上腕骨遠位部(肘関節近位)に生じる関節外骨折のうち、多骨片性(粉砕)を呈する骨折。AO分類13Aは上腕骨遠位端セグメントの関節外骨折で、13-A3はその下位分類の1つにあたる[1]。遠位部は内側・外側の2本の骨柱(双柱構造)で骨幹部とつながる[3]。A2・A3骨折は2枚のプレートで両柱を固定するのが基本である[1]。
重症度・疫学
年間発生件数: 上腕骨遠位部の関節外骨折は比較的稀である[1]
好発: 上腕骨遠位部骨折全体では、年齢と性別で二峰性分布を示し、若年男性と高齢女性に多い(大半は関節内骨折)。高齢者では単なる転倒でも複雑な骨折が起こりうる。若年者は通常高エネルギー外傷で受傷し、多発外傷が多い[1]
受傷機転: 高齢者では単なる転倒で複雑な骨折が起こりうる。若年者は通常高エネルギー外傷で受傷し、多発外傷が多い [1]。複雑な上腕骨遠位部骨折34骨折(33例、大半はC3)の報告では、交通事故9骨折・高エネルギーの高所転落7骨折・中等度エネルギーの転倒18骨折だった [2]
注意すべき合併症
- 橈骨神経麻痺:長い外側柱プレート、特に直接外側に置いたプレートでは橈骨神経が危険にさらされる[1]
- 尺骨神経障害:5人に1人以上がなんらかの医原性尺骨神経障害を経験する(通常は一過性)[1]。術前に尺骨神経を含む、肘を横切る3本の主要神経すべてを評価する[1]
- 変形癒合:上腕骨遠位部骨折の合併症として多くみられてきたが、近年の技術の進歩で予後は改善してきている[1]
- 偽関節(Nonunion):通常は顆上部レベルで起きる。リスク因子は不適切な内固定、術後早期の患肢の過度の運動、骨幹端部の粉砕、骨欠損[1]
- 肘関節拘縮:関節包拘縮・関節線維症・インプラント突出・関節内外の変形と関係する[1]。不十分な固定を守るための長期固定も拘縮の原因になりうる[2]
- 創部感染:比較的稀である[1]。開放骨折では閉鎖骨折より、異所性骨化や再手術を含む合併症が多い[2]
- DVT/PE:高齢・長期臥床・多発外傷では考慮する。大腿骨転子部骨折を合併した高齢者で術後の致死的肺塞栓の報告がある[2]
- 異所性骨化:外傷性脳損傷の後や、固定の遅れ・肘の強制的な他動ストレッチの後に生じやすい[1]。開放骨折後に多く、重度なら可動域回復のため切除を要する[2]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件(衰弱した患者・活動性の低い患者)
- →適応:衰弱した患者・活動性の低い患者では常に検討する。この集団での成績は比較的良好で、偽関節や重い変形癒合が生じても晩期の人工肘関節置換術で救済できる[1]
- →適応:重度の骨粗鬆症で強固な内固定が難しい場合、活動性の低い患者では保存加療で十分である[1]
- →方法:ギプス、三角巾、collar and cuff スリングなど[1]
- →注意:保存療法中は定期X線で転位の進行を確認する
- →変形治癒・肘機能障害リスクを患者・家族と十分共有すること
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ術式:ORIF 双柱プレート固定(Bicolumn plating)— 手術する場合、A2・A3骨折は2枚のプレートで両柱を固定する[1]
- ℹプレート構成:内側+後外側プレート(直交配置)、または内側+外側プレート(平行配置)。直交配置が通常最強とされてきたが、平行配置を支持する生体力学的エビデンスもある[1][3]
- ℹインプラント:あらかじめ成形されたロッキングプレート(LCP)は低位の骨折・骨幹端部の著しい粉砕・骨質不良の症例に有用[1]
- ℹ骨片間の圧迫:大きな骨鉗子で圧迫しながらスクリューを挿入し、関節骨片間と骨幹端の両方で骨片間圧迫を得る[2]
- ℹ多骨片粉砕:骨欠損や高度粉砕で解剖学的再建が難しい場合は、顆上部で1〜2 cm短縮して骨片間を圧迫する方法もある。その際、回旋と外反のアライメントが保たれていれば、遠位骨片の内外側・軽度前方への移動は許容される[2]
- ℹ創外固定:血管損傷の修復を要する場合などの一時的固定として検討する。開放骨折の多くはデブリドマン・洗浄後ただちに内固定できる[1]
