変形
✕ 関節面の整復不良 ✕ 関節外変形・関節内変形(肘の拘縮と関係する)[1] ✕ 長さの短縮(骨幹端粉砕部の圧潰) ✕ 回旋変形[2]
手術手技
体位
腹臥位・側臥位または仰臥位: 後方進入には仰臥位(患肢を体幹にのせる)・側臥位(患肢を枕や支柱台にのせる)・腹臥位を用いる。側臥位では丸めた枕やパッド付きのバーに上腕をおき、肘が120°まで屈曲できるようにする[1] 。
手術体位(腹臥位・上肢固定台)— 上腕後方展開のセットアップ
ORIF(二重プレート固定)— 第一選択
後方アプローチ(尺骨神経同定・肘頭骨切り)— 上腕骨遠位部関節内骨折の術野展開
後方正中切開: 肘頭後方から遠位上腕骨後方へ皮切。皮下に尺骨神経を同定・保護する
展開アプローチの選択: 関節内骨折に用いる進入法は議論の余地がある。肘頭骨切り術は広範囲で最もよい視野が得られる。関節面が単純な両柱関節内骨折では、三頭筋分割法や三頭筋の付着部を剥離しない三頭筋挙上法(Alonso-Llames進入法)でも正確に整復できる[1]
尺骨神経の剥離・保護: 尺骨神経を近位・遠位ともに十分に剥離し、術野外に保護(必要に応じて前方移行を考慮)
関節面骨片の整復: 先端鋭の整復鉗子やK-ワイヤで関節骨片を整復・保持し、骨片間のラグスクリュー(キャニュレイテッドスクリューなど)で関節骨片を一塊にする[1]
関節ブロックの仮固定: 一塊とした関節骨片を上腕骨骨幹部にK-ワイヤで一時的に固定する[1]
第一プレートの設置: 肘屈曲時にテンションバンドとして機能する後外側面のプレートを通常最初に固定し、小頭の前傾を修復するため骨の形状に合わせて成形する[1]
骨幹端粉砕部の処置: 複雑な骨折では骨移植の可能性を想定して採骨の準備をしておく[1] 。顆上部に骨欠損がある場合は、1〜2cmの顆上短縮で顆上部の圧迫を得る方法もある[2]
第二プレートの設置: 内側プレートを設置し、二重プレート構造を完成させる(直角配置=内側面と後外側面、平行配置=内側1枚と外側1枚)[1]
関節ブロックへの長尺スクリュー: 平行プレート配置では、両側のプレートから遠位骨片を反対側まで貫く長いスクリューを挿入し、互いに咬み合わせる(interdigitate)[2]
骨欠損への骨移植: 滑車と小頭の間の中央セグメント全体が欠損・粉砕している場合は、正しい顆間幅を維持するために構造的な移植骨支柱を用いる[1]
最終確認: 再建した肘を回内外を含めて全可動域で動かし、触診でスクリューやワイヤのインピンジメントと骨片間の不安定性を確認する。尺骨神経は元の位置に戻すか皮下に前方移行し、その位置を手術記録に記載する[1]
二重プレート固定(ORIF)— 内側・外側の解剖学的プレコントゥアードプレートと関節ブロックへの長尺ロッキングスクリュー
⚠️ 二重プレート固定 ピットフォール
✕ 関節ブロックのスクリューが短すぎる(互いに咬み合わない → 固定力不十分) ✕ 肘頭窩への金属インプラントの挿入(可動域制限の原因)[1] ✕ 尺骨神経の医原性障害(5人に1人以上に生じる。通常は一過性)[1] ✕ 骨幹端で短縮して圧迫をかける際に回旋・外反アライメントを失う[2] ✕ 近位橈骨神経損傷(外側プレートを近位へ延長する際のリスク) ✕ 三頭筋挙上法(Bryan-Morrey法など)では関節内骨折での視野が不十分[1]
全肘関節置換術(TEA)— 高齢者・骨粗鬆症・再建不能例
適応: 高齢者の複雑な関節内骨折で安定した固定が得られない場合[4] 。機能的要求度の低い患者や、もともと変形性肘関節症がある患者に限る[1]
後方から傍三頭筋展開(Alonso-Llames進入法など)で進入し、上腕三頭筋の肘頭停止部を残す[1]
骨折した上腕骨遠位部を切除
半拘束型の人工肘関節を挿入[4]
三頭筋腱の修復・再接着
術後:重量物挙上制限(生涯 ≦5kg)を患者に説明
術後管理
術後X線(AP・側面)— 二重プレート固定後。関節面整復位・骨幹端橋渡しプレート・長尺ロッキングスクリューの配置を確認
