上腕骨骨幹部に生じる多骨片骨折のうち、中間骨片(分節)が分離したもの 。AO/OTA分類では12Cが上腕骨骨幹部の多骨片骨折にあたる [1] 。
重症度・疫学
年間発生件数: 上腕骨骨幹部骨折全体で14.5/100,000/年(スウェーデン、16歳以上の401骨折)[4] 。単純骨折が大多数を占める [4]
好発: 40歳代から年齢別発生率が漸増し、80歳代でほぼ60/100,000/年に達する。女性は70歳代にピークがあり、男性の年齢分布はより均等 [4]
受傷機転: 典型的には直達外力で生じ、野球や腕相撲のように回旋負荷の大きなスポーツでも起こる [1] 。高齢者では単純な転倒による閉鎖骨折が多い [4] 。複数の骨折線・分節を生じる複雑型では高エネルギー外傷が関与しうる
注意すべき合併症
橈骨神経麻痺:上腕骨骨幹部骨折全体で8%、中央・遠位骨幹部の骨折で多い [4] 。閉鎖骨折で受傷時から麻痺がある場合の多くは一過性神経伝導障害で、一期的な神経探査の絶対適応ではなく、95%以上が自然回復する [1] 。開放創に伴う麻痺では展開が必須 [1]
偽関節・遷延癒合:不十分な固定、粗雑な軟部組織の扱い、全周性の骨膜剥離はすべて偽関節の原因となる [1] 。分節型は骨折部が2か所あり注意を要する
血管損傷(上腕動脈など):確率は低いが合併しうる [1] 。血管損傷は骨接合術の絶対的適応で、緊急手術の適応となる [1] 。高エネルギー外傷では必ず末梢脈拍などの血管評価を施行
コンパートメント症候群:開放骨折・高エネルギー例では注意
感染:上肢では下肢骨折と比較してあまり多くない。上腕骨プレート固定600例の報告で感染率1%未満 [1]
上腕神経叢損傷:肩関節脱臼合併例・高エネルギー外傷で注意(合併例は骨接合術の相対的適応 [1] )
治療方針
複雑分節型(12-C2)は骨折の不安定性が高い。分節骨折は骨接合術の相対的適応であり、年齢・骨折形態・合併損傷・合併疾患・コンプライアンスをすべて考慮して手術を検討する [1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 分節骨折は骨接合術の相対的適応で、保存治療で整復位の維持が困難な場合は手術を考慮する [1] → 保存治療では機能的装具(functional brace)療法が最も広く受け入れられている方法である [1] → 創外固定の適応は限られ、主に広範囲の軟部組織損傷・骨欠損・重度の汚染・血管欠損・感染例などの初期治療に用いる [1] → 広範囲の軟部組織損傷・重度の汚染・骨欠損を伴う場合は、初期治療として創外固定を検討する(創外固定の適応は限られる)[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 髄内釘(多くは順行性)— 髄内釘は分節骨折で特に有用 [1] 。ただし骨幹部骨折全体ではプレートより肩の合併症と再手術が多い [3] ℹ 遠位1/3・肘関節近接:プレート固定(近位・遠位骨幹部の骨折はプレートの最もよい適応)[1] 。逆行性髄内釘は可能だが技術的に困難で、医原性の上腕骨遠位端骨折の重大なリスクを伴う [1] ℹ ブリッジプレート(MIPO)— 上腕骨骨幹部の多骨片骨折のプレート固定で検討される最小侵襲法。技術的に難しい [1] ℹ 橈骨神経損傷合併例:閉鎖骨折の受傷時麻痺は一期的な神経探査の絶対適応ではない [1] 。開放創に伴う麻痺は展開が必須で [1] 、神経の同定・探索・保護ができるプレート固定を検討する [3] ℹ 開放骨折:迅速に対応し内固定を検討する(開放骨折は骨接合術の絶対的適応で、プレート固定は開放・閉鎖骨折とも良好な結果が得られる)[1] ℹ 広範囲の軟部組織損傷・重度の汚染・骨欠損・血管欠損を伴う開放骨折:デブリードマン+初期治療としての創外固定を検討する(創外固定の適応は限られ、主にこれらの初期治療に用いる)[1]
