上腕骨近位部の関節外3-part骨折のうち、外科頸と大結節または小結節に骨折線をもち、骨片間の嵌頓(impaction)がない不安定型。AO分類11-B2に相当する。骨片が3つ以上に分離し、筋付着による転位力(回旋筋腱板・三角筋・大胸筋)が強くはたらくため、整復・安定した固定が困難であり、適切な術式選択が機能予後を左右する。
外科頸骨折に大結節または小結節の骨折が合併することで近位骨片が骨頭・結節・骨幹部の3骨片構成となり、腱板機能の破綻と骨頭血流障害のリスクを伴う点が2骨片型(11-B1)と本質的に異なる。大結節と小結節の両方に骨折が及ぶ場合は11-C(4骨片型)との鑑別が必要である。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨近位部骨折は日本の骨折全体の約4〜6%を占め、高齢者で増加傾向。11-B2型(3骨片・非嵌頓型)は上腕骨近位部骨折の約10〜15%
好発: 65歳以上の骨粗鬆症を有する高齢女性が主体(女性:男性 ≈ 3:1)。若年者では高エネルギー外傷による受傷もある
受傷機転: 上肢伸展位での転倒(低エネルギー)、交通外傷・スポーツ外傷(高エネルギー)
骨折の特徴: 腋窩神経(約21〜36%)・腋窩動脈・腕神経叢損傷を合併し得る。非嵌頓型は嵌頓型に比べ骨片間接触が少なく、保存療法での骨癒合が不安定
分類の準拠: Neer分類および AO/OTA 分類に準拠
注意すべき合併症
- 腋窩神経損傷:約21〜36%(三角筋麻痺・感覚障害)
- 腋窩動脈損傷:高エネルギー例で稀だが生命リスクあり
- 腕神経叢損傷:高齢者の骨折・脱臼合併例で注意
- 骨頭壊死(AVN):3骨片以上の骨折で約3〜14%(内側軟骨膜剥離の程度に依存)
- 偽関節・骨癒合不全:非嵌頓型では保存療法での発生リスク高い
- 肩関節拘縮:長期固定・不適切なリハビリで高率(早期運動療法が重要)
- 内固定失敗・スクリュー関節内穿破:骨粗鬆症例で特に注意
- 回旋筋腱板機能不全:結節骨片の整復不良による腱板機能低下
治療方針
⚠️ 保存療法の適応
- →軽度転位例(骨片ずれ < 1cm、外科頸の角状変形 < 20〜30°)で全身状態が不良な場合
- →手術リスクが極めて高い患者(ASA分類 IV以上)
- →余命が短い終末期患者(疼痛管理目的)
- →非嵌頓型の多くは骨片間に接触が少なく、保存療法での骨癒合が不安定なため手術適応となることが多い
非嵌頓型の11-B2骨折は骨片間の安定性が乏しく、原則として手術による整復・固定が推奨される。腱板付着の結節骨片を解剖学的に整復し、上腕骨頭の血流を温存することが機能予後の鍵となる。
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ大結節転位 > 5mm(腱板機能・肩峰下インピンジメント回避のため)
- ℹ外科頸の角状変形 > 20〜30°または骨片転位 > 1cm
- ℹ神経血管損傷合併例
- ℹ第一選択:ORIF — ロッキングプレート固定(deltopectoral approach)
- ℹ代替①:髄内釘(Straight nail)— 低侵襲・骨粗鬆症例に適する
- ℹ代替②:MIOプレート固定(経皮的)— 軟部組織侵襲低減目的
- ℹ代替③:リバース型人工肩関節置換(高齢・骨粗鬆症・結節粉砕例)
- ℹ全身状態・骨質・術者経験を総合的に判断して術式を選択する
治療選択アルゴリズム — 3骨片非嵌頓型に基づく術式選択フロー
診断・評価
肩部の疼痛・腫脹・皮下出血斑(上腕〜胸側に波及する紫斑が特徴的)と患肢挙上困難を呈する。腋窩神経領域(三角筋外側部)の感覚を必ず確認する。
11-B2の診断ポイント:Neer分類と骨片数の評価
X線3方向(AP像・Scapular Y像・Axillary像)で骨片数・転位の方向と程度・結節の位置を評価する。AO/OTA分類では11-B2(関節外3-part・非嵌頓型)は外科頸と大結節または小結節のいずれかに骨折線を有し嵌頓がないことが特徴(大結節・小結節の両方に骨折がある場合は11-C型)。CTは骨折形態・関節面損傷・結節転位の3次元評価に必須。
術前X線AP像 — 外科頸+結節骨折(3骨片・非嵌頓型)
術前X線Scapular Y像(外科頸転位の方向と程度)
術前X線Axillary像(骨頭位置・結節転位の確認)
CT冠状断 + 3D再構成(骨片形態・結節位置の評価)
【必須】 肩関節3方向X線(AP・Scapular Y・Axillary)、腋窩神経評価(三角筋筋力・外側皮膚感覚)
【考慮】 CT(3D再構成):骨片数・結節転位量・関節面損傷の精査。MRI:腱板損傷合併疑い例
