上腕骨骨幹部の単純な斜骨折で、AO/OTA骨折・脱臼分類の12A2に相当する[1]。上腕骨骨幹部骨折に対しては機能的装具(functional brace)療法が最も広く受け入れられている治療方法であり、95%の症例で骨癒合が得られ良好な成績(good〜excellent)が報告されている[1]。骨幹部中1/3や遠位1/3の骨折では橈骨神経の損傷をきたす可能性があり、注意が必要である[1]。
重症度・疫学
年間発生件数: 上腕骨骨幹部骨折の発生率は14.5/100,000/年で、40歳代から年齢とともに増加し、80歳代では約60/100,000/年に達する[4]
好発: 高齢者に多く、平均年齢62.7歳、75%が50歳を超える[4]。年齢分布は二峰性で、20歳代は高エネルギー外傷の男性、70歳代は単純な転倒による骨粗鬆症性骨折の女性が中心である[4]
受傷機転: 典型的には直達外力によって生じるが、野球や腕相撲のように回旋負荷の大きなスポーツでも起こる[1]。単純な転倒が受傷機転の68%を占める[4]
注意すべき合併症
- 橈骨神経麻痺:発生率8%で、中1/3・遠位1/3の骨折で生じやすい[4]。閉鎖骨折で受傷時から麻痺を呈する場合の多くは一過性神経伝導障害であり、神経損傷の95%以上は自然に回復する[1]
- 偽関節・遷延癒合:機能的装具で治療した79例中5例(6.3%)が偽関節となり手術を要した[3]。骨粗鬆症の肥満女性は固定および治癒に問題を有する傾向がある[1]
- コンパートメント症候群:上腕部は比較的まれだが、高エネルギー外傷では注意
- DVT/PE:長期固定・高齢者では予防が必要
- 感染:600例の上腕骨プレート固定の報告で感染率は1%未満[1]
- インプラント合併症(手術時):順行性の髄内釘挿入は肩症状の発生率が高いことと関連する[1]。プレート固定では医原性橈骨神経麻痺が3%[1]
治療方針
上腕骨骨幹部骨折のほとんどは、何らかの外固定装具を使用する非手術的治療が依然として第一選択となり、手術治療のリスクを回避しながら信頼できる優れた結果が得られる[1]。
⚠️ 保存療法(第一選択)
- →適応:中1/3または近位1/3の閉鎖性の螺旋骨折・斜骨折で、コンプライアンスがよく極端な肥満でない患者[3]
- →初期固定:ハンギングキャスト・背側シーネ・Desault包帯などで固定する。橈骨神経麻痺を追加するリスクがあるため、徒手整復は行わない[2]
- →浮腫軽減後:機能的装具(ブレース)に切り替える。腫脹が引くまでの初期固定は平均11日程度[2]
- →許容変形:内外反・前後傾20〜30°まで・短縮3 cmまで
- →骨癒合期間:臨床的癒合まで平均9.9週(範囲5〜36週)[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ絶対的適応:開放骨折・浮遊肩または浮遊肘・血管損傷・両側上腕骨骨折(多発外傷)・続発性橈骨神経損傷[1]
- ℹ相対的適応:分節骨折・保存治療で整復位維持困難・横骨折・肥満・病的骨折・偽関節・神経障害/パーキンソン病・腕神経叢損傷[1]
- ℹプレート固定:可能な限り骨片間に圧迫をかけることを目指し、望ましくはプレートのスクリュー孔からラグスクリューを挿入する[1]
- ℹ髄内釘:ほとんどは順行性に挿入する。特に病的骨折や分節骨折で有用である[1]
- ℹ逆行性髄内釘:肘頭窩上面から挿入する方法は可能だが、技術的に困難で、医原性の上腕骨遠位端骨折の重大なリスクを伴う[1]
- ℹ圧迫プレート単独:ダイナミックホールあるいは圧迫器具を用いて軸圧を加える[1]
治療選択アルゴリズム — 保存療法(第一選択)→ ORIF ラグスクリュー+保護プレート → 髄内釘
診断・評価
腫脹・内出血・変形・開放創は上腕後面または内側面に起こりうる。四肢全体の血管障害および神経障害を慎重に検討し、いかなる整復操作をする前も、受傷時の神経損傷の有無について橈骨神経と後骨間神経の評価をすることが不可欠である[1]。
12-A2の診断ポイント
X線画像は互いに垂直な2方向で撮影する。アライメントと回旋を評価できるように、肩と肘の関節を含む全長を1枚のフィルム上に撮影する。骨折が肩や肘の関節まで及ぶ場合は、術中牽引下でのX線や表面/体積レンダリングの有無にかかわらずCTが役立つ[1]。
X線正面像 — 上腕骨骨幹部斜骨折(中央〜遠位1/3)骨折線傾斜≥30°
骨折パターン比較 — 12-A1(螺旋)vs 12-A2(斜骨折≥30°)vs 12-A3(横骨折<30°)
【必須】 肩と肘の関節を含む患側上腕骨全長の、互いに垂直な2方向X線(骨折が肩や肘の関節まで及ぶ場合はCT)[1]
【必須】 橈骨神経と後骨間神経の評価 — 初期評価時・徒手整復時・手術時に必ず慎重に橈骨神経の状態をチェックする[1]
