上腕骨骨幹部の多骨片骨折 (AO/OTA分類12C)[1] 。骨幹部中1/3や遠位1/3の骨折では橈骨神経の損傷 をきたす可能性がある[1] 。上腕骨骨幹部骨折のほとんどは、外固定装具を使用する非手術的治療が第一選択 であり[1] 、患者の年齢・骨折形態・合併損傷や合併疾患・治療へのコンプライアンスを考慮して手術適応を判断する[1] 。
重症度・疫学
頻度: 上腕骨骨幹部骨折は全骨折の1〜3%、上腕骨骨折全体の20%を占める[4]
好発: 若年男性(高エネルギー外傷に伴う)と60〜80歳の高齢女性にピークがある二峰性分布[4]
受傷機転: 高エネルギー外傷には、重度の軟部組織損傷を伴う開放骨折、多骨片骨折、高度粉砕骨折などが含まれる[4]
治療方針: 上腕骨骨幹部骨折に対しては、機能的装具(functional brace)療法が最も広く受け入れられている治療方法である[1]
注意すべき合併症
橈骨神経麻痺: 上腕骨遠位1/3の螺旋骨折(Holstein-Lewis骨折)で最も多く、他の骨折型の8%に対して22%[4]
偽関節・遷延癒合: 保存療法では、骨幹部近位〜中1/3でA型(単純骨折)39例中7例(18%)、B型26例中1例(4%)、C型13例中0例との報告がある[4]
コンパートメント症候群(上腕): まれ(約1〜2%)だが見落とし禁止。前腕コンパートメントも確認
血管損傷: 確率は低いが、上腕骨骨幹部骨折で血管損傷を合併することもある[1]
感染: プレート固定群で深部感染3例(うち2例はType IIIA開放骨折)、髄内釘群で0例[3]
肩関節・肘関節拘縮: 骨折面が関節周囲や関節内に及ばない限り、プレート固定後に肩や肘関節の拘縮をきたすことは稀[1]
治療方針
手術適応の判断では、患者の年齢、骨折形態、合併損傷や合併疾患のほか、治療へのコンプライアンスなど、すべてを考慮する[1] 。
⚠️ 保存療法(機能的ブレース)の適応条件
→ 骨片間に著明な離開の無い閉鎖性骨幹部骨折[4] → 受傷時から橈骨神経麻痺を伴う同様の閉鎖骨折、および広範な軟部組織損傷の無い開放骨折[4] → Sarmiento法(機能的装具):軟部組織の外套(inner splint)と装具による軟部組織の圧迫でアライメントを保持し、骨癒合を促す[4] → 機能的装具を最適に機能させるには、患者が関節運動を続け、適切な圧迫を保つよう装具を調整し続ける必要がある[4]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術適応を満たす場合:プレート固定は信頼性が高く安全[4] ℹ プレート:大柄な患者にはDCP 4.5やLCP 4.5、ほとんどの患者には3.5mm LCPを用い、いずれも8穴以上を使用する[1] ℹ 代替:髄内釘 — 病的骨折や高度粉砕骨折で有用なことがあるが、通常の骨折に用いるとプレート固定や保存療法より肩の機能障害が多い[4] ℹ 橈骨神経麻痺が術前に存在:観血的整復内固定を行う場合、または開放損傷に伴う麻痺では神経の展開を行う[4] ℹ 開放骨折:従来は創外固定が主な治療法だったが、急性期にダイナミックコンプレッションプレートで固定し良好な成績を得ている術者もいる[4] ℹ 多発外傷:下肢外傷を伴い上肢での荷重が必要となる患者など、早期離床を要する場合は手術適応[4]
治療選択アルゴリズム — 保存療法(ブレース)vs ORIF(プレート)vs 髄内釘
診断・評価
上腕の腫脹・内出血・変形・開放創は上腕後面や内側面にも起こりうる。四肢全体の血管障害・神経障害を慎重に検討し、いかなる整復操作の前にも橈骨神経と後骨間神経の評価 を行う[1] 。
12-C1の診断ポイント
X線は互いに垂直な2方向で、肩と肘の関節を含む全長を1枚に撮影し、アライメントと回旋を評価する。骨折が肩や肘の関節まで及ぶ場合はCTが役立つ[1] 。
X線正面像・側面像 — 上腕骨骨幹部複雑螺旋骨折(中間骨片あり)
骨折パターン比較 — 12-A1(単純螺旋)vs 12-B1(くさび螺旋)vs 12-C1(複雑螺旋)
CT横断像・三次元再構成 — 中間骨片の位置と橈骨神経走行の確認
