上腕骨近位部の関節外・双極の3-part骨折 にあたる型(AO/OTA分類11-B)。11A(関節外・単極の2-part骨折=外科頚)と11C(関節内・4-part骨折=解剖頚)の中間に位置し、A1からC3へ重症度が増すこの分類は治療の指針となり、上腕骨頭の血行と予後の予測にも用いられる[1] 。
大結節には上方に棘上筋腱、後上方に棘下筋腱、後方に小円筋腱が停止しており、これらの腱停止部は腱板縫合によって骨粗鬆症の上腕骨近位部骨折の整復・固定を容易にする[1] 。予後と相関する最も重要な要因は骨折の粉砕と転位の程度、腱板損傷の有無 である[1] 。
重症度・疫学
発生頻度: 上腕骨近位部骨折は全身で3番目に多い骨折であり、全骨折の4〜10%を占める。成人の年間発生率は10万人あたり31〜250人と報告され、高齢者人口の増加とともに増えている[1]
好発: 大部分は高齢者の低エネルギー外傷で、高齢女性に多く骨粗鬆症が重大なリスク因子となる。若年者は通常高エネルギー外傷で、より重度の軟部組織損傷と多骨片骨折を伴う[1]
受傷機転: 高齢者は立位の高さから上肢を伸ばしたまま転倒して受傷する。若年者は通常高エネルギー外傷。痙攣発作または感電も、脱臼の有無にかかわらず本骨折を引き起こしうる[1]
注意すべき合併症
腋窩神経損傷:脱臼骨折または大きく転位した骨片を整復するときに起こる(三角筋アプローチ・分割アプローチやレトラクタ挿入時の慎重な展開でリスクを減らせる)[1]
腋窩動脈・腕神経叢損傷:上腕骨頭の腋窩への脱臼と関係し、上腕骨頚部の骨折を伴う場合は全身麻酔下での早期整復が不可欠[1]
腱板損傷:骨折の粉砕と転位の程度とともに、予後・転帰と相関する最も重要な要因[1]
整復位消失・固定の破綻:ロッキングプレート(Philos)で固定した158骨折の前向き研究で、プレート抜去と再固定を要した固定の破綻は6例(3.8%)[3]
スクリュー関節内穿通(cut-through / cut-out):角度安定性インプラントの剛性により、内側支持の欠如や骨壊死で高齢者の骨頭が沈下してもスクリューは固定されたままとなり、骨粗鬆症骨をスクリューが切り進む[3]
肩峰下インピンジメント:肩峰下インピンジメントを避けるため、プレートは大結節上端から少なくとも5〜8mm遠位、二頭筋溝から2〜4mm離して設置する[3]
上腕骨頭壊死(AVN):比較的頻回に起き全体の35%近くとされ、疼痛・可動域制限・肩関節症をもたらす。プレート固定では軟部組織の展開を伴うため発生率が高いとされる[1]
変形癒合・偽関節:変形癒合は内側皮質骨の支持性の喪失を伴うことが多く内反変形をもたらすため、内側皮質骨の支持部の整復が重要[1]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位のない骨折および嵌入骨折(2〜3週間の三角巾固定と早期振り子運動、その後の自動可動域訓練で治療する)[1] → 75歳以上の骨粗鬆症患者でニーズが多くない場合は、転位のある骨折に対しても同様の保存療法とする[1] → 患者のコンプライアンスと患者の期待も治療方法の選択を左右する[1] → 保存療法時も三角巾・アームスリングで2〜3週間固定し、早期振り子運動を開始する
骨折整復および固定の適応は、転位のある骨折(Neer分類で転位>1cmまたは角度変形>45°)、骨頭分割骨折、神経血管損傷合併、開放骨折、内側ヒンジが崩壊している不安定骨折、浮遊肩、多発外傷、整復不可能な脱臼骨折である[1] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 転位のある骨折(Neer分類で定義上、転位>1cmまたは角度変形>45°)[1] ℹ 過度の内反または外反変形(観血的整復とロッキングプレートによる内固定が最適な場合)[1] ℹ 近位の環状構造は比較的損傷が少ないが、骨幹部に対して骨頭複合体が不安定なままの転位のある骨折(髄内釘挿入が最適な場合)[1] ℹ ロッキングプレートは転位のある骨折で広く使用され、徒手整復で整復位が維持できる場合は最小侵襲性プレート骨接合術(MIPO)などの最小侵襲手技を用いる[1] ℹ 