手術タイミング: 緊急手術が必要なのは開放骨折と虚血性の血管損傷の場合のみで、閉鎖骨折は迅速なタイミングで行う[1]
術後荷重: 手は術後から能動的に使ってよいが、術後6週間はコップ1杯の水や受話器より重い物を持ち上げない(押す・引くも同様)[2] 。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し、骨癒合が明らかに進んでから許可する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン(術後12〜14日間)
疼痛管理: NSAIDs + アセトアミノフェン多剤併用。異所性骨化予防にインドメタシン(術後2〜6週、適応例のみ)
リハビリテーション: 副子の位置にかかわらず術後数日から自動介助運動と軽作業を開始し、他動的マニピュレーションは行わない。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し骨癒合が明らかに進んでから許可する。可動域の再獲得に角度調整ができる動的・静的肘関節装具も有用[1]
フォローアップ
術後2週:X線・創部確認、可動域確認
術後6週:X線(骨癒合の進み具合を確認。骨癒合が明らかに進んでいれば抵抗運動を許可)[1]
術後12週:X線(骨癒合判定。可動域・筋力の評価)
術後6ヶ月:機能評価(MEPS: Mayo Elbow Performance Score)[4]
術後1年:可動域の評価(可動域の改善は少なくとも1年間続く)[1]
予後
骨癒合:複雑な上腕骨遠位部骨折32例の平行プレート固定で31例が一次癒合し、残る1例も骨移植と再固定で癒合[2]
肘機能(MEPS):複雑な上腕骨遠位部骨折32例の平行プレート固定で平均85点(優11・良16・可2・不可3)、屈曲伸展弧は平均99°[2]
医原性尺骨神経障害:5人に1人以上(通常は一過性で、持続は稀)[1]
肘関節拘縮:平行プレート固定の32肘で、伸展制限30°以内は23肘(72%)、伸展制限は平均26°[2]
再手術率:65歳超の転位のある関節内骨折のRCTで、ORIF 27%(4/15)、TEA 12%(3/25)。有意差なし[4]
全肘関節置換術(TEA)の長期:術後は活動が著しく制限され、いずれはゆるむため、治療に難渋する重度の合併症を引き起こす可能性がある[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(13-C2 = 上腕骨遠位部・完全関節内・関節面単純・骨幹端粉砕型) 2 術前に肘関節を横切る3本の主要神経(尺骨神経・橈骨神経・正中神経)すべての評価を記録[1] 3 CT(冠状断・3D再構成)で関節面骨折線・骨幹端粉砕の程度を評価 4 ORIFかTEAかは患者側の要因(年齢・骨質・機能的要求度)に基づいて術前に決定する[1] 5 平行プレート固定の場合:遠位骨片を貫く長いスクリューが互いに咬み合っているか確認[2] 6 肘頭窩に金属インプラントが入っていないことを確認(可動域制限の原因)[1] 7 尺骨神経の処置(元の位置に戻したか皮下に前方移行したか)とその位置を手術記録に記載[1] 8 骨幹端粉砕部の橋渡し固定と骨移植の必要性を評価
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sanchez-Sotelo J, Torchia ME, O'Driscoll SW(2007)Complex distal humeral fractures: internal fixation with a principle-based parallel-plate technique. J Bone Joint Surg Am, 89(5):961–969. PMID: 17473132
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