上腕骨近位部の4骨片骨折(骨頭・大結節・小結節・骨幹部)で著明な転位を伴う関節内骨折 。AO分類11-C2に相当する。骨頭への血流障害(主に後上方骨頭動脈)が高率に生じるため、骨頭壊死(AVN)リスクが極めて高く 、手術術式の選択(ORIF vs 人工関節)が予後を左右する最重要決定事項となる。
11-C2は外反(valgus)または内反(varus)の骨頭変位を伴う4骨片骨折であり、大・小結節の分離・転位が特徴。高齢者では骨粗鬆症骨に発生することが多く、インプラント固定の失敗リスクが高い 。患者年齢・骨質・術者経験・結節の状態を総合的に評価して術式を選択する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨近位部骨折は年間約3〜4万件(高齢化に伴い増加傾向)。そのうち11-C(4骨片・関節内)型は約10〜15%
好発: 60歳以上の骨粗鬆症女性。若年者では高エネルギー外傷(交通事故・転落)
受傷機転: 高齢者は転倒時の外転・外旋強制、若年者は高エネルギー直達外力
関連骨折: 骨頭脱臼を伴う11-C3との鑑別が重要(11-C2は脱臼なし)
治療方針: 上腕骨近位部骨折は骨粗鬆症性骨折の中でも手術適応の判断が難しく、年齢・骨質・骨折型・活動性を組み合わせた個別評価が求められる
注意すべき合併症
骨頭壊死(AVN):4骨片骨折全体で約13〜34%(骨頭血流の回復が最重要規定因子)
内固定失敗・スクリュー切出し(cut-out):骨粗鬆症例で約10〜20%
腋窩神経損傷:上腕骨近位部骨折の約5〜10%(三角筋領域の感覚・運動障害)
上腕神経叢損傷:高エネルギー例で合併することがある
肩峰下インピンジメント:プレート位置不良(大結節から5mm未満)で発生
肩関節拘縮:術後リハビリ遅延・長期固定で高率
深部静脈血栓症・肺塞栓症:約1〜3%(上肢骨折では比較的低率だが高齢・長期臥床例では注意)
術後感染:約1〜2%
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 手術リスクが極めて高い高齢患者(ASA分類IV以上・重篤な心肺疾患) → 余命が極めて短い終末期患者(疼痛管理目的) → 低活動性かつ疼痛許容可能な例(非手術療法でも一定の機能回復が期待できる場合) → ただし4骨片転位型(11-C2)は機能予後が保存療法で著しく悪化するため、原則として手術が推奨される
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 11-C2(4骨片・著明転位)は原則として手術治療を選択 ℹ 概ね65歳未満・骨質良好(年齢より骨質・活動性を優先して個別判断):ORIF(ロッキングプレート固定)が第一選択 ℹ 65歳以上・骨質不良・結節粉砕:人工関節(半置換または逆置換型)を積極的に考慮 ℹ 外反変位型(valgus):骨頭の血流が一部温存されることがありORIFの適応を拡大できる ℹ 内反変位型(varus):骨頭血流が途絶しやすくAVNリスクが高いため人工関節を優先検討 ℹ 逆置換型人工肩関節(RSA):高齢・結節粉砕・ローテーターカフ機能不全例の第一選択となりうる ℹ 手術時期:全身状態許容後できるだけ早期(72時間以内が理想、2週以内を目標)
治療選択アルゴリズム — 年齢・骨質・骨折型に基づくORIF vs 人工関節選択フロー
診断・評価
肩関節周囲の腫脹・疼痛・上肢挙上不能を呈する。高エネルギー外傷後には血管・神経損傷を先に評価する。三角筋外側の感覚低下(腋窩神経損傷)を必ず確認する。
11-C2の診断ポイント:4骨片分離と転位の評価
X線3方向(AP像・Yビュー・腋窩像)で骨折型・骨頭転位方向・結節分離を評価する。単純X線で骨折型の評価が困難な場合(特に結節の分離程度・骨頭の血流評価)はCTによる3D再構成を施行する。骨頭の変位方向(外反/内反)と結節の残存血流(内側骨膜ヒンジの温存)の評価が術式選択に直結する。
術前X線(3方向)— AP像・Yビュー・腋窩像での骨折型評価
CT 3D再構成 — 4骨片分離・骨頭変位・結節転位の評価
AO分類11-C2 骨折型模式図 — 外反型・内反型の比較
【必須】 肩関節X線3方向(AP・Yビュー・腋窩像)
【考慮】 CT(3D再構成):骨折型・結節分離・骨頭傾斜の精密評価。MRI:骨頭血流・軟部組織評価(急性期は通常不要)
整復・評価の原則
✅ 許容される変形(ORIF適応範囲の目安)
✓ 骨頭頸部角(CCD角)が110〜160°の範囲(整復目標:約135°) ✓ 大結節転位が5mm未満(整復後) ✓ 小結節転位が10mm未満 ✓ 骨頭の内側骨膜ヒンジが温存されている(外反型で多い)