✅ 許容される整復
- ✓内外反・前後傾:≦20〜30°
- ✓短縮:≦3 cm
- ✓回旋:≦15°(上肢では代償が比較的効く)
- ✓整復後、骨幹の一方の側が対側の骨片と接触していること[3]
❌ 許容されない変形・状態
- ✕軟部組織の介在(手術治療の適応)[3]
- ✕血管損傷合併(骨接合術の絶対的適応。血管損傷を合併している症例以外は緊急手術の適応はほとんどない)[1]
- ✕開放骨折(骨接合術の絶対的適応。開放骨折は迅速に対応する)[1]
- ✕保存治療で整復位維持困難(骨折端の離開が持続する場合や軸変形が25°を超える場合は手術を考慮)[2]
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(前外側アプローチ / 順行性ネイリング)
ビーチチェア位: 順行性髄内釘では、患者を仰臥位または半坐位/ビーチチェア位にして、胸部を約30°まで挙上する。ネイル挿入中は、骨のすべての部分をX線学的に確認できることが不可欠である[1]。
後方進入法の体位: 患者は腹臥位か側臥位とする。腹臥位では上腕をX線透過性の台に乗せ前腕を下垂させ、側臥位では支持器やマジックベッド(vacuum pack)で体位を固定する[1]。
順行性髄内釘(Antegrade Nailing)
エントリーポイント(上腕骨頭最高点)— 前外側経三角筋アプローチ
- エントリーポイント作成: 肩峰の前外側部から3cmくらいの小さな皮切をおき、前外側進入法で三角筋を分割して展開する。肩峰のすぐ前方で三角筋線維を分け、上腕骨頭と大結節に到達する。理想的なエントリーポイントは大結節内側の溝部である[1]
- 整復: まず注意深く牽引しながら上腕の長さ・アライメント・回旋を整復する。閉鎖性髄内釘は、髄内釘自体やガイドワイヤを整復器具として使いながら透視下に整復する[1]
- リーミング(必要時): 挿入時に大きな抵抗がある場合は、エントリーポイントを拡大する・リーマで髄腔を広げる・細いネイルに切り替える、の3つの選択肢がある[1]
- 釘の挿入: 慎重に小刻みに回転させながら、ハンマーを使用せず、骨折整復後に徒手的に骨折間隙を越えて挿入する[1]
- 整復・回旋確認: ネイル挿入中は、骨のすべての部分をX線学的に確認できることが不可欠である[1]
- 近位ロッキング: 近位のロッキングはジグ(照準器)を利用する。ネイルの安定性を高めるため近位側と遠位側両方でダブルロッキングが推奨される[1]
- 遠位ロッキング(徒手法): 遠位のロッキングはフリーハンドで行う。横止めスクリューは対側皮質から2mm以上突出してはならない[1]
- 最終確認: ネイル挿入中は骨のすべての部分をX線学的に確認できることが不可欠である[1]
遠位ロッキングスクリュー(perfect circle法)+最終固定構成
⚠️ 順行性ネイリング ピットフォール
- ✕順行性の挿入は肩症状の発生率が高いことと関連している[1]
- ✕エントリーポイントのずれ → 順行性挿入の理想的なエントリーポイントは大結節内側の溝部である[1]
- ✕順行性挿入時の腋窩神経損傷 → 皮膚に小切開を加え、骨までは鈍的に剥離し、保護用のカニューレを用いる[1]
- ✕回旋評価の省略 → アライメントと回旋を評価できるように、X線は肩と肘の関節を含む全長を1枚のフィルム上に撮影する[1]
- ✕ネイルの打ち込み → ハンマーを使用せず、慎重に小刻みに回転させながら徒手的に挿入する(挿入時に大きな抵抗があればエントリーポイントの拡大・リーミング・細いネイルへの変更を選ぶ)[1]
ORIF ラグスクリュー+保護プレート
前外側アプローチ — 上腕骨骨幹部へのプレート設置(橈骨神経の確認)
- アプローチ: 上腕骨近位1/3・中1/3には前外側進入法、遠位1/3には後方進入法を用いる。後方進入法では橈骨神経の同定が鍵であり、三頭筋を丁寧に分割し鈍的な展開と愛護的な触知によって神経を同定する[1]
- 整復: 注意深く牽引しながら上腕の長さ・アライメント・回旋を整復し、斜骨折では先端鋭の整復鉗子や締結ワイヤを用いて整復位を維持する[1]
- ラグスクリュー挿入: 可能な限り骨片間に圧迫をかけることを目指し、望ましくはプレートのスクリュー孔からラグスクリューを挿入する[1]
- プレートの適用: DCPまたはLCPを用い、スクリューが骨折部の上下で皮質骨を6〜8か所(通常プレートの3〜4穴に相当)貫通するように設置する[1]
- スクリュー挿入: 上腕骨骨幹部遠位の斜骨折(12A2)に対するプレート固定では丁寧な術前計画が重要であり、スクリューの挿入順番を決めておく[1]
- 橈骨神経の確認: 橈骨神経がプレートと骨の間に挟まれていないか直視で確認することが必須である[1]
⚠️ ORIF プレート ピットフォール
