上腕骨近位部の関節内4骨片骨折(骨頭・大結節・小結節・骨幹部)に肩関節脱臼を合併した最重症骨折 。AO分類11-C3に相当する。脱臼により上腕骨頭への血流(前上腕回旋動脈弓状枝および後上腕回旋動脈)が高率に途絶し、骨頭壊死(AVN)リスクは50〜75%と極めて高い 。
11-C2(脱臼非合併の著明転位型)との最大の違いは「脱臼による骨頭血流の完全途絶」であり、骨頭温存・内固定(ORIF)を選択できるケースは限られる。高齢者・骨質不良例では逆置換型人工肩関節(RSA)が第一選択 となることが多く、術者の経験と患者背景に応じた治療選択が予後を左右する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨近位部骨折は年間約5万件。そのうち4骨片骨折(11-C型)は約10〜15%。脱臼合併型(11-C3)はさらにその一部で、全上腕骨近位部骨折の約2〜5%
好発: 65歳以上の骨粗鬆症女性(低エネルギー転倒)が主体。若年・中高年では高エネルギー外傷(交通事故・スポーツ)
受傷機転: 肩関節外転・外旋位での転倒・直達外力。前方脱臼合併が最多(後方脱臼合併例もある)
骨頭壊死(AVN)発生率: 4骨片骨折・脱臼合併型で50〜75%(骨頭血流の完全途絶が主因)
治療方針: 4骨片骨折・脱臼合併型は内固定後の骨頭壊死率が高く(Boileauら, 2001 で50〜75%)、人工関節(RSA または HA)が選択されることが多い
注意すべき合併症
骨頭壊死(AVN):50〜75%(脱臼合併例では最大の懸念)
腋窩神経損傷:約18〜30%(脱臼・転位により伸張)
腕神経叢損傷:重篤例では全体の約5%
腋窩動脈損傷:約1〜3%(高エネルギー外傷、高齢者の動脈硬化血管)
結節の骨癒合不全:人工関節術後に結節再建が不十分な場合(HA術後で15〜30%)
深部静脈血栓症・肺塞栓症:約5%(上肢骨折でも高齢者では生命の危機)
術後反射性交感神経ジストロフィー(CRPS):約2〜5%
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ ASA分類IV以上など手術リスクが極めて高い終末期患者のみ考慮 → 脱臼合併型では骨頭血流が完全に途絶しており保存療法による骨頭壊死を免れないため、保存療法は例外的な緩和目的に限定する → 保存療法を選択する場合も、脱臼の整復(愛護的徒手整復)は必ず試みる
脱臼合併4骨片骨折(11-C3)は骨頭血流の完全途絶により内固定後の骨頭壊死・固定失敗リスクが高く、高齢者・骨質不良例では人工関節(特にRSA)が第一選択 となる。一方、若年・骨質良好例では骨頭温存・ORIF(ロッキングプレート)も考慮されるが、AVNリスクについて術前十分なインフォームドコンセントが必要である。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 11-C3(脱臼合併型)は原則として手術適応 ℹ 受傷後72時間以内の早期手術が推奨(血管損傷・神経損傷の合併確認を優先) ℹ 高齢者(65歳以上)・骨質不良・結節粉砕:逆置換型人工肩関節(RSA) — 第一選択 ℹ 高齢者・骨質中等度・結節温存可能:半置換型人工肩関節(HA) — ただしRSAへの移行が増加傾向 ℹ 若年者(65歳未満)・骨質良好・脱臼整復可能:ORIF(ロッキングプレート) — AVNリスク(50〜75%)について術前説明必須 ℹ 腋窩動脈損傷合併:血管外科との緊急連携・血管修復後に骨折固定 ℹ 腋窩神経損傷:術後経過観察(多くは伸張性損傷で自然回復)
治療選択アルゴリズム — 脱臼合併4骨片骨折における術式選択フロー
診断・評価
肩関節部の著明な腫脹・変形・疼痛と荷重不能を呈する。脱臼合併により肩の外観変形(三角筋扁平化)が顕著。腋窩神経・腕神経叢・腋窩動脈の評価が必須 。腋窩神経損傷では三角筋域の感覚低下と肩外転筋力低下を確認する。橈骨動脈触知・末梢循環の確認も怠らない。
11-C3の診断ポイント:脱臼の方向と4骨片の確認