❌ 許容されない変形・ORIF困難な状態
✕ 骨頭の血流が完全に断たれていると判断される著明内反転位 ✕ 骨頭・結節の高度粉砕でORIFによる再建が不可能な場合 ✕ 大結節が小さく極めて薄い骨片(縫合固定が不能) ✕ 著明な骨粗鬆症でロッキングスクリューの固定力が得られない場合
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位またはデッキチェア位のセットアップ
ビーチチェア位(標準): 上体を30〜45°挙上し、患肢を術者が操作できる状態に保つ。頭部を対側に傾け、患肩を手術台端から突出させる。術野全体でC-arm透視が可能なことを確認する。仰臥位も許容されるが(ORIFから人工関節に術中転換する際に有利)、ビーチチェア位が標準的。
ORIF(ロッキングプレート固定)— 概ね65歳未満・骨質良好例の第一選択(骨質・活動性を優先して個別判断)
適応: 概ね65歳未満で骨質が良好な例(年齢よりも骨質・活動性を優先して個別に判断する)、外反型(valgus)で内側骨膜ヒンジが温存されている例、または内反型でも解剖学的整復と安定固定が期待できる例。
デルトペクトラルアプローチ — 三角筋・大胸筋間の展開
ロッキングプレート設置概念図 — プレート位置・スクリュー配置(AP / 軸位)
ローテーターカフ縫合糸挿入: 肩甲下筋・棘上筋・棘下筋腱の骨付着部に太い縫合糸を挿入し、骨片ハンドルとして使用。骨粗鬆症骨に鉗子・クランプを使用しない
骨頭整復(外反型): 骨頭の外反嵌入をデジタル圧迫・骨膜エレベーター・軸方向の梃子操作で解除。整復目標CCD角:約135°。骨片が嵌まっている場合は骨パンチで脱嵌
骨頭整復(内反型): 内反した骨頭を骨膜挙上でリフトアップし、外側から外反方向へ追加整復。内側カルカースクリューが骨頭安定に必須
仮固定: 整復した骨頭を2〜3本のKワイヤーでプレートと干渉しない位置(前方)から刺入し仮固定
結節整復: 縫合糸を棘下筋と肩甲下筋腱の間で水平に引き寄せて結び、大・小結節を骨頭の下に配置。ステップオフ・間隙がないことをX線で確認
プレート仮固定(骨幹部): プレートを骨幹部に長孔の中央で仮固定(3.5mm皮質骨スクリュー1本)。プレート位置:大結節頂上から5〜8mm遠位、上腕二頭筋溝から後方2〜4mm
骨頭スクリュー固定: ドリルをウッドペッカー法(少し進めては引く)で軟骨下骨まで慎重に掘り進め、深さゲージで確認。ロッキングヘッドスクリューを通常5本骨頭に設置。関節内穿破を絶対に避ける
骨幹部追加スクリュー: プレート遠位部に皮質骨スクリューを1〜2本追加
ローテーターカフ縫合: プレートの小孔を通じて棘上筋・棘下筋・肩甲下筋腱に中和縫合糸を追加で固定
最終透視確認: AP像・軸位像・複数肢位でスクリュー位置・関節面非穿破・整復位を確認
術中透視像 — 整復後のプレート位置・スクリュー確認(AP / 軸位)
⚠️ ORIFピットフォール
✕ プレートが大結節頂上から5mm未満 → 肩峰下インピンジメント ✕ プレートが上腕二頭筋溝に近すぎる(2mm未満)→ 腱・前上腕回旋動脈損傷 ✕ 骨頭スクリューが関節内穿破 → 関節軟骨損傷(ウッドペッカー法を徹底し深さゲージで確認) ✕ 内側骨膜ヒンジの破壊 → 骨頭血流喪失・AVN ✕ 結節の整復不良(ステップオフ・ギャップ残存)→ 機能予後悪化 ✕ 骨粗鬆症骨への鉗子使用 → 粉砕増悪(必ず縫合糸ハンドルを使用)
半置換型人工肩関節(HA)— 代替術式(65歳以上・骨質不良・結節温存可能例)
適応: 安定固定が得られない高齢患者で、結節が温存・縫合可能な例。ORIFよりも確実な早期機能回復が期待できる。結節の癒合が予後の最重要規定因子となる。
デルトペクトラルアプローチで展開後、骨頭を摘出し実測。骨幹髄腔を拡大し約25°後捻でステムを設置。大・小結節をプロステーシスフランジの下に配置し、骨頭から採取した海綿骨を結節下に充填する。太い非吸収縫合糸で結節を確実に固定する。
逆置換型人工肩関節(RSA)— 高齢・結節粉砕・ローテーターカフ機能不全例の第一選択
適応: 高齢者(75歳以上が多い)で結節が高度粉砕・菲薄化、またはローテーターカフ機能不全を合併する例。RSAはローテーターカフ機能に依存しないため、結節癒合が不良でも安定した機能回復が期待できる。
デルトペクトラルアプローチを使用(前外側・経三角筋アプローチは腋窩神経・三角筋損傷リスクのため非推奨)。関節窩周囲の軟部組織を完全に剥離し、グレノスフィアを設置(AP径より大きいサイズを選択してインピンジメントを防ぐ)。上腕コンポーネントを10〜20°後捻(使用システムにより異なる)で設置。棘下筋・肩甲下筋腱を太い非吸収縫合糸で固定する。