治療選択アルゴリズム — 分節型 12-C2 の骨折部位・神経損傷・軟部組織に基づく術式選択フロー
診断・評価
上腕部の強い疼痛・腫脹・異常可動性・短縮変形を呈する。いかなる整復操作の前にも、受傷時の橈骨神経・後骨間神経の評価(手首・指の伸展、母指背側の感覚)が必須 [1] 。受傷機転を考慮した現病歴聴取で、軟部組織損傷の合併と他の身体領域の損傷の有無を確認する [1] 。
12-C2の診断ポイント
X線は互いに垂直な2方向で、アライメントと回旋を評価できるよう肩と肘の関節を含む全長を撮影する [1] 。骨折線の分布(近位骨折線・遠位骨折線の2か所)と中間骨片の大きさ・転位を評価する。骨折が肩や肘の関節まで及ぶ場合はCTが役立つ [1] 。
術前X線(正面/側面)— 上腕骨骨幹部分節型骨折(2か所の骨折線・中間骨片)
CT 3D再構成 — 分節骨折の全体像・中間骨片評価・骨折線方向の確認
AO分類 12-C2 骨折型模式図 — 複雑分節型(中間骨片が比較的まとまった形態)
【必須】 患側上腕骨全長正面・側面X線(肩関節・肘関節を含む2関節撮影)[1] 、橈骨神経機能評価(伸筋群・感覚)、末梢動脈触知(橈骨動脈)[1]
【考慮】 CT(術前計画・骨折型詳細評価)。血管損傷が疑われる場合は血管造影またはCTアンギオグラフィー
✅ 許容される整復
✓ 角状変形:前方凸変形 <20°、内反変形 <30°は機能的に十分許容される(機能的装具による保存治療での許容範囲)[1] ✓ 回旋:<40° [1] ✓ 短縮:<3 cm(機能的には十分許容されるが、短縮や内反は整容上受け入れられないことがある)[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 橈骨神経損傷の見落とし(初期評価時・徒手整復時・手術時に必ず橈骨神経の状態をチェックする)[1] ✕ 大きな骨折間隙(外固定装具による保存治療では、骨片間間隙は骨癒合までの時間を延ばす独立したリスク因子)[1] ✕ 中間骨片の骨膜を剥離して血流を損なう固定(全周性の骨膜剥離は偽関節の原因)[1] ✕ 高エネルギー外傷での上腕動脈損傷の見落とし
手術手技
体位
手術体位 — 砂袋仰臥位または座位(ビーチチェア位)でのCアームセットアップ
仰臥位(砂袋で患側を軽く挙上): 患側上肢を体幹から自由に操作できる状態に保つ。Cアームを術野内に移動できるよう手術台を配置する。順行性釘では仰臥位または胸部を約30°挙上した半坐位/ビーチチェア位とする [1] 。逆行性釘は腹臥位で施行する [1] 。
順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 中央1/3・近位1/3
エントリーポイント — 上腕骨頭頂部(肩峰後内側)のガイドワイヤー刺入
エントリーポイント作成: 肩峰の前外側部に約3cmの小切開をおき、三角筋を分割して展開する。腱板を筋線維と平行に切開し、理想的なエントリーポイントである大結節内側の溝部にガイドワイヤーを刺入(透視正面・側面の両方向で確認)[1]
骨折の間接整復: 牽引・回旋操作により分節骨片のアライメントを整え、髄内釘自体やガイドワイヤを整復器具として使いながら透視下に整復する [1]
ガイドワイヤー通過: ガイドワイヤーを骨折部を跨いで骨髄腔に通過させる。分節骨折ではガイドワイヤーの通過に注意(中間骨片の向きを透視で確認しながら慎重に)。上腕骨の髄内釘はリーミングをするもの・しないものがある [1]
ネイル挿入: 透視下で監視しながら無理なく挿入する。慎重に小刻みに回転させながら、ハンマーを使用せず、骨折整復後に徒手的に骨折間隙を越えて挿入する。大きな抵抗があればエントリーポイントの拡大・リーミング・細いネイルへの切り替えを行う [1] 。分節部での強引な押し込みは中間骨片の2次転位を招くため慎重に
