上腕骨遠位部の関節外 に生じる楔状(wedge)骨折。AO分類では13-A2は「intact or fragmentary wedge」と定義され、サブタイプA2.1(intact楔状:骨幹端楔状骨片が完全)とA2.2(fragmentary楔状:楔状骨片に粉砕を伴う)に細分される。上腕骨遠位骨幹端部に骨片を伴うが関節面は温存 される。高齢者の骨粗鬆症骨折から若年者の高エネルギー外傷まで幅広く発生する。肘周囲の解剖学的構造が複雑なため橈骨神経・尺骨神経の損傷を必ず評価 し、治療は原則として手術(二柱プレート固定)が選択される。
重症度・疫学
頻度: 上腕骨遠位部の関節外骨折は比較的稀である[1]
好発: 性別と年齢でそれぞれ二峰性分布を示し、若年男性と高齢女性に多い[1]
受傷機転: 高齢者では単なる転倒でも複雑な骨折が起こりうる。若年患者は通常、高エネルギー外傷で受傷し、多発外傷が多い[1]
JOAガイドライン: 転位のある遠位部骨折に対して手術療法(プレート固定)を推奨(Grade B)
注意すべき合併症
橈骨神経損傷 — 長い外側柱プレート、特に直接外側に配置したプレートでは橈骨神経が危険にさらされる[1]
尺骨神経障害 — 5人に1人以上がなんらかの医原性尺骨神経障害を経験し、通常は一過性[1]
肘関節拘縮・異所性骨化(異所性骨化は外傷性脳損傷に続くことがあり、固定の遅れや肘関節の強制的な他動ストレッチング後に生じやすい)[1]
偽関節(通常は顆上部レベル。不適切な内固定・術後早期の患肢の過度の運動・骨幹端部の粉砕・骨欠損がリスク因子)[1]
肺塞栓症(大腿骨転子間骨折を合併した高齢者で、術後に広範性肺塞栓症で死亡した例がある)[3]
感染(軟部組織の被覆は薄いが感染は比較的稀。深部感染では必要なだけデブリドマンを行い、起炎菌に特異的な抗菌薬を点滴する)[1]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 衰弱した患者や活動性の低い患者では保存的治療を常に検討する(この患者集団での結果は比較的良好)[1] → 活動性の低い患者は、ギプス・三角巾・collar and cuffスリングなどの保存加療で十分[1] → 一時的固定:動脈再建を要する血管損傷では、創外固定器による一時的な固定や一時的な動脈シャント術を検討する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ ORIF — 両柱に及ぶ骨折や完全関節内骨折では2枚のプレートで固定する[1] ℹ 骨質が悪い上腕骨や骨幹端部の粉砕を伴う骨折:直角に設置した2枚のLCPが生体力学的に優れた安定性を発揮するとされるが、平行設置を提唱する生体力学的なエビデンスもある[1] ℹ 骨幹端非粉砕側:圧縮プレート固定 ℹ ロッキングプレート(LCP):低位の柱骨折・骨幹端部の著しい粉砕・骨質不良の症例に有用[1] ℹ リコンストラクションプレート3.5は骨に合わせやすいがLC-DCPのほうが強固。1/3円プレートは尺側柱の支持にのみ用い、事前成形LCPも適用できる[1] ℹ 開放骨折:ほとんどはデブリドマン・洗浄の後に直ちに内固定できる。大きな開放創は受傷48時間後の繰り延べ一次縫合が安全[1] ℹ 動脈再建を要する血管損傷:複雑な骨折の再建は長時間かつ困難な手術になるため、創外固定器による一時的な固定や一時的な動脈シャント術も検討する[1]
治療選択アルゴリズム(13-A2 上腕骨遠位部骨折・関節外楔状型)
診断・評価
身体所見: 肘関節を横切る3本の主要神経すべてを評価する。血管損傷は特に開放骨折で稀ではなく、除外しなければならない[1]
X線評価: 単純X線(正面像・側面像・斜位像)と、麻酔導入後に撮る牽引下X線が術前計画に役立つ[1]
CT評価: CTは術前計画に役立ち、橈骨と尺骨を消去した3D-CT画像も有用[1]
上腕骨遠位部骨折 X線AP像(正面)+CT横断面(骨幹端楔状骨折・13-A2)
✅ 許容される整復
✓ 骨幹端部を正しいアライメントに整える[1] ✓ 顆上部の骨欠損例で顆上部短縮を行う場合、1cm以下の短縮なら伸展終末域の上腕三頭筋筋力への影響はわずかとされる[3] 。一方、上腕骨遠位を1・2・3cm短縮すると伸展筋力がそれぞれ17%・40%・63%低下したとする生体力学研究もある[4] ✓ 10°以内の屈曲/伸展変形(骨幹端骨折の許容範囲)