- ✕橈骨神経損傷 → 後方進入法では橈骨神経の同定が鍵であり、三頭筋を丁寧に分割し、鈍的な展開と愛護的な触知によって神経を同定する[1]
- ✕不十分な固定・粗雑な軟部組織の扱い・全周性の骨膜剥離 → いずれも偽関節の原因となる[1]
- ✕骨質が不良な場合 → ロッキングスクリューやブレードプレートも利用できる。上腕骨では回旋力がかかるためLHSはバイコーティカルでなければならない[1]
- ✕術前計画の不足 → 圧迫・保護・架橋のどの目的で使用する場合も、適切な構造を組み立てるには慎重な計画とAOの原則の適用が必要[1]
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 順行性髄内釘または ラグスクリュー+プレート固定後
手術タイミング: 血管損傷を合併している症例以外は緊急手術の適応はほとんどない。開放骨折は迅速に対応する[1]
術後荷重(上肢): 皮膚創が治癒するまでは自動介助運動で肘と肩の関節可動域を徐々に拡大し、その後自動運動を開始する。抵抗運動はX線像で架橋仮骨が確認できてから開始する[1]
VTE予防: 長期臥床・高齢・肥満がある場合は低分子ヘパリンまたは弾性ストッキングを考慮
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、必要に応じてNSAIDsを短期併用。神経ブロック(腋窩ブロック等)を補助的に使用可能
リハビリテーション: 髄内釘固定術後は肩と肘の運動を直ちに開始できるが、回旋抵抗運動は避けるべきである[1]
フォローアップ
- 術後の初回評価: 橈骨神経の状態を慎重にチェックする。術中に神経の全長を確認しておらず術後に神経麻痺がみられた場合は、展開して確認する[1]
- 仮骨形成の確認: X線像で架橋仮骨が確認できてから上肢の抵抗運動を開始する[1]
- 骨癒合の判定: X線像で架橋仮骨を確認する
- 骨癒合後: インプラント抜去は原則不要(後方プレートは橈骨神経リスクがあるため除去は慎重に。除去する場合は術後最低1年後)
予後
- 骨癒合率(保存療法):機能的装具療法で95%の症例に骨癒合が得られ、良好な成績(good〜excellent)が報告されている[1]
- 骨癒合率(手術療法):600例のプレート固定の報告で癒合率92〜98%、97%以上が良好な機能的結果を達成[1]
- 橈骨神経麻痺:神経損傷の95%以上は自然に回復し、診察や定期的な電気生理学的検査でフォローアップする[1]
- 偽関節:機能的装具療法で治療した79例中5例(6.3%)に偽関節がみられ、手術治療を要した[3]
- 肩症状(ネイリング後):順行性の挿入は肩症状の発生率が高いことと関連している[1]
- 感染(プレート固定後):600例のプレート固定の報告で感染率は1%未満[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(12-A2 = 上腕骨骨幹部の単純な斜骨折)
- 2部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)
- 3橈骨神経機能を評価・記録(受傷時からの麻痺か否かを明記)
- 4X線で骨折線の形態を確認(短い斜骨折 → 12-A2、横骨折 → 12-A3)[2]
- 5血管損傷を除外(四肢全体の血管障害および神経障害について慎重に検討する)[1]
- 6開放骨折の有無を確認(創部・骨露出・Gustilo分類)
- 7治療方針を確認(大多数は保存療法が第一選択)
- 8手術適応がある場合は術式を確認(プレート固定はほとんどすべての上腕骨骨折に用いることができ、近位や遠位骨幹部で特に関節面に及ぶ骨折に最もよい適応)[1]
- 9保存療法の場合はブレース移行タイミングを計画(腫脹が軽減してから装具を装着する)[2]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Koch PP, et al.(2002)Functional results of humeral shaft fractures treated by functional bracing. J Orthop Trauma, 16:178–81.
- Wallny T, et al.(1997)Functional bracing of humeral shaft fractures. J Bone Joint Surg Br, 79-B:439–41.
- Ekholm R, et al.(2006)Fractures of the shaft of the humerus. J Bone Joint Surg Br, 88-B:1469–73. PMID: 17075092