遠位ロッキング: フリーハンドで遠位骨折線の遠位にロッキングスクリューを挿入する(ネイルの安定性を高めるため近位側と遠位側両方でのダブルロッキングが推奨される)[1]
近位ロッキング: ネイルのジグを用いて近位骨折線の近位にロッキングスクリューを挿入する [1] 。腋窩神経を損傷しないよう皮膚小切開・鈍的剥離・保護用カニューレを用い、スクリューは対側皮質から2mm以上突出させない [1]
最終確認: AP・側面透視でアライメント・全骨折線にわたるネイル通過・スクリュー位置を確認。筋線維と平行に切開した腱板(棘上筋腱)を修復
透視像 — 分節骨折へのネイル通過(ガイドワイヤー・ネイル・ロッキングスクリュー確認)
⚠️ 髄内釘ピットフォール
✕ ガイドワイヤーが中間骨片に絡まる → 透視2方向で骨折部通過を逐次確認 ✕ 中間骨片の2次転位 → 骨折部を直視下に確認するか、補助ピンで骨片保持 ✕ 棘上筋腱の縫合忘れ → エントリー時に縦切開し必ず修復 ✕ 橈骨神経のモニタリング忘れ → 術前後の神経評価を記録 ✕ 遠位骨折線の遠位が短すぎる(ロッキング不十分)→ プレート固定を検討(遠位骨幹部の骨折はプレートの最もよい適応)[1]
ブリッジプレート(Bridge Plating / MIPO)
適応: 上腕骨骨幹部の多骨片骨折のプレート固定で検討される最小侵襲法 [1] 。上腕骨は回旋可動域が広いため、できる限り長いプレートを用いて骨折部を「橋渡し」する [1] 。骨片には直接触れず、相対的安定性固定の原則。
近位切開: 前面または外側面におき、近位骨折線の近位骨幹部を展開する(外側面ではプレートを外側あるいは螺旋状に遠位を前面へ回り込ませる)[1]
遠位切開: 通常は前面におき、上腕筋を分割して外側の筋間中隔を貫通する橈骨神経を避ける。外側に置く場合は橈骨神経を損傷しないよう細心の注意を払う [1]
神経血管の確認: 皮切は、橈骨神経(外側)および正中神経と上腕動脈(内側)の安全を確認できる十分な長さにする [1]
プレートのサブマスキュラー通過: 2か所の皮切から上腕筋の下に長いプレートをトンネル状に通過させる [1]
近位・遠位固定: 各端でロッキングスクリュー(上腕骨では回旋力がかかるためバイコーティカル)または皮質骨スクリューで固定し、骨折部の上下でそれぞれ皮質を6〜8か所貫通させる(通常プレートの3〜4穴)[1] 。骨折部スパンにはスクリューを設置しない(ブリッジ原則)
整復確認: 透視でアライメント・プレート位置を確認
ブリッジプレート設置概念図 — 長プレートのサブマスキュラー通過と近位・遠位固定
⚠️ ブリッジプレートピットフォール
✕ 橈骨神経の直接損傷(後外側アプローチ時は螺旋溝の位置を正確に把握) ✕ プレートが短すぎる → 固定が不安定(上腕骨は回旋可動域が広いため、できる限り長いプレートを用いる)[1] ✕ 骨折部に誤ってスクリューを入れる → 相対的安定性固定の原則違反 ✕ 回旋不整(術中アライメント確認不足)→ 整復時に牽引しながら上腕の長さ・アライメント・回旋を注意深く整復する [1]
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 髄内釘固定(分節骨折にネイル通過・近位遠位ロッキング完了)
手術タイミング: 血管損傷合併例以外は緊急手術の適応はほとんどなく、開放骨折は迅速に対応する [1] 。それ以外は適時に経験豊富な外科医に委ねる [1] 。
術後荷重: 上腕骨のプレート固定や髄内釘挿入後は、状況が良好であれば歩行補助具を制限なく使用できる。抵抗運動はX線で架橋仮骨を確認してから開始し、髄内釘固定後は回旋抵抗運動を避ける [1]
VTE予防: 上腕骨骨幹部骨折での予防法は、長期臥床・高齢などの血栓リスクと手術リスクを踏まえて個別に判断する
疼痛管理: 鎮痛薬・神経ブロックの選択は施設の周術期疼痛管理方針に従う
