上腕骨遠位部の関節面が多骨片化した最重症型の肘関節周囲骨折 。AO分類13-C3に相当し、完全関節内骨折(type C)のうち関節面が多骨片化(multifragmentary articular)した型。若年者の高エネルギー外傷によるC3骨折は、二柱を固定するダブルプレートORIFで通常再建する [1] 。高齢者で安定した固定が得られない複雑骨折には肘関節全置換術(TEA)が選択肢となる[3] 。尺骨神経は同定・保護し、近位まで展開する場合は橈骨神経も同定・保護する[1] 。
重症度・疫学
分類上の位置づけ: 上腕骨遠位部骨折は両柱の損傷がある完全関節内骨折(type C)か、小頭・滑車を含む部分関節内骨折(type B)が多い[1] 。C3はtype Cのうち関節面が多骨片化した最重症型(完全関節内・複雑型)
好発: 若年男性と高齢女性の二峰性分布。若年者は通常高エネルギー外傷で多発外傷が多く、高齢者(骨粗鬆症)では単なる転倒でも複雑な骨折が起こる[1]
受傷機転: 若年者は高エネルギー外傷、高齢者は単なる転倒でも生じる。腕を伸ばした状態で肘が過伸展する受傷が多く、開放創は通常後方にある[1]
特徴: 関節面が多骨片化する。肘を横切る3本の主要神経(尺骨・正中・橈骨神経)すべてを評価し、血管損傷(上腕動脈、特に開放骨折で稀ではない)を除外する[1] 。単純X線(正面像・側面像・斜位像)、牽引下のX線、CT・3D-CTが術前計画に役立つ[1]
注意すべき合併症
尺骨神経障害(5人に1人以上がなんらかの医原性障害を経験。通常は一過性)[1]
橈骨神経損傷(長い外側柱プレート、特に直接外側に置いたプレートの使用時に注意)[1]
上腕動脈損傷(特に開放骨折で稀ではなく、除外が必要)[1]
外傷後肘関節拘縮(成人の肘は受傷後に著しい可動域制限をきたしやすい。固定が強固なら術翌日から肘の運動を開始できる)[1]
骨癒合不全・偽関節(通常は顆上部で起こる。不適切な内固定・術後早期の過度の運動・骨幹端部の粉砕・骨欠損がリスク因子)[1]
異所性骨化(粉砕・骨欠損・骨粗鬆症のため「complex」とされた連続34骨折〔C3 26・C2 5・A3 3〕の追跡32肘の38%〔12肘〕に発生し、32肘中5肘〔16%〕は切除術を要した。開放骨折で多い)[2]
創部感染・創治癒不全(後方の広い皮膚弁で血腫・皮膚の問題が起こりうるが、日常臨床では稀)[1]
肺塞栓症(転子部骨折を合併した77歳の1例が、術後29日に大量肺塞栓症で死亡した報告がある)[2]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 転位のある関節内骨折は手術適応[1] → 例外:衰弱した患者・活動性の低い患者では保存療法を常に検討する(結果は比較的良好で、偽関節や重い変形癒合が生じても晩期の人工肘関節置換術で救済できる)[1] → 保存療法はギプス、三角巾やcollar and cuffスリングで行う[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択(若年者の高エネルギー外傷によるC3):ORIF — 両側ダブルプレート固定(関節面を再建し、二柱を固定)。高齢の骨粗鬆症患者では人工肘関節置換術を検討する[1] ℹ 関節面の解剖学的整復後、C型→A型への変換戦略(articular block fixation → supracondylar fixation)。片方の柱を関節面ごと先に整復・固定してC型→B型に変換する方法もある[1] ℹ プレート:解剖学的プリコントアドロッキングプレート(外側 + 内側)[1] ℹ 代替選択肢:動脈損傷を合併する場合は、長時間の再建手術を考慮して創外固定器による一時的固定(または一時的な動脈シャント)を検討する[1] ℹ 高齢者で安定した固定が得られない例:肘関節全置換術(TEA — semiconstrained total elbow arthroplasty)[3] 。機能的要求度の低い患者、またはもともと変形性肘関節症であった患者に限って慎重に適用する[1] ℹ 若年者で固定不能な例:遠位上腕骨ヘミアートロプラスティは現時点では実験段階の最終手段とされる(Huang 2011に付された招待論評による。11例の系列で合併症率45%)[4]