X線正面像(true AP)・スキャプラーY像・腋窩像の3方向撮影で、①脱臼の方向(前方が最多)、②大結節・小結節の分離・転位、③骨幹部との骨折線を評価する。腋窩像は脱臼の方向確定に必須 。CTおよびCT 3D再構成により骨折形態(粉砕度・結節の大きさ・関節面の状態)を詳細に評価し、治療方針(ORIF vs 人工関節の種類)を決定する。
X線3方向撮影 — 正面・Yビュー・腋窩像(脱臼方向と骨片分離の確認)
CT 3D再構成 — 骨頭脱臼・4骨片分離・関節面評価
11-C3分類模式図 — 前方脱臼合併型(単純・粉砕型)の骨片配置比較
【必須】 肩関節true AP・スキャプラーY像・腋窩像(3方向X線)
【必須】 CT(薄切・3D再構成):骨折形態・粉砕度・結節の評価、人工関節サイジング
【必須】 神経学的評価:腋窩神経(三角筋域感覚・外転筋力)、橈骨神経・正中神経・尺骨神経
【必須】 末梢血管評価:橈骨動脈触知・毛細血管再充填、腋窩動脈損傷疑い時はCT angiography
✅ 許容される所見・整復
✓ 前方脱臼では愛護的徒手整復(Hippocrates法・Stimson法)を先行して試みる ✓ 整復後のX線・CTで骨折形態を再評価する ✓ 腋窩神経の軽度伸張損傷(Sunderland 1〜2度)は保存的に経過観察 ✓ 若年者の骨質良好例でORIF施行時:整復後の骨頭頸部角140〜160°(外反型)の目安
❌ 許容されない状態・見落とし
✕ 腋窩動脈損傷の見落とし(異常な腫脹・末梢虚血・大血腫) ✕ 脱臼整復時の過度の牽引・強引な整復操作(骨片追加損傷・神経損傷増悪) ✕ CT評価なしでの手術方針決定(骨折形態の過小評価) ✕ 腋窩像省略による脱臼方向の誤診(後方脱臼の見落とし) ✕ ORIF後の腋窩神経圧迫・骨頭壊死の経過観察忘れ
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(肩を術台端から突出させ患肢フリードレープ)
ビーチチェア位(標準): 患者を30〜45°挙上した半坐位とし、患肩を手術台の端から外側に突出させる。頭部は反対側に向け固定。患肢はフリードレープし術者が自由に操作できる状態とする。透視(C-arm)をtrue AP・腋窩像の双方が得られるよう配置する。仰臥位も許容されるが、ORIFからarthroplastyへの術中変更時にはビーチチェア位が有利。
逆置換型人工肩関節(RSA)— 第一選択(高齢者・骨質不良・結節粉砕例)
適応: 高齢者(65歳以上)・骨粗鬆症・結節粉砕著明・ローテーターカフ不全合併例。ローテーターカフ機能に依存しない安定した機能回復が得られる。
デルトペクトラルアプローチ展開(三角筋・大胸筋間隙からの展開)
アプローチ: デルトペクトラルアプローチ。皮膚切開は鎖骨〜烏口突起〜三角筋中央部に向けて弧状。三角筋・大胸筋間隙を開放し頭静脈を外側(三角筋側)に保護して温存する
上腕二頭筋長頭腱処理: 回旋筋腱板間隙付近で上腕二頭筋長頭腱腱切り。一時的に大胸筋腱に縫合しておく(後にテノデーシスまたは切除)
骨頭回収・計測: 腱板筋付着部を温存しつつ内側関節包を愛護的に剥離し骨頭を回収。骨頭の最小径を実測し(粉砕で計測困難な場合は対側X線で推算)プロテーゼサイズを決定
関節窩処理: 完全な関節窩周囲軟部組織解放。Glenoidに骨折がある場合は骨接合を先行。ガイドプレートを関節窩下端円に平行に設置、中央Kワイヤーを関節窩中心に刺入(透視確認)。関節窩面をリーマーで形成後ベースプレートを固定し中央ペグ・スクリューで安定させる
グレノスフィア設置: インピンジメント予防のためグレノスフィアサイズはAP径を超える大径を選択して設置
骨幹部準備: 拡髄リーマーで段階的に髄腔拡大(骨粗鬆症骨は愛護的に)。トライアルプロテーゼを逆捻じれ(retrotorsion)10〜20°(使用システムにより異なる)で挿入し軟部組織張力・安定性・インピンジメントを確認