✅ 許容される整復位
- ✓大結節転位 < 5mm(腱板機能の温存)
- ✓外科頸の角状変形 < 20〜30°(機能的に許容される範囲)
- ✓上腕骨頭の頸体角(CCD角)が概ね 120〜145°(内反位にならないこと)
- ✓Axillary像で骨頭の前後転位がないこと
❌ 許容されない変形
- ✕大結節転位 > 5mm(腱板インピンジメント・機能低下の原因となる)
- ✕外科頸の内反変形(Varus malalignment)≤ 120° — 二次崩壊のリスク
- ✕骨頭の後方転位・脱臼
- ✕結節骨片の解剖学的整復不良(腱板機能の残存障害)
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(肩手術標準体位)
ビーチチェア位(標準): 上体を45〜70°挙上し、患側肩を手術台端に出す。健側は対面向きに傾けず水平に保持する。Cアームは患側の外側・頭側から入れ、AP像・Axillary像の双方が透視可能なことを確認する。腋窩神経保護のため、前方の切開は肩峰外端より5cm以内にとどめる(神経は手術野の前下方に走行)。
ORIF — ロッキングプレート固定(第一選択)
適応: 関節外三骨片非嵌頓型(11-B2)の第一選択。結節の解剖学的整復と骨頭の安定固定が同時に行えるが、骨粗鬆症例では適切なスクリュー購入の担保が必要。
Deltopectoral アプローチ — 解剖と展開
- 皮膚切開・アプローチ: Deltopectoral approach — 烏口突起から三角筋前縁に沿って5〜8cmの縦切開。三角筋・大胸筋間(deltopectoral interval)を鈍的に剥離し、烏口腕筋・短頭二頭筋を内側に牽引する
- 腱板縫合糸配置: 棘上筋・棘下筋・肩甲下筋の各腱付着部に近い骨付近に太い縫合糸(No.2相当)を通す。これを整復ハンドルかつ仮固定に使用する
- 結節の整復(3骨片→2骨片化): 縫合糸を牽引して転位した大結節を上腕骨頭に整復・仮固定し、3骨片骨折を2骨片状況に変換する
- 外科頸の整復: 縦方向牽引・ジョイスティック法・プレートを整復補助に使い外科頸骨折を整復する。内側皮質の接触を確認し内反変形を避ける。Kワイヤー2〜3本で仮固定
- 整復位確認: AP像で頸体角≈135°、結節の段差なし・骨頭上端からの距離正常を確認。上腕二頭筋溝の走行で回旋アライメントを評価する
- プレート位置設定: 大結節頂部より5〜8mm遠位、二頭筋溝のやや後方(2〜4mm)に角度安定型プレート(ロッキングプレート)を配置する
- 骨幹部への仮固定: 楕円孔を通じ3.5mm皮質スクリュー1本で仮固定(最終締付前)
- 骨頭スクリュー挿入: ロッキングスクリューを適切なスリーブ経由でドリリング。「woodpecker technique」(短く進退を繰り返す)で軟骨下骨穿破を防止。骨粗鬆症例では5本以上のスクリューを配置。内側骨皮質(Calcar)支持のためカルカースクリューを追加する
- 骨幹部追加固定: 皮質スクリュー1〜2本を追加挿入し仮固定Kワイヤーを抜去する
- 中和縫合糸の配置: プレートの小孔を通じて棘上筋・棘下筋・肩甲下筋腱に中和縫合糸を配置し、腱板の修復と安定を図る
- 最終確認: AP・Axillary像で整復位・スクリュー関節内穿破の有無・プレート位置を全方向で確認する
術中透視像 — プレート位置・スクリュー配置確認(AP / Axillary)
⚠️ ORIFピットフォール
- ✕プレートが二頭筋溝に近すぎる → 上腕骨頭栄養動脈(前上腕回旋動脈上行枝)・長頭腱損傷リスク
- ✕プレート過高位(大結節頂部より近位)→ 肩峰下インピンジメント
- ✕骨頭スクリューの関節内穿破 — 二次的(骨折崩壊による遅発性穿破)も起こり得るため最終透視を慎重に
- ✕外反転位(Varus malalignment、頸体角 ≤ 120°)を残したまま固定 → 二次性内反崩壊
- ✕骨粗鬆症例で骨片を鉗子でつかむ → 骨片粉砕リスク(縫合糸ハンドルを使用する)
- ✕大結節の解剖学的整復不良 → 術後腱板機能不全・インピンジメント
髄内釘固定(Straight nail)— 代替術式
適応: 低侵襲で固定したい例・骨粗鬆症が高度な例・MIO目的。大結節部より近位での骨折では大腿骨頭血流への影響を避けられる。
手技の要点:
- 腱板(棘上筋)の小切開で関節面上の髄内釘刺入点(上腕骨軸の延長上)にアクセス
- 結節を縫合糸で整復・仮固定し3骨片→2骨片化(釘挿入前に必須)
- ガイドワイヤーで刺入点を確認後、髄内ドリリングで釘を挿入。骨折部通過は透視下に慎重に行う
