上腕骨近位部の関節内(解剖頸)骨折を含む4パート骨折のうち、転位が軽度なもの。AO分類11-C1に相当し、大結節・小結節・解剖頸・骨幹部の4骨片構造をもちながら転位量が少ないことが特徴である。骨頭への血流(主に上前方回旋上腕動脈・後方回旋上腕動脈)が温存されやすい一方で、不適切な整復・固定による骨頭壊死(AVN)と骨癒合不全が最大の懸念となる。
骨頭骨片は腱板の牽引で内反し、外傷の軸圧で外反変形を生じうる[3]。外反嵌入型骨折は徒手整復と経皮的ピン・スクリュー挿入が最適とされる[1]。術後は内反変形を伴う整復位喪失と、それに続くスクリューの穿破が多い[3]。
重症度・疫学
発生頻度: 上腕骨近位部骨折は全身で3番目に多い骨折で、全骨折の4〜10%を占める。大部分は転位がないか最小限で保存療法で治癒し、手術を要するのは10〜20%である[1]
好発: 主に高齢者の低エネルギー外傷で起こり、骨粗鬆症が重大なリスク因子で高齢女性で発生率が高い。若年者では通常高エネルギー外傷で発生し、より重い軟部組織損傷と多骨片骨折を伴う[1]
受傷機転: 高齢者は立位の高さから上肢を伸ばしたままの転倒、若年者は高エネルギー外傷が多く、痙攣発作や感電でも生じうる[1]
骨頭壊死(AVN)リスク: 解剖頚骨折は、選択した治療法にかかわらず、主栄養動脈の破綻によって骨頭骨片の骨頭壊死を起こしやすい[3]
治療方針: 骨折型と患者背景(年齢・骨質・活動性・併存疾患)を組み合わせた個別化治療が基本となる
注意すべき合併症
- 骨頭壊死(AVN):全体の35%近く(疼痛・可動域制限・肩関節症をもたらし、軟部組織の展開を伴うプレート固定では発生率が高いとされる)[1]
- 変形癒合・偽関節:変形癒合は内側皮質骨の支持性の喪失を伴うことが多く、内反変形をもたらす(内側皮質の支持部の整復が重要)[1]
- 腋窩神経損傷:脱臼骨折や大きく転位した骨片の整復時に起こる。展開やレトラクタ挿入を慎重に行うとリスクが減る[1]
- 螺子の関節内穿破:内固定時の術中・術後管理上の重大ピットフォール
- 肩関節拘縮:保存療法でも手術療法でも、最大限の機能回復のためリハビリテーションを欠かさない。骨癒合後も拘縮が残れば理学療法士による他動可動域訓練を追加する[1]
- 深部静脈血栓症・肺塞栓症:約1〜3%(上肢骨折では下肢骨折より低率)
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →超高齢者、患肢の機能が失われている例、進行した薬物・アルコール乱用例、重篤な併存疾患を有する例[3]
- →認知機能障害のある例[3]
- →安定した骨折・転位が最小限の骨折、および一部の転位のある骨折[3]
- →転位のない骨折および嵌入骨折は、2〜3週間の三角巾固定と早期振り子運動のあと、自動可動域訓練へ進める[1]
4-part骨折のほとんど(特に若年患者)と過度の内反・外反変形は、観血的整復とロッキングプレート固定が最適とされる[1]。外反嵌入型骨折は徒手整復と経皮的ピン・スクリュー挿入が最適とされる[1]。高齢患者の重度の脱臼骨折や腱板欠損合併例は、リバース型人工肩関節置換術が最適とされる[1]。
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ11-C1(軽度転位・4パート骨折)は原則として手術治療
- ℹ外反型(valgus malalignment):過度の外反変形は観血的整復とロッキングプレート固定が最適とされる[1]
- ℹ外反嵌入型骨折、骨質良好な若年患者の単純な骨折型:徒手整復と経皮的ピン・スクリュー挿入が最適とされる[1]
- ℹ内反型(varus malalignment):ロッキングプレート固定では、特に内側皮質の粉砕を伴う場合に calcar スクリューで内側支持を保つ[1]
