上腕骨近位部の関節外・双極の3-part骨折(11B)に肩甲上腕関節の脱臼を合併した骨折脱臼型 (AO/OTA分類11-B3)。AO/OTA分類はA1からC3まで重症度が増加するため、治療の指針となり上腕骨頭の血行と予後も予測できる[1] 。
骨折の3骨片化と脱臼の組み合わせにより、整復・固定ともに難易度が高い。高齢者の複雑な骨折または骨粗鬆症骨の脱臼骨折に対しては関節形成術が適応となることがある が、術後の大結節骨片の癒合は予測不可能で機能低下をもたらす可能性がある[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数: 上腕骨近位部骨折のうち11-B3(骨折脱臼)が占める件数・割合は明らかでない
好発: 高齢女性(骨粗鬆症が重大なリスク因子)と、高エネルギー外傷を受けた若年者。痙攣発作や感電も脱臼の有無にかかわらず上腕骨近位部骨折を引き起こしうる[1]
受傷機転: ほとんどは立位の高さから上肢を伸ばしたまま転倒した高齢患者で発生し、若年患者では通常高エネルギー外傷による[1]
骨頭壊死リスク: 肩甲上腕関節の脱臼は骨頭虚血の予測因子の1つであり、骨折型・45°を超える骨頭の角度転位・10mmを超える結節の転位・骨頭分割骨片も予測因子とされる[3]
治療方針: 3-partまたは4-partの脱臼骨折は手術治療の絶対的適応とされ、手術による安定化が選択される[3]
注意すべき合併症
腋窩神経損傷:脱臼骨折や大きく転位した骨片を整復するときに起こり、三角筋アプローチやレトラクタ挿入時の慎重な展開でリスクを減らせる[1]
血管損傷:著明な腫脹は時に血管損傷の合併を意味する[1]
骨頭壊死(AVN):上腕骨頭のAVNは比較的頻回に起き全体の35%近くといわれ、プレート固定では軟部組織の展開を伴うため発生率が高いとされる[1]
腕神経叢損傷:上腕骨頭の腋窩への脱臼と関係し、徒手的に整復できず進行中の神経損傷がある場合は緊急で観血的整復を行う必要が時にある[1]
変形癒合・偽関節:変形癒合は内側皮質骨の支持性の喪失を伴うことが多く、内反変形をもたらす[1]
肩関節拘縮:骨癒合が得られても関節拘縮が残ることがあり、最大限の機能的回復には術後リハビリテーションが欠かせない[1]
内固定失敗(プレート弛緩・スクリュー穿破):骨粗鬆症骨ではスクリューの固定性が不十分で、骨溶解・整復位のさらなる喪失・インプラントの破損を引き起こす[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 骨折脱臼(11-B3)は定義上の脱臼合併型であり、保存療法は原則として非推奨 → 超高齢・認知機能障害・非機能的な患肢・進行した薬物やアルコール依存・重篤な併存疾患がある患者では保存療法が妥当なことがある[3] → 75歳以上でニーズの多くない骨粗鬆症患者では、透視下で徒手整復を試み、アライメントが改善し整復が安定していれば三角巾で外固定する[1] → 保存療法を選択する際は厳重なX線フォローが必須
骨折脱臼型は脱臼の整復・骨折固定の双方が必要であり、3-part・4-partの骨折脱臼は手術の絶対適応 とされる。再建不能な骨頭骨折・骨頭分割骨折・骨折脱臼、および骨壊死リスクの高い70歳超の患者では一次的な関節置換術(リバース型または解剖学的)が最良の選択肢となりうる[3] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 11-B3(骨折脱臼型)は基本的に手術適応(骨折の整復保持・神経血管保護) ℹ 若年・骨質良好例:ORIF(プレート固定)— 骨頭温存を優先 ℹ 中年患者の重度の3-partまたは4-part脱臼骨折:人工骨頭置換術(HA)。高齢患者の粉砕あるいは骨粗鬆症性結節骨折には不適切とされる[1] ℹ 高齢患者の重度の脱臼骨折、腱板欠損の合併:リバース型人工肩関節置換術(RSA)[1] ℹ 術式は患者の年齢・骨質・活動性・術者の経験で決定する ℹ 脱臼に対しては早期整復が不可欠で、筋肉の弛緩が得られる全身麻酔が必要となる[1] ℹ 進行中の神経損傷があり徒手的に整復できない脱臼に対しては、緊急で観血的整復を行う必要が時にある[1]