結節の縫合固定: 上腕骨幹部に2.0mmドリルで2穴ずつ穿孔。二頭筋溝の両側から非吸収太糸(ケーブル)を棘上筋・肩甲下筋腱付着結節および プロテーゼ穴に通す。セメント固定で本番プロテーゼを決定位置に固定後、結節を軽度重なりが残る位置に寄せてタイ。3本の横縫合で結節をプロテーゼに抱き込む
最終確認: true AP透視で骨頭中心位置・結節位置・プロテーゼ高さを確認。安定性テスト施行後に閉創
⚠️ RSA ピットフォール
✕ 骨粗鬆症骨にクランプ・把持鉗子を使用する → 粉砕増悪。結節の操作はすべて縫合糸ハンドルで行う ✕ グレノスフィアのサイズ不足 → インピンジメント・スカプラーノッチングの原因 ✕ プロテーゼの過度の短縮設置 → 三角筋のたるみ・脱臼リスク ✕ 結節固定の不良(ギャップ・ステップオフ) → 結節不癒合・回旋力低下 ✕ 腋窩神経の損傷(デルトペクトラルアプローチ中の牽引・熱傷) ✕ retrotorsionの設定誤り(10〜20°を目安;使用システムで異なる。過大では後方不安定性)
半置換型人工肩関節(HA)— 代替選択肢(高齢者・結節温存可能例)
適応: 骨質中等度の高齢者で結節の修復が十分見込める例。近年はRSAへの移行が増加傾向にあり、結節癒合が予後の鍵となる。デルトペクトラルアプローチを使用。
骨頭計測: 最小径を実測しプロテーゼサイズ決定(粉砕例は対側X線参照)
プロテーゼ高さ: 内側後方骨幹部延長(h)を計測し設置高さを決定。retroversion約25°(上顆軸に対して)
髄腔準備・設置: 段階的リーマー拡髄。大転子頂上からの距離hでプロテーゼが突出する位置に仮設置
結節固定: 大結節・小結節に2.0mmドリル穴を作成。ケーブルまたは強固な縫合糸を結節穴・プロテーゼ穴に通す。結節下面に骨頭由来の海綿骨を充填し骨癒合を促進
本番プロテーゼ設置・結節タイ: フランジ下に結節を収めた状態でタイ。stay sutureで腱板腱を確実に固定
⚠️ HA ピットフォール
✕ 結節固定の不良・ギャップ → 結節不癒合(HA術後最大の合併症、15〜30%) ✕ プロテーゼ高さ設定の誤り(過低・過高とも機能予後を悪化) ✕ retroversion設定誤り(25°を目安;骨折線・二頭筋溝を参照) ✕ 骨粗鬆症骨への把持鉗子使用による粉砕増悪
ORIF(ロッキングプレート)— 若年・骨質良好例のみ
適応: 65歳未満・骨質良好・脱臼整復可能・4骨片分離であるが内側骨膜ヒンジ温存の可能性がある例。AVNリスク(50〜75%)について術前十分な説明が必要。
ロッキングプレート設置概念図(AP / 軸位)
脱臼整復: ビーチチェア位で愛護的整復。デルトペクトラルアプローチ展開後に直視下整復を行う
骨頭整復: 骨頭を関節窩に整復し、Kワイヤーで仮固定。透視でtrue AP・軸位像を確認
結節整復: 大結節・小結節を腱板縫合糸でハンドルしながら解剖学的位置に整復
プレート設置: 大結節頂上から5〜8mm遠位、二頭筋溝後方2〜4mmにロッキングプレートを当てる
スクリュー固定: 骨頭内に角度安定スクリュー(5本程度)をfan状に設置。内反型ではカルカースクリューを必ず追加。骨幹部に2〜3本の両皮質スクリューを設置
最終確認: AP・軸位透視でスクリュー関節面非穿破・整復位・プレート位置を確認
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 骨頭壊死(AVN)発生率50〜75%について術前にインフォームドコンセントが必須 ✕ カルカースクリューの省略(内反再転位の主因) ✕ スクリューの関節面穿破(軸位像での確認不足) ✕ 脱臼整復操作中の骨片追加粉砕(愛護的操作の徹底) ✕ プレートの設置位置誤り(大結節頂上から5mm以内 → 肩峰下インピンジメント)
術後管理
術後X線像(AP / Yビュー)— プロテーゼ位置・結節位置・整復確認
手術タイミング: 受傷後72時間以内が推奨。腋窩動脈損傷合併例は緊急手術(血管修復→骨折固定の順)