治療選択アルゴリズム(13-C3 上腕骨遠位部複雑関節内骨折)— CT評価→再建可否→ORIF vs TEA
診断・評価
身体所見: 肘関節腫脹・圧痛・変形。肘関節可動域著明制限。肘関節を横切る3本の主要神経(尺骨神経・正中神経・橈骨神経)すべてを評価する[1] 。末梢の脈拍を触診するが、肘周囲の側副血行路のため上腕動脈が損傷していても脈拍を触知しうることに注意する[1] 。
X線所見(AP像・側面像): 上腕骨遠位部の多骨片骨折。関節面・顆上部の粉砕。骨片の転位・短縮を評価する。
CT: 関節面骨片の数・転位量・顆間部の粉砕度を評価し、術前計画(アプローチ・プレート配置・骨片順序)に役立てる。橈骨・尺骨を消去した3D-CT画像も有用[1] 。
術前X線(AP像・側面像)— 上腕骨遠位部の多骨片関節内骨折。顆間粉砕・転位を確認
CT 3D再構成(後方観察)— 関節面骨片・内外側顆の粉砕パターンを立体的に把握
✅ 許容される整復
✓ 関節面の解剖学的整復[1] ✓ 軸アライメント:骨幹端部を正しいアライメントに整える[1] ✓ 両プレート・スクリューが肘頭窩(olecranon fossa)を避けて固定されている[1]
❌ 許容されない変形
✕ 関節面の整復不良(関節の解剖学的整復が手術のゴール)[1] ✕ 回旋・外反アライメントの不良(顆上部を短縮して遠位骨片を内外側・やや前方に移動させる場合も、回旋と外反アライメントは保つ)[2] ✕ プレートがolecranon fossaにかかる(肘伸展制限の原因)[1] ✕ 尺骨神経が縫合時にインプラントに接触・牽引されたまま
手術手技
体位
腹臥位または側臥位: 上腕を支持台(パッド付き支柱)に乗せ、前腕・肘を下垂させてアクセスする。体位には仰臥位(患肢は体幹上)・側臥位・腹臥位がある[1] 。
側臥位: 丸めた枕、gutter support、または幅4cmほどのパッド付きバーに上腕をおき、肘が120°まで屈曲できるようにする[1] 。術者の体勢に応じて選択。
手術体位(腹臥位)— 上腕をボルスターに乗せ前腕下垂、Cアームは上腕骨遠位部を撮影できる位置に設置
ORIF ダブルプレート固定 — 第一選択
後方オレクラノン骨切りアプローチ — 尺骨オレクラノンを骨切りして翻転し、上腕骨遠位部関節面を直視下に展開
アプローチ(後方): 上腕骨後方正中切開。尺骨神経を同定・剥離し、内固定中は一時的に移行して保護する(最適な扱いは議論が分かれる)[1] 。後方関節包を展開
オレクラノン骨切り(olecranon osteotomy): 関節面の視野が最も広いが、骨切り部の固定・骨癒合の問題がある。骨を横断する骨切りは不安定なため、chevron骨切り(遠位向きのV型)が最も望ましい[1]
代替:人工肘関節置換術へ移行する可能性があるときは三頭筋挙上(Bryan-Morrey法)。関節内骨折での視野は不十分だが、肘頭骨切りの合併症を避けられる[1]
三頭筋縦割(triceps-split)の適応は主に関節外骨折や単純な両柱関節内骨折[1]
骨折部の処置: 骨折部を展開し骨片を確認する。軟部組織の付着がない骨軟骨片では、骨壊死と解釈される関節面の局所的な陥没が報告されている(32肘中2肘)[2]
関節面の整復・暫定固定: 腕のポジションの工夫・徒手牽引・整復鉗子で関節面骨片を解剖位に整復し、インプラントの邪魔にならない位置に滑らかなK-wireで仮固定する[1]
関節面のK-wire仮固定: 1.6 mm K-wireを用いたinside-out法で滑車と小頭を再建し、K-wireをガイドにキャニュレイテッドスクリューを挿入する[1]
骨幹端への整復: 関節ブロック(articular block)を上腕骨骨幹端に整復(C型→A型への変換)。K-wireで仮固定、透視でアライメント確認