治療選択アルゴリズム — 骨折脱臼型に基づく術式選択フロー
診断・評価
肩の疼痛・腫脹・機能喪失を呈する。肩関節の変形は顕著ではないこともあるが、明らかな変形は脱臼を示唆する。腋窩神経の運動機能および感覚機能は常に評価 し、脱臼があれば腕神経叢の機能評価と手関節周辺の脈拍を評価する[1] 。
11-B3の診断ポイント:骨折線と脱臼の同定
肩関節の真の正面像(true AP)・スカプラY像・軸射像の3方向撮影(外傷シリーズ)が必要である。急性期の軸射像は撮影が難しく、肩を大きく外転せずに撮る変法(Velpeau view)がある。CTは複雑な骨折の評価に重要な追加情報を提供し、冠状面・矢状面・三次元再構築で骨折線・関節窩・上腕骨頭の詳細が描写できる[1] 。
X線正面像(AP像)— 外科頸骨折線・大結節骨折・骨頭脱臼の確認
Y字像・腋窩像 — 脱臼方向・骨折全体の把握
CT矢状断・冠状断 — 骨折型・粉砕・骨頭虚血リスクの評価
【必須】 肩関節X線3方向(AP・Y字・腋窩)、患側上肢神経血管評価
【考慮】 CT三次元再構築:骨折線・関節窩・上腕骨頭の評価と術前計画。単純X線で骨折形態が確定できない場合はCTまたはMRIによる追加画像検査[3]
✅ 許容される整復
✓ 骨頭が関節窩に整復され、上腕骨の頚体角(CCD angle、正常135°)が再建されている[1] ✓ 転位が5mmを超える場合は、保存療法が失敗した後の二次的なサルベージ手術が困難で成績も期待しにくいため、整復と内固定が推奨される[3] ✓ 上腕骨頭の後傾が生理的範囲(上顆軸に対して約25°、平均範囲18〜30°)に再建されている[1] ✓ 術中透視の正面・軸位像で関節内スクリュー穿破がない
❌ 許容されない変形
✕ 脱臼の整復不十分(骨頭が関節窩外に残存) ✕ 大結節の上方転位5mm超(人工骨頭置換では骨頭頂部より5mm以上高位の大結節が不良な機能成績と関連)[2] ✕ 内反転位20°(20°の内反転位は挙上運動での腱板の筋力を有意に増大させ、機能成績を著しく制限する)[3] ✕ 軸位像でスクリューが関節面を穿破
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位またはデッキチェア位
ビーチチェア体位(第一選択): 三角筋大胸筋間進入法では通常ビーチチェア体位とし、患側肩を手術台のX線透過部におき、患者と透視装置をドレーピングする[1] 。
ORIF プレート固定 — 若年・骨質良好例の第一選択
適応: 大きな転位のある3-part骨折で、骨質が比較的良好な若年患者。高齢患者の著しい粉砕・脱臼骨折・転位のある多骨片骨折では観血的整復とロッキングプレート固定は不適切とされる[1] 。
デルトペクトラルアプローチ — 皮膚切開と展開
プレート設置概念図 — 近位上腕骨ロッキングプレート(AP/軸位)
脱臼の整復: まず肩関節脱臼を整復する。上腕骨頚部の骨折を伴う場合は早期整復が不可欠で、筋肉の弛緩が得られる全身麻酔が必要である。進行中の神経損傷があり徒手的に整復できない脱臼には、緊急で観血的整復を行う[1]
アプローチ: デルトペクトラルアプローチ(三角筋・大胸筋間)。腋窩神経損傷のリスクは低いが、肩峰に付着する三角筋の前部は術中保護する[1]
腱板縫合糸の配置: 肩甲下筋腱・棘上筋腱・棘下筋腱の腱-骨接合部に牽引縫合糸をかけ、骨片をさらに粉砕することなく結節骨片を操作して整復する[1]
大結節の整復: 腱板の腱内にかけた縫合糸で結節骨片を間接的に整復する。二頭筋溝にある上腕二頭筋長頭腱が大結節・小結節を同定する目印となる[1]
外科頸骨折の整復: ジョイスティック手技、あるいはエレバまたは骨片打ち込み器(bone tamp)で骨頭骨片を操作し、正常な上腕骨頚体角(CCD角135°)を再建する[1]
K線による仮固定: 骨頭頂部から骨幹部へ、または骨幹部前面から骨頭へ一時的にK-ワイヤを挿入し、プレート設置を妨げずに整復位を維持する[1]