- 近位・遠位ロッキングスクリューを留置。カルカースクリュー追加でVarus防止
- 腱板裂開部を修復し、中和縫合糸を配置する
腋窩神経保護: 遠位のロッキングスクリューは肩峰外端より5cm以内の切開で行い、鈍的剥離で神経を確認してから刺入する。
術後管理
術後X線像(AP / Scapular Y)— プレート位置・整復位確認
手術タイミング: 軟部組織の腫脹が許す限り早期手術が望ましい。受傷後2〜5日以内が目安。浮腫高度例は待機してから施行する
術後荷重(上肢): 術直後は患肢を吊り包帯(スリング)で固定。挙上・外旋・負荷運動は段階的に解除する
VTE予防: 下肢手術に比べリスクは低いが、臥床・高齢・肥満例では弾性包帯・早期離床・必要に応じ薬物的予防(エドキサバン等)を考慮する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、術後早期には斜角筋間ブロック(インターメジアリーブロック)が有効。NSAIDsは骨癒合抑制の観点から長期使用を避ける
リハビリテーション: 術後2〜3週は免荷スリング固定+振り子運動(Codman体操)。術後3〜6週から被動的可動域訓練を開始。術後6週以降、等尺性収縮から始め段階的に腱板強化・自動可動域訓練に移行する
フォローアップ
- 術後2週: 創部確認・X線撮影(整復位の確認)、スリング継続
- 術後6週: X線撮影(骨癒合の進行・スクリュー位置)、被動的〜自動補助運動への移行
- 術後3ヶ月: X線撮影・骨癒合評価。自動可動域・筋力の評価。腱板機能の評価
- 術後6ヶ月〜1年: 最終評価(可動域・筋力・疼痛・ADL)。骨頭壊死の有無を確認
- スクリューの関節内穿破(遅発性)を疑う症状(疼痛増悪・可動域制限)があれば早期にCT確認
予後
3骨片非嵌頓型(11-B2)は適切な整復・固定を行った場合でも、2骨片型より機能予後は劣る傾向があり、術後管理が重要である。
- 骨癒合率:ORIFで約85〜92%(骨粗鬆症・高齢者で低下)
- 骨頭壊死(AVN):約3〜14%(内側骨膜血流温存が重要)
- 内固定失敗(スクリュー穿破・プレート破損):約10〜15%(骨粗鬆症例で高率)
- Constant scoreによる機能評価:ORIF後の平均スコア 65〜75/100点程度(年齢・術前状態による)
- リバース型人工関節置換後:高齢者でも安定した疼痛軽減が得られるが可動域は制限される
- 腋窩神経損傷合併例:三角筋回復に6〜12ヶ月かかる場合があり、最終機能予後に影響する
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(11-B2 = 関節外3-part・非嵌頓型 / 外科頸+結節骨折の3骨片骨折)
- 2骨片数と転位方向を確認(CT含む3方向X線)、嵌頓の有無を評価
- 3腋窩神経評価を確認(三角筋外側皮膚感覚・三角筋筋力)
- 4大結節転位量を確認(> 5mmで手術適応の主要基準)
- 5外科頸の頸体角(CCD角)と内反変形の有無を確認(≤ 120°は危険域)
- 6術式選択の根拠を確認(ORIF第一選択・骨粗鬆症高度例は髄内釘またはリバース人工関節)
- 7プレート位置の適切性を確認(大結節頂部より5〜8mm遠位、二頭筋溝後方 2〜4mm)
- 8スクリューの関節内穿破がないことを多方向透視で確認
- 9中和縫合糸(腱板修復)が適切に配置されているか確認
- 10腋窩動脈損傷・血管損傷の合併を除外したか確認
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Neer CS 2nd(1970)Displaced proximal humeral fractures. Part I. Classification and evaluation. J Bone Joint Surg Am, 52(6):1077–89. PMID: 5455339
- Sproul RC et al.(2011)A systematic review of locking plate fixation of proximal humerus fractures. Injury, 42(4):408–13. PMID: 21176833
- Maier D et al.(2019)Proximal humerus fractures in elderly patients — ORIF versus arthroplasty. Dtsch Arztebl Int, 116(38):653–8.