【必須】 患側上腕骨全長正面・側面X線、肩関節・肘関節X線(関節内骨折の除外)、橈骨神経機能の評価記録
✅ 許容される整復(保存療法選択時)
✓ 前方凸変形(矢状面):≦20°[4] ✓ 内反(冠状面):≦30°[4] ✓ 回旋:≦15°[4] (回旋変形<40°を機能的に許容とする記載もある[1] ) ✓ 短縮:≦3 cm[4]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 内反 >30°[4] ✕ 短縮 >3 cm[4] ✕ 保存療法中に生じた橈骨神経麻痺(手術的安定化の適応)[3] ✕ 開放骨折(手術療法の適応)[4] ✕ 両側上腕骨骨折(多発外傷)[1] 、および下肢外傷を合併し松葉杖・歩行器で上肢荷重を要するなど早期離床が必要な多発外傷[4]
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(半座位)または側臥位での後方アプローチ
前方進入法の配置: 執刀医は患者の頭側、その対側に助手、手台の先端に器械出しナースが座り、透視装置は手台の助手側から入れる[1] 。
X線透過性の手術台での仰臥位またはビーチチェア位: 近位骨幹部骨折の前外側進入法で用い、この進入法は近位1/3や中1/3の骨折にも用いられる[1] 。
ORIF プレート固定 — 第一選択
アプローチ — 前外側(Henry)アプローチによる橈骨神経の同定と保護
アプローチ: 後方進入法は延長可能な進入法で、主に遠位1/3の骨折に用いる。螺旋溝で橈骨神経を直視でき、神経を授動すればより近位の骨折にも用いられる[4]
骨片整復: 骨膜の血流を温存するためプレートは骨膜上に設置する。多骨片骨折では一時的な創外固定器の設置が整復とその維持に役立つ[1]
ラグスクリュー固定: 可能な限り骨片間に圧迫をかける。望ましくはプレートのスクリュー孔からラグスクリューを挿入するか、ダイナミックホールや圧迫器具で軸圧を加える[1]
ラグスクリュー+LCPプレート配置 — 中間骨片の圧迫固定と橈骨神経の保護
プレート配置: ほとんどの患者には3.5mm LCP、大柄な患者には4.5mm LCP(またはDCP 4.5)を用い、8穴以上とする。上腕骨は回旋可動域が広いため、モーメントアームが長くなるよう長いプレートを使用する[1]
プレート固定: スクリューが骨折部の上下それぞれで皮質骨を6〜8か所貫通するように固定する(通常プレートの3〜4穴に相当)[1]
橈骨神経の確認: 橈骨神経がプレートと骨の間に挟まれていないかを直視で確認する[1]
最終確認: Cアーム透視でAP・側面のアライメント・螺子長・プレート位置を確認。肘関節の屈曲伸展・前腕回旋を確認して関節内螺子を除外
⚠️ プレート固定 ピットフォール
✕ 術中に神経の全長を確認せず、術後に神経麻痺がみられた → 展開して確認する[1] ✕ ラグスクリューの骨折面非垂直配置 → 圧迫不十分・骨片回旋 ✕ プレートが短すぎる → 上腕骨にかかる回旋力に対しモーメントアームが不足する(長いプレートを使う)[1] ✕ 全周性の骨膜剥離・粗雑な軟部組織の扱い → 偽関節[1] ✕ 後方進入法での上腕三頭筋の粗雑な展開 → 螺旋溝を走る橈骨神経・上腕深動脈の損傷(長頭と外側頭の間を鈍的に分ける)[1]
髄内釘(Intramedullary Nailing)— 代替術式
髄内釘は病的骨折や高度粉砕骨折で有用な場合があるが、通常の骨折に用いるとプレート固定や保存治療より肩の機能障害が多い[4] 。
アンテグレード(順行性): 三角筋を分けて進入し、腱板を筋線維と平行に切開して上腕骨頭から挿入する。順行性挿入は肩症状の発生率が高い[1]
レトログレード(逆行性): 肘頭窩上面から挿入する。技術的に困難で、医原性の上腕骨遠位端骨折の重大なリスクを伴う[1]
術後管理
術後X線像(正面/側面)— LCPプレート+ラグスクリュー固定後
手術タイミング: 血管損傷合併例以外は緊急手術の適応はほとんどなく、開放骨折は迅速に対応する[1]