術後荷重(上肢): 術後6週間は外転枕(abduction pillow)での患肢固定。上肢の荷重は発生しないが、内旋・後屈は禁忌
VTE予防: 上肢骨折・肩関節手術でのルーチン抗凝固薬投与は一般的に推奨されない。高齢者・長期臥床・重篤な全身疾患など高リスク例では個別リスク評価のうえ、エドキサバン(リクシアナ)または低分子ヘパリン皮下注(術後12〜24時間より)を考慮する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDsは腎機能・消化管リスクに配慮。神経ブロック(腕神経叢ブロック)は術後急性期疼痛管理に有効
リハビリテーション: 術後1〜6週は外転枕固定・他動的可動域訓練(外転・前屈90°まで)。内旋・後屈は禁止。術後7〜11週:外転枕除去、補助・能動的な90°以上の運動開始、慎重な回旋運動。術後12週以降:全可動域練習・抵抗訓練・日常生活動作訓練
フォローアップ
術後2週: 創部確認、X線撮影(プロテーゼ・結節位置の確認)、外転枕継続
術後6週: X線撮影、結節骨癒合評価、外転枕除去、可動域訓練移行
術後3ヶ月: X線撮影、骨癒合・プロテーゼ位置・機能評価(外転・前屈角度)
術後6ヶ月〜2年: AVN発症の経時的評価(ORIF例)、プロテーゼ弛緩・スカプラーノッチングの評価(RSA例)、機能予後(Constant scoreなど)評価
結節不癒合・神経症状残存・インプラントトラブルがあれば追加治療(再手術・神経修復)を検討
予後
脱臼合併4骨片骨折(11-C3)は上腕骨近位部骨折の中で最も予後が厳しい骨折型である。
骨頭壊死(AVN):ORIF後50〜75%(最大の問題)
RSA術後5年疼痛除去率:約85〜90%(ローテーターカフ機能に依存しない)
HA術後の結節不癒合率:15〜30%(結節固定の精度が機能予後を決定)
RSA術後外転可動域:平均100〜120°(内外旋は制限されやすい)
HA術後外転可動域:結節癒合例で平均90〜110°、不癒合例では著明に低下
腋窩神経損傷の回復:伸張性損傷(Sunderland 1〜2度)の多くは3〜6ヶ月で自然回復
術後1年死亡率:約10〜20%(高齢者の全身状態に依存)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-C3 = 上腕骨近位部・関節内4骨片骨折・脱臼合併型) 2 脱臼方向を確認(腋窩像必須:前方脱臼が最多、後方脱臼に注意) 3 腋窩神経・腕神経叢損傷の神経学的評価を記録(三角筋域感覚・外転筋力) 4 腋窩動脈損傷を除外(異常腫脹・末梢虚血・大血腫 → CT angiography) 5 CT 3D再構成で骨折形態・粉砕度・結節の大きさを評価し治療方針(ORIF vs HA vs RSA)を決定 6 手術術式の選択根拠を記録(年齢・骨質・結節状態・ローテーターカフ機能) 7 RSA施行時:結節固定の確実性(ギャップ・ステップオフの有無)を術中確認 8 ORIF施行時:骨頭壊死(AVN)リスク(50〜75%)について術前インフォームドコンセント取得を確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Boileau P et al.(2001)Displacement of the tuberosities of the humerus in acute four-part fractures. J Bone Joint Surg Am, 83(12):1781–92.
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Ferrel JR et al.(2015)Reverse Total Shoulder Arthroplasty Versus Hemiarthroplasty for Proximal Humeral Fractures: A Systematic Review. J Orthop Trauma, 29(1):60–8. PMID: 25186842