ロッキングプレートの設置: 大結節の頂点から約5〜8mm遠位、上腕骨骨幹部の軸に沿って、二頭筋溝(結節間溝)の少し後方(2〜4mm)に置く。挿入ガイド近位の孔にK-ワイヤをとおし、上腕骨頭の上に乗ることで軸方向の位置を確認する[1]
骨頭スクリュー挿入: すべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングして関節貫通を避ける。特に内側皮質の粉砕を伴う内反転位例では、内側支持を維持するためcalcarスクリューが重要である[1]
骨幹部スクリュー: プレート遠位の骨幹部にスクリューを挿入する
腱板縫合による補強: プレートまたはネイル固定の補助として、腱板にかけた縫合糸で結節骨片を固定する。生体力学的安定性のために必須である[1]
最終確認: すべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングし、角度安定性スクリューによる関節貫通がないことと整復位を確認する[1]
術中透視像 — プレート・スクリュー位置確認(AP/軸位)
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ プレートが大結節の頂点より近位に寄る → 正しい位置は頂点から約5〜8mm遠位で、挿入ガイド近位孔のK-ワイヤで軸方向の位置を確認する ✕ プレートを二頭筋溝上に設置する → プレートは二頭筋溝(結節間溝)の外側に設置する[1] ✕ 結節骨片の転位を残す → 骨頭の向き・外科頚の嵌入・結節の転位は術後成績と強く相関する[1] ✕ calcarスクリュー省略(内反変位例)→ 内反再転位・固定失敗 ✕ 腋窩神経損傷 → 脱臼骨折や大きく転位した骨片の整復時に起こる。慎重な外科的展開とレトラクタ挿入で損傷リスクを減らす[1] ✕ スクリューの関節貫通 → 最も多く報告される合併症で、術中の技術的な誤りや整復位の喪失により生じる[1] 。特に内反嵌入を伴う骨折で頻繁に報告され、関節窩の軟骨を重度に損傷しうる[3]
人工骨頭置換術(HA)— 高齢・骨粗鬆症例
適応: 中年患者における重度の3-partまたは4-part脱臼骨折。高齢患者の粉砕例や骨粗鬆症性の結節骨折、サルベージ可能な骨折型、腱板自体に重篤な病変がある場合は適応としない。[1]
要点: デルトペクトラルアプローチ(前部三角筋は剥離しない)。摘出した骨頭の直径をキャリパーで計測してヘッドサイズを決め、肘の両上顆を触知してその面から約20°後捻させてプロテーゼを設置する。結節骨片は太い非吸収糸で骨幹部・互いに・プロテーゼへ固定し、骨頭から採取した海綿骨を結節と骨幹部の間に置いて骨癒合を促す[2]
リバース型人工肩関節(RSA)— 高齢・腱板損傷・大結節粉砕例
適応: 高齢患者における重度の脱臼骨折、腱板欠損を合併する例。比較試験では高齢者の複雑骨折に対しリバース型人工肩関節置換術のほうが人工骨頭置換より予後が安定し信頼性が高いとされる[1]
要点: デルトペクトラルアプローチを用いる。Grammont型の設計は回転中心の内方化にもとづき、三角筋のレバーアームが大きくなるとともに腱板が骨折した結節に及ぼす張力が減るため、二次的な転位の危険が減り、とくに高齢者でリハビリを行いやすくなる[3]
術後管理
術後X線像(AP/Y字)— 整復位・内固定または置換状態の確認
手術タイミング: 進行中の神経損傷があり徒手的に整復できない脱臼には緊急の観血的整復が必要となることがある。それ以外では緊急手術を要することは稀だが、比較研究では術式にかかわらず早期の外科的介入のほうがよい機能成績が得られるようである[1]
術後固定: 術後は三角巾(sling)で外固定する。内旋位のスリングは棘下筋・小円筋による水平面の力が大結節の骨接合にかかるため、中間位の装具に置き換えることが推奨されている[2]
VTE予防: 全身状態に応じて個別に判断する
疼痛管理: 術後の疼痛は全身状態に応じて管理する
リハビリテーション: 保存例・手術例のいずれも術後10〜14日後より同じプロトコルを始める。第1相(0〜6週):振子運動と他動的な可動域訓練、術後6週間は自動訓練を禁止。第2相(6〜10週):自動介助可動域運動(前方・側方挙上)、術後8週で自動運動と等尺性運動を追加。第3相(10週以降):理学療法士による他動運動と等張性運動を追加[1]