術後荷重: 上腕骨のプレート固定後は、状況が良好であれば歩行補助具を制限なく使用できる。肘・肩は皮膚創が治癒するまで自動介助運動で可動域を広げ、その後自動運動へ進める。抵抗運動はX線像で架橋仮骨を確認してから開始する[1]
VTE予防: 大腿骨・骨盤骨折と比較してリスクは低いが、長期臥床例や多発外傷例では弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置(IPC)を使用
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDs(骨癒合への影響に留意)、神経障害性疼痛(橈骨神経損傷後)にはプレガバリンを検討
橈骨神経管理: 橈骨神経麻痺があり、プレート固定(ORIF)を行う場合や開放骨折に伴う場合は神経を展開する[4] 。閉鎖骨折で受傷時からの麻痺の多くは一過性神経伝導障害で自然回復し、診察と定期的な電気生理学的検査で経過を追う[1]
リハビリテーション: ランダム化試験では術後に外固定を用いず、全身状態が許す限り早期に肩・肘の可動域訓練を開始した[3]
フォローアップ
術後2週: 診察とX線正面・側面像で経過を確認する(ランダム化試験では術後2・4・8・12・16週に実施)[3]
架橋仮骨の確認後: 上肢の抵抗運動は、X線像で架橋仮骨を確認してから開始する[1]
術後12週: X線で骨癒合を確認する。4か月で癒合しなければ遷延癒合、6か月で癒合しないか固定破綻があれば偽関節とする(ランダム化試験の定義)[3]
術後6か月: ランダム化試験では術後6か月・12か月にも受診させて評価した[3] 。プレートの予定抜去は推奨されず、抜去には医原性神経損傷のリスクがある[3]
予後
骨癒合率:上腕骨プレート固定600例の報告で92〜98%(一次的骨移植は複雑な多骨片骨折・骨欠損に限って使用)[1]
骨癒合期間:プレート固定で平均10.4週(ランダム化試験)[3]
橈骨神経麻痺(閉鎖骨折)の保存的治療での回復率:系統的レビューで71%[4]
偽関節:プレート固定(DCP)の報告の集計で5%[4]
感染:上腕骨プレート固定600例の報告で1%未満[1]
肩・肘拘縮:骨折が関節周囲・関節内に及ばなければ、プレート固定後の拘縮は稀[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(12-C1 = 上腕骨骨幹部・複雑螺旋型) 2 部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3) 3 橈骨神経麻痺の有無を記録(術前・術後) 4 Holstein-Lewis骨折(遠位1/3の螺旋骨折)か確認[4] 5 骨折が肩・肘関節に及ぶ場合、CTで評価したか[1] 6 肩・肘関節を含む上腕全長のX線を2方向で撮影したか[1] 7 術式を確認(手術適応を満たす場合、プレート固定は信頼性が高く安全)[4] 8 アプローチと橈骨神経保護の計画を記録したか 9 術後橈骨神経フォロー計画を患者に説明したか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sarmiento A, Kinman PB, Galvin EG, et al.(1977)Functional bracing of fractures of the shaft of the humerus. J Bone Joint Surg Am, 59(5):596–601. PMID: 873955
Chapman JR, Henley MB, Agel J, et al.(2000)Randomized prospective study of humeral shaft fracture fixation: intramedullary nails versus plates. J Orthop Trauma, 14(3):162–166. PMID: 10791665
Attum B, Obremsky W.(2015)Treatment of humeral shaft fractures: a critical analysis review. JBJS Rev, 3(9). PMID: 27490668