❌ 許容されない変形
✕ >5°の内反・外反変形(肘関節機能障害・変形性関節症リスク) ✕ 回旋・外反アライメントの破綻(顆上部短縮で遠位骨片を内外側・やや前方へ移動させる場合も、回旋と外反のアライメントは保つ)[3] ✕ 肘関節を横切る3本の主要神経の評価を欠いたままの手術操作[1]
手術手技
体位
体位: 仰臥位(患肢は体幹にのせる)・側臥位(患肢は枕や支柱台にのせる)・腹臥位がある[1]
側臥位: 丸めた枕・gutter support・幅4cm程度のパッド付きバーに上腕をおき、肘が120°まで屈曲できるようにする[1]
手術体位(13-A2 上腕骨遠位部 — 伏臥位または側臥位)
ORIF 二柱プレート固定 — 第一選択
ORIF 二柱プレート固定(外側+内側)— 尺骨神経剥離・保護後に内側プレート設置
アプローチ: 後方正中皮膚切開。尺骨神経を同定・保護する。関節外骨折は三頭筋分割法(例:Campbell)でも、三頭筋付着部を剥離しない三頭筋挙上法(例:Alonso-Llames進入法)でも正確に整復できる[1]
尺骨神経の処理: 尺骨神経を同定・剥離して保護する。固定後はもとの場所に戻すか皮下組織の中に前方移行し、その位置を手術記録に正確に記載する[1]
骨折の整復: 遠位骨片を骨幹部に整復する。腕のポジション・徒手牽引・整復鉗子を併用して整復し、仮固定用の滑らかなK-wireはインプラントの邪魔にならないよう慎重に挿入する[1]
外側プレート固定: 肘屈曲時にテンションバンドとして機能する後外側面のプレートを通常最初に固定し、小頭の前傾に合わせて成形する。通常は内側プレートより関節面の遠位まで達する[1]
内側プレート固定: 内側柱はまっすぐ。低位の骨折では内側プレートを内側顆の形状に合わせて成形すると遠位骨片を通るスクリューを増やせ、事前成形プレートなら低い位置まで覆える[1]
コラムスクリュー(オプション): 安定した非粉砕カラムに3.5mm長軸スクリューを遠位→近位方向に追加して剛性を高める
橈骨神経確認: 皮切の近位部分で損傷しうるため、近位まで展開する場合は丁寧に同定・保護する。長い外側柱プレート(特に直接外側に配置)でも危険にさらされる[1]
最終確認: 再建した肘を回内外を含めて全可動域で動かし、触診でスクリューやワイヤのインピンジメントと骨片間の不安定性を確認する[1]
術中透視(正面・側面)— 二柱プレート固定後のアライメント確認
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 尺骨神経の保護忘れ(多くの骨折の固定では尺骨神経を剥離してフリーにする必要がある。ほとんどの術者は内固定中に完全に剥離して一時的に移行する)[1] ✕ 橈骨神経損傷(長い外側柱プレート、特に直接外側に配置したものでは橈骨神経が危険にさらされる)[1] ✕ 粉砕骨片を軟部組織から剥離しすぎる(血流遮断 → 骨癒合遅延) ✕ 非粉砕側をbridge platingにしてしまう(圧縮固定すべき) ✕ 骨幹端部の著しい粉砕・骨質不良の症例で角度安定性のあるプレート(LHSを取り入れたLCPなど)を使わない(LHSはスクリューの引き抜きのリスクを軽減する)[1] ✕ ロッキングスクリューが関節内に穿通しないよう配置を計画する(variable angle LCPはスクリュー角度を調整して穿通を防げる)[1]
術後管理
術後X線像(正面・側面)— 二柱プレート固定後(外側プレート+内側プレート)
手術タイミング: 緊急手術が必要なのは開放骨折か虚血性の血管損傷の場合のみ。ほとんどは閉鎖骨折で、迅速なタイミングで行う[1]
術後荷重: 術後数日から軽作業を始め、抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し骨癒合が明らかに進んでいる場合にのみ許可する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン(術後〜歩行自立まで)
術後の患肢挙上: 閉創直後から患肢を挙上する[3]