フォローアップ
術後早期(〜3週): 合併症は患者が理学療法を開始する術後3週以内に生じることが多い[3]
術後6週: 臨床的に骨癒合傾向がみられ、X線上で骨片同士が一塊として動き転位がないことを確認して自動介助運動へ進む[1]
術後3ヶ月: X線撮影(骨癒合評価)、筋力・可動域評価
2年まで: 上腕骨頭の生存性(骨頭壊死)を監視するには2年を超えるフォローが適切とされる[3]
腋窩神経損傷例では神経機能の回復を経過観察する
予後
骨折脱臼型は整復が困難で手術適応となる重症群だが、AO/OTA分類では重症度はA1からC3へ増加する。転帰と最も強く相関するのは骨折の粉砕と転位の程度、および腱板損傷の有無である[1]
骨頭壊死(AVN):上腕骨頭のAVNは比較的頻回に起き全体の35%近くとされ、プレート固定では軟部組織の展開を伴うため発生率が高いとされる[1]
結節の骨癒合(人工骨頭置換後):連続66例では結節の偽関節が17%、変形癒合が39%に生じた[2]
Constant score:システマティックレビューではRSA 54.6点・人工骨頭置換 58.0点で、人工骨頭置換のほうが高かった[4]
腋窩神経損傷:人工骨頭置換の連続66例では周術期の腋窩神経合併症が3例あり、いずれも部分損傷で回復した[2]
再手術率(ロッキングプレート固定):外科的再手術率は最大25%に達し高い水準にとどまる。解剖学的整復とcalcarスクリューを用いた例でも6〜8%でスクリューのcutoutが生じる[3]
RSAのインプラント長期生存率:これらのインプラントの寿命については懸念が残るとされる
人工骨頭置換後の機能は結節の骨接合と癒合の質に強く依存するが、RSA後の機能は結節固定への依存が人工骨頭置換より小さい[2] [4]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-B3 = 上腕骨近位部・関節外3-part+脱臼合併型) 2 脱臼方向を確認(前方・後方・外側・下方を鑑別する。腋窩への脱臼は腕神経叢・腋窩動脈損傷と関係する) 3 骨折の3骨片化を確認(外科頸骨折+大結節 or 小結節骨折) 4 腋窩神経領域の感覚・三角筋筋力を評価(神経損傷の有無) 5 橈骨動脈触知・末梢循環を確認(血管損傷の除外) 6 CT撮影の実施を確認(複雑な骨折で骨折線・関節窩・上腕骨頭の詳細を描出する重要な追加情報) 7 術式選択の根拠を確認(年齢・骨質・活動性・骨頭壊死リスク) 8 骨頭壊死(AVN)リスクを患者・家族に説明(報告されている発生率は3〜68%)[3]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Boileau P et al.(2002)Tuberosity malposition and migration: reasons for poor outcomes after hemiarthroplasty for displaced fractures of the proximal humerus. J Shoulder Elbow Surg, 11:401-12. PMID: 12378157
Laux CJ, Grubhofer F, Werner CML, et al.(2017)Current concepts in locking plate fixation of proximal humerus fractures. J Orthop Surg Res, 12(1):137. PMID: 28946902
Ferrel JR et al.(2015)Reverse total shoulder arthroplasty versus hemiarthroplasty for proximal humerus fractures: a systematic review. J Orthop Trauma, 29(1):60–8. PMID: 25186842