髄内釘(IM固定):2-partの外科頚骨折、および近位骨片の遠位端が比較的リング状に保たれている3-part・4-part骨折に使用できる[1] ℹ 徒手整復および経皮的ピン・スクリュー挿入:骨質良好な若年患者における単純な骨折型、大結節の単独骨折、外反嵌入型骨折で最適[1] ℹ リバース型人工肩関節置換術:高齢患者における重度の脱臼骨折、腱板欠損を合併する例で最適[1] ℹ 治療方法は骨折型・骨質・変形力・外科医のスキル(経験、好み)・患者のコンプライアンス・患者の期待によって異なる[1]
治療選択アルゴリズム — 転位・活動性・骨質に基づく術式選択フロー
診断・評価
腫脹や打撲傷は周辺領域に拡大することがあり、著明な腫脹は時に血管損傷の合併を意味する。可動域制限は腱板損傷と区別する。腋窩神経の運動機能および感覚機能は常に評価 し、脱臼があれば腕神経叢の機能評価と手関節周辺の脈拍を評価する[1] 。
11-Bの診断ポイント:関節外・双極(3-part)の骨折線の同定
肩関節の真の正面像(true AP)、スカプラY像(lateral view)、軸射像(axillary view)を含む3方向のX線撮影(外傷シリーズ)が必要である。急性期に軸射像が撮りにくい場合は、肩を大きく外転させないVelpeau法がある[1] 。
X線正面像(Grashey view)— 外科頸+大結節骨折線の評価
Y-view(肩甲骨側面像)— 骨頭の嵌頓・内反変形の評価
CT冠状断 + 3D再構成 — 骨折形態・大結節転位の詳細評価
【必須】 肩関節の真の正面像(true AP)・スカプラY像(lateral view)・軸射像(axillary view)の3方向X線(外傷シリーズ)[1]
【考慮】 CT:複雑な骨折の評価に重要な追加情報を提供し、冠状面・矢状面・三次元再構築で骨折線・関節窩・上腕骨頭の詳細が描写できる[1]
✅ 許容される整復・固定の目標
✓ 頸体角(CCD angle):正常は135°で、これを再建することを整復の目標とする[1] ✓ 結節の転位:Neer分類では1cmを超えるずれおよび45°を超える角度変形を転位とみなす[1] ✓ 骨頭の後捻:上腕骨頭は通常、上腕骨遠位の上顆軸に対して約25°(平均範囲:18〜30°)後傾している[1] ✓ プレート位置:大結節の頂点から約5〜8mm遠位、二頭筋溝(結節間溝)の少し後方(2〜4mm)[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 結節の転位 — 骨頭の向き・外科頚の嵌入とともに成績と強く相関する[1] ✕ 過度の内反または外反変形 — 観血的整復とロッキングプレートによる内固定が最適とされる[1] ✕ 腋窩神経の評価漏れ — 運動機能および感覚機能は常に評価する[1] ✕ プレートが大結節頂部より近位 — 肩峰下インピンジメントの原因 ✕ スクリューの関節内穿通(cut-through)— 最終透視確認を怠らない
手術手技
体位
手術体位・ビーチチェアセットアップ
ビーチチェア位(標準): 患者は通常ビーチチェア体位とし、患側の肩は手術台のX線透過部におく[1] 。三角筋大胸筋間進入法・経三角筋外側進入法のいずれにも対応でき、患者とともに透視装置もドレーピングする[1] 。
MIOロッキングプレート固定(PHILOS等)— 第一選択
適応: 大きな転位のある、または関節面の不適合を伴う3-part骨折は観血的整復とロッキングプレートによる内固定の適応となる。徒手整復ができて整復位が維持できる場合は最小侵襲性プレート骨接合術(MIPO)を用いる[1]
前外側(経三角筋)アプローチ — 腋窩神経の走行と危険域
プレート配置概念図 — 大結節頂部からの距離・二頭筋溝との関係(正面 / 軸位)
回旋腱板縫合の設置: 棘上筋腱・棘下筋腱・肩甲下筋腱付着部に牽引糸(強靭縫合糸)を置く。骨片の操作・整復・仮固定に用いる