- ℹ再建不能な骨頭骨折・骨頭分割骨折・脱臼骨折、骨壊死リスクが高いか肩機能が既に低下した70歳超の患者:一次的な人工肩関節置換術(リバース型または解剖型)が最良の選択肢となりうる[3]
- ℹ緊急手術を要することは稀で、手術のタイミングが臨床成績に与える影響についての研究はほとんどない。治療開始が遅れても満足のいく結果が期待されるが、比較研究では早期の外科的介入のほうがよい機能成績が得られるようである[1]
治療選択アルゴリズム — 11-C1骨折の術式選択フロー
診断・評価
腫脹や打撲傷は周辺領域に広がることがある。肩関節の変形は顕著でないこともあり、明らかな変形は脱臼を示唆する。可動域制限は腱板損傷と区別し、腋窩神経の運動・感覚機能は常に評価する[1]。
X線評価ポイント:4パート骨折の確認と転位量の計測
肩関節の真の正面像(true AP)・スカプラY像・軸射像(axillary view)の3方向(外傷シリーズ)で評価し、急性期で肩を外転できないときは軸射像の変法(Velpeau view)を用いる[1]。転位は1cmを超えるずれ、45°を超える角度変形で判定する[1]。CTは複雑な骨折の評価に重要な追加情報を与える[1]。
X線正面像(AP)— 上腕骨近位部4パート骨折・軽度転位型
腋窩像(Axillary lateral)— 骨頭傾斜・結節転位の評価
CT三次元再構成 — 4パート骨折パターン(外反型・内反型)の確認
【必須】 肩関節3方向X線(真の正面像〔true AP〕・スカプラY像・軸射像)[1]
【推奨】 CT:複雑な骨折の評価に重要な追加情報を与え、冠状面・矢状面・三次元再構築で骨折線・関節窩・上腕骨頭を描出する[1]
【考慮】 MRI:単純X線で骨折形態を確定できないときに追加する画像検査(CT・MRIのいずれか、または両方)[3]
✅ 内固定を考慮できる整復位
- ✓内側皮質が損傷なく解剖学的に整復され粉砕がない、骨頭と骨幹部が安定して嵌入している、または上向き斜めのロッキングスクリューが骨頭骨片の下内側1/4に適切に挿入されている(十分な内側支持)[3]
- ✓骨頭の向き・外科頚の嵌入・結節の転位を確認する(いずれも成績と強く相関する)[1]
- ✓正常な上腕骨頚体角(CCD角 135°)が再建されている[1]
- ✓骨頭の向き・外科頚の嵌入・結節の転位と内側ヒンジの支持性を確認する(いずれも整復・安定化や成績の指標となる)[1]
❌ 許容されない変形・内固定困難な状況
- ✕内反転位の残存(20°の内反転位で、既に挙上時の腱板の負荷が有意に増え、機能成績を大きく損なう)[3]
- ✕骨頭分割骨折(head-splitting fracture)、高齢患者の著しい粉砕・脱臼骨折・転位のある多骨片骨折[1]
- ✕骨粗鬆症で皮質が薄く軟骨下骨が脆弱な複雑骨折(スクリューの固定性が不十分で、ロッキングプレートでも整復位の喪失を防げないことがある)[1]
- ✕十分な整復と安定した固定が得られず、骨頭骨片の血行が障害されているか危うい(一次的な人工関節置換術を考慮)[3]
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(前外側アプローチ)
ビーチチェア位(標準): 肩を手術台のX線透過部に置き、透視装置もドレーピングする。透視画面は手術チームと放射線技師から全景が見える位置に置く[1]。腋窩神経は肩峰先端から約7cm遠位で三角筋を横切る[3]。
ORIF — ロッキングプレート固定(第一選択)
適応: ほとんどの4-part骨折(特に若年患者)と過度の内反・外反変形で最適とされる。生体力学的安定性のため、プレート固定の補助として縫合糸固定を併用する[1]。
アプローチ — 三角筋胸筋間(三角筋経由)アプローチ