治療選択アルゴリズム(13-A3 関節外・粉砕型)— 転位評価→手術適応→双柱プレート固定
診断・評価
肘周囲の腫脹・疼痛・変形・運動障害が主訴。肘関節を横切る3本の主要神経(橈骨神経・正中神経・尺骨神経)すべての評価が術前必須 [1]。血管損傷は特に開放骨折で稀ではなく、除外しなければならない。側副血行路のため、上腕動脈損傷があっても末梢の脈拍を触知できることがある [1]。開放骨折の有無(Gustilo分類)を確認する。
X線正面像・側面像(斜位像も)で骨折部位(遠位骨幹部〜骨幹端)・骨折線の方向・骨片数・転位量を評価。牽引下X線やCT(橈骨・尺骨を消去した3D-CTを含む)も術前計画に役立つ[1]。両柱骨折のほとんどは関節面に及ぶ[1]ため、CTで関節面を評価し、関節外であることを確かめる。
術前X線(正面/側面)— 上腕骨遠位部 関節外粉砕骨折(13-A3)、骨幹端部の多骨片性骨折パターン
CT所見(横断面/冠状断面)— 13-A3 骨片数・粉砕範囲・関節外確認
✅ 許容される整復
- ✓軸アライメント:回旋と外反のアライメントを保つ。顆上部で短縮する場合、遠位骨片の内外側・軽度前方への移動は許容される [2]
- ✓回旋変形:回旋アライメントを保つ[2]
- ✓長さ:骨欠損で解剖学的再建が難しい場合は、顆上部の1〜2 cm短縮で骨片間の接触と圧迫を得る方法もある(1 cm以下の短縮なら伸展最終域の三頭筋筋力への影響は軽い)。構造的骨移植も選択肢[2]
❌ 許容されない変形・状態
- ✕内反変形(Cubitus varus):顆上部で短縮して遠位骨片を移動させる場合も、回旋と外反のアライメントは保つ[2]
- ✕大きな前方転位:顆上部で短縮する場合でも、許容されるのは回旋と外反のアライメントが保たれたうえでの遠位骨片のわずかな前方移動までである[2]
- ✕不適切な内固定:骨幹端部の粉砕・骨欠損とともに偽関節のリスク因子である[1]
- ✕関節内骨折(13-B/C)の見落とし:両柱骨折のほとんどは関節面に及ぶ。術前計画には牽引下X線やCT(3D-CTを含む)が役立つ[1]
手術手技
体位
手術体位 — 側臥位または腹臥位(後方アプローチ・肘関節屈曲90°、Cアームセットアップ)
側臥位(lateral decubitus)または腹臥位(prone): 後方アプローチに適する。側臥位では丸めた枕・gutter support・幅4 cmほどのパッド付きバーに上腕を置き、肘が120°まで屈曲できるようにする。透視装置は手術台の頭側から導入する(放射線透過性の手術台では反対側から導入できるものもある)[1]。
仰臥位: 患肢を体幹の上にのせる仰臥位も選べる[1]。
ORIF 双柱プレート固定(Bicolumn Plating)
- アプローチ: 後方正中皮膚切開。必要に応じて内外側に皮膚弁を起こせば肘のすべての部分を展開できる。皮切を近位に延ばす際は橈骨神経を傷つけないよう注意する[1]。関節外骨折は上腕三頭筋分割法または三頭筋挙上法で正確に整復できる[1]
- 上腕三頭筋割りアプローチ(Triceps-split): 三頭筋を正中で縦割し、上腕骨後面や肘頭から剥離して展開。三頭筋がすでに裂けていることの多い開放骨折で特に有効[1]
- 上腕三頭筋挙上アプローチ(Triceps-elevating): 三頭筋の停止部を剥離せず、内側・外側の2つの窓から三頭筋を上腕骨から持ち上げる(Alonso-Llames 進入法)。関節外骨折でも正確に整復でき、上腕骨の遠位1/4まで展開できる[1]
- オレクラノン骨切りアプローチ(Olecranon osteotomy): 関節内骨折(13-B/C)で関節面の展開が要る場合に用いる。視野は最も広いが、骨切り部の固定や骨癒合の問題がある[1]
- 神経同定・保護: 内側展開前に尺骨神経を同定・剥離し、血管ループで保護する[1]。長い外側柱プレート(特に直接外側に置くもの)では橈骨神経も危険にさらされるため、同定して保護する[1]