リハビリテーション: 皮膚創が治癒するまでは自動介助運動で肘と肩の関節可動域を徐々に拡大し、その後自動運動を開始する [1] 。髄内釘固定術後は肩と肘の運動を直ちに開始できる [1]
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線撮影(アライメント・スクリュー位置)、橈骨神経評価
術後6週: X線撮影(骨癒合初期の仮骨形成)
術後12週: X線撮影(骨癒合判定)。分節型は骨折部が2か所あり、骨癒合の確認は近位・遠位の両方で行う
術後6ヶ月: 偽関節が疑われる場合はCTで評価し、必要に応じて骨移植・固定材料変更(上腕骨の偽関節にはプレート固定が第一選択)[1]
骨癒合後: インプラント抜去は症状がなければ必須ではない
予後
骨癒合率:髄内釘とプレートで有意差はない [3] 。上腕骨プレート固定600例の報告で癒合率92〜98%(一次的骨移植は複雑な多骨片骨折または骨欠損にのみ使用)[1]
骨癒合期間:外固定装具による保存治療では、骨片間間隙・喫煙・女性が骨癒合までの時間を延ばす独立したリスク因子である [1]
橈骨神経障害:閉鎖骨折の受傷時麻痺の多くは一過性神経伝導障害で、95%以上が自然に回復する。診察や定期的な電気生理学的検査でフォローアップする [1] 。術中に神経の全長を確認しておらず術後に麻痺がみられた場合は、展開して確認する [1]
偽関節(非癒合):不十分な固定、粗雑な軟部組織の扱い、全周性の骨膜剥離が原因となる [1]
感染:上腕骨プレート固定600例の報告で1%未満。上肢の感染は下肢骨折と比較してあまり多くない [1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(12-C2 = 上腕骨骨幹部・多骨片骨折) 2 骨折部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3、および骨折線が2か所あることを明記) 3 橈骨神経機能を評価・記録(伸筋群・母指背側感覚 — 受傷時・術前・術後) 4 上腕動脈損傷を除外(末梢脈拍・橈骨動脈触知・必要に応じたCTアンギオ) 5 術式選択の根拠を確認(骨折部位・橈骨神経損傷・軟部組織 → IM釘 / ブリッジプレート) 6 中間骨片の血流・固定方法を確認(ネイルで橋渡し or ブリッジプレートか) 7 術中透視で全骨折線にわたるネイル通過・近位遠位ロッキングを確認 8 術後橈骨神経評価を記録し、術中に神経の全長を確認しておらず術後に麻痺がみられた場合は展開して確認する [1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Mahabier KC et al.(2013)Humeral shaft fractures: retrospective results of non-operative and operative treatment of 186 patients. Injury, 44(4):427–30. PMID: 22938959
Zhao JG et al.(2015)Intramedullary nail versus plate fixation for humeral shaft fractures: a systematic review of overlapping meta-analyses. Medicine (Baltimore), 94(11):e599. DOI: 10.1097/MD.0000000000000599 PMID: 25789949
Ekholm R et al.(2006)Fractures of the shaft of the humerus. An epidemiological study of 401 fractures. J Bone Joint Surg Br, 88-B:1469–73. PMID: 17075092