外科頸の整復: ジョイスティック手技、あるいはエレバまたは骨片打ち込み器(bone tamp)を使用して骨頭骨片を操作し、正常な上腕骨頚体角(neck-shaft angle)を再建する[1]
大結節の整復: 腱板の腱内にかけた縫合糸で結節骨片を間接的に整復して結び合わせる。薄い結節骨片の粉砕を防ぎ、残っている血行を温存できる[1]
K線仮固定: 骨頭・骨幹部にK線を挿入し整復位を保持する
プレート挿入(MIO): 近位は三角筋分割アプローチから、ロッキングプレート(PHILOS等)を骨の近くで腋窩神経より奥深くに挿入する。大結節の頂点から約5〜8mm遠位、二頭筋溝の少し後方(2〜4mm)に位置決め[1]
近位ロッキングスクリュー: 骨頭に挿入する近位スクリューは、まずドリルで刺入路の外側半分を穿孔し、深さ計で軟骨下骨の抵抗を触知して長さを決め、計測値より2〜3mm短いスクリューを選ぶ[3]
遠位スクリュー: 骨幹部にコーティカルスクリューまたはロッキングスクリューを設置
中立化縫合: 回旋腱板縫合糸をプレートの縫合孔に通し、骨折部の安定性を補強(特に骨粗鬆症例・粉砕例で重要)
最終確認: 整復位を透視下で確認し、すべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングして関節面を貫通していないことを確かめる[1]
術中透視像 — プレート位置確認(正面 / Y-view)
⚠️ MIOプレート固定 ピットフォール
✕ 腋窩神経損傷 — 皮切と三角筋の展開は肩峰の前外側縁から遠位5cm以内にとどめ、肩峰の外側で5cm遠位の三角筋分割部に指標になる縫合糸(stay suture)をかけて神経を保護する[1] ✕ プレートの近位過剰配置 — 大結節頂部より近位になると肩峰下インピンジメントの原因となる ✕ スクリューの関節面穿通(cut-through)— 角度安定性インプラントの剛性により、内側支持の欠如や骨壊死で骨頭が沈下すると骨粗鬆症骨でスクリューが切り込む。全スクリューの挿入位置を透視下で確認する[3] ✕ 上腕二頭筋腱の損傷 — プレートと上腕二頭筋長頭腱の間に十分な間隔が保たれる位置(結節間溝から2〜4mm)にプレートを置く[3] ✕ 大結節の整復不全 — 結節の転位は成績と強く相関するため、解剖学的整復を得ることを意識する[1] ✕ 回旋腱板縫合の省略 — 特に骨粗鬆症・粉砕例では固定の安定性が大きく損なわれる
上腕骨近位部髄内釘(Humeral Nail)— 代替選択肢
適応: 2-partの外科頸骨折、および近位骨片の遠位端が比較的リング状に保たれている3-part・4-part骨折。転位のある3-part・4-part骨折や骨頭分割骨折には適さない[1]
釘挿入点: ストレートネイルを使用することでエントリーポイントは腱板の停止部ではなく骨頭頂部になる。透視下で骨幹部を骨頭のアライメントに合わせて整復したうえでガイドワイヤに沿ってネイルを挿入し、多方向のスクリューと縫合糸で結節骨片の固定と腱板修復を補助する[1]
術後管理
術後X線像(正面 / Y-view)— プレート位置・整復位・スクリュー配置確認
手術タイミング: 緊急手術を要することは稀で、治療開始が遅れた例でも満足のいく結果が期待されるが、比較研究では術式にかかわらず早期の外科的介入のほうがよい機能成績が得られるとされる[1]
術後荷重(上肢): 術後6〜8週は部分的使用(partial functional use)にとどめ、8週で介助なしの自動運動と等尺性運動を追加する。骨癒合が得られた10週以降に等張性運動(求心性・遠心性収縮)へ進める[1]
疼痛管理: 各フォローアップで疼痛と肩関節可動域を問診により評価する[3]
リハビリテーション: 保存例・手術例のいずれも10〜14日後から同じプロトコルを開始する。第1相(0〜6週):振子運動と他動的可動域訓練(術後6週間は可動域の自動訓練は禁止)。第2相(6〜10週):2〜3週間は装具(sling)装着、骨癒合傾向が確認できれば自動介助可動域運動を開始。第3相(10週〜):徒手的な他動運動と等張性運動を追加[1]
フォローアップ