外側プレート固定(第1プレート): 外側(後外側)にプリコントアドプレートを設置し、通常これを最初に固定する[1] 。内外側に平行にプレートを置く場合は、遠位のスクリューをプレートから対側の骨片まで届く長いものにしてできるだけ多く入れる(この方法では4本以上の長いスクリューを挿入でき、報告例では平均4.5本)[2] 。スロット孔に位置スクリューを仮固定
内側プレート固定(第2プレート): 同様の手技で内側顆プレートを設置
骨幹端の圧迫・最終固定: プレートのわずかなアンダーコンツアーと動的圧迫孔を使って顆上部に圧迫をかけ、最終固定する[2]
透視・安定性確認: AP像・側面像で関節面整復・スクリュー位置・olecranon fossaのクリアランスを確認。手動で安定性を評価
尺骨神経確認: 可動域全域でインプラントへの干渉・緊張がないことを確認
オレクラノン骨切り部修復: テンションバンド法(TBW)またはスクリューで固定[1]
尺骨神経: もとの場所に戻すか前方皮下移行(anterior subcutaneous transposition)で終了し、その位置を手術記録に正確に記載する[1]
ORIF ダブルプレート — 外側・内側に解剖学的プリコントアドプレートを垂直または平行に配置し、長いロッキングスクリューで関節ブロックを固定
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 尺骨神経損傷(必ず同定・保護する。前方移行するか元に戻すかは議論が分かれる)[1] ✕ 橈骨神経損傷(長い外側柱プレート、特に直接外側に置くプレートで危険にさらされる。近位まで展開するときは同定・保護する)[1] ✕ 中央部が欠損・粉砕した関節面を圧迫して顆間幅を狭める(構造的な移植骨支柱で顆間幅を維持する)[1] ✕ プレート・スクリューを肘頭窩に進入させる(肘伸展制限の原因になる)[1] ✕ 関節内骨折の展開が不十分なアプローチの選択(三頭筋分割は関節外・単純な関節内骨折向き)[1] ✕ 軟部組織の付着がない骨軟骨片(軟部組織の付着がない骨軟骨片の骨壊死と解釈される関節面の局所的な陥没が32肘中2肘に報告されている)[2]
肘関節全置換術(TEA)— 高齢者・再建不能例
適応: 高齢者(McKeeらのRCTでは65歳超)で安定した固定が得られない複雑関節内骨折[3] 。機能的要求度の低い患者やもともと変形性肘関節症であった患者に限って慎重に適用する[1] 。若年者で固定不能な例へのヘミアートロプラスティは現時点では実験段階の最終手段とされる(Huang 2011に付された招待論評による)[4] 。
要点: セミコンストレインド型人工肘関節を用いる(McKeeらのRCTで用いた型)[3] 。関節骨片を切除して作業スペースを得れば、上腕三頭筋の肘頭停止部は無傷で残せる[1] 。一生続く活動制限(持ち上げ荷重は5 kgまで)と、人工関節はいずれ破綻することを患者に説明する[1] 。
術後管理
術後X線(AP像・側面像)— 外側・内側ダブルプレート固定後。関節面整復・骨幹端圧迫・オレクラノン骨切り修復を確認
手術タイミング: 緊急手術が必要なのは開放骨折か虚血性の血管損傷の場合のみで、閉鎖骨折は迅速なタイミングで行う[1] 。血管損傷を合併する場合は、骨折の再建に長時間を要することを考慮し、創外固定器による一時的固定または一時的な動脈シャントを検討する[1]
術後荷重(上肢): 術後数日から自動介助運動や軽作業を開始する[1] 。Sanchez-Soteloらの系列では、最初の6週間はコップ1杯の水や受話器より重いものを持ち上げない(押す・引くも同様)よう全例に指導した[2] 。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し、骨癒合が明らかに進んでいる場合にのみ許可する[1]
VTE予防: 合併損傷(下肢骨折など)・臥床期間などのリスクに応じて個別に判断する
疼痛管理: 施設の方針に沿って鎮痛を行う
リハビリテーション: 固定が強固ならば術翌日から肘の運動を開始できる。術後数日から自動介助運動と軽作業を始め、他動的マニピュレーションは禁止する[1] 。術中の固定性が不十分なら、拘縮を覚悟しつつ4週間程度の外固定で保護する[1] 。肘は拘縮しやすい関節であり早期介入が重要