ロッキングプレート配置概念図(AP / 腋窩像)
- 腱板縫合糸の設置: 肩甲下筋腱・棘上筋腱・棘下筋腱の腱-骨接合部に牽引縫合糸をかけ、結節骨片をさらに粉砕せずに操作・整復できるようにする[1]
- 骨頭整復: 3-partまたは4-part骨折では、ジョイスティック手技、あるいはエレバまたは骨片打ち込み器(bone tamp)で骨頭骨片を操作し、正常な上腕骨頚体角を再建する[1]
- 骨頭整復(内反型): エレバまたは骨片打ち込み器(bone tamp)を使用して内反している骨頭を外反位に戻す[1]
- 仮固定: 骨頭頂部から骨幹部へ、または骨幹部前面から骨頭へ一時的にKワイヤーを挿入して整復を維持し、プレート設置を妨げないようにする[1]
- プレート設置: 大結節の頂点から約5〜8mm遠位、上腕骨骨幹部の軸に沿ったアライメントで、二頭筋溝(結節間溝)の少し後方(2〜4mm)に設置する[1]
- 骨頭螺子刺入: 骨頭内にロッキングスクリューを設置し、すべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングして関節への貫通を防ぐ[1]
- 骨幹部固定: 骨幹部にスクリューを設置する。腋窩神経は肩峰先端から約7cm遠位で三角筋を横切るため、その走行に注意する[3]
- 補強縫合: 腱板にかけた縫合糸でプレート固定を補強する。プレート固定の補助としての縫合糸固定は生体力学的安定性のために必須とされる[1]
- 最終確認: 透視で整復位・プレート位置・スクリュー長・関節面の非貫通を確認する。整復位の確認には透視が必須である[3]
術中透視像 — プレート位置・螺子配置確認(AP / 腋窩像)
⚠️ ロッキングプレート固定 ピットフォール
- ✕プレートを大結節の頂点に近づけすぎない(正しい位置は大結節の頂点から約5〜8mm遠位)[1]
- ✕プレートは二頭筋溝(結節間溝)の外側に設置し、溝に近づけすぎない[1]
- ✕スクリューの挿入位置を透視で確認しない → 術中の技術的な誤りによるスクリューの関節貫通[1]
- ✕内側支持(medial calcar)の整復が不十分なまま固定 → 内反嵌入を伴う二次転位[3]
- ✕腋窩神経は肩峰先端から約7cm遠位で三角筋を横切る → この高さでの展開・スクリュー刺入で腋窩神経損傷[3]
MIO 経皮的螺子固定 — 代替選択肢(若年・外反型)
適応: 徒手整復および経皮的ピン・スクリュー挿入は、骨質良好な若年患者における単純な骨折型や外反嵌入型骨折に最適とされる[1]。
リバース人工肩関節置換(RSA)— 高齢・骨質不良例
適応: 再建不能な骨頭骨折、骨頭分割骨折・脱臼骨折、骨頭壊死のリスクが高い70歳超の患者や受傷前から肩機能が低下している患者では、一次的な人工肩関節置換術(リバース型または解剖学的)が最良の選択肢となりうる[3]。
術後管理
術後X線像(AP / 腋窩像)— プレート位置・整復位確認
手術タイミング: 緊急手術を要することは稀で、治療開始が遅れても満足のいく結果が期待されるが、比較研究では早期の外科的介入のほうがよい機能成績が得られるようである[1]
術後荷重(上肢): 術後10〜14日よりリハビリテーションを始め、術後6週間は振子運動・他動的な可動域訓練とし、可動域の自動訓練は禁止する[1]
VTE予防: 上肢骨折のVTEリスクは下肢骨折より低いが、臥床時間が長い高齢者では弾性包帯・早期離床を推奨。個別リスク評価に基づき抗凝固薬を検討
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDsは骨癒合抑制の可能性があるため長期使用は避ける。術後早期は腕神経叢ブロック(斜角筋間アプローチ)が有効