- 整復: 大きな骨片を先に骨幹部に固定し、続いて小骨片を1つずつ整復する[1]。小さな骨片は、固定した残りの骨片が安定していればその場に置いておいてもよい[1]
- K-wire 仮固定: 整復位を仮K-wireで保持(骨折整復後、プレート本固定まで)。インプラントの邪魔にならない位置に入れる[1]
後方アプローチ展開 — 上腕三頭筋割り、尺骨神経確保、遠位上腕骨内側・外側骨柱の展開
- プレート設置: 内側・外側の各骨柱にプレートを設置する。あらかじめ成形されたロッキングプレート(LCP)は低位の骨折や骨幹端部の著しい粉砕に有用[1]
- 骨片間の圧迫:大きな骨鉗子で圧迫しながらスクリューを入れる [2]
- スクリュー:可能ならば骨折の上下にそれぞれ2〜3本のスクリューを各プレートに入れる。肘頭窩にはインプラントを入れない[1]
- 遠位骨片の固定:平行配置(内側+外側プレート)では、両側のプレートから遠位骨片を横断する長いスクリューを合わせて4本以上入れられ(この報告では平均4.5本)、互いに噛み合わせて固定角構造にする[2]
- スクリュー完成: 遠位三角周囲の最初の固定は仮固定とし、アライメントを確かめてから最終固定する(関節内骨折では滑車骨片のわずかな回旋変形で固定をやり直すことがある) [1]
双柱プレート設置 — 内側プレート(コンプレッションモード)+ 外側プレート(ブリッジモード)の配置
- 最終確認: 透視(AP・側面)でアライメント(軸・回旋・長さ)・プレート位置・スクリュー深度を確認。肘を回内外を含めて全可動域動かし、触診でスクリューやワイヤのインピンジメント・骨片間の不安定性を確かめる。尺骨神経の位置とインプラントとの関係を手術記録に残す[1]
⚠️ 双柱プレート固定 ピットフォール
- ✕尺骨神経損傷 — 5人に1人以上がなんらかの医原性尺骨神経障害を経験する(通常一過性)。内側展開・内側プレート設置時に注意し、神経を同定して保護する(剥離・移行の最適な扱いはまだ議論がある)[1]
- ✕橈骨神経損傷 — 長い外側柱プレート、特に直接外側に置くプレートで危険が高い。近位まで展開する場合は神経を丁寧に同定・保護する[1]
- ✕低位の柱骨折・骨幹端部の著しい粉砕・骨質不良 — 角度安定性をもつLHSを取り入れた、骨の形状に合わせたプレート(LCPなど)が有用 [1]
- ✕仮固定の段階で回旋変形を直す — 遠位三角周囲の最初の固定は仮固定とする(滑車骨片のわずかな回旋変形がしばしば三角の最後の角の完成を妨げ、固定をやり直すことがある) [1]
- ✕軟部組織の付着が無い骨軟骨片 — 付着を失った骨軟骨片は骨壊死をきたしうる(固定の破綻なく関節面の一部が局所的に陥没した2例を、軟部組織の付着が無い骨軟骨片の骨壊死と解釈した報告がある[2])
- ✕顆上部短縮時のアライメント — 骨欠損などで顆上部を短縮する場合、遠位骨片を内外側(およびわずかに前方)へずらしてもよいが、回旋と外反のアライメントは保つ[2]
創外固定(External Fixation)— ダメージコントロール
開放骨折の多くは、デブリドマン・洗浄後ただちに内固定できる[1]。血管損傷の修復を要する場合などには、創外固定器による一時的な固定を検討する[1]。
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 13-A3 ORIF 双柱プレート固定後(内側・外側プレート配置)
手術タイミング: 緊急手術が必要なのは開放骨折か虚血を伴う血管損傷の場合のみ。大半を占める閉鎖骨折は迅速なタイミングで行う[1]。血管損傷の修復を要する場合などには、創外固定器による一時的な固定を検討する[1]
術後荷重(上肢): 固定が強固なら術翌日から肘の運動を開始でき、術後数日から自動介助運動と軽作業を始める[1]。最初の6週間はコップ1杯の水より重い物を持ち上げない(押す・引くも同様)[2]。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し、骨癒合が明らかに進んでから許可する[1]
VTE予防: 高齢・下肢骨折合併・多発外傷ではVTEのリスクを評価する。複雑骨折34骨折(33例)の報告では、転子部骨折を合併した高齢者1例が術後に広範な肺塞栓症で死亡した [2]