リハビリテーション: 成人の肘は受傷後に著しい可動域制限をきたしやすい 。固定が強固ならば術翌日より肘の運動を開始でき、術後数日から自動介助運動や軽作業を始める。他動的マニピュレーションは禁止する[1]
フォローアップ
退院後2週:初回外来。以後は骨癒合まで4週ごとに受診する(高齢者の関節内粉砕骨折のORIF例)[4]
術後6週:骨癒合の進行を確認し、明らかに進んでいれば抵抗運動を許可する[1]
骨癒合の時期:高齢者の関節内粉砕骨折のORIF例では、骨癒合までの期間は平均14.6週(11〜20週)[4]
術後1年まで:可動域の改善は少なくとも1年間みられるため経過を追う。可動域の再獲得には角度調整ができる動的・静的肘関節装具も有用[1]
インプラント抜去:高齢者の関節内骨折(C2/C3)の報告では抜去はルーチンには行わず、皮膚への圧迫や患者の希望を適応とした[4]
予後
骨癒合率:高度の粉砕・骨欠損・骨量減少を伴う複雑骨折に平行プレート固定を行った報告では、32骨折中31骨折が一次癒合[3]
肘関節可動域:複雑骨折に平行プレート固定を行った報告で平均屈伸弧99°(50〜150°)[3]
橈骨神経麻痺(医原性を除く):約70〜80%が自然回復(6ヶ月以内)
肘関節拘縮:関節包拘縮・関節線維症・インプラント突出・関節内外の変形と関係する。関節包拘縮単独の拘縮は1年以上改善が見込め、患者自身の自動介助ストレッチングによるところが多い[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(13-A2 = 上腕骨遠位部・関節外・楔状型骨折) 2 関節面損傷の除外(両柱骨折のほとんどは関節面に及び、関節外骨折は比較的稀。単純X線に加えCTも術前計画に役立つ)[1] 3 肘関節を横切る3本の主要神経すべての機能評価を記録(術前神経診察)[1] 4 単純X線(正面・側面・斜位)、牽引下X線、CTで骨折を評価(術前計画に役立つ。橈骨・尺骨を消去した3D-CTも有用)[1] 5 アプローチ計画(関節外骨折は三頭筋分割法、または三頭筋を停止部から剥離しない三頭筋挙上法で整復できる)とプレート選択(リコンストラクションプレート3.5・LC-DCP・事前成形LCP)[1] 6 尺骨神経の処理を計画(多くの骨折の固定で剥離が必要。最後はもとの場所に戻すか皮下に前方移行し、位置を手術記録に記載)[1] 7 外側プレートの長さと橈骨神経の位置関係を確認(長い外側柱プレートでは橈骨神経が危険にさらされる。近位まで展開するなら橈骨神経を同定・保護)[1] 8 スクリューが関節内を貫通していないこと、肘頭窩にインプラントが入っていないことを確認(各プレートは可能なら骨折の上下に2〜3本ずつスクリュー)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Capo JT, Debkowska MP, Liporace F, et al.(2012)Outcomes of bicolumn plating of distal humerus fractures with a posterior approach. J Shoulder Elbow Surg, 21(11):1600–6.
Sanchez-Sotelo J, Torchia ME, O'Driscoll SW(2007)Complex distal humeral fractures: internal fixation with a principle-based parallel-plate technique. J Bone Joint Surg Am, 89(5):961–9. PMID: 17473132
Huang TL, Chiu FY, Chuang TY, Chen TH(2005)The results of open reduction and internal fixation in elderly patients with severe fractures of the distal humerus: a critical analysis of the results. J Trauma, 58(1):62–9. PMID: 15674152