リハビリテーション: 保存療法・手術療法とも10〜14日後から開始する。第1相(0〜6週)は振子運動と他動的な可動域訓練とし、術後6週間は自動訓練を禁止する。第2相(6〜10週)は2〜3週間装具を装着し、臨床的に骨癒合傾向がみられ、X線上で骨片同士が一塊として動き転位がない場合に自動介助可動域運動を始める。第3相(10週以降)は、骨癒合は得られているが関節拘縮がある場合に、理学療法士による徒手的な他動運動と等張性運動を追加する[1]
フォローアップ
- 術後3週以内: 合併症は一般に、理学療法を始める術後3週以内に生じる[3]
- 術後6週: X線で骨片同士が一塊として動き転位がないこと、臨床的な骨癒合傾向を確認し、自動介助可動域運動の開始を判断する[1]
- 術後10週以降: 骨癒合を評価し、骨癒合は得られているが関節拘縮がある場合は理学療法士による他動運動・等張性運動を追加する[1]
- 術後2年以上: 骨頭の生存性(骨頭壊死)の経過観察は2年以上が適切とされる。スクリューの関節内逸脱(cutout)も確認する[3]
- 骨接合術が失敗した場合、リバース型人工肩関節置換術は信頼できる良好なサルベージ手段となる[3]
予後
11-C1(軽度転位型)の予後に最も重要な要因は、骨折の粉砕と転位の程度、そして腱板損傷の有無である[1]。
- 骨癒合率:骨質良好な若中年例で約80〜90%(高齢・骨粗鬆症例では低下)
- 骨頭壊死(AVN):全体の35%近くとされ、プレート固定では軟部組織の展開を伴うため発生率が高い[1]
- 再手術:ロッキングプレート固定後の再手術率は最大25%と高い水準にとどまっている[3]
- 術後可動域(前方挙上):良好例で150°前後、平均では120〜140°程度
- 患者満足度:内固定後は概ね60〜80%(年齢・骨質・合併症に依存)
- RSAでは、修復不能な腱板損傷があっても許容できる肩機能と高い患者満足度が得られる[3]
高齢患者では、早期の積極的なリハビリテーションと二次的な病態の予防のために、老年科医との密な連携が勧められる[3]。
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(11-C1 = 関節内・軽度転位型の4パート骨折)
- 2サブタイプを確認(外反型 valgus malalignment vs 内反型 varus malalignment)
- 3骨折の4パート構造(上腕骨頭・大結節・小結節・上腕骨骨幹部)を確認[1]
- 4腋窩神経損傷の有無を評価(三角筋外側の感覚・三角筋収縮)
- 5CT評価を実施(骨折パターン・粉砕・関節面・術前計画)
- 6術式選択の根拠を確認(内固定 vs RSA:年齢・骨質・変形方向)
- 7注意すべき合併症を把握(スクリューの関節貫通・整復位喪失・骨頭壊死・変形癒合/偽関節・腋窩神経損傷)[1]
- 8術後リハビリプロトコルを確認(術後10〜14日より開始、6週間は振子運動・他動訓練で自動訓練禁止)[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Neer CS 2nd(1970)Displaced proximal humeral fractures. Part I. Classification and evaluation. J Bone Joint Surg Am, 52(6):1077–89. PMID: 5455339
- Laux CJ, Grubhofer F, Werner CML, et al.(2017)Current concepts in locking plate fixation of proximal humerus fractures. J Orthop Surg Res, 12(1):137. PMID: 28946902