疼痛管理: 術後早期の自動運動を妨げないよう十分に鎮痛する
リハビリテーション: 術後数日から肘の自動介助運動を開始する。他動的マニピュレーションは行わない[1]。固定が安定していれば、術直後の伸展位副子付き包帯(2日間、軟部組織損傷が高度なら3〜7日間)のあとはギプスや装具による外固定は不要で、三角巾は疼痛に応じて使う[2]。固定性が不十分な場合は、拘縮を覚悟して4週間程度外固定で保護する[1]。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し、骨癒合が明らかに進んでから許可する[1]
フォローアップ
- 術後2週: 創部確認・抜糸・X線(アライメント・プレート位置確認)・肘可動域初期評価
- 術後6週: X線(仮骨形成確認)・ROM評価(屈伸・回内外)・橈骨神経・尺骨神経回復評価
- 術後12週: X線(骨癒合判定)・ADL復帰の判断(抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し骨癒合が明らかに進んでいれば許可[1])
- 術後6か月以降: 機能評価を続ける。可動域の改善は少なくとも1年間みられる[1]。
予後
- 骨癒合率:高度粉砕・骨欠損・骨粗鬆症を伴う複雑な上腕骨遠位部骨折34骨折(C3が26、C2が5、A3が3)を平行プレートで固定した報告では、経過を追えた32骨折中31骨折が一次癒合し、残る1骨折も骨移植と固定の追加手術で癒合した[2]
- 抵抗運動の開始:抵抗運動は、術後少なくとも6週間が経過し骨癒合が明らかに進んでいる場合にのみ許可する[1]
- 肘関節可動域:複雑骨折32肘(平行プレート固定)で屈曲は平均125°、伸展制限は平均26° [2]。ほとんどの患者は関節拘縮にならず、なっても治療で改善する [1]
- 神経障害:5人に1人以上が術後になんらかの医原性尺骨神経障害を経験する。多くは一過性だが、重い筋力低下を伴うものは回復に時間がかかり、永続することもある[1]。複雑骨折32肘の報告では永続的な尺骨神経障害が2肘[2]
- 感染:比較的稀である[1]。開放骨折14例を含む複雑骨折の報告で、深部感染による再手術は1肘(3%)[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(13-A3 = 上腕骨遠位部・関節外・多骨片粉砕型)
- 2サブタイプを確認(AO/OTA 分類のグループ・サブグループ)
- 3CTで関節面を確認(関節内骨折 13-B/C の除外)
- 4橈骨神経麻痺の有無(wrist drop・手背知覚)を術前に記録
- 5尺骨神経麻痺の有無(環・小指知覚・骨間筋)を術前に記録
- 6正中神経の機能も術前に記録(肘を横切る3本の主要神経すべてを評価する)[1]
- 7血管損傷の除外(特に開放骨折では稀でない。脈拍を触れても上腕動脈損傷は否定できない) [1]
- 8術式計画:プレート配置(直交か平行か)とスクリューの本数・配置の計画 [1]
- 9解剖学的ロッキングプレートの準備確認(短い遠位骨片に対応)
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Sanchez-Sotelo J, Torchia ME, O'Driscoll SW(2007)Complex distal humeral fractures: internal fixation with a principle-based parallel-plate technique. J Bone Joint Surg Am, 89:961–9. PMID: 17473132
- Arnander MW, Reeves A, MacLeod IA, et al.(2008)A biomechanical comparison of plate configuration in distal humerus fractures. J Orthop Trauma, 22:332–6. PMID: 18448987