フォローアップ
術後2週:X線(AP/側面)・創部確認、ROM評価
術後6週:X線(骨癒合初期確認)、オレクラノン骨切り部の癒合評価
術後12週:X線またはCT(骨癒合判定・関節整合性)
術後6ヶ月:ROM評価・筋力評価・職場復帰判定(可動域の改善は少なくとも1年間続く)[1]
術後12ヶ月:長期予後評価(関節症変化・インプラント位置)
予後
骨癒合率:粉砕・骨欠損・骨粗鬆症のため「complex」とされた連続34骨折(C3 26・C2 5・A3 3)を平行プレートで固定し、追跡32骨折中31骨折が一次癒合(残る1骨折も追加手術で癒合)[2] 。65歳超のORIF 14骨折(C3は2骨折のみで、C1が半数)は全例癒合[4]
術後ROM:平均屈伸可動域(arc)は約90〜100°(平行プレート固定で平均99°・平均屈曲125°[2] 、65歳超のORIF〔C1が半数〕で平均arc 92°・平均屈曲112°[4] )
合併症:外傷後拘縮、異所性骨化(「complex」とされた連続34骨折〔C3 26・C2 5・A3 3〕の追跡32肘の38%〔12肘〕に発生し、32肘中5肘〔16%〕は切除術を要した。開放骨折で多い)[2] 。医原性の尺骨神経障害は5人に1人以上に生じ、通常一過性[1]
TEA後:術後早期から機能を回復し、65歳超のRCTでは2年時のMEPSがORIFより良好[3] 。一方で一生続く活動制限(持ち上げ荷重は5 kgまで)があり、人工関節はいずれ破綻する[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(13-C3 = 上腕骨遠位部・完全関節内・複雑型) 2 CT 3D再構成で関節面骨片数・転位量・顆間粉砕パターンを確認 3 術前神経学的評価(尺骨神経・橈骨神経・正中神経)を記録 4 術前血管評価(上腕動脈拍動・末梢循環)を確認 5 ORIF vs TEA を術前に決定(通常は骨折の特徴ではなく患者側の要因:年齢・機能的要求度・骨質・既存の関節症に基づく)[1] 。骨折パターンも考慮するという見解もある[4] 6 アプローチの選択(オレクラノン骨切り / 三頭筋挙上 / 傍三頭筋)を計画 7 術後X線で関節面の解剖学的整復・olecranon fossaクリアランスを確認[1] 8 尺骨神経のインプラントへの干渉がないことを術中に確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sanchez-Sotelo J, Torchia ME, O'Driscoll SW(2007)Complex distal humeral fractures: internal fixation with a principle-based parallel-plate technique. J Bone Joint Surg Am, 89:961–9. PMID: 17473132
McKee MD, Veillette CJ, Hall JA, et al.(2009)A multicenter, prospective, randomized, controlled trial of open reduction — internal fixation versus total elbow arthroplasty for displaced intra-articular distal humeral fractures in elderly patients. J Shoulder Elbow Surg, 18:3–12. PMID: 18823799
Huang JI, Paczas M, Hoyen HA, Vallier HA(2011)Functional outcome after open reduction internal fixation of intra-articular fractures of the distal humerus in the elderly. J Orthop Trauma, 25:259–65. PMID: 21464746