半置換型・逆置換型人工肩関節の概念図 — コンポーネント設置と結節固定
術後管理
術後X線像(AP / Yビュー)— プレート位置・整復位の確認
手術タイミング: 全身状態許容後できるだけ早期(理想は72時間以内)。2週間以内を目標とし、軟部組織の瘢痕化・骨片壊死が進む前に施行する
術後荷重: 上肢骨折のため下肢荷重制限はなし。患肢については骨癒合が確認されるまで挙上・持ち上げは制限。術翌日からの端坐位・起立・歩行は許容
VTE予防: 上肢骨折では下肢骨折より血栓リスクは低いが、高齢・長期臥床例では弾性ストッキング・早期離床を優先。抗凝固薬は全身状態・出血リスクに応じて個別判断
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDsは腎機能・消化管リスクに配慮。神経ブロック(腋窩神経ブロック・肩甲上神経ブロック)は術後疼痛管理に有効
リハビリテーション:
ORIF例:術翌日から疼痛に応じた他動的振り子運動を開始。外旋は術後6週まで制限。術後3〜9週に自動介助運動、術後9週以降に抵抗運動
HA・RSA例:術後6週は外転枕で固定し、他動運動90°まで(回旋は制限)。術後7〜11週に固定解除・自動運動拡大・筋力強化。術後11週以降に制限なし
フォローアップ
術後2週: 創部確認、単純X線(整復位・スクリュー位置)、疼痛・神経症状評価
術後6週: X線(骨癒合初期評価・スクリュー切出しの有無)、結節癒合評価、可動域確認
術後3ヶ月: X線・場合によりCT(骨癒合・骨頭壊死初期変化)、機能評価(Constant Score等)
術後6ヶ月〜2年: AVN(骨頭壊死)の経時的評価。発症は術後2年程度まで出現しうる。内固定失敗・骨頭虚脱を認めた場合は人工関節への転換を検討
腋窩神経機能(三角筋筋力・外側肩感覚)の経時的評価
予後
4骨片転位型(11-C2)は上腕骨近位部骨折の中で最も予後不良のグループに属するが、術式選択と技術により大きく差がある。
骨頭壊死(AVN):ORIF後 約13〜34%(外反型で低く、内反型で高い)
内固定失敗・スクリュー切出し:ORIF後 約10〜20%(骨粗鬆症例で高率)
HA術後の結節不癒合:約10〜20%(結節癒合が機能予後の最重要規定因子)
RSA術後の機能回復:HA・ORIFと比較してより安定した機能が期待できる(結節不癒合の影響が少ない)
Constant Score(術後1年):ORIF 平均60〜70点、RSA 平均65〜75点
再手術率:ORIF後 約15〜25%(骨頭壊死・固定失敗による人工関節転換含む)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-C2 = 上腕骨近位部・4骨片・著明転位・関節内骨折) 2 骨頭変位方向を確認(外反型 vs 内反型でAVNリスク・ORIF適応が異なる) 3 大・小結節の分離・転位・粉砕程度を確認(CT 3D再構成を推奨) 4 腋窩神経損傷を評価(三角筋外側感覚、術前・術後ともに必須) 5 術式選択の根拠を確認(年齢・骨質・結節状態・活動性 → ORIF / HA / RSA) 6 プレート位置を確認(大結節頂上から5〜8mm遠位、上腕二頭筋溝から2〜4mm後方) 7 骨頭スクリューの関節内穿破がないことをAP・軸位像で確認(ウッドペッカー法・深さゲージ) 8 術後リハビリプロトコルを確認(外旋制限6週・段階的可動域拡大・結節癒合優先)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Neer CS 2nd(1970)Displaced proximal humeral fractures. J Bone Joint Surg Am, 52(6):1077–89. PMID: 5455339
Laux CJ et al.(2019)Results of proximal humerus fracture fixation with angular stable implants: a systematic review. J Shoulder Elbow Surg, 28(8):1530–9.
Ferrel JR et al.(2015)Reverse total shoulder arthroplasty versus hemiarthroplasty for proximal humeral fractures: a systematic review. J Orthop Trauma, 29(1):60–8. PMID: 25186842