術後直後: 創部を確認し、X線撮影(正面像・Neer view)で整復位・プレート位置・スクリュー位置を確認
術後3か月(12週): X線撮影(正面像・Neer view の2方向)で骨癒合の進行・整復位の保持・スクリュー位置の変化を確認[3]
術後6か月: X線撮影で骨癒合を評価し、疼痛・肩関節可動域と90°外転位での筋力を測定してConstant scoreを評価[3]
術後12か月: 最終評価としてConstant score・Neer score・DASH scoreと可動域を評価する[3]
スクリューが関節面を穿通した場合は、プレート・スクリューの抜去など再手術が必要になることがある[3]
予後
適切な整復・固定が得られれば良好な機能成績が期待できるが、Philosプレートで固定した上腕骨近位部骨折158骨折(AO type A 25%・B 39%・C 37%)では、60歳を超える患者は何らかの合併症の発生率が2倍、70歳を超える患者はプレート関連合併症の発生率が3倍であった[3]
骨癒合:3か月で66%、6か月で99%が癒合し、1年の観察期間で偽関節はみられなかった[3]
神経合併症:158骨折中4例。骨幹部のスクリューが長すぎたことによる尺骨神経刺激1例(スクリュー交換後に回復)、1年時に三角筋萎縮を伴う腋窩神経叢損傷2例、3か月時に腋窩神経領域の感覚鈍麻1例[3]
スクリューの関節面穿通:一次性14%・二次性8%。固定失敗は6例(3.8%)[3]
骨頭壊死(AVN):8%(完全・部分骨壊死はそれぞれ4%)。13例中8例はtype C2・C3骨折に伴い、type Aでは1例のみ[3]
機能的予後:1年でConstant score 平均72点(対側健側の87%)。合併症のない例は75点、1つ以上の合併症がある例は64点。最も重要な予後因子は骨折の粉砕と転位の程度、腱板損傷の有無である[3] [1]
リバース型人工肩関節置換術:高齢患者における重度の脱臼骨折や腱板欠損の合併例で適応となる[1]
骨粗鬆症は上腕骨近位部骨折の重大なリスク因子であり、骨質への配慮が長期管理で重要となる
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-B1 = 上腕骨近位部・関節外3-part嵌頓型:外科頸+大結節) 2 腋窩神経の運動機能および感覚機能を術前に評価し記録したか[1] 3 X線3方向(真の正面像 / スカプラY像 / 軸射像)の外傷シリーズを撮影したか[1] 4 大結節の転位が1cmを超えるか、角度変形が45°を超えるかを確認(Neer分類における転位の基準)[1] 5 CTで骨折形態・大結節転位・関節窩損傷を評価したか 6 術式を確認(観血的整復+ロッキングプレート / 最小侵襲性プレート骨接合術(MIPO)/ 髄内釘)。骨折型・骨質・徒手整復の可否から選んだか[1] 7 プレート位置を確認(大結節頂部より5〜8mm遠位 / 二頭筋溝より2〜4mm後方) 8 術中にすべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングし、関節内穿通がないことを確認したか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Murray IR et al.(2011)Proximal humeral fractures: current concepts in classification, treatment and outcomes. J Bone Joint Surg Br, 93(1):1–11. PMID: 21196536
Brunner F et al.(2009)Open reduction and internal fixation of proximal humerus fractures using a proximal humeral locked plate: a prospective multicenter analysis. J Orthop Trauma, 23(3):